元気「どうも、神野元気です。床の間に飾るのは良いけど、結構危なそうだな」
政実「安全面にはたしかに気を付けないとね。もっとも、その前に購入のための資金集めをしないとだけど」
元気「そうだな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第28話をどうぞ」
談話室などがある廊下を抜けてカーテンをくぐって外へ出た後、五人が一度大テントから出てフードコートへと向かっていた時、元気とアリスがつけているイヤホンからRDの声が聞こえてきた。
『元気、アリス、お疲れ様です』
「……RDか」
「RDさん、お疲れ様です。何かあったんですか?」
『いえ、ここまでの事について二人からも話を聞きたいと思いまして。元気がつけているコンタクトレンズでも目の前の状況はわかりますし、ホワイトフェイスの過去や団員達の話も聞こえていました。
ですが、世界最高の人工知能とはいえ、私には人間の心の
「話、か……正直な事を言えば、クイーンが『リンデンの薔薇』を奪って勝負に勝つのが一番だと思う。だけど、ホワイトフェイスが勝利の際に求めてくる物が“わかった”以上、それが本当に最善なのかはわからなくなったな」
「わかったって……え、本当に?」
アリスが驚く中、元気は静かに頷く。
「ああ。たぶんだけど、ホワイトフェイスはサーカスごと自分達を盗んでもらいたいんだと思う。政府の指示で動いている間は政府の目を盗んで何かをするのは困難で、さっきだって黒田からホワイトフェイス達の仕業だってのは感づかれていた。
だけど、セブン・リング・サーカスごとクイーンが盗み出してしまえば、未だにクイーンの居所に気づけていない黒田達が探り当ててくる事はまずないだろうし、サーカスごと盗んだ時点でセブン・リング・サーカスは言ってみればクイーンの物になり、政府も表立ってセブン・リング・サーカスの事を問題には出来ない。そんな事をしたら、裏で行っていた自分達の悪事も明るみに出る可能性は高いからな」
「あ、たしかに……団長さんからお願いされてるから伊藤さん達は今は何も言わないけど、いざとなったらそれもわからないし、黒田さんは伊藤さん達がそれを知ってるって知らないからね」
『私も元気の考え通りだと思います。私も危険性などを考えるなら争いの絶えない地域へ行くのは反対ですし、過去に交わした約束だとしてもその相手の安否もわからない中で命を懸けて行く理由にはならないと思いますから。
しかし、会話の際のホワイトフェイスの声や表情はメイクで隠れていても辛さを感じている物に思えました。それだけ彼にとってその約束が大切なのでしょう』
「命を懸けても良い程の約束……それってクイーンさんと元気が交わした約束もそうだよね? クイーンさんの場合は本当に命を懸けてるけど」
「そうだな。そういえば、岩清水刑事はどうしてる? トルバドゥールの中を調べたりシュルツ達で和んだりしていたのは聞いたけど……」
『今はお昼時なのでシュルツ達と一緒に昼食中です。今朝もベーコンエッグとトースト、淹れたてのコーヒーをお出ししましたが、昼食は『八番ラーメン』のラーメンライス定食を付け合わせのザーサイと一緒にお出ししてますよ』
「『八番ラーメン』……?」
話が聞こえていたクレールが首を傾げる中、RDは淡々と答える。
『岩清水刑事の行きつけのラーメン屋です。私の調べでは、岩清水刑事は昼食の七十六パーセントをその『八番ラーメン』のラーメンライス定食で済ませており、クイーンからは岩清水刑事の食事等は出来る限り希望を叶えるように言われていますので、昼食の希望を聞いた際に岩清水刑事から『八番ラーメン』のラーメンライス定食を出してみろと言われてその希望通りにしたまでです』
「お昼ご飯のだいたい八割はそのラーメンライス定食にしてるんだね、岩清水刑事。そんなに美味しいのかな……?」
『味が好みかはわかりませんが、麺の伸び具合やライスの水加減、ザーサイの乾き具合やどんぶりまで全てをコピーしたので岩清水刑事はとても感心していましたよ。よければ、後で作りましょうか?』
「はい、お願いします」
『それと、朝食を終えて少し落ち着いた後、岩清水刑事はトルバドゥールを抜け出して上越警部の元へ行こうとしていましたが、どれも失敗したのでとりあえず今はここにいる事を決めたようですよ』
「どれも失敗って……お前達のアジトはそんなにセキュリティが厳しいのか?」
『セキュリティ面はしっかりとしていますが、別に脱出したいなら自由にしてもらって大丈夫ですよ。ただ、現在は高度二万フィート、1フィートがおよそ0.3メートルなので、メートルに直すとおよそ6000メートルの高さを飛んでいる事になりますね。
加えて、窓は全てが拳銃で撃っても壊れない超硬質ガラスですし、全長1キロメートルもあるトルバドゥールを着陸させるにはそれ相応の広さが必要になる上、それ以外で降りるにはコンテナの中に入ってもらって降下させるかクイーン達のようにワイヤーに捕まって高速で降りてもらう事になり、後者の場合は一般人では低い気圧や耳鳴り、
「え、どうしてですか?」
『トルバドゥールからの脱出方法を聞かれる中で、クイーンとジョーカーはどのように地上に降りているのかと聞かれたので教えただけです。その際、岩清水刑事の頭の中には瞬間的に岩清水刑事の殉職を伝える新聞記事や追悼の特別番組、更には盛大な葬儀の様子などが駆け巡ったものと思われます』
「……お前達のアジトってそんなとこにあるんだな」
そう言うクレールの表情は少々引き気味であり、アリスはそれに対して苦笑いを浮かべる。
「あはは……まあね。そういえば、シュルツとイヴは良い子にしてますか?」
『はい。岩清水刑事に対しても特に警戒はしておらず、イヴはボール遊びを、シュルツはブラッシングをしてもらっていましたよ。そして、岩清水刑事も二匹には危害を加える気は無いようなので問題はないかと』
「それなら良いか。それにしても、上越警部も岩清水刑事が偽者な事によく気づかないもんだな。話を聞いていると、本物と今朝見かけた変装はだいぶ違う気がするけど……」
「ジョーカーさんかもって思った今だと、今朝会った岩清水刑事は雰囲気とか話し方がジョーカーさんらしさがあったしね」
『上越警部も違和感を感じているとは思いますが、これだと指摘出来る証拠がないのだと思います。刑事裁判の話になりますが、犯罪事実をはっきりと証明出来ないなら、被告人にとって有益になるように決定するべきと定めた原則で疑わしきは罰せずという言葉もありますし、証拠をしっかりと指摘出来ない以上は、上越警部もクイーン又はジョーカーであると言えませんから。
ただ、ジョーカーは変装時の演技を得意としていませんから、どこかで確固たる証拠を突きつけられてしまう可能性は十分にあるかと』
「そうだな……」
「サーカス見物をした時もお婆さんになってはいたけど、少し怖いお婆さんにはなってたからね。そう考えたら少し心配かも……」
『ですが、ジョーカーもクイーンの仕事上のパートナーとして優秀ですし、もし気づかれて一度捕まってもすぐにどうにかしますよ。ところで、『リンデンの薔薇』のありかについては何か気づいた事はありますか?』
RDの問いかけにアリスは困ったような顔をする。
「それがまったくわからなくて……団長さんは隠してたところにはもうなくて今はどこかを歩いているって言ってましたけど、一度立ち止まる事も大事だって言ってましたし、頭の中がミキサーみたいです」
「まだ頭の中がぐるぐるしてるわけだな。だけど、ありかがわからないのは俺も同じだ。アテが外れたわけだし、他の場所ってなってもな……」
「……そういえば、元々隠してた場所は何となくわかってるって言ってたな。それはどこだと思っていたんだ?」
「……まあ、そろそろ話しても良いか。だけど、その前に……」
すると、元気は前を歩く真里達に声をかけた。
「伊藤さん、西園寺さん、ちょっと良いか?」
「ん、どしたん?」
「二人はここのサーカスの公演って観た事はあるか?」
「あるよ。本当に評判通り、いやそれ以上の物ばかりで感心してばかりやったわ」
「僕もすごいと思ったよ。特に団長さんも出てたマジックショーはね」
「そのマジックのタネがわかるとしたら、聞きたいか?」
「え、ゲンちゃんわかるん!?」
「恐らくだけどな」
全員が立ち止まった後、元気は静かに話し始めた。
「まず、あのマジックショーで使われていたのは、本物の日本刀と体全体が隠れる程の細長い箱、そしてキャスターのついた担架だった」
「うん、そうだね。それで、最初は他の剣を使ってたけど、全部曲がったり欠けちゃったりして、団長さんがニヤニヤしてたらプリズムプリズムさんがムッとしてその日本刀を取り出したんだよね」
「そうだな。そして野菜などを切って本物の日本刀だと俺達に証明した後、箱を一刀両断してホワイトフェイスの足は箱ごと斬れて、観客が息を飲んだり悲鳴を上げたりする中で箱からは血のような赤い液体が溢れていた」
「それだけ見れば、本当にホワイトフェイスさんの足が斬れてしまっているように見えるから当然だよね。でも、その後に箱をくっつけたら足もくっついて元通りになった。そこがやっぱり不思議だよね」
「ああ。だけど、ホワイトフェイスのその足が“義足”だったらどうだ?」
その言葉にクレールは驚き、アリスは不思議そうな顔をする。
「義足……?」
「ああ。本物の足のように歩くために使うものだ。ホワイトフェイスが前に伝説のピエロと言われる程だったのに今は演技をしていない事や過去に争いの絶えない地域へ行っていた事から考えると、たぶんその頃に何らかの理由で足を損傷して切断する事になって今は義足になっているんだと思う。
だから、プリズムプリズムが箱を一刀両断する前に素早く義足を外し、観客に斬れたと思わせた後に箱を戻すと同時に着け直せばあのマジックは完成するはずだ。
義足も政府の力を借りて作った物なら、本物の足と遜色ない程に精巧な物は出来るだろうし、ホワイトフェイスも義足生活には慣れてるから見ている側も違和感は感じないだろうしな」
「はー……なるほど。けど、よう気づいたね?」
「前に会った時、何となく足音に違和感を感じたんだ。ただの足音にしては少し固いものがぶつかるようなそんな音が聞こえた気がしたからな。クレール、どうだ?」
元気達の視線が集中する中、クレールはため息をついてから頷いた。
「……お前の言う通りだ。団長は義足だし、マジックショーのタネもそうらしい」
「そうなんだ……でも、義足での生活ってやっぱり慣れるまでは大変だったろうね。本物の足もなくなった上に歩けるまで悔しさばかり感じてたと思うし……」
「せやね。だから、今ある体は大事にせんとあかんのよ。生まれつき障害を持っている人もおるけど、そういう人達も周囲からあまり理解されへんかったりうまくいかなくて辛かったりする。
けど、その中でも負けたくないっていう気持ちを糧にいつも頑張ってるんや。うちらもそういう人がいたら、善意の押し売りにならん程度に何か手助けしたり五体満足で生まれてきた事に満足するだけになったりせんようにしよな」
「そうですね」
真里と考太郎が話す中、アリスはこそっと元気に話しかける。
「それじゃあ、『リンデンの薔薇』のありかもそこって事?」
「ああ。義足の中は恐らく空洞になっていて、そこに隠していつも肌身離さず持っていたんだろうけど、そこじゃなくなったみたいだからな……RDの考えはどうだ?」
『そうですね……宝石が独りでに歩く事はまずないので、今も誰かが持っていると思いますが、立ち止まる事も大事だという言葉がやはり引っ掛かります。灯台もと暗し、という言葉もありますから、案外立ち止まった際にわかる程に身近な場所にあるのかもしれませんよ?』
「身近な場所……うーん、やっぱりわからないよ……」
「もう少し考える必要はありそうだな。さて、それじゃあそろそろフードコートに──」
そう言いながら元気が前を向いたその時だった。
「……あっ、伊藤さんだ!」
嬉しそうに真里を呼ぶ少女の声が聞こえ、五人がそちらに顔を向けると、その少し先には四人の少女と一人の男性の姿があった。
そして、その内の三人は髪型と服装のみ違ったが、顔は写し取ったかのように“まったく同じ”だった。
政実「第28話、いかがでしたでしょうか」
元気「最後に誰か来たけど、次回はその紹介から始まるのか?」
政実「うん、そうなるかな」
元気「わかった。そして最後に、今作品への感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」