(さぁ、何がどう動く?)
T-187が観察する中、先に動いたのは少女だった。
胸のコアのようなものが強く輝き、ゴポッ、と金属光沢を放つ白銀の液体が溢れ出した。液体は少女の起伏が少ない体を伝って大地に向かって流れ、途中で重力に逆らって後ろへ回り、尻尾へと流れ込んだ。液体は尾に纏わりつき尾の形状を変化させていく。その量は凄まじく三メートル程の長さだった尾が液体のコーティングにより太さも増して十メートル程の長さまで大きくなるほどだ。何より変わったのは尾の先端だろう。先端が小さく根元にいくにつれ太くなるそれは長さ3メートル程の大砲のような形状だ。そんな白銀の大砲を背後で揺らめかせ、少女はただその場で佇んでいる。
後から遅れるように山が動いた。少女の入っていた金属製棺桶の墜落のせいで少し崩れた山肌から、岩石と砂利で出来た腕が伸びてきたのだ。その腕は山の足と比べるとあまりにも頼りない細さで、普通の人間とほぼ同じ太さだといえば伝わるだろう。
その腕は薮から飛び出した大蛇の如く勢いよく少女へ向かって突き進む。山肌からはまるで掃除機のコードのように勢いよく腕が引き出され続けている。
そして、岩の腕が少女の胴体を殴りつけた。
「……………………」
しかし、その攻撃はまるで堪えた様子が無く、少女が纏う白銀の装甲が池に小石を投げたような波紋を浮かべ全ての衝撃が無効化された。
ビキリ、と音を立て岩の腕に罅が入る。腕は鎌首を上げ威嚇する蛇のように持ち上がった。そして少女を囲うためか、大きな円の軌道を描き少女の周囲を何周も回る。ソフトクリームのように何段にも巻かれた腕の壁で少女が見えなくなってしまった。
「おいおい、このままやられちまいそうだぞあの嬢ちゃん」
「?それなら今のうちに逃げれば良いのではないですか?」
「この重くてデカいトラックであの長さの上限が見えない腕からにげられるとでも?」
「…………無理ですね」
「無理だろうな」
少女を殴りつけた時の瞬間速度は目測だが軽く時速160kmは超えている。更に早く出来るとしたら車では逃げられない。
(このまま行くと嬢ちゃんの不利、だが何だ?この胸騒ぎは……)
岩の腕製ソフトクリームが巻き終わり、頂点の岩の拳が向きを変えた。少女が閉じ込められた岩壁の中、その中心部へ。
ギシリ、と軋む音を奏で頂点に拳一つ分の穴が開いた。岩の拳が下を向いたまま空へと上昇していく。上昇は少女の上空百メートル付近で止まった。
岩の腕が更に軋む。これから放たれる一撃は少女の頭蓋を花火のように粉砕するだろう。
そして、音速に届きうる速度で拳が垂直に真下に振るわれた。
拳は正確に小さな穴に侵入を果たし、
その直後、岩の腕の壁の一部が内側から爆音とともに大きく吹き飛んだ。
音速の拳は制御を失い空中を舞ったが、山肌と繋がっている方の腕が拳へと急速に伸び、断面を強引に繋いだ。砂利が破損部へ集まり接着剤の役割を果たすと、短くなって復活した腕は未だ壁の中にいる少女へ拳を繰り出した。先程の一撃よりは遅いが、少女を亡きものにするには十分だろう力が込められていた。
「――――、――――――――――」
少女の口が何かを呟くように動き、ガゴンッ!と重い衝撃音が鳴る。岩の拳は、少女の大砲のような尾の先端に当たり止まっていた。
ガラガラと音を立て拳を構成していた岩が小石になって地面へ落ちていく。最早拳ではなくただの岩の塊になったそれは最後の力を振り絞り少女へ突撃する。
それを少女は見逃さず、尾の大砲が拳の成れ果てを捕捉した。
そして。
ッゴウ!と大砲から青い光線が放たれる。それは拳を蒸発させるだけに留まらず、空へ一筋の線を描き雲を裁断すると雲散霧消した。
拳の消失を確認した少女は、尾の大砲の先端を山肌に深く突き刺した。
尾を覆う白銀の装甲に複数の吸気口が口を開くように出現し、大気を吸引するような高周波が響き渡る。
一瞬の静寂の後、山の内部へ直接放たれた光線の砲撃は山を容易く貫通し、山の二本足の間から出るとそのまま大地を突き進み消えた。
土砂崩れのように山が崩れていく。力を失った山の足が膝を着いた衝撃で砕ける。少女は崩れゆく山の上でただじっと佇んでいた。そのまま土砂の津波に飲まれ、後には大きな土砂の山が残された。
「……相打ちか。まあ、一番良い結果になるのか」
T-187は双眼鏡を覗くのを止め、立ち上がった。
「隊長、あの少女生き埋めになりましたけど生きてると思いますか?」
「さてな、ただ一つ言えるならいくら戦闘が強くても生き埋めは苦しいってことだな。よし、そろそろ
呼び掛けに返事が帰ってこないので車内に取り付けられた梯子を登り、今だカメラを覗き込み撮影しているキャットに再度撤収を支持するが、キャットは土砂の山をカメラ越しに覗いたまま動かない。
「どうした?何かあるのか?もうどちらも動かないだろう」
「…………隊長、これを見てください」
やや言いづらそうにするも、キャットはそう告げてカメラをT-187に渡した。
「あ?どれどれ……ッ!?」
それは撮影していた記録映像の最後数秒、土砂の山から少女の足らしきものが見えていた。
「これなら掘り出せると思いませんか?」
「駄目だ」
確かに、深く埋もれてしまったなら掘り出すのは不可能に近い。重機も無ければ他のT部隊も散り散りに逃げたので合流に時間がかかる。その間にEによって各個回収されてしまうだろう。
「何故ですか!あの少女はあの山を吹き飛ばしてくれたんですよ!」
「その少女が俺達を吹き飛ばさない理由にはならねえだろうが!!いや、それ以前にアイツは奇想展骸だ!収容対象だぞ!それがお前は理解っているのか!理解出来ないようなら一人で掘りに行け!」
「ッ……それは……」
返す言葉が咄嗟に出なかったのか、T-222は俯いてしまった。
「さ、帰るぞ。大穴調査は今日は中止だ。また明日やるぞ」
梯子を降りて車内へ戻ると、T-223から声をかけられた。
「隊長、怒鳴り声が聴こえましたが、キャットさんはどうなさったんですか?」
「あー、どうやら奇想展骸に助けられたと思い込んでしまっているようでな。全く、掘り起こした瞬間に挽肉にされる危険性だってあるんだぞ」
「まあ、キャットさんですから。彼は優し過ぎる所がありますが、そこが彼の良いところでもあります。ので、あまり責めないであげてください」
「……そうだな。少し強く言い過ぎたかもしれん」
キャットは根が善人なのだ。こんな世界の裏側に潜む組織にいてはいけないほどに。
「そう言えばキャットさん遅いですね。何をしているのでしょうか?」
「ちょっと様子を見てくる。他のメンバーに今日の大穴調査は止めだと伝えておいてくれ。運転手、もう速度は落としていい」
揺れが小さくなった梯子を登りながらキャットに声をかける。
「キャット、先は強く言い過ぎた。お前の言い分も理解らないわけじゃないんだ。だが、それくらい危険があるということを理解して欲しくて―――」
梯子を登り終え、キャットがいた場所を見た。
そこには誰も居なかった。
書きためが心許なくなったので連続投稿ストップします。
白銀の液体金属を纏うっていうとなんとも思わないけど、言い方と見方変えると白濁液塗れの少女という……あれ、R-18タグつけた方がいいかな?