怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

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政実「どうも、携帯電話は高校生卒業直前まで持ってなかった片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。意外と言えば意外だな」
政実「まあ色々理由があってね」
元気「なるほどな。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第39話をどうぞ」


第39話 夢の始まり

 夕暮れ時、クレール達と別れた元気とアリスは真里達と共に大テントの観客席に座っていた。既に観客席は全て埋まっており、観客達の顔はこれから始まるサーカスへの期待で輝いていた。

 

「仕事とはいえ、サーカスをこれから観れるわけやし、良い気分やわ」

「私も楽しみです。サーカスはこの前初めて観たので、今日も目一杯楽しまないと」

「あれ、意外だね。クイーンはこういうの好きそうなのに観に行こうとは言ってくれないの?」

「好きではあるけど、ウチではジョーカーやRDが仕事をするように口酸っぱく言ってるからな。それに、今日までここに来るための準備で忙しくてそれどころじゃなかったんだ」

「伊藤さんや亜衣さん達こそこういうのは観に来ないんですか? 伊藤さんの場合は子供の頃に家族でとか」

 

 アリスの問いかけに亜衣達がハッとする中、真里は少し哀しげに微笑む。

 

「ウチ、小さい頃に色々あってな。家族でこういうとこ来たこと無いのよ」

「え?」

「伊藤さん、良いんですか?」

「ええよ。アーちゃん達やって色々話してくれたんやし、ウチも隠さずに言うわ」

 

 アリスが不思議そうにし、元気が何かを察したように静かにしていると、真里は哀しそうな顔で話を始めた。

 

「……実は、ウチの家族は小さい頃に旅行先で亡くなってて、その時に体調不良で行けなかったウチだけが残ったんよ」

「……そんな事があったのか」

「そう。それで、ウチは少し前に夢水さんや亜衣ちゃん達と一緒に取材旅行でそこへ行った。復讐を果たすためにね」

「ふ、復讐……?」

 

 アリスが少し怖がった様子で言う中、真里はふわりと微笑みながらアリスの頭を撫でた。

 

「そう、復讐。ウチの家族はそこで採れた山菜の食中毒で亡くなったみたいなんやけど、悪い人がおってな、その事を隠そうとしたんよ。イメージの低下を防ぐために」

「酷い……」

「そう、酷いんよ。だから、何度か行く内にそれを知ったウチはある三人に復讐をするために魔女という名前を使って事件を起こした。

 でも、その事件でウチは直接的に凶器を使って殺そうとはせずに神様任せにしたんよ」

「神様任せって……そんな事が出来たんですか?」

「簡単に言えば、恐怖でショック死するかとか仲間割れするかとかそんな感じやね。でも、誰も死なへんかった。それに、夢水さんには早い段階でウチが魔女だってバレとったみたいよ」

 

 真里が清志郎に視線を送ると、清志郎は静かに頷き、亜衣は小さくため息をついた。

 

「それが教授のいつも通りなんだけどね。わかってるなら話してって言ってるのに中々話してくれないの」

「それで、私達がどうにか解こうとしても結局ちゃんとは解けずに教授の推理を聞いて納得するばかりなんだよね」

「前に上越警部も推理してくれたよね。ほら、総生島の時」

「あったね。あの時は間違ってたけど、今回は教授が認めるくらいにちゃんと当ててたし、やっぱり警部ってスゴい人なんだなと思うよね」

「たしかにな。それで、伊藤さんが起こした事件は最終的にどうなったんだ?」

 

 元気の問いかけに対して真里は笑みを浮かべながら答えた。

 

「夢水さんに解いてもらった後、警部さんや被害者の三人の口利きもあって逮捕までは至らんかったわ。それに、亡くなったウチの家族もちゃんと弔ってもらったし、今は事件を起こした事も反省しとる。

ただ、あの時ほどに携帯電話みたいな通信機器の必要性を感じた事件もないと思うわ。生きてく上で必ずしも必要ではないとしてもな」

「え、そうですか? 現代社会を生きてく上で携帯電話やテレビは必須ですよ。国際情勢や社会の動きを知る上でも」

「それも一つの意見やね。ただな……」

「ただ……?」

 

 アリスが不思議そうに繰り返すと、真里はアリスを見ながら静かに口を開いた。

 

「アーちゃん、例えばなんやけど、テレビを持ってない人と知り合ったとして、その人の事をどう思う?」

「え? うーん……そうなんだなぁと思うかもしれないです。でも、一般的には可哀想って思われるのかな?」

「そうやろね。そやけど、テレビを持っていない事が可哀想かはわからんよ。むしろ、持ってる人の方が可哀想だと言える場合もあると考えられへん?」

「持ってる方が?」

「そうや。テレビを持っていなかった場合、他の人がテレビを観ている時間を他の事にまわせる。読書や友達との会話、他にも絵を描いたり気晴らしに散歩したり……どちらが確実に良いとは言えへんけど、そう思たら持っとらん人も幸せやと思えへん?」

「あ、たしかに。テレビはありますけど、イヴやシュルツのお世話したりRDさんと話したりしてる時間の方が長いし、楽しいかもしれないです」

 

 アリスの言葉に真里は頷きながら微笑む。

 

「アーちゃんのその姿、スゴい微笑ましそうやね。そしてさっき、さいちゃんが国際情勢の事を話題にしたやろ?」

「はい」

「ウチが前に未開の部族を取材に行った時の話なんやけど」

「み、未開の部族?」

「伊藤さん、セ・シーマの取材でそういうとこにも行くんですか?」

「行くわよ。それで、そこには独特の文化や宗教があったんやけど、その人達は本当に幸せそうやったよ。その時に白人の宣教師がキリスト教を広めようと躍起になっとったけど、ウチはそれを見てどうなんと思ったわ。その人達にはその人達の宗教があるのに自分達の教えを押し付けるのは良くないと思たからね」

 

 真里の話を元気達が静かに聞く中で真里は話を続ける。

 

「政情が不安定やから他国が介入するパターンもあるけど、ウチは気安く介入せん方が良いと思っとる。何かを助けるっちゅうのは、思とるよりも難しいし、思てるほど助けられる側は哀れというわけでもない。そこの判断を見誤ったら、要らんお節介になってまうからね」

「でも、助ける事は悪い事じゃないですよね?」

「それはもちろんや。助ける事でええ方に向かう事はあるし、自分が誰かを助けた分、今度はその助かった人がまた別の誰かを助けるっていう正の連鎖にも繋がるからな。

 そやけど、国っちゅうもんが絡んでくると、どうにも面倒なんや。人対人よりもスケールも違うからな。ところでさいちゃん、鶏と卵の話みたいになるけど、人と国やとどっちが先やと思う?」

「人と国……それは人ですよね?」

「そうや。人が集まる事で国が出来る。国があるから人がおるんとちゃうよ。ジャーナリストとしてそこは覚えとくんやで?」

「はい」

 

 考太郎が真剣な顔で答える中、真里はいたずらっ子のような笑みで話を続けた。

 

「ウチらがおらんようなったら国は滅びる。さっきも言ったように人があっての国やからな。そやから、ウチは住まわせてもうとるんとちごうて、住んだっとるんや。自分がおるからこの国が成り立ってるくらいの気持ちでおってもええのよ」

「伊藤さんはいつもそう思ってるんですか?」

「ウチは記者という形で世界を支えとる人間やで」

「世界をって……」

『伊藤さんはやはり変わっている人ではありますが、気持ちの良い女性ですね』

「RDさんが伊藤さんは気持ちの良い女性だって言ってますよ」

「お、ホンマ? それは嬉しいなあ」

 

 真里は嬉しそうな笑みを浮かべた後、考太郎の顔を覗き込むようにして口を開いた。

 

「さいちゃん、これからも新聞記者は続けるんやろ?」

「それは……まあ……」

「ほな、読んだ人がみーんな幸せになれるようなええ記事をこれからも書いてな。そのためにも色々な人の意見をしっかりと聞いて、それを踏まえて自分の意見をしっかりと持つ。そのための取材なんやからね」

「……はい。あの、伊藤さん」

「なん?」

「後で食事をしませんか? 僕の奢りで」

「ええの?」

 

 真里の問いかけに対して考太郎は笑みを浮かべながら頷く。

 

「良い話を聞かせてもらったお礼です」

「ふふ、さいちゃんは気前がええね。せやったら素直に奢られとこか。さいちゃんのセンス、期待しとくで?」

「はい、期待しておいて下さい」

 

 考太郎が答える中、それを聞いていたアリスは小声で元気に話しかけた。

 

「ああ言ってるけど、本当に西園寺さんがクイーンさんだとしたらどうやって食事を奢るつもりなんだろ?」

「さてな。ミラージュの術でも使って周囲に覚えられないようにしながら雰囲気の良いレストランにでも行くんじゃないか?」

『その可能性はありますね。さて、問題はリンデンの薔薇ですが……』

「あ、そういえばたしかに。あれから色々探したけど、結局見つからなかったよね。どうしよっか……」

 

 アリスは落ち込んだ様子で言っていたが、元気はそれに対して落ち着いた様子で答えた。

 

「見つからなかったのはしょうがない。クイーンが見つけた事を祈って、俺達はサーカスを観てるしか無いだろうな」

「元気、結構落ち着いてるね。不安じゃないの?」

「不安はないな。クイーンの事だから、簡単に見つけてそうだしな」

「まあたしかにね。でも、それを聞けないのがちょっともどかしいなぁ……」

 

 アリスが残念そうに言うと、二人がつけているイヤホンからRDの声が聞こえてきた。

 

『今、クイーンから連絡が来たのですが、リンデンの薔薇の件ならば問題はないから二人はサーカスを楽しみ、後でその感想文を提出する事、との事ですよ』

「え、本当ですか?」

『はい。因みに、感想文は百点満点で、点数いかんではご褒美も出るそうですよ』

「ご褒美かぁ……何だろうね、元気」

「……またキーホルダーとかぬいぐるみとかな気はするけどな」

 

 元気がため息をつきながら言っていたその時、大テントの照明が全て消えた。続けて中央のリングで一斉に花火が吹き出し、観客席から歓声が上がると、中央のリングにはホワイトフェイスが現れた。

 

Ladies(レディーズ) and gentlemen(ジェントルメン)! 今宵は、わがセブン・リング・サーカスにようこそ。ご贔屓にして頂いたセブン・リング・サーカスもいよいよご当地での最後の公演を迎えました。今宵は最後までごゆっくりお楽しみ下さいませ!」

 

 ホワイトフェイスの言葉に観客が一斉に拍手をする中、ホワイトフェイスは観客席にいる元気達へ向かってウインクをした。そして、ホワイトフェイスは視線を前に戻すと、再び口を開いた。

 

「オープニングはコミカルなピエロ達に登場してもらいましょう。え? お前もピエロの格好をしているだろって? 私には司会進行という重要な役目があるのです!」

 

 その言葉に観客達から笑い声が上がった後、ホワイトフェイスは通路のカーテンを指差した。

 

「それでは、ジョー・セサミ、プリズムプリズムの登場です!」

 

 カーテンが開き、二人のピエロが登場した後、元気達や他の観客達が見守る中でセブン・リング・サーカスの夢のような一時が幕を開けた。




政実「第39話、いかがでしたでしょうか」
元気「今回は伊藤さんの過去や考えについて触れた休憩回みたいな感じではあったな」
政実「そうだね。ただ、次回からはしっかりストーリーも進めて、リンデンの薔薇の行方についても触れていくよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などについてもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それではまた次回」
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