元気「どうも、神野元気です。ライオンか……その気持ちはわかるけど、正直危険は危険だし、中々その機会には恵まれないだろうな」
政実「たしかにね。ただ、その機会が来たら是非触ってみたいな」
元気「そうだな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第35話をどうぞ」
元気達が悲鳴の先へ向かうと、そこではスタッフ達が遠巻きに何かを見ていた。その視線の先には、怯えた様子で尻餅をつくスタッフの大石と檻から出ているライオンの姿があり、低い唸り声を上げるライオンと大石との距離はだいぶ近くなっていた。
「ら、ライオン……!?」
「こ、これは大事件や……! ビーストさん、これは一体どういう事なん!?」
「……私にも詳しい事はわかりません。ただ、猛獣達が興奮して檻の入り口にぶつかる事で開いてしまう事はあるので、恐らくこれもそれが原因だと思います。先日の公演から猛獣達もどこかピリピリしていましたし……」
「ピリピリしていたって?」
「……怪盗クイーンです。先日の公演には怪盗クイーンがいたようでして、それがこの子達の神経が苛立っていた原因なんです」
「でも、どうして怪盗クイーンが理由になるんですか?」
美衣の質問にビーストは悔しそうに答える。
「……自分よりも強い相手だと感じて怯えているからですよ。この子達は野生では群れを率いたり他の個体と戦ったりしていますから、犬や猫とは違う野生の本能で怪盗クイーンの怖さを感じ取っているんです」
「怪盗クイーンの怖さ……」
「……先日、怪盗クイーンが公演を観に来た時、一度猛獣達が演技を止めたんです。あれも恐らく怪盗クイーンが観客席からこの子達を睨んだから……」
ビーストが悔しそうに言う中、元気はボソッと呟いた。
「実際はクイーンがジョーカーにやらせたんだけどな」
「そうだったね。でも、本当にどうしたら良いんだろ……あの感じだとビーストさんが止めようとしても簡単には言う事を聞いてはくれないよね……」
「うむ……ワシも出来るならば怪我人も出さず、あのライオンも傷つけずに済ませたい。だが、いざとなったら……」
そう言いながら上越警部が拳銃の安全装置を外す中、ビーストは持っていたムチを地面に叩きつけた。
「戻りなさい! その人から離れて、そのまま檻の中へ!」
「グルルァウ!」
「戻りなさい! あなたが怖がっているのはわかっているけれど、このままじゃあなたが……!」
「グルルル……」
ビーストの指示を聞かずにライオンは唸り声を上げながら大石を睨み続け、その様子に上越警部が哀しそうにため息をついていたその時だった。
「警部、ここは僕が」
「岩清水君?」
ジョーカーは上越警部の肩に手を置いて拳銃を出そうとする手を止めると、アルマーニの背広を脱いでそれを左腕に巻き付けた。
「……何をするつもりだね?」
「僕が彼の事をどうにかします。警部は警官達と一緒に団員達やこの子達の避難を優先してください」
「しかし!」
「大丈夫です。ですが、僕がダメだった時は……怪盗クイーンの事をお願いします」
「岩清水君……」
上越警部が真剣な顔をし、頷いてから口を開こうとしたその時、黙っていたアリスが突然走り出した。
「あ、アリス!?」
「アリス! 戻ってこい!」
元気の制止には耳を貸さずにアリスはそのまま大石とライオンの間に立つと、その場の空気が凍りつく中でゆっくりライオンに手を伸ばした。
「グルルル……!」
「……大丈夫だよ。怖い思いはしたかもしれないけど、今ここにはあなたの事を傷つけたい人はいないの。大石さんだってあなたの姿を見て怖がっているだけで、ビーストさんも警部さんもどうにかあなたも無事で済むような方法で終わりにしたいと思ってる」
「グルル……」
「……だから、ね? ここは大人しく檻の中に戻って? ライオンさん、お願い」
猛獣を前にしているとも思えないその落ち着いた声にその場にいた誰もが動けずにいたその時、ライオンからは唸り声と殺意が消え、アリスが伸ばしたその手を優しく一舐めした。
「わっ……ふふ、ありがとう。あなたみたいに優しいライオンさんで良かったよ」
「ガウ」
「それじゃあビーストさん、後はお願いします」
「……え、ええ……」
アリスが離れると同時にビーストがライオンへ、スタイリー井上が大石へ近づき、ライオンが檻の中に戻される中でアリスは亜衣達が信じられないといった視線を向けてくる中を歩いて、不安と恐怖でいっぱいになっている元気の目の前で足を止めた。
「元気、ただいま」
「ただいま、じゃない! お前、自分がどれだけ危険な事をしたのかわかってるのか!?」
「うん、それはもちろん。でも、あの子をどうにかしなきゃって思った時には身体が動いてたの。それに、まったく不安なんて無かったよ?」
「え?」
「なんでって言われても理由はわからないんだけど、不思議と大丈夫だっていう確信があったの。いつもあの子達と接してるみたいにすれば大丈夫だっていうたしかな物が」
「アリス……」
「でも、元気達を困らせちゃったのは事実だから。みんな、心配をかけて本当にごめんなさい」
アリスが頭を下げ、亜衣達が何も言えずにいる中、元気は小さくため息をつくと、その頭をポンポンと叩いた。
「元気……」
「……怪我をしなかったから今はそれで良い。けど心配をかけた分、後でちゃんと叱るからな」
「……うん。ふふっ……」
「……何かおかしいか?」
「ふふ……こう言ったらあれだけど、いつも冷静な元気があそこまで感情的になってくれたのがすごく嬉しくて」
「それはそうだろう。保護者はちゃんといるけど、今の場合は俺がお前の面倒を見る側だからな。それに、お前に怪我されたり苦しまれたりしたら、俺だって心配になるんだよ」
「……そっか。心配してくれて本当にありがとうね、元気」
「……どういたしまして」
元気がため息混じりに言う中、イヤホンからはRDの声が聞こえ始めた。
『なるほど、そういう事ですか……』
「何かわかったのか?」
『アリスの特技について少しだけ。恐らくですが、他人から好かれやすく、その上で相手に自分の要求を飲ませやすく出来る。それがアリスの特技と言える物なのかもしれません』
聞こえてきたRDの言葉に元気は眉を潜める。
「好かれやすいのはまだ良いとして……その後のは結構危険じゃないのか?」
『その通りです。まだ確証があるわけではありませんが、普段から警戒心が強い元気や気が立っているライオンすらも大人しくさせた上に自分の言葉の通りにさせている。この事から、アリスにはそういった特技があると考えられます』
「……そうなると、ますますアリスを
『私も同意見です。この件については後でクイーン達とも話しましょう』
「わかった」
元気が答えていると、左腕に巻き付けていたアルマーニの背広を解いているジョーカーに対して上越警部は真剣な顔で話しかけた。
「岩清水君。何故君は、その背広を使ってまでライオンを止めようとしたのかね?」
「上越警部……?」
「……これが最善だと判断したので。それに、可哀想じゃないですか。自分達が住んでいた所から人間側の都合で連れてこられた上に檻に入れられ、怖い思いをしたから出たら、それで殺されそうになるなんて」
「……そうだね。ワシもそう思うよ、“偽物の”岩清水君」
「……え?」
上越警部の言葉に真里が不思議そうな声を出す中、上越警部は迷わずに手錠を出し、ジョーカーの右手首にかけた。
「午後一時四十八分、
「警部? これは何の冗談ですか? 今すぐに止め──」
「君はクイーンとジョーカー、どちらなのかね?」
「け、警部……まさか岩清水刑事がクイーンかジョーカーだって言うんですか?」
真衣が震え声で聞く中、上越警部は清志郎に視線を向ける。
「夢水さん、ワシの判断は間違っているかね?」
「いえ、大正解ですよ」
「教授まで……」
「朝から何か変だとは思っていたんだよ。岩清水君にしてはテキパキとしていて、とても頼りに──ああいや、本物の彼の出来が悪いとは言わんよ。ちょっと……いや、かなり正義感が空回りして、周囲に迷惑をかけがちというだけで、彼自身も有能な刑事だ」
「警部……たぶん、それはフォローになってないですよ」
「うむ……それと、岩清水君にしてはとんちんかんな事も度々言っておったんだよ。警備体制に対して“ネコの子一匹通れない”と言ったらネコの子や犬、カラスくらいなら通れそうだと返したり、“水も漏らさぬ”警備だと誉めたら本当に水を漏らさないようにするなら自衛隊に土嚢を積んでもらわないといけないと言ったりしていたんだ」
それを聞いていた元気は呆れたようにため息をつく。
「……そういえば、ジョーカーってだいぶ天然だったな」
「たしかにジョーカーさんならそういう返しはしそうかも……」
『……私も同意見です』
アリスが苦笑いを浮かべ、RDがため息混じりに言う中、上越警部はアルマーニの背広を指差した。
「そして……一番の決め手はそれだよ。亜衣ちゃん達も言っておったように岩清水君はその“アルマジロ”の──」
「アルマーニ、ですよ。警部」
「……失礼。アルマーニの背広を大事にしている。それなのに、汚れてもくしゃくしゃになっても気にせずに他人の心配をしており、その後にぼやく様子もない。そして何より……」
そう言いながら上越警部は自分の拳銃をジョーカーの目の前に出した。
「本物の彼なら、真っ先に銃を抜いていたよ。だけど、君はアルマーニの背広を左腕に巻き付けてライオンの前に出ようとした。本物の彼には素手でライオンを追い払う技術はないというのにね」
「…………」
「ワシの推理、当たっているかね? “元気君”」
「……え?」
「ど、どうして元気にそれを……?」
「……考えたくはないが、岩清水君がクイーンまたはジョーカーだとすれば、この結論になるんだよ」
そして上越警部は元気とアリスを見ながら静かに口を開いた。
「君達二人の保護者、それはワシ達が追っている怪盗クイーンだとね」
政実「第35話、いかがでしたでしょうか」
元気「遂に上越警部がそこまで辿り着いたな。けど、このままだと俺達がピンチじゃないか?」
政実「そこに関しては次回をお楽しみにという事で」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」