怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、書斎や談話室のある家に憧れがある片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。あっても良いだろうけど、管理は大変そうだな」
政実「だね。でも、そういう家には一度住んでみたいかな」
元気「そうか。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第26話をどうぞ」


第26話 談話室への誘い

 裏口から大テント内に入った後、元気達はクレールの案内に従ってテント内を歩いていた。セブン・リング・サーカスの象徴にもなっている中央のリングとそれを取り囲む六つのリングとその周囲にあるすり鉢状の観客席を真里が歩きながら写真を撮り、考太郎もその光景をメモに取る中、元気は前を歩くクレールに話しかけた。

 

「クレール、今さらなんだけど、あの二人を団長のところまで連れていって良いのか?」

「あ、たしかに……私達だけなら『リンデンの薔薇』の話も出来るし、それ以外の事も団長さんは話してくれそうだけど、伊藤さん達がいたらあまり話してくれないかも……」

「そうかもな。だけど、案内するのは決めた事だし、こうなったらいても色々話はさせる。俺だってあの黒田との関係は気になってるからな」

「たしかに……RD、ホワイトフェイスや黒田について何か追加の情報ってあるか?」

 

 元気が小声で聞くのに対してイヤホンからRDの声が聞こえてくる。

 

『そうですね……まず、ホワイトフェイスについてですが、個人情報(パーソナルデータ)がまったくヒットせず、何か調べようとしても頑強なプロテクトに阻まれてしまいます』

「プロテクト?」

「つまり、団長さんについては前に聞いた情報以外には何もわからないって事ですか?」

『その通りです。続いて黒田についてですが、警察庁の人間であると先程は伝えましたが、その中でも政府の機関に属しているようです』

「黒田が政府の機関の人間……」

「それで、団長さんは黒田さんと関係があって、個人情報は調べられない……あれ、それじゃあ黒田さん達が団長さんについての情報を隠してるって事なんじゃ?」

 

 アリスの言葉にRDは静かに答える。

 

Exactly(その通りでございます)

「政府の機関に属する奴がホワイトフェイスの個人情報を隠してるとしたら、この前の『リンデンの薔薇』を盗み出した件も黒田の差し金って事になるのか?」

「でも、それってなんだかおかしくない? たしかに持ってた星菱さんは良い人じゃなかったし、『リンデンの薔薇』は盗品だって言うから、あの人から取り上げるのはわかるよ。

ただ、それなら『リンデンの薔薇』はもう黒田さんの手に渡って、然るべき場所に返されてるはずだし、そもそも政府の機関の人が盗みを指示するのもなんだか違和感かも……」

「そうなると、『リンデンの薔薇』の件はセブン・リング・サーカス、具体的にはホワイトフェイスの独断で行われていて、黒田はクイーンの件以外にも星菱邸から『リンデンの薔薇』が盗まれた件についてホワイトフェイスに聞くために来たと考えてもおかしくないか」

「…………」

 

 元気とアリスの話を聞いていたクレールの表情が複雑な物に変わると、その顔を見た真里は不思議そうに首を傾げた。

 

「クーちゃん、どうかしたん?」

「……なんでもない。ほら、そろそろ団長室に着くぞ」

 

 クレールの視線の先にはリングと楽屋を結ぶ通路があり、そこには赤いカーテンが掛けられていたが、クレールは元気達を伴って迷う事なくそのままカーテンを潜った。

厚いカーテンに外部からの光を遮られていたからか通路の中は広く作られていたもののとても暗く、目が闇に慣れてくると左右には扉の代わりに黒いカーテンが吊るされた幾つもの部屋があった。

 

「ここ、かなり暗いですね……」

「目が慣れたら大丈夫やけど、これはどっかに足をぶつけてもおかしくないわ」

「俺も慣れるまではこの通路を通るのは苦労したな。さて、団長室はあの奥のカーテンの向こうだ」

 

 そう言いながらクレールが進み、元気達もその後に続くと、カーテンの向こうからは二人の人物の話し声が聞こえてきた。

 

「……ホワイトフェイスさんと黒田さんの声だ」

「みたいだな。せっかくだ、何を話してるか聞き耳を立てさせてもらおう」

「えっ、良いのかな……」

「ええんやない? もしもバレても団長に話を聞くためにクーちゃんにお願いしたって言えばええよ」

「……そうだな」

 

 クレールが返事をした後、五人は壁際に寄りながらカーテンの向こうの話し声に意識を向けた。

 

「さて、困りましたね」

「ほう、何が困ったって言うんだ?」

「怪盗クイーンですよ。貴方も知っているように怪盗クイーンがこのサーカスの見物に来ると世間に大々的に公表していて、それを聞き付けた多くの見物客の中にクイーンが紛れていてもおかしくない状況が出来ています」

「そうだな。だが、俺達からすればお客が多い事は悪い事ではないし、ウチの評判を上げる良い機会にもなっている。困ってるのはアンタだけだろ、黒田?」

「……この事態について何か心当たりは無いのですか?」

「ないさ。サーカス見物に来ると言っているならそうなのだろう」

 

 ホワイトフェイスが淡々と答える中、黒田は少し間を置いてから再び話し始めた。

 

「……この間、星菱邸から『リンデンの薔薇』が怪盗クイーンによって盗まれた事件はご存じですよね?」

「大ニュースになっていたからな」

「ですが、『リンデンの薔薇』を盗んだ犯人は怪盗クイーンではないという情報も私達には入っているんですよ」

「へえ? そんな暇人がいるのか」

「その暇人が、貴方なのではないですか? セブン・リング・サーカスの団員達に指示を出して『リンデンの薔薇』を盗ませた暇人は」

「……知らんな。たしかにウチの団員達は一流揃いだから、そう考えたくはなるだろうけどな」

 

 少し声を低くしたホワイトフェイスの返事の後、再び沈黙が場を支配してから黒田は少し怒りを孕んだ声で話を始めた。

 

「団長、忘れてはいませんか? 貴方達の犯罪行為が許されるのは、我々の命令があった時だけなのです。当然、それ以外の犯罪行為など認められていないんですよ」

「……それなら俺達を捕まえるのか? お得意の人海戦術で証拠を探し出して」

「……いえ、それは止めておきましょう」

「賢い選択だな。俺達が捕まったその時には、これまでアンタ達の指示で行ってきた犯罪行為は全て明るみになる。そうなったら困るのはアンタ達だからな」

「口封じをされる可能性は考えていないのですか?」

 

 カーテンの向こうの会話に真里と考太郎が息を呑む中、ホワイトフェイスと黒田の間には再び沈黙が訪れたが、先にその沈黙を破ったのは黒田だった。

 

「所詮、貴方達はかごの中の鳥。自分から逃げる事は出来ず、外からの注目を浴びて囀ずる事しか出来ません。いくら貴方達に特殊技能があろうと、この鳥かごを破って外へ飛び出す事など出来ないのです」

「……破れた時、アンタ達はどれだけ面食らうんだろうな」

「え?」

 

 ホワイトフェイスの呟きに黒田が聞き返したが、ホワイトフェイスは首を横に振った。

 

「なんでもない。まあ、安心しろ。政府に楯突く程、俺達もバカではないし、楯突けるわけもない。俺達が常にアンタ達の監視下に置かれてる事も理解していて、俺達の気楽なサーカス生活だって手放すつもりは一切ないからな」

「その言葉、信用しますからね」

「お互いに改めて信頼関係を築けた事を祝して乾杯でもするか?」

「いえ、仕事中ですので」

「そうか。まあ、俺もだけどな。さて……それはさておき、この前話した俺達の海外公演の件について聞こう。あれはどうなった?」

「その時にも言いましたが、認めるわけにはいきません」

 

 黒田の冷たい声を聞き、ホワイトフェイスの声に焦りの色が浮かぶ。

 

「一ヶ月も行かせろとは言わない。一週間──いや、一日だけでも良いんだ! 海外公演だけは行かせてくれ!」

「駄目です。海外公演などしては、セブン・リング・サーカスが我々の監視下から外れてしまいますから。それに、貴方が希望している国は内乱がおさまったとはいえ、まだまだ政情が不安定です。どれだけの危険があるかは“貴方自身”がよく知っていますよね?」

「……わかっている。だが、あそこだけは行かないと行けないんだ!」

「……度しがたいですね。どうして貴方はその国にこだわるのですか? 紛争地域ならこれまでにも訪れているはずなのにどうしてあの国だけ……」

 

 黒田の不思議そうな声にホワイトフェイスは真剣な声で答える。

 

「……約束だからだ」

「約束? その約束は貴方の命を懸けるだけの価値がある物なのですか?」

「……あるさ。アンタには絶対理解出来ないだろうが、この約束だけは守らないといけないんだよ」

「……そうですね、理解は出来ません。とにかく、その国での海外公演は許可しません。大切なセブン・リング・サーカスをそんな国へ送り出すなんて出来ませんから」

「……そこまで俺達の事を心配してくれるなんてな。有り難くて涙が出そうだ」

「この友好的な関係が続く事を私は願っていますよ」

 

 その黒田の言葉の後に二人は共に笑った。しかし、その笑いにはお互いに友好的な物は感じられず、笑い声の後に聞こえてくる黒田の声もとても冷たい物だった。

 

「最後に一つだけ聞きます。怪盗クイーンがこのサーカスに来る理由はなんですか?」

「サーカス見物さ。ほら、そろそろクイーン探しに戻った方がいい。俺もそろそろ他のお客をここに招く時間なんだ」

「……それが怪盗クイーンではない事を祈りますよ。では」

 

 そう言って黒田はカーテンを開けたが、壁際に寄っていた五人が影に身を潜めていた事で存在には気づかれず、黒田がそのまま赤いカーテンの向こうへ消えると、黒いカーテンの向こうからはホワイトフェイスの声が聞こえてきた。

 

「クレール、いるんだろう? そのお客さん達を連れてこっちまで来てくれ」

「……わかった」

 

 暗い表情のクレールが答えた後、五人はカーテンを開けて中へと入った。中は少し広い空間があり、向かい合わせに置かれた三人掛けのソファーと隅っこに置かれた執務用の机と椅子、そして壁際に置かれた本棚が五人の目に入ってきた。

 

「ここは……」

「団長室……とはちょっと違うかも?」

「ここは談話室だ。もっとも、さっきみたいな“変わったお客”を迎える場所で、まさか記者まで一緒だとは思わなかったがな」

「団長……」

 

 クレールが視線を向ける中、ホワイトフェイスは優雅にお辞儀をしてみせた。

 

「ようこそ、お客様。セブン・リング・サーカスの団長、ホワイトフェイスの談話室へ」




政実「第26話、いかがでしたでしょうか」
元気「今回はホワイトフェイスと黒田の会話がメインの回だったな」
政実「そうだね。本当はその会話が行われていた場所が団長室だったと思うけど、団長室は前に違う場所として書いてるし、そういう場所がありそうかなとも思ったからそこは談話室って事にしたよ」
元気「なるほどな。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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