機動戦士ガンダム~THE EBONY~   作:ゲルドルバ

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【トム・スピンクス】【シッシケン・トゥ】

3【トム・スピンクス】

 

 キルキ中尉が率いるMS部隊が攻撃を受けているらしい、ということをクラップ級重巡洋艦「アーデント」のブリッジが認識したのは既にキルキ中尉が戦死したという報告が届いたのと同時であった。

 この報告を聞いた艦長のスピンクスは部隊を見捨てて今すぐルナⅡに遁走することが頭を過ったがそれを辛うじて押し留めたのは地上のクーラーが効いた快適なオフィスやバカンスという出世欲が見せるありがちなビジョンであった。

 オペレーターから周辺のミノフスキー粒子濃度が上昇していることを告げられた時やっとスピンクスは口が動いた。

 「本部との通信は取れるか?」

 「駄目です」

 「どうやらここの連中は俺達を生きて帰す気は無いらしいな?」

 「…ハッ」

 ブリッジに重苦しい空気が立ち込める、返事をしたオペレーターもどうするのだ、という顔をしてこちらを見つめていた。

 「エンジン全開、主砲、各部ミサイル開け、キルキの部隊を援護する。スルツェイにもそう伝えろ」

 副艦長が慌てながら、

「孤立します、後退しましょう」と言ってきたので、

「もうしているよ」とスピンクスは返しすぐさま、

「MSも順次出撃させろ、フォーメーションDで周囲の警戒を怠るな」と次の指示を出し反論の隙を与えなかった。

 左に見える強襲揚陸艦スルツェイから次々と連邦の主力MS、RGMー138「ラツィンガン」が飛び出していくのを眺めながらスピンクスは、

(なぁに、大した問題じゃないさ)

 と独りごちた。

 諜報の報告書では向こうの主な所有戦力は旧式MSが100機、そのうちの70機は連邦政府の要請で既に解体されたとなっている。

 そしてこの男は部隊よりキャリアが傷付くことの方を恐れた、現に同僚達は次々とコロニー国家の武装解除を成功させていた。

(任務をしくじることなど出来ん)

アーデントのクルー達のなによりもの不幸はこの男のそういう性質を上層部が「勇敢である」と評価したことであろう。

 結末から言えば彼等はキルキ部隊と合流することは遂に出来なかった。戦場になっているであろうコロニーの外部ドックとは別の湾口部からMSのものと見られるスラスターの光が多数確認されたのだ。

 その数はざっと見ても30を下らなかった。

 そしてその光から放たれた、旧式機では到底出せないであろう出力のビーム斉射が一機のラツィンガンを捉え核の火球に変えた時、

「撤退、撤退しろっ!」

 スピンクスは叫んだ。

 

4【シッシケン・トゥ】

 

 初めて人を殺すこと、これはシッシケンが思っていたよりも余程受け入れやすい体験であった。愛機のTU-10S通称「ゾッゾ・ゾッゾ」のビーム・サーベルの刃が連邦軍のMSに吸い込まれる時に舞ったメガ粒子の輝きは美しいとさえ感じた。

 しかし同時にシッシケンは不満も覚えていた。自分達の故郷であるサイド5の居住用コロニー「フロンティアⅧ」の現地部隊の解散と武装解除の監督、及び採掘プラント「キャブリックⅡ」の接収の為に寄港していた連邦軍艦隊を奇襲という形で壊滅させたからだ。

 勿論シッシケンにはこの奇襲作戦が今後の目的遂行のことを考えれば正しいことは理解しているが、自分を古今比類なき宇宙戦士と褒め称えてくれる兵士たちの言葉とは裏腹にその宇宙戦士の敵達は哀れな程狼狽えていた。

 逃げ惑う者たちを片付けていくのは気持ちの良いものでは無かった。

 実際、これまで散々に訓練を積んだ「ファンネル」はシッシケン以外のゾッゾのパイロット達の多くも使うまでも無く基本装備のみで任務を完了させていた。被害も戦闘中ゾッゾ一機が逃げる連邦軍のラツィンガンと接触し大破したものと戦闘前にバックパックを誤って隕石と接触させた為にメインスラスターが不調になって帰艦したものだけであったのだ、無論戦死者は0名。

(ーこのような戦いが我々の部族の誇りの発露になり得ようか)

 帰還の途に着くなか既にこのような考えがシッシケンの胸中で蛇の様にのたうち回っていた。

 コロニー湾口から格納デッキに収用されると整備クルーまでもがこの勝利を称え口々に歓声を上げているのが聞こえた、シッシケンは最低限それに答え、ブリーフィングルームに集合した10人隊長達に現場待機を命じた後、小武官らを連れて父に戦闘報告を行う為にエレカに乗り込んだ。

 自邸の門を通り足早に父の書斎の前まで来ると既に大武官ビコックの秘書官が待機しており扉を開けた。

 入室したシッシケンと小武官達はゲーンとビコックに敬礼をすると戦闘結果をそのよく通る声で高々と述べた。

 ゲーンは一度深く頷くと、

「まず本作戦に先駆けて行われた戦闘で一人の戦死者も出さなかったこと、幸いである。これは我々の聖戦が正しいことの証左であろう。それは諸君ら一人一人が真の戦士であることによって支えられていることを私は決して忘れない。しかし戦いはまだ始まったばかりである、適切な補給と休息を取り次に備えよ」

 と労いの言葉を彼等にかけた。

 その後、

 「では、私も失礼致します」

 とビコックも一緒に退室すると、

 「貴様達は先に帰ってゲーン様のお言葉を兵達に伝えろ」

 と小武官達を追い払ってしまった。

 そして厳めしかった顔をくしゃっと綻ばせて、

 「シッシケン様、貴方の父上はこの度のご活躍聞いて大層お喜びしておりました」

 と教えてきたので、

 「しかし自分はこの結果に満足していない」

 と無愛想に吐き捨てた。

 「これはまたどうしました?」

 ビコックはその太い眉を八の字にして聞いてきた。

 「敵が弱すぎる、このままでは我が部族は驕ってしまい兵は誇りすらも失ってしまうのではないか」

 シッシケンはありのままに自分の気持ちを吐露するとビコックは更にその顔をくしゃくしゃにして、

 「おお。おお。そのお言葉、不肖ビコックもゲーン様と同じく嬉しく思っております。兵達も言っているように正しく宇宙戦士に立派に御成長されたのを確信致しましたぞ」

 (まだ子供だと、馬鹿にしていやがる)

 とシッシケンは感じたがそれを見透かす様にビコックは、

 「ご安心を、ブラウン重工の諜報員がルナⅡに停泊している機動要塞ドレスデンが動いた、と報告してきました。彼奴らは精鋭ですぞ?」

 「では、うかうかしていられないな」

 言葉とは裏腹にもうシッシケンは嬉しそうな顔になっていたがビコックがそれを微笑みながら見ているのに気付くと照れ臭そうに、

 「じいには敵わん」

 と初めて笑顔をこぼした。

 「では、部下に送らせましょう」

 「いらん」

 と言うや否やシッシケンはエレカに駆け出した、

 「くれぐれも功を焦ってはなりませんぞ!」

 エレカに飛び乗りながら、

 「わかった!」

 と叫ぶとシッシケンはアクセルを全開にして軽やかに走り去っていった。




・RGMー138 ラツィンガン
アナハイムエレクトロニクス社製、地球連邦軍の主力重MSである。
際立った性能は無いが様々な状況にオールマイティーに対応出来る柔軟性を持ち、複数機による連携を想定されている。
主な武装:ビームライフル、対艦バズーカ、ビームサーベル×2、複合シールド

・TUー10 ゾッゾ
ブラウン重工製、部族連合の主力MS。
旧式化していた宇宙開拓時代のにMS変わって密かにロールアウトされた次世代MSで全てがオーダーメイド。
各パイロットの好みに会わせてチューン出来る拡張性とオールレンジ攻撃可能な特殊兵器「ファンネル」を搭載しているのが特長である。
またダブルフェイス方式と呼ばれるセンサーシステムはデュアルカメラとモノアイを使い分ける事によって交戦距離を選ばない。
指揮官用に通信機器類とファンネルの数を強化したものは「ゾッゾ・ゾッゾ」と呼ばれている。
主な武装:ビームライフル、ファンネル×2、ビームサーベル×2若しくはビームトマホーク、複合シールド

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