元気「どうも、神野元気です。機会がなければ近づく事すらも中々無いだろうからな」
政実「まあね。ただ、いつか入る機会があったら入ってみたいと思ってるよ」
元気「そうか。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第2話をどうぞ」
「ん……」
外から朝日が射し込み、小鳥達の囀りが聞こえる中、元気は静かに目を開けると、ゆっくりと体を起こしてから周りを見回した。
「……そうだ、俺はミック神父に連れられて教会に来たんだったな」
昨夜の出来事を思い出しながら元気は再び周りを見回す。一人で使うには少々広い室内には元気が眠っていた清潔なベッドの他に純白のタンスやクローゼット、聖書や小説が入った本棚等があり、室内の様子に元気は少し警戒したような視線を向けた。
「……どうしてミック神父はこの部屋を俺に与えたんだ? 他の部屋はどうか知らないけど、この部屋は一人で使うには少し贅沢すぎるし、別に眠れるなら倉庫でも良いのに……」
警戒を解かずに元気が周囲を見回し続けていると、部屋のドアが二回ほどノックされ、元気は部屋の様子を見るのを止めてからドアへ視線を移した。
「……ミック神父か?」
「ああ、そうだよ。昨夜はグッスリ眠れたかな?」
「……不思議とな。それで、何の用だ?」
「そろそろ朝ごはんだからね。ウチの子達にも紹介したいから、起きてきてくれると助かるよ」
「朝飯……そんなに腹は空いてないけど、食べるのは大事だから食いに行く」
「ありがとう」
「昨日の服のままで良いのか?」
「そうだね……クローゼットやタンスに子供服や下着などがあるから、着替えてからの方が良いかな。別に私は気にしないが、子供達は気にするだろうし、必要以上に注目を集めたくはないだろ?」
ミック神父からの問いかけに元気は静かに頷く。
「そうだな。注目を集めるのは避けたい」
「そうだろうね。では、君が着替えるまで私はここで待たせてもらうよ。君一人では食堂まで来るのは難しいだろうしね」
「……別に探す分には問題ないけど、迷って疲れるよりはすんなりと行けた方がありがたいからな。わかった、早めに着替える」
「ふふ、急がなくても構わないよ」
ドアの向こうでミック神父が微笑みながら答えた後、元気は手早く着替えを済ませ、ドアを開けて外へと出た。用意されていたのは、白地のジャケットに青いTシャツ、白いズボンであり、ミック神父から貰ったロザリオを首から掛けたその姿を見たミック神父は目を細めた。
「よく似合っているよ、元気」
「……そうか。そういえば、ここはミック神父以外に何人くらいいるんだ?」
「孤児として面倒を見ている子が数人、住み込みのシスターが一人だよ。色々な性格の子がいるが、みんなとても良い子だ。元気もすぐに打ち解けられるだろう」
「別に打ち解ける気はない。生活に支障が出ない程度に接する事が出来ればそれで良い」
「ふふ……まあ、それでも良いさ。さて、それではそろそろ行こうか」
元気が頷いた後、二人はゆっくりと歩き始めた。その間、二人の間に会話は無かったが、雰囲気自体は悪い物ではなく、あまり見慣れない物に元気が視線を向ける姿をミック神父は微笑ましそうに見ていた。
歩き始めてから数分後、大きな木の扉を開けると、そこには食堂の光景が広がっており、天井から吊るされたシャンデリアと壁際に数体置かれた聖母や天使の像、中央の長テーブルにはパンが入れられたバスケットやサラダなどがよそわれた皿が人数分置かれていた。
そして、椅子に座っていた元気と同じような服装の子供達と修道服を着た長い金髪の女性がドアの開いた音を聞いて元気達に視線を向けると、その光景に元気は少し驚いた様子を見せる。
「……ここが食堂、か……」
「ああ、そうだよ。クリスティーナ、みんな、待たせてすまなかったね」
ミック神父が微笑みながら言うと、クリスティーナはやれやれといった様子で立ち上がり、二人の前まで近づくと、元気をチラリと見てからミック神父に話しかけた。
「ミックさん、彼が先程お話されていた子ですか?」
「ああ。彼は神野元気、法的に考えたらあまり許された方法ではないが、昨夜保護してきて正解だったと思っているよ」
「……まあ、ミックさんのその突然の思いつきは昔からですから今さら驚きも拒みもしませんよ。ただ、後で少しお話がありますけどね」
「わかっているさ。元気、彼女はクリスティーナ・メイスンといって、この教会に住み込みで働いてくれているシスターだ」
ミック神父が紹介すると、クリスティーナは微笑みながら元気にお辞儀をする。
「クリスティーナ・メイスンです。ミックさんとは神父とシスターになる前からお世話になっていますから、ミックさんが何か困った事をしてきたら遠慮なく言ってください。私が怒りますから」
「……よろしく。神父とシスターになる前ってミック神父とはどういう関係だったんだ?」
「そうですね……簡単に言うならば、上司と部下、でしょうか。貴方もなんとなくわかっていると思いますが、ミックさんは突拍子もない事を思い付くだけで悪い人ではないです。今回の件は普通に誘拐もいいところなんですけどね……」
「それに関しては時が来たらしっかりと償うつもりだ。だが、それまでは元気はしっかりと保護するし、彼の両親についてはしっかりと調べるよ。クリスティーナ、手伝ってくれるかな?」
「……はい、それくらいお安いご用です」
クリスティーナが自身の胸に手を当てながら真剣な表情で答えていると、座っていた子供の中で短い茶髪の大柄な体格の少年が不満そうな様子で声を上げる。
「ミック神父、そろそろ飯にしようぜ? 俺、腹が空いて仕方ねぇよー……」
「はは、そうだね、クレール。では二人とも、そろそろ席に着こうか。元気は……そうだな、アリスの隣にしよう。あそこの端に座っているブロンドのポニーテールの子の隣だ」
「わかった」
元気が頷いてから歩きだし、そのまま指定された席に座ると、隣に座っていたアリスは元気を見ながらにこりと笑う。
「初めまして。私はアリス・タナー、これから仲良くしようね」
「……神野元気。程々に付き合いは持つけど、それ以上に仲良くなるつもりはない。お前達だけじゃなく、ミック神父ともな」
「あはは……これはだいぶ仲良くなるのに苦労しそうだね。でも、事情はどうであれ一緒に暮らす仲間だし、私は元気とも仲良くするつもりだからね」
「……勝手にしろ」
元気が冷たく言い、アリスが苦笑いを浮かべていると、それを見ていたクリスティーナは不安げな様子だったが、ミック神父は微笑ましそうに見ながらクスクスと笑った。
「ふふ……まあ、元気には少しずつここに慣れていってもらう事にしよう。では、そろそろ頂こうか」
「はい。それじゃあみんな、いつものようにいきますよ」
「おう」
「りょーかい!」
「承知しました」
「ええ」
「はい」
元気を除く子供達が答えた後、ミック神父達は目を瞑りながら目の前で静かに手で空に十字を切り、それを見ていた元気がそれに倣って十字を切ると、ミック神父達は揃って手を合わせた。
『いただきます』
「……いただきます」
食事の挨拶を口にして子供達が食べ始めると、元気は少し不思議そうに周囲を見回してから隣に座るアリスに話しかけた。
「……日本式の挨拶もするんだな」
「うん、ミック神父がここは日本だからそれもやろうって言ったのがきっかけみたいで、私達は物心がついた頃からこうだよ。だから、みんな日本語も話せるの」
「そうか……」
「でも、なんだか安心した。そういう小さな事でも元気が興味を示してくれて」
「ここにいる以上、最低限の事は知っておきたいだけだ。一度見れば、忘れる事はないからな」
「忘れる事はないって……どんな事でも?」
「ああ。流石に物心つく前の事はあまり記憶にないけど、それ以降の出来事や知識なら全て記憶に残ってる。良い事も悪い事もな」
「そうなんだ……なんだか私達と一緒だね」
「一緒……お前達も何か変わった特技があるのか?」
元気からの問いかけにアリスが頷くと、話が聞こえていたのか他の子供達も元気に視線を向け、それを見たアリスは子供達を見回した。
「せっかくだし、それも含めて元気に自己紹介しようよ。まずは……うん、クレールから」
「おうよ。俺はクレール、クレール・カルヴェだ。腕力や身体能力ならここの誰にも負けねぇ自信がある。コイツらが頼りないからリーダーとして引っ張ってやってるんだ。お前も俺には逆らうなよ?」
「……典型的なガキ大将っぽいみたいだな」
「あはは、まあね」
「……っておい! 無視すんなよ!」
「まあまあ、落ち着いて。アタシはアルテナイ・ヴォロフだよ。反射神経に自信があって、こっちにいる双子の弟のセルゲイは絶対音感があるんだ」
「セルゲイ・ヴォロフです、よろしく」
「最後になりましたが、私はアイリス・ハートリーと申します。特技は……強いて言えば、皆さんよりも勘が鋭い事でしょうか。これからよろしくお願いしますね」
全員の自己紹介が終わると、元気は何かに気付いたような様子で首を傾げる。
「……今、全員の自己紹介を聞いていて思ったんだけど、アルテナイとセルゲイ以外は全員国籍が違うのか?」
「うーん……まあ、そうなるのかな?」
「俺達はここで生活をしてる記憶しかないから、あまり意識した事はねぇな」
「だね。みんな赤ちゃんの頃に孤児になってたみたいで、世界を旅していてアタシ達を拾ってくれたミック神父が見た目からどの国っぽい顔かを判断して名前をつけてくれたから……みんな国籍はこの教会になるのかな?」
「国籍、なのですから教会はそれに当てはまりませんよ。ミック神父の話から考えるなら、アリスはイギリスでクレールはフランス、僕とアルテナイはロシアでアイリスはエジプトですが、たとえ本来の生まれが違っても僕達はここで育った家族だと考えています」
「元気さんがそう思うつもりがないのはわかっていますが、それでも少しずつ私達をそれに近い物だと思ってもらえたら嬉しいです」
「家族、か……」
その言葉を呟いて元気は複雑そうな顔をしたが、全員が見つめる中で諦めたように息をつくと、静かに頷いた。
「……わかった、善処する。ただ、約束は出来ないからな」
「元気……うん、それでも嬉しいよ!」
「あははっ、たしかに絶対にダメってわけじゃないしね」
「そうですね、善処すると言ってもらえただけでもありがたいです」
「一緒に暮らすなら、仲良くしたいですからね」
「へへっ、だな。だが、リーダーは俺だから、それだけは忘れるなよ?」
「さて、食べるか」
「うん!」
「だから、無視すんなって!」
クレールの抗議に元気が面倒臭そうにため息をつき、アリス達が笑う中、クリスティーナは子供達の様子を微笑みながら見ていたが、ミック神父だけは元気を見ながらどこか辛そうな表情を浮かべていた。
政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
元気「今回はミック神父以外の教会の住人の紹介も兼ねた回だったが、ミック神父の言動も気になるところだったな」
政実「まあ、それは後々わかる感じかな」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」