元気「どうも、神野元気です。雨か……雨音を楽しむのは良いけど、湿気や寒さには気を付けないといけないな」
政実「そうだね。服や身体が濡れたままだと体調を崩すし、その辺は気を付けるよ」
元気「ああ。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第3話をどうぞ」
「ふぅ……これで頼まれたのは全部だな」
協会での生活を始めて一週間が経った頃の夕方、元気は街を歩きながら独り言ちた。その手には小さな買い物袋があり、中に入っている食料品を見ながら満足げに頷く。
「おつかいなんてこれまでやった事なかったけど、別に頼まれた物を買ってくるだけだし、大した事はなかったな。
ただ、これからはもっと色々な事が出来るようにならないと……別にあの教会に居続ける気はないけど、いる以上はミック神父やアリス達の助けにもならないといけないし、リーダー面してくるクレールがドジ踏まないように見といてやる必要もあるからな」
教会での数々の出来事を想起しながら呟く元気の表情は穏やかで、生活の様子を思い浮かべながらクスリと笑っていたが、どこからか響く消防車のサイレンが聞こえた瞬間、その表情は警戒心に満ちた物へと変わった。
「……火事か。流石にウチの教会ではないと思うけど……一応早めに帰ろう。なんとなく嫌な予感がする……」
一瞬頭に浮かんでしまった炎に焼かれる教会の光景に元気は身を震わると、胸を刺すような予感が大きくなるのに比例してゆっくりだった歩調も早歩き、駆け足へと変わった。
教会に近づくに連れて深刻そうな表情で話す人々の姿やざわめきの声、何かが弾けるような音が増え、元気は頭の中に浮かぶ最悪の光景を振りきるように首を横に振って否定し、息を切らして走り続けた。
走る事数分、変わらない教会の光景と自分に居場所をくれたミック神父達が待っていると思っていた元気は見知った建物が生き物のようにうねりながら音を立てる赤によって悲鳴を上げる光景に絶望した。
「……ウソ、だろ」
呟く元気の手から買い物袋が落ち、燃え盛る炎を前に消火活動を行う消防士達の声が現場に響く中、元気は唇を噛むと、そのまま走りだし、消防士達の制止を振り切って炎の中の教会に入った。
まだ燃え始めてからさほど時間は経ってないのか、教会の中に立ち込める煙は薄く、煙を吸わないようにしながら元気が炎を避けて教会の中を進み、礼拝堂のドアを開けると、そこには俯せで倒れているミック神父の姿があった。
「ゴホッ……ミック、神父……!」
元気はミック神父に急いで駆け寄り、その体をひっくり返すと、ミック神父は火事による熱と煙で苦しそうな表情を浮かべていたが、元気の顔を見て弱々しく微笑む。
「げ、元気……か。おつかいは……無事に済んだ、かな……?」
「そんなのどうだって良いだろ!? 何があったんだよ!?」
「……“奴ら”にあの子達の事を嗅ぎ付けられたんだ」
「奴ら……?」
「“
あの子達は孤児ではなく、奴らが創り上げた神候補の子供達で、それを良しとしていなかった私とクリスティーナが赤ん坊の頃に隠れて連れ出したんだ……」
「集めた遺伝子で創られた子供……それがアイツらだったのか。それじゃあこの火事も神製教団が?」
「……仕向けたのは奴らだが、実行犯は元気の両親を装っていた奴らだ。この火事も私の足を拳銃で撃ち抜いたのもね」
それを聞いた元気がミック神父の足に目をやると、ズボンに空いた小さな穴からはドクドクと血が流れていた。
「アイツらが……!?」
「……数分前、クリスティーナが子供達と庭の手入れをしに行った頃にここに奴らが来て、元気を出せと言ってきたんだ。
奴ら、どうやら神製教団から元気がここにいると聞いていたようで、それを話した後に元気を出さないならばこの教会を燃やすと拳銃を向けながら言ってきてね、私は当然君の居所を答えなかったよ。
すると、奴らは私を誘拐犯だ神父を装った犯罪者だと罵ってきたから、私も奴らを子供の親を騙って虐待を繰り返す愚か者だと返したが、それに奴らは烈火のごとく怒ってね。私の足を拳銃で撃ち抜いた後に油を撒いて火をつけていったよ」
「そんな……クリスティーナやアリス達は?」
「……わからない。だが、奴らは自分達は神製教団からこの件で金をせびると言っていたし、奴らだけがいるとは考えづらいから、恐らく奴らの手に……」
悔しそうにミック神父が言うと、元気は驚いた後に悔しさを滲ませ、爪が手のひらに食い込む程に握り込みながら辛そうな表情を浮かべる。
「くそっ……やっぱり、あの日に俺が言ってた事が正しかったじゃないか。誰にも左右されずに、誰にも邪魔されない力こそ本当に必要だったのに……!」
「……いや、それは違うよ。そんな物があっても君は幸せになれない。それは神製教団と同じ考えだからね」
「じゃあ、どうすれば良いんだよ!? ミック神父達が祈ってる神だって助けてくれない! それなら誰にも負けない圧倒的な力が必要だろ!?」
「いいや、それは違う。力に溺れては何も得られないし残らない。これはあくまでも神がお与え下さった新しい試練なんだよ。元気、君が乗り越え、未来へ進むためのね」
「未来へ進むための試練……」
「そうだ。そのために私を置いて君だけは逃げてくれ。このままここにいては君も死んでしまう」
「それじゃあミック神父はどうするんだよ!
ミック神父やクリスティーナ、アリス達もいなくなった俺は、一体どうしたら良いんだよ……」
涙を浮かべながら元気が俯くと、ミック神父は目に生きる意思を宿しながらにこりと笑う。
「生きるんだ、元気。ここから逃げて、未来を生きるんだよ。私もまだ死ぬつもりはないから、どうにかして逃げ出すからね」
「……そんな状態のアンタの言葉なんて信じられるかよ」
「……ふふ、それじゃあまた会えたその時には、私を父と呼んでもらおうか。明らかに君が有利な状況だけれど、私もこのまま死ぬ気はない。だから、また君と会ってその時に君の口からお父さん、とでも呼んでもらうとしよう」
「……また家族ごっこの話か。だけど、それで良い。アンタが死ぬ事を望んでるわけじゃないが、俺は口が裂けてもそんな事は言いたくない。それに対してアンタは数日前に会ったばかりの相手に父親と呼ばれたい。だったら、勝負は成立するからな」
「決まりだね。では、その時を楽しみにしていてくれ、我が子よ」
「……気が早いって。それじゃあ……“またな”、ミック神父」
「……ああ、また会おう、元気」
ミック神父の言葉を聞いた後、元気は近くの窓を蹴破って外に出ると、そのまま振り向かずに走り出した。
その表情には怒りと悔しさ、哀しみと憎しみが入り交じっていたが、目には生きようとする意思が宿っており、走っていくその姿はとても力強かった。
「……もう、誰にも奪わせない。俺の人生も俺を必要としてくれた人も……相手が誰であろうと奪わせてたまるか……!」
悔しさが滲む声で独り言ちながら元気はただひたすらに走り続けた。しかし、体力の限界が来た事で元気の息は荒くなり、足ももつれ始めた事で元気は立ち止まると、両手を膝に置きながら苦しそうに息を吐く。
「はぁ……はぁ……だいぶ走ったな。それにしても、これからどうすれば良いんだ? ミック神父から多少の小遣いは貰ってるけど、その程度じゃ一日分の食料しか手に入らないし、衣と住だって確保出来たわけじゃない。
この歳じゃ雇う奴もいないだろうし、そもそも奴らに見つかったら今度こそ死ぬまでこき使われる。まずはこの街から逃げ出す方法を……」
そう言いながら辺りを見回すと、薄暗い路地裏が見え、元気はよろよろと路地裏に入って、壁にもたれながらその場に座り込む。
「……とりあえず夜までここにいよう。夜になったら闇に紛れながら出発して少しでもこの街から離れるんだ」
そう言いながら元気はふぅと一息つくと、疲労感を感じながら息を潜めた。そうして一時間程ジッとしていたその時、空から冷たい雨が降りだし、屋根もない場所にいる元気の服と体はゆっくり濡れていった。
「……雨か。このままだと、風邪をひくな。でも、ここまで足を酷使したからか全然立ち上がれないな……」
呟くように言った元気の声は強くなっていく雨にかきけされ、路地の外を歩く人々も陰にいる元気の姿には気づかず、元気は雨を吸って重くなった衣服の重量と冷たさを感じながら身を縮こまらせた。
「……寒くて重いな。本当なら今頃は教会でミック神父達と飯を食ったり話しかけてくるアリス達の相手をしたりしてたんだろうけど、もう俺にはその日常すらない。それどころかこのままだと確実に死ぬだろうな……」
寒さで元気の身体はガタガタと震え、唇を真っ青にしながらも元気は更に身を縮こまらせ、頭を守るように腕の中へと隠した。
「……生きろって言われて、変な勝負までする事になったのに、また会う約束すら守れないみたいだな。その上、クリスティーナやアリス達の行方すらわからないなんて本当に俺はちっぽけだ。
ゴメン、ミック神父……約束は守れないみたいだ。でも、先に天国に行って神様って奴に文句を言っておくよ。正しく生きようとした奴ばかり理不尽な目に遭うのはおかしいってさ」
自ら口に出した言葉に元気は自嘲気味に笑みを浮かべると、そのまま目を瞑り、意識が薄れていくのを待った。
「これで良い……元々、俺はこんな世界で生きていたくなかったんだ。だから、これが俺にとっての正解。これで俺の物語はおわ──」
「本当にそれで良いのかい?」
「え……?」
突然聞こえてきた声に元気は疑問を感じていると、自分に降り注いでいたはずの雨の感触がいつの間にか無くなっている事に気づき、元気は顔を上げた。
すると、目の前には黒いシルクハットに黒のタキシード、白いマントをつけて黒い傘を持った人物が立っており、ぬけるような白い肌がまぶしいその整った中性的な顔立ちや流れるような長い銀髪は薄暗い路地裏には似合わず、元気はそのミスマッチさに怪訝そうな表情を浮かべる。
「……アンタ、誰だ? ずいぶん良い身なりをしてるけど、こんな俺に声をかけるなんてまさか人攫いか?」
「人攫い……か。まあ、盗み出すという意味では同じだね。もっとも、私は無意味な盗みはしない。そんなの私の美学に反するからね」
「美学……アンタ、本当に何者なんだ?」
元気の問いかけに謎の人物はにこりと笑うと、シルクハットをゆっくり脱ぎ、微かに灰色がかった瞳で元気を見つめてから優雅に一礼した。
「私の名前はクイーン。大切な友人たちと共に世界を旅するC調と遊び心を重んじる怪盗さ」
政実「第3話、いかがでしたでしょうか」
元気「ミック神父との別れの後にようやくクイーンとの出会いか」
政実「そうだね。クイーンと出会った元気がどのような道を歩むのか。それは次回のお楽しみという事で」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」