怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、今回の話を書く際に頭から煙が出そうになった片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。色々調べながら書いたり頭をかなり悩ませたりしてたからな」
政実「そうだね……でも、これからもこういう話は出てくるだろうし、これからも色々頑張ってみるよ」
元気「わかった。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第30話をどうぞ」


第30話 名探偵の推理ショー

「名探偵……あ、名刺にもちゃんと書いてる」

「みたいだな。けど、俺達からすれば、あくまでも自称名探偵だから、その言葉を簡単に信じるわけにはいかないな……」

 

 元気が少し警戒したような目を向ける中、清志郎はその言葉にムッとする。

 

「信じられなくても僕が名探偵という事は変わらないよ。その証明は亜衣ちゃんや伊藤さんもしてくれるしね」

「そうだね。私達も初めはこんな人が名探偵なんて思ったけど、少なくとも教授が名探偵なのは間違いないよ」

「そこまで……って、そういえば夢水さんの事を教授って呼んでるのはどうしてなんだろ……?」

「ああ、それは教授が前に論理学っていう学問を大学で教えてた教授だったからだよ」

「本人曰く、1+1は2な事を証明する物みたいだけどね」

「1+1は2を証明……でも、物が二つあったらそれは2だからそれって大学で学ぶような事なのかな……?」

 

 アリスが不思議そうに首を傾げる中、元気のイヤホンには再びRDの声が聞こえ始め、元気は軽く頷いてから静かに口を開いた。

 

「論理学は哲学の一つで、命題の真偽の関係性を考える学問、つまりはさっきの1+1は2という物が本当かどうかを考える学問って事になる。そして、論理学は一般的には難しい学問とされているみたいだ」

「どう難しいの?」

「理由は大きく三つあって、既にわかっている事を扱うからと具体的な知識が身に付く訳じゃないから、そして意味的な内容を扱わないからだ。

例を出すなら、命題Pが“リンゴが食べ物である”で命題Qが“リンゴが食べ物であるなら、リンゴは食べられる”だとしたら、リンゴは食べられるという正しい結論が導かれるわけだな」

「食べ物なんだから食べられるのは当たり前だもんね」

「ただ、論理学は意味的な正しさは関係ない学問で、正直な事を言えば命題Pが“ボールペンは食べ物である”で命題Qが“ボールペンが食べ物であるなら、ボールペンは食べられる”という形になって、ボールペンは食べられるという一般的には間違った結論が導かれても良い。命題Pと命題Qと結論の関係性だけが論理学にとって大切な事で、その命題PやPならばQが真の時にQが真と言える論理的な真実、それは変わらないからな」

「……なんだか頭がこんがらがってくるが、つまりは論理学は俺達にとって当たり前だと考えてる事を改めて確認する学問って感じなのか?」

「そうなるな。さっきみたいにりんごが食べられるか改めて確認したところで新しい知識は得られないし、当たり前だと思っている事を扱っているだけな上にたとえ論理的には合っていても意味的に間違っている事があろうがそこは関係ないからな。

ただ、世の中には論理的に合ってるようでもちゃんと考えてみれば当たり前である規則を破っている例が実は多い。さっき、クレールが当たり前を再確認する学問って言ったけど、更に言い換えるなら世の中が何かの理由で混乱する中でも飛び交う情報に惑わされないようにする学問とも言えるかもしれないな。当たり前、要するに常識だと思う事を疑っていく事になるからな」

「なるほど……元気君、本当にすごいね」

「うんうん、私達よりも年下っぽいのにそこまでの説明が出来てるし、なんとなくでも理解出来たもん」

「そうだね。これは教授の出る幕が無かったんじゃない?」

 

 美衣が問いかけると、清志郎は静かに頷く。

 

「僕もそう思うよ。もっと厳密に且つ専門的に説明は出来るけど、その年でそこまで話せるなら大したものだからね」

「ウチの元気は物知りですから!」

「それじゃあ今度は僕の番かな。今の説明が“他の誰かの説明”だという事を証明してあげるよ」

「……え?」

 

 清志郎の言葉にアリスが驚きの声を上げる中、同じように驚いていた亜衣は清志郎に話しかける。

 

「教授、それじゃあ今の元気君の説明は本当は誰か別の人がしてたって事?」

「それだけじゃなく、双子と三つ子の出生率についてもそうだよ。一見すると元気君がしっかりと話していたようにしか見えないけどね」

「教授、年下の子がすごかったから難癖をつけたいだけじゃないの?」

「僕だってそこまでの事はしないよ。それに、三人にもまだ名探偵だという事を証明していないし、“観客”にも楽しんでもらいたいからね」

 

 清志郎の目がサングラスの奥で輝いた後、元気達が見守る中で清志郎は静かに口を開いた。

 

「さて……まずはどうしてそう思ったかを説明しようか。亜衣ちゃん、元気君が説明をした二回、その時に何か変だと思った事はないかな?」

「変だと思った事……? いきなりそう言われてもすぐに浮かばないよ。変というかすごい事ならその二回の説明内容が難しそうな事ばかりだった事くらいだけど……」

「僕も同感だね。少なくとも、双子と三つ子の出生率や論理学についての説明なんて中々出来ないし、出生率に関しては確率にも触れていたから、本当に大したもんだよ。

けれど、僕が触れたいのはそこじゃない。元気君が説明をしていたその二回、その二回だけ応答のテンポが違ったんだよ」

「応答のテンポ……要するに、その二回だけ答えるタイミングが違ったって事?」

「その通りだよ、真衣ちゃん。今は図解が出来ないけど、基本的に人対人の会話というのは、“話題を出す事”とそれを受け手が“聞く事”、そして聞いた事について“答える事”の三点で成立している。今の真衣ちゃんの問いかけを僕が聞いて答えた、この三つでしっかり会話出来てるだろ?」

「たしかに……」

「ただ、そうじゃない場合がある。美衣ちゃん、通訳士という仕事は知っているよね?」

 

 清志郎の問いに美衣は頷いた後に答える。

 

「うん、外国の旅行の時にその国の言葉を使って説明してくれたり現地の人の言葉を聞いて私達の言葉に直したりしてくれる人だよね」

「そうだね。それで、さっき美衣ちゃんが言った中の後者、他の国の言葉を一度聞いてそれを僕達に説明してくれるというパターンを分解すると、“相手が外国語を話す事”と“通訳士がそれを聞く事”、そして“通訳士が訳して伝える事”と“僕達がそれを聞く事”の四点になるんだよ」

「ほんとだ……間に一人入っただけでちょっと変わってる……」

「その点に注目すると、元気君が説明をした二回は明らかに小さくため息をついたり頷いたりしてから答えていて、他の時はあまりそうでもなかった。説明をした時だけ違う行動をしていたのは少しおかしくないかい?」

「……たしかにその二回だけ違う行動をしていたらどこかおかしく見えるな。けど、そんなのはただの偶然だと片付けられるし、まだ難癖の域は出てないんじゃないか?」

 

 元気が静かな声で言う中、清志郎はニヤリと元気を見ながら笑う。

 

「そう言われても仕方ないね。けれど、僕が触れたい事はまだあるんだ」

「教授、なに?」

「それなんだけどね……亜衣ちゃん、例えば推理小説を知らない人に説明する時はどう説明するんだい?」

「推理小説を知らない人……それなら、まずどういう人が出てくる本なのか説明して、それがどう面白いのか話した後にどういうタイトルがあるのか言って……あ、その時に他の小説とも比較したり作中に出てきそうな実在の事件も挙げたりするし、推理小説に関する雑談もするかな」

「なるほどね。つまり、推理小説についての説明以外にも比較をしたり実例を挙げたりするわけだけど、彼の説明はどうだったかな?」

「え、別に変なところはないでしょ? 簡潔にまとまっていてわかりやすかったし」

「そう、そこだよ。彼の説明は比較も実例も無かったのにわかりやすくまとめられていた。そしてそれに関する脱線もせずに説明を終えた。まるでインターネットで調べた事をそのまま伝聞したかのようにね」

 

 その言葉にアリスは驚き、不安そうに元気を見たが、元気は平静を保ちながら再び静かに口を開いた。

 

「……それだって俺の癖だという可能性はあるはずだ。まだ決定的な指摘にはならない」

「そうだね。それに君はどうやら口数は普段から少ないようだし、淡々と話す事が多いみたいだ。それなら簡潔にまとめて話す癖があってもおかしくはない」

「だったら、話はこれでおわ──」

「いや、ショーはまだ終わらないさ。実は元気君のバックに誰かがいると感じたタイミングはもう一つあったからね」

「え?」

「そんなタイミングなんてあった?」

「私達にはわからなかったけど……」

 

 岩崎三姉妹が揃った動きで腕を組む中、清志郎は自分を見つめる元気を見ながら口角を上げた。

 

「チェックメイト、僕はこの言葉を知ってるか西園寺さんに聞いたよね。この行動の意味は別にあるんだけど、この時に少し聞こえた彼ら三人の会話を考えると、ちょっと不可解な点があるんだよ」

「不可解な点?」

「うん。元気君、どうして君は初めに“なるほどって”と言ったんだい?」

「え……」

 

 清志郎の指摘に元気が動揺する中、清志郎は微笑みながら話を続ける。

 

「ただ単に、なるほどと言うなら僕もわかるさ。僕がチェックメイトと言った意味がわかっただけだからね。けれど、その言い方だと誰かがまずはなるほどと言わないと成立しないし、誰かが言ったようには聞こえなかった。亜衣ちゃん達はどうかな?」

「たしかに聞こえなかったかも……」

「まだお腹も減っていたし、全てが聞こえていたわけじゃないから聞き間違いの可能性もあるよ。けれど、元気君の言葉の後にアリスさん達が話し始めるまでに少し間があった。まるで“見えない四人目”がいるかのようにね」

「う……」

「でも、見えない四人目がいるとしてどうやって話を聞くの? 説明をしてる時、どこかを見てそれをそのまま伝えてる感じもなかったけど……」

「イヤホンだよ。今はとても小型のイヤホンなんて普通にあるし、耳の辺りを少し髪で隠せば完全に隠れてしまう。恐らくそういうイヤホンを耳につけていて、それを使ってどこかにいる四人目から話を聞いてるんだよ」

 

 サングラスの奥に隠れた清志郎の真っ直ぐな目に見つめられる元気は緊張した顔で喉をゴクリと鳴らし、アリスは心配そうに元気を見つめた。

 

「もしも考え違いなら素直に謝るよ。だけど、もしも合ってるならそれだけは答えてほしいな」

「元気……」

「……これ以上はこっちの方が難癖をつける事になるな」

『……そうですね。元気、私はお話は出来ませんが、イヤホンの件は伝えても良いですよ』

「……わかった」

 

 元気は諦めた様子で頷くと、耳から小型の平らなイヤホンを取り、それをテーブルの上に置いた。

 

「……俺の敗けだ、名探偵」




政実「第30話、いかがでしたでしょうか」
元気「……こうしてちゃんとした敗北を自覚するのは初めてだからなんだか悔しいな」
政実「こればかりは仕方ないからね」
元気「そうだな。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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