宇宙戦国時代という争乱をを乗り越えた彼らは真に宇宙人類(スペースノイド)として羽ばたくことを意識し始めた、宇宙開拓時代の始まりである。それは母なる地球に対する決別を意味していたが果たして人類の思い上がりであったのであろうか。
羽ばたいたスペースノイドは地球圏に続々と帰還しつつあった。
取り残された地球人達はそれを静かに見上げていた。
1【ゲーン・トゥ】
いつからだっただろうか、私が彼と袂を別ったのは。いつであっただろうか彼と無邪気に夢を語り合っていたのは。
「いつか俺達も立ち上がらなきゃいけないんだ、昔の人達がジークジオンって言ったように…」
かつての私が励ますように語りかけてきた、しかしもう彼は居ないんだ…彼は…
いい加減うんざりした所で大武官のビコックが入ってくる気配を感じた、どうやらうたた寝をしていたらしい。鼻息を荒くしながら彼は近づいてきた。入室の際の儀礼などすっかり忘れた様だ。
「緒戦は完勝であります」
「そうか」
重い腰を持ち上げ振り向くと彼の目はうっすらと潤んでいた、戦闘の興奮がまだ収まっていないのだろう。
「御子息のシッシケン様も初陣で大分戦果を挙げた御様子、兵達の間でも古今比類なしの宇宙戦士である、と評判であります」
ゲーンは「そうか」とは言わなかった、代わりに手が震えていた。純粋に嬉しかったのだ、息子を生んですぐに年若い妻は死に、その息子も十歳まで病気がちであった。しかしそれが嘘の様に彼は今や抜群の操縦センスを持つMS乗りのエースになっていた。
そしてゲーンは、それによって部族連合の長としての、気力と自信、威厳を取り戻し始めていた。彼の心の奥の青春の燻りと共に…。
2【エッザ】
宇宙(そら)に浮かんでいる輝きの欠片を窓から少女は熱心に観察していた、彼女はそれが遠い銀河から届いている星々の光りなのかラグランジェポイントに浮かぶコロニー群の発光なのかを丹念に選り分けて遊んでいる。
「戦艦って本当に退屈な乗り物なのね、びっくりしちゃった」
少女はそう呟くが隣の男はまるで反応しない。呆れて溜め息をついた頃にやっと
「んん、エッザ?」と聞き返してきた。
「これは戦艦じゃないよ」といつもの調子で言ってきたのでエッザは「ふーん」としか返さなかった。
そもそも彼女は随分と前から機嫌が悪い。1ヶ月の無重力戦闘訓練をこなしやっと地球に降りたと思ったらシャワーも浴びないうちに「ミセス・オースー」に引きずられるように再度宇宙に連れてこられてしまったのだ。
能力開発研究所(昔はニュータイプ研究所、通称ニタ研)のあるハワイの灰色の海をエッザは見飽きていたしあまり好きでは無かったがそれでも自分が今まで育っていた場所というのにはどうしても郷愁の念というものが湧いてしまうらしい。
この不機嫌の原因の張本人であるミセス・オースーはうしろで連邦軍の士官らしき男相手にまくし立てる様に自分達を売り込んでいるものだからイライラは着々と蓄積していった。
やれ「安定的で低コストを実現した新型強化人間の再評価」だの「改良サイコミュシステムによる対多目標迎撃プログラムの経済的利点」だのを力説しているが彼女はまるで士官らしき男が苦笑している事に気付かない様だ。そしてその苦笑からはオカルトや怪しげな新興宗教といったものに対する不信感と同一なものをありありと瞳に映していることもエッザは痛いほど
分かった。
それはこの艦に乗り込んだ時から既に感じていたことで。この珍妙な同乗者達に対するクルーの反応は概ね冷淡であるか奇異な生き物を見るようでありエッザはすっかり参ってしまっていた。
しかし、隣の男、彼女の兄であるドゥケナンドゥはそんなことには無頓着であるように澄まし顔である。
エッザにはもうイライラする気力も無かった。