怪盗の助手の非日常   作:九戸政景

50 / 52
政実「どうも、好きな鬼は酒呑童子の片倉政実です」
元気「どうも、神野元気です。それを元にしたキャラクターが結構色々な作品にいるみたいだよな」
政実「まあ鬼の中ではだいぶ有名だしね。鬼は色々怖いイメージがつきがちだけど、いつか一緒に酒でも飲みたいな」
元気「酔いつぶれそうだけどな。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第46話をどうぞ」



第二章 怪盗クイーンと岩手の鬼
第46話 鬼の涙


 空が晴れ渡り、鳥が空を気持ち良さそうに飛ぶある日、超弩級巨大飛行船トルバドゥールのリビングではアリスがシュルツを膝に乗せてイヴとムートを相手に猫じゃらしで遊んでいた。

 

 

「よーし、もう一回いくよ~? それっ!」

「ワウッ!」

「こっちはどうだ!」

「ガオ!」

 

 

 指揮棒のようにアリスが猫じゃらしを動かし、イヴとムートがそれを楽しそうに追いながら鳴き声を上げていると、そこに中国服姿の元気とジャージ姿のクレールが入ってきた。

 

 

「アリス、またイヴとムートと遊んでたんだな」

「うん! シュルツはあまりじゃれてくれないけど、イヴとムートは大喜びでじゃれてくれるから私もやりがいがあるよ!」

「シュルツは遊ぶよりも静かにしてる方が好きだからな。シュルツ、こっちに来い」

 

 

 シュルツはニャオと鳴き声を上げてからアリスの膝の上から移動し、軽やかな跳躍を披露しながら元気の肩に着地した。

 

 

「ニャウ」

「後でブラッシングするか。今日の分がまだだったからな。イヴとムートも後でやるぞ」

「ワウン!」

「ガオ!」

 

 

 イヴとムートが揃って鳴き声を上げると、その姿にアリスはクスクス笑った。

 

 

「みんな、元気のブラッシングは好きみたいだからね。私達もしっかりとやってあげてるつもりだけど、元気の人気には勝てないなあ」

「普段から目付き悪いのに動物には何だかんだで好かれてるよな、お前」

「別に好かれたくてやってるわけじゃないけどな。ところで、クイーンはどこ行ったんだ?」

「クイーンさんならさっきシエスタって言ってお部屋に戻ったよ。でも、シエスタってなんだろ?」

 

 

 アリスが首を傾げていると、スピーカーからRDの声が聞こえ始めた。

 

 

『シエスタというのは、スペインで生まれた習慣の事で、少々長めの昼休憩の事を指します。目安としては、午後一時から午後四時までのようですよ』

「三時間の休憩か……そのシエスタって具体的には何をするんだ?」

『なんでも良いのですが、一般的には昼寝休憩を想像するそうで、企業によってはシエスタ制度というものを設け、生産性の向上や集中力の回復、ストレスの解消などに努めているそうですよ。もっとも、クイーンのシエスタは仕事をしないためのただの方便に過ぎませんが』

「そうだろうな……RDも色々な情報を渡してるのにネフェルティティの微笑み以降は一度も仕事してないし、あいつの前世はナマケモノなんじゃないのか?」

「前世がナマケモノ……ナマケモノの着ぐるみパジャマ姿のクイーンさんが浮かんだけど、普通に似合ってるし可愛いよね」

 

 

 アリスの言動にクレールは溜め息をつく。

 

 

「キメ顔しながら着こなしてるのが容易に想像ついてなんかイラッとするな。なんでアイツはそういうのも似合うんだ?」

『それがクイーンの不思議なのです。因みに、ナマケモノの中にはフタユビナマケモノという気性も荒く比較的活発に動く種もおりますが、基本的には住む木を引っ越す時や排泄の時以外は樹上で過ごしており、降りるのですら週に一度程度なのだそうです』

「ナマケモノですら週に一度はしっかりと動くのにクイーンと来たら……」

「あはは……ナマケモノもビックリしそうだね。けど、本当になにか良い獲物はないかな? ネフェルティティの微笑みの時みたいにロマンを感じる獲物があれば良いんだよね?」

「それですら既にRDが集めた情報の中からシュルツが見つけたものなんだろ? だったら、同じようにRDが集めた情報をプリントアウトして、シュルツ達が気になったのを見せてみたら良いんじゃないか?」

「そうだな。それを採用するかは別だけど、やってみる価値はあるか。RD、頼めるか?」

 

 

 元気が呼び掛けると、多くの紙束を掴んだマニピュレーターが元気達に伸ばされた。

 

 

『既にやっていますよ。元気達は仕事に意欲を示してくれるので私もジョーカーも助かっています』

「俺だってクイーンの助手だからな。アイツがやる気がなくても俺はやる気がないといけないんだよ」

『感謝します。さて、この中で何か気になる物があれば遠慮なく言ってみてください』

 

 

 元気達は紙束を受け取りながら頷くと、それぞれのペットと共に内容を読み始めた。そして読み始めてから十数分が経過した頃、リビングにはジョーカーが姿を見せた。

 

 

「お疲れ様、みんな」

「ジョーカーか、お疲れ様」

「お疲れ様です、ジョーカーさん。ジョーカーさんも見ますか?」

「見るって……ああ、RDが集めてくれた獲物の情報か。君達がやる気を見せてくれてるのにクイーンは気が乗らないだのロマンを感じないだの言って中々仕事をしないのは本当に申し訳なく思ってるよ」

「のんびりとした毎日も悪くねぇけどな。ただ、どこかでしっかりとやる事をやるタイミングを作らねぇとただボンヤリと過ごすだけの毎日になって、何の意味もなくなる。俺達はそうなりたくないんだよ」

 

 

 クレールの言葉にRDの全米フォルダが感動の涙を流していた時、アリスはイヴと紙束を眺めながら鼻唄を歌い始めた。

 

 

「ふんふんふん、どこが良いっかな~」

「……ん? どこが良い?」

「うん。これには色々な場所の名前が書いてるから、どこに行ってみたいかなと思ったんだ」

『獲物探しをしているよりは旅行雑誌を眺めているような感じになっていますね。因みに、今は日本の上空を航行中で、東北地方の辺りにいますよ』

「東北地方……岩手県とか青森県がある辺りだな」

 

 

 RDは肯定するようにカメラを上下に動かす。

 

 

『その通りです。東北地方は六つの県からなる地方なのですが、奥羽山脈という南北に伸びている山脈が中央にあり、それを境にして大きく異なる気候特性を持っているようです。特に、冬になるとそれが顕著に現れ、日本海側では曇りや雪が多くなるのに対して太平洋側では晴れの日が多くなっているのだそうです』

「それは不思議だな。それだと日本海側の県民達は冬は大変なんじゃないか?」

『そうなりますが、太平洋側も決して曇りや雪にはならないわけではないですし、気温も低くなりがちなので全体的に寒くなると考えて問題はないです』

「そうなんですね。さむさむならイヴは喜んで庭を駆け回るけど、シュルツは炬燵で丸くなってそう」

「そんな歌あったよな、たしか」

「因みに、それは二番のようだよ」

 

 

 リビングに入りながらクイーンが言う。

 

 

「聞こえてたのか、クイーン」

「ああ。シエスタ中だったんだけど、君達が楽しそうに話をしているのが聞こえたんだ」

「どんだけ耳聡いんだよ……」

「デビルイヤーには劣るだろうけど、だいぶ遠くの音でも聞き取ってみせるよ。それで、話をしながら次の獲物でも探していたのかな?」

「そんな感じです。ネフェルティティの微笑みの時もシュルツが気になった物だったので、今回もシュルツに見てもらおうとしてたんです。ねっ、シュルツ」

「ニャウ」

 

 

 元気の肩の上でシュルツが返事をしていると、クイーンはシュルツの頭を撫でた。

 

 

「頼りにしているよ、シュルツ。それで良い獲物は見つかったかな?」

『あなたが一度全て目を通した物ばかりですけどね、クイーン。ただ、他の情報も手に入れたのでそれも今からプリントアウトします』

「他の情報か……」

「今度はどこかな……せっかく東北地方にいるなら、色々巡ってみたいなあ」

「だから旅行先を決めてるんじゃないって。まあ次の仕事を終わらせたらその後に数日程度なら観光しても良いだろうけど」

「ほんと!? ありがとう、元気!」

 

 

 アリスが嬉しそうに言っていると、クレールはクイーン達にこっそり話しかけた。

 

 

「元気のアリスへの甘さって本当にスゴいよな。俺やクイーンが言ったら絶対に観光とかさせないだろうに」

「良いんじゃないかな? 誰しも自分が弱い相手はいても良いんだよ」

「そういうあなたはいるんですか?」

「私からすれば君達がそうだよ。もっとも、手合わせでは負けるつもりはないけれど」

「手加減されてもイラッとするだけだからそれで良い。んで、その他の情報ってどんなのがあるんだ?」

『こちらです』

 

 

 別の紙束をRDが渡すと、元気達はそれをゆっくり見始めた。

 

 

「東北地方に限定してるみたいだな」

『他の地方のも持ってきましょうか?』

「これでピンと来るのが無かったらそうするか。シュルツ、何か気になったのはあるか?」

「ニャ」

 

 

 元気がシュルツに見えるようにしながら捲っていくと、その内の一枚をシュルツは前足で叩いた。

 

 

「ニャウ」

「これか。岩手県の博物館にあるっていうダイヤモンドみたいだな」

「名前は……鬼の涙?」

「そういえば、鬼の目にも涙って言葉あったよな? なんか厳しい奴でも泣く事があるみたいな感じで」

『そうですね。江戸時代から使われ始めた言葉で、代官という役職の人間が圧政を敷いていたのですが、それでも時には年貢の量について情けをかける事があったため、その様子から鬼の目にも涙という言葉が生まれたようです』

「RDさんは物知りだね。でも、どうして鬼の涙なんだろ? この県って鬼に関係するの?」

 

 

 アリスの疑問に対してRDが静かに答える。

 

 

『岩手県には昔羅刹鬼(らせつき)という鬼がおり、悪事を働いていた羅刹鬼でしたが退治された際に二度とこの地に足を踏み入れないという約束をさせられ、その証拠として岩に手形を残した事が岩手県の由来なのだそうです。そして今でも鬼の手形という観光名所になっていますし、他にも南部鉄器などの名産品もあって、それをモチーフにしたご当地ヒーローも存在するようです』

「ご当地ヒーロー!? なんだかスゴくカッコよさそう! ねっ、イヴ!」

「ワウン!」

「まあそれは良いとして、鬼の涙はクイーンのお眼鏡にかなうような代物なのか?」

「そうだね。RD、何か逸話とかはあるのか?」

『その名前の通り、羅刹鬼が流した涙が結晶化して出来た物だと言われているそうですよ。ただそれだけですし、持っていた人間が次々と死に至ったとかどこかから盗み出された物とかではありませんね』

 

 

 RDの言葉に元気やジョーカーがため息をついていると、クイーンは鬼の涙の資料を見ながら静かに笑った。

 

 

「RD、岩手県の盛岡に向かってくれ。次の獲物はこの鬼の涙だよ」

「クイーン?」

「良いんですか? あなたが求めているようなロマンも何もないように見えますが……」

「いいや、あるさ」

「どこにだよ?」

 

 

 クイーンは楽しそうな顔でイヴと笑い合うアリスに目を向ける。

 

 

「話を聞いた結果、どうやらアリスさんが楽しみにしてるようだからね。この笑顔こそが最大のお宝だよ。まあそういう理由であっても君達も仕事をしてくれるなら嬉しいもんだろ?」

「それはそうですが……」

「クイーンもたいがいアリスに甘いよな」

「甘いのではなく楽しそうな子供の笑顔は大切にしたいだけだよ。RD、いつ頃到着する?」

『一時間もかかりませんよ』

「わかった。では知らしめようじゃないか、怪盗クイーンここにあり、という事を」

 

 

 クイーンが不敵に笑う中、超弩級巨大飛行船トルバドゥールは獲物の元に向けて航行を始めた。




政実「第46話、いかがでしたでしょうか」
元気「第二章の開幕だな。この章はオリジナルの章だけど、第一章と同じくらいの長さにするのか?」
政実「その予定だよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて、それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。