元気「どうも、神野元気です。怪盗道化師はたしかクイーンの原作者さんの別の話だよな」
政実「そうだね。クイーンの話とはまた違った一人の怪盗の話で、一般的な怪盗の話には出てこないような物を盗む事が多くてそのどれもが心暖まる話ばかりだから、もしも興味を持った読者さんがいたら、是非読んでみてほしい作品だね」
元気「そうか。さて、それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・元気「それでは、第4話をどうぞ」
「クイーン……怪盗……?」
自身を怪盗と名乗るクイーンを元気が胡散臭そうに見つめると、クイーンは自分の口元に手を当てながら上品に笑う。
「そんなに私の自己紹介はおかしかったかな?」
「……自分を
「そうかな? 日本にいる友人から聞いたけれど、この国には“てぃあら”とか“ろみお”と名付ける親もいると聞くし、私の名前くらいならおかしくはないと思うよ。もっとも、クイーンが私の本名だとは断言しないけどね」
「……不思議な奴。それで、その怪盗様が俺に何の用なんだ? 俺は怪盗に盗まれるような物は持ってないぞ?」
元気の問いかけにクイーンは少し考え込む素振りを見せてから、汚れを知らない子供のようなあどけない笑みを浮かべながら答えた。
「強いて言うなら、君に訪れようとしていたバッドエンドを盗みに来た、かな」
「バッドエンドを……」
「そうさ。さっきも聞いたけれど、君はこのままで良いのかい? この暗い路地に濡れ鼠になりながら眠るのが、君の物語の結末だと本当に信じているのかい?」
「……そうだ。本当の両親でもないくせに親を騙っていた奴らに何年も虐げられて、そこから救いだそうとしてくれた人すら助けられない奴なんてこうなるのがお似合いだ」
「…………」
「だから、アンタもさっさと帰ったら良い。そんなに小綺麗な見た目でこんなところにいたら、人目をひいてご自慢の怪盗業もやりづらくなるぞ」
吐き捨てるように言った後、元気は再び俯く。その姿を見ながらクイーンがふぅと息をつくと、元気はどこか安心したように目を閉じたが、クイーンは優しく微笑み、俯く元気の頭を撫で始めた。
「……何のつもりだ?」
「いや、状況や相手は違うけど、今の君を見ていたら少し懐かしくなってね」
「懐かしい……」
「ああ、ウチにいる大切な友人であるいつも仏頂面の仕事しろBOT君もかつては君のように一人で座り込んでいたよ」
『……訂正させてもらいますが、僕は仕事しろBOTでもないですし、何度も言うようにあなたの友達でもなく仕事上のパートナーです』
「……今聞こえたのがそいつの声か?」
「そうさ。そしてこれからは、君も私の大切な友人だ」
クイーンのその言葉に元気は弾かれたように顔を上げる。元気の目に見えているクイーンは優しい笑みを浮かべており、その姿を他者が見ていればまるで天使のようだと言う程だったが、元気は未だ警戒した様子でクイーンを見つめていた。
「……俺を友達にしようなんて変わった奴だ。だが、俺に友達なんて必要ない。これから死ぬ奴に友達なんていたってしょうがないだろ」
「いや、君は死なないさ。何故なら、私がこれから君の事を拐っていってしまうからね。ウチにくれば、衣食住の問題はないし、さっきの彼や少し変わっているけれど世界最高の人工知能の友達だっている。そして今なら、私が作った辞書までついてくるよ。どうだい? お得だろう?」
『……クイーン、衣食住の件は間違いありませんが、あなたの不良品の辞書は流石にいらないと思います。後、私はあなたの友達ではなく、世界最高の人工知能に過ぎません』
「まったく、私の友人たちは照れ屋だね。こんなにも素晴らしい私の友人なのだから、誇ってくれても良いんだよ?」
「……大した自信だな。お前は自信銀行に定期預金でもしてるのか?」
「ふふ、そうかもしれないね。さて、どうだろう。私と共に新たな世界へ旅立たないかい?」
クイーンが手を差しのべると、元気はその手を見つめたが、すぐにそっぽを向いた。
「……旅立つ気はない。お前のそばにいる奴らがどんなに優れていて、俺にとって理想的な環境が手に入るとしても俺はお前を信じる事は出来ない」
「なるほど……信頼か」
「ああ。お前が怪盗だというのも自称で、さっきから聞こえてくる声も事前にお前が声を変えてこっそり流してる物かもしれない。もし、本当にそうだとしたら俺はここで死ぬよりも辛い目に遭う可能性だってあるんだ。
それなのに、このくらいでお前を信用してついていくなんてあまりにも不用心すぎる。俺は死んでも構わないと思ってるけど、無駄に死にたいわけじゃないんだ」
『なるほど……カメラから見える限り、まだ小さな子供のようですが、とてもしっかりしていますね。クイーンとは大違いです』
『そうですね。クイーンを簡単に信頼しようとしない辺り、本当にしっかりとした子です。クイーンにも見習ってほしいものですね』
どこからか聞こえてくる声を聞き、クイーンは元気に差しのべていた手で顔を覆う。
「君達……その発言はあんまりじゃないかい?」
『自分の日頃の行いを思い返してください。あなたの生活の様子を見て、簡単に信頼出来ると思いますか?』
『ワインをセラーにしまわずにソファーの下に隠す、開ける時も栓を開けるわけじゃなく口を“切って”しまう』
『仕事も“怪盗の美学”を理由に選り好みして、そうでなければやろうともせずに休みばかりを欲しがる怠惰さ』
『そんな相手を簡単に信頼出来ると思いますか?』
「……君達、そこまで言う事ないじゃないか……」
冷たい声で次々に暴露されるクイーンの情報にクイーンががくりと肩を落とし、元気が呆れながらため息をつく。
「……聞いてるこっちが可哀想になるくらいの言われようだな」
『これが君の目の前にいる怪盗クイーンという人物だよ。けれど、これだけは言える。クイーンはやる時はやる人だってね』
「ジョーカー君……」
『たしかにそうですね。やると決めたらへこたれずにやりとげ、殺人も無駄な盗みもしない。すぐに信用するのは難しいと思いますが、私もジョーカーもこうして今でもクイーンのそばにいて、共に仕事をこなしている。それだけ私達はクイーンの事を信頼していると言えるでしょう』
「RDまで……」
「……アンタ達二人がクイーンを信頼していて、クイーンがどういう人物なのかはわかった。けど、さっきも言ったようにアンタ達二人が実在する証拠はない。それに、だからといって俺がクイーンを信頼出来る証拠にはならないだろ?」
冷たい声で言う元気の目には未だに警戒心が残っていた。それを見たクイーンは少し哀しげに微笑む。
「ここまで警戒されるなんてね……君の心はだいぶ固く閉ざされているようだ」
『どうやらそのようですね。クイーン、どうするんですか?』
『冷たいようですが、これ以上の説得も難しいですし、世界中に敵がいるようなあなたのそばにいてはその子も危険です。このまま別れた方が現実的かと』
「……世界最高の人工知能である君が言うのだから、その選択はだいぶ正確なのだろうね。だけど、私は
「…………」
「だから、君の信頼のために私はこの命を賭けるとしようか」
クイーンの突然の言葉に元気は驚き、ジョーカーとRDは揃ってため息をつく。
『……クイーン、あなたはバカなんですか?』
『一人の人間の信頼のために命を賭けるなど馬鹿馬鹿しいです。あなたはその子にそれだけの価値を見いだしたのですか?』
「もちろんだとも。彼自身、本当はこのまま死ぬつもりは無いようだし、ここまで話してみて彼がとても面白い人物だとわかった。
だったら、その信頼を勝ち取るためなら命を賭けても惜しくない。それくらいの覚悟がないと、彼の場合は心を開いてはくれなそうだしね」
「……そいつらの言う通り、お前はバカなのか? 俺にそれだけの価値があるってどうして言えるんだ?」
「その目だよ」
「……目?」
元気が不思議そうにすると、クイーンは静かに頷く。
「私はその目の奥で燃える炎を見た。恐らくだけど、君は生きるだけの理由があるし、死ぬまでにやらないといけない事がある。そうじゃなきゃ、そこまでの目はしてないさ」
「……お前がその手助けをするって言うのか?」
「君が望むならね。だけど、私だって命を賭けるのだから、それ相応の何かを求める権利はある。だから、私はそのロザリオを君に賭けてもらいたい」
「ロザリオを……」
「私が君にいらない危害を加えたりその身を他者に売ろうとしたりしたら、遠慮なく私を殺して良い。だけど、君のその命が尽きるまでに私がそういった事をしなかったら、君からは信頼の証としてそのロザリオを貰う。どうだい? 悪い話じゃないはずだ」
「……あまりにもこっちが有利過ぎる。そもそも、このロザリオに命を賭けるだけの価値なんて──」
「だったら、どうしてそこまでそのロザリオは綺麗なんだい?」
「え……?」
クイーンからの突然の言葉に元気が疑問の声を上げると、クイーンは真剣な表情で言葉を続ける。
「そのロザリオはだいぶピカピカに磨かれている。ここまでの輝きを保つには、持ち主がしっかりと手入れをしないといけないはず。つまり、そのロザリオは君にとってとても大切な物だと断言出来る。
それじゃあそのロザリオはどうやって手に入れたか。ロザリオというのは、一般的に聖職者が持つ物で、聖母達への祈りの際に使われる。RD、この近くに教会はあるかい?」
『ありますよ。いえ、正確にはあった、でしょうか。数時間前に教会は火事に遭ったようで、不思議な事に焼け跡からは人間の遺体などは見つからなかったようです』
「ありがとう、RD。この事から、君はその教会の関係者で、火事に遭った事で教会にはいられずにここに来た事になる。合っているかな?」
「……間違いない」
「加えて、しっかりと磨かれているとはいえ、そのロザリオは先が少し丸みを帯びていたりところどころに小さな傷が見える事から、年期が入った物であり、君の前にも持ち主がいた事は間違いないだろう。
そして、その持ち主とは恐らく教会の神父で、神父も君からの信頼を勝ち取るためにそのロザリオを預けていた。だいたいこんなところじゃないかな?」
クイーンの推理を聞いた元気はしばらく何も言わなかったが、目を瞑りながら悔しそうな表情を浮かべると静かに頷いた。
「そうだよ。これは教会の神父から、俺を助けたいという神父の言葉の証拠として預けられた物だ。その代わり、神父の言葉が本当だったら、家族になるなんて約束をしてたけどな」
『なるほど……クイーンと同じような事を考える人がいたんですね』
『それに驚きを感じる気持ちはわかります。ですが、クイーン。本当に命を賭けるつもりですか?』
「ああ、賭けるとも。今の話を聞いて、尚更それくらいの覚悟がないといけないと思えたよ。その神父もきっと同じくらいの覚悟を決めていただろうしね」
「…………」
「さて、どうかな。この私の覚悟を聞いて、少しは信じてくれる気になったかい?」
再びクイーンが手を差しのべると、元気はその手をジッと見てから、ふぅと息をついた。そして、静かにクイーンの手を取った。
「……わかった、そこまでの覚悟を決めてくれているなら、少しだけ信じてみる」
「ありがとう。それじゃあ、これから新たな友達との出会いを祝して──」
「俺はお前の友達じゃない。俺は勝負の相手なだけで、仕事上の助手という形なら別に認めてもいい」
「……本当に彼に似ているね。だけど、そこから始めるのも悪くはない。君、名前は?」
「……神野元気。神父がつけてくれた名前だ」
「元気、か。とても良い名だね。ではそろそろ行くとしようか。RD」
『既にコンテナは降ろしてますよ。人の姿がない今の内にコンテナに入って、こちらへ戻ってきてください』
「流石だね。それでは行こうか、元気」
「……ああ」
クイーンの手を掴みながら元気は立ち上がる。その目には未だにクイーンへの警戒心があったが、表情は多少柔らかくなっており、それを見て微笑むクイーンと共に元気は路地の外へ向けて歩き始めた。
政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
元気「これで俺はクイーンの仲間に加わったわけだけど、次回はまだ顔も出てきてない二人との出会いになりそうだな」
政実「そうだね。因みに、今のところの予定だと、オリジナルの話と原作の話を交互にやっていくつもりで、一度オリジナルの話をやってから原作の第1巻の話をやる事にしてるよ」
元気「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
元気「ああ」
政実・元気「それでは、また次回」