怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、疲れた時はまず休む片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。たしかに疲れをそのまま引きずっても仕方ないし、それが一番だな」
政実「うん、それでも疲れが取れない時はあるんだけどね」
元気「そこは自分の工夫でどうにかするしかないな。さてと、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第37話をどうぞ」


第37話 元気の窮地

 ジョーカーと上越警部が去っていった後、元気は静かに息をつき、亜衣達に視線を向けた。

 

「俺達が怪盗クイーンの仲間だとわかっても騒ぎ立てないんだな」

「あ、うん……」

「突然の事すぎてまだ受け止めきれてないというか……」

「あはは……まあそうですよね。でも、元気がクイーンさんの助手で私が助手見習いなのは間違いないですよ」

「やっぱりそうなんだ……」

 

 美衣が呟く中、亜衣は清志郎に視線を向けた。

 

「教授はいつから元気君達がクイーンの仲間だとわかってたの? やっぱり推理する前から?」

「そうかなとは思っていたけど、確信したのは元気君が僕の推理を認めた時さ。そこまで高性能な物を簡単に持たせられる上に衣食住にも不自由させないなんて人は限られてるし、あの人ならそうするだろうと思ったからね。それと、元気君達の探し物も見当がついてるよ」

「そこまで……やっぱり夢水さんは名探偵さんなんだね」

 

 アリスが感心していると、元気はため息をついてから真里と考太郎に視線を移した。

 

「伊藤さん達も何となく予想はついているんじゃないか? 最近の怪盗クイーン関連の事件で思い当たるのなんて一つしか無いだろうからな」

「そうやね。ゲンちゃん達の探し物、それは星菱邸から盗まれた『リンデンの薔薇』なんやろ?」

「そうだ。正確には『ネフェルティティの微笑み』という名前でエジプトにあるカイロの博物館にあったそうだけどな」

「その名前も聞き覚えがあるよ。新聞社のデータベースで見た事があったけど、まさかそれが名前を変えてそんな事になっていたなんてね……」

「でも、それがどうしてここにあるの? たしか怪盗クイーンが盗み出したってニュースでは言ってたけど、もしかして本当は……」

「……それよりも上手がいたってだけだ。そしてそのありかだけど、何となく見当はついてる」

「さっきもそう言ってたよね。でも、どこにあるの?」

 

 アリスは首を傾げたが、元気はその問いかけに対して首を横に振った。

 

「いや、まだ教えられない」

「え、どうして?」

「別にここだと思うところを探って見つけ出すのは簡単だ。けど、それをクイーンは望んでない気がする」

「クイーンさんが……」

「今それを明らかにした場合、俺達はホワイトフェイスとの勝負には勝てるだろうな。けど、そうしたら後でクイーンから堪え性がないとか遊び心が欠けているとか色々言われるのが容易に想像がつくんだ。そんな展開は俺だってごめんだ。それにムカッとして向かっていっても簡単にいなされるのもわかってるしな」

「その上で私ならもっと華麗にやってみせたよとも言いそうだね。元気君をいなすのも一切溢さずにワインをついで飲みきるまでやってのけるだろうし」

「……そうだな」

 

 元気がイラッとしながら言っていた時、不意に元気の体がグラリと揺れ、その姿にアリスは驚いた様子を見せた。

 

「元気!」

 

 そしてアリスが手を伸ばすよりも先にそばにいたクレールが手を伸ばして元気の腕を掴んだ。

 

「……ったく、あぶねぇな」

「クレール……」

「疲れてるのか? それならいつもみたいにスカしてないで正直に言えっての」

「……まさかお前にそんな注意をされるとはな。けれど、正直助かった」

「まったく……だが、少し休ませた方が良さそうだな。アリス、元気はちょっと医務室に連れてくから、お前は伊藤さん達と一緒にいろよ」

「う、うん……」

 

 アリスが心配そうな顔をする中、クレールは元気の腕を自分の肩に回し、そのまま医務室に向けて歩き始めた。

 

「……すまないな」

「止めろ。お前から謝られたり感謝されたりするなんてらしくなくて寒気がする」

「そうか。だけど、『リンデンの薔薇』のありかは教えないからな」

「そんなの別に良い。とりあえずさっさと医務室に行くぞ」

「……わかった」

 

 元気が答えた後、クレールはそのまま医務室に向かい、静かにドアを開けた。すると、中には椅子に座る催眠術師のシャモン斎藤の姿があった。

 

「お、クレールじゃないか」

「シャモン斎藤……なんでここにいるんだ?」

「少し医務室の番をしてたんだよ。まあ俺からすれば医務室にそんな長時間滞在する機会はないから面白いもんだよ」

「呑気だな」

「そう言うなって。それでその子はたしかウチの団長と勝負をしてる子だったか?」

「そうだ。色々緊張してたのかさっきフラついたもんだから少し医務室で休ませようと思って連れてきたんだよ」

「なるほどな」

 

 シャモン斎藤は納得顔で頷くと、元気を見ながらニヤリと笑った。

 

「俺はシャモン斎藤、このセブン・リング・サーカスで催眠術師をやってるんだ」

「……神野元気だ」

「自己紹介も済んだところで早く休んどけ。俺は別に構わないけど、お前が体調悪そうだとアリスが不安がるんだよ」

「不安がる上に自分が看病するとか平気で言い始めそうだ」

「それがわかってるなら早くベッドの上に横になれ」

「はいはい……」

 

 ため息混じりに元気は返事をした後、近くにあったベッドの上に横になり、珍しい物を見るような目でクレールを見始めた。

 

「本当に不思議な感じだな。教会で暮らしてた時はガキ大将ぶってばかりだったお前からこうして世話を焼かれるなんて」

「俺だってここで暮らしてればそれ相応の礼節なんて身に付くって。お前こそどうなんだよ。あのクイーンとかいうお前並みにいけすかない奴のとこで楽しくやってるんだろ?」

「……楽しくというよりはあの頃並みに賑やかな環境の中でのびのびやらせてもらってるだけだ。そこまでの賑やかさなんて求めてないんだけどな」

「最低でもアリスがいるならお前は静かに暮らせないだろ。アリスはお前の事を本当に気に入ってるからな」

「何故かはわからないけどな。本当に俺のどこがそんなに気に入ったのやら」

「……それは俺が聞きたいっての」

 

 元気の言葉にクレールがため息をついていると、話を聞いていたシャモン斎藤はクスクス笑い始めた。

 

「お前達、本当は結構気が合うんじゃないのか?」

「合ってるとしたら、あの危なっかしい“不思議の国のお客様”をしっかりと守る対象だと思ってるところだけだな」

「コイツと気が合うなんて天地が引っくり返ったってあり得ないっての」

「はは、そうかい。さて……元気、だったか。お前に一つ質問がある」

「……何だ?」

「お前、怪盗クイーンの居所を知ってるだろ?」

 

 その言葉にクレールは驚いた顔をする。

 

「クイーンの居所を元気が……!?」

「……さあな。それに、知ってたとしても教えてやる義理はない」

「だろうな。けど、俺は興味があるんでね。少々聞かせてもらおうか」

 

 そう言うと、シャモン斎藤は元気の目の前に手をかざし、黄色いサングラスの奥からジッと見つめた。

 

「まさか催眠術を使って……!?」

「その通り。本当はそれらしい奴を見つけて同じように催眠術で聞き出そうとしてたんだが、生憎見つからなかったんでね。クレールには申し訳ないが、お友達にはちょっと催眠術にかかってもらうぜ」

「別に友達じゃ……というか、元気は少し疲れてるんだから、今かける必要なんてないだろ!」

「後で素直にかけさせてくれるとも思えないしな。さあ、教えてもらうぜ。怪盗クイーンの居所を」

 

 シャモン斎藤が手をかざしながらそう口にし、その姿を元気が見つめていたその時だった。

 

「ふふ、いけない催眠術師もいたものだね」

「え?」

「ん?」

 

 クレールとシャモン斎藤が揃ってドアの方を見ると、そこには赤い衣服に身を包んだクイーンの姿があった。

 

「か、怪盗クイーン……!?」

「まさか自ら来るとは……」

「ウチの元気がクレール君と一緒にここへ来るのを見かけたのでね。これで催眠術をかける必要はなくなったんじゃないかな、シャモン斎藤?」

「う……」

 

 クイーンの言葉にシャモン斎藤が怯む中、クイーンは瞬時にシャモン斎藤との距離を詰め、同じようにシャモン斎藤に手をかざした。

 

「さあ、そのまま眠るんだ。君に心配な事はなく、後は静かに眠るだけ。君の意識はゆっくりゆーっくり沈んでいく」

 

 穏やかな声色でクイーンが言う中、シャモン斎藤はクイーンをボーッと見始め、やがてサングラスの奥の目がとろんとし出すと、そのまま近くにあったベッドの上に倒れこんだ。

 

「ふう……これで一安心だ。元気、大丈夫かい?」

「……ああ、何とかな。少しは耐えれてたんだが、それでももう少しで確実にやられてたな」

「彼が言うように少し疲れてるんじゃないのかな? 後で今日の夕飯には疲れが取れるような物を出してくれるようにRDにお願いすると良いよ」

「考えとく。それで、シャモン斎藤はどうするんだ? こうしてクレールにも見られた以上、そのままにはしておけないだろ?」

 

 元気の言葉にクレールが体をビクリと震わせる中、クイーンは上品そうな笑みを浮かべた。

 

「せっかくだ。シャモン斎藤にはちょっと利用されてもらうよ。それと、クレール君には何もしないよ。そこまでする必要もないからね」

「そうか。それで、『リンデンの薔薇』はどうする? 隠されてる場所に心当たりはあるけど、それを今明かすのは好ましくないんだろ?」

「好ましくないというよりは美しくない、だね。だから、タイミングは君に任せるよ、元気」

「……はいはい」

「さて、私はそろそろ行くとしよう。元気も早くアリスさんの元へ戻ってあげると良い。今は伊藤さんや夢水君もいるけれど、可愛らしいあの子を拐おうという不埒な輩が出てもおかしくはないからね」

「わかってる。それに、こっちにはクレールもいるんだ。拐われないように細心の注意も払うし、何かあってもすぐに追い付いて取り返してみせる」

「期待しているよ。では諸君、また会おう。au revoir(オルボワール)

 

 そう言い残すとクイーンはシャモン斎藤を担いで医務室から出ていき、その姿をクレールはポカーンとしながら見ていた。

 

「あのクイーンって奴は本当に嵐みたいな奴だな」

「嵐は嵐でも大嵐だけどな。さて、それじゃあ俺達も行くか」

「行くって、もう良いのか?」

「ああ、問題ない。それに、疲れてても休んではいられないからな」

「わかった。けど、また疲れたらちゃんと言えよ。アリスをまた心配させたくないのはお前も同じだろ?」

「もちろんだ。よし、それじゃあ行くぞ、クレール」

「ああ」

 

 クレールが頷きながら答えた後、二人はアリス達の元へ戻るために医務室を後にした。




政実「第37話、いかがでしたでしょうか」
元気「シャモン斎藤がクイーンに捕らえられた事でまた話が少し動いた感じになったな」
政実「そうだね。原作でもそろそろ終盤に向かっていくし、こっちも50話くらいまでにはこの章も終われるようにするつもりだよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
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