勇作殿の片割れは即断即決裏目ボーイ   作:あん仔

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女装注意


幕間 : ヤマダ曲馬団にて

 置き引きを追いかけて豊原の街を駆ける。民家に立て掛けられた竿を用いて、なんとも身軽な様子で置き引きは屋根へと登るとそのままさらに逃げ続ける。

 

 

「!?」

「よしッ! 音之進! 行けッ!」

「任せたもんせ!」

 

 

 しかしこちらにも鯉登がいるのだ。そもそも鯉登は追いかけると決めたとき、めちゃくちゃしつこいぞ!

 鯉登が勢いよく屋根へと跳躍。飛び移り、そのまま置き引きを追い続ける。

 私と杉元も道路から置き引きの姿を確認しつつ、追いかけている。

 置き引きが電線を綱渡りして、道を挟んだ向こう側の屋根へと移るのを見た。

 

 そこで足を止める。

 

 

「え、英作さん? どうしたの? 具合悪くなった?」

「今の動きを見ただろ。だとすりゃ先回りできる。こっちだ、杉元」

 

 

 幸いにも置き引きの追跡は鯉登が続けている。杉元を連れて方向転換して新たな目的地へと急ぐ。

 

 

「! 英作少尉殿! 置き引きは!?」

「音之進が追ってる、私たちは先回りしよう。おまえもついて来い」

 

 

 途中で挟み撃ちにしようと別れていた月島とも合流して、地図上で空き地とされる場所へと向かう。

 辿り着いたそこでは、大きなテントが張られているところだった。

 

 

「こ、これは……?」

「曲馬団ってやつだな。さっきの置き引きの動きは身体の使い方を熟知したやつの動きだった。単なる置き引きが一朝一夕で出来るもんじゃねえもん」

「じゃあ、置き引きはこの中にいるってことかい? 英作さん」

「いや……そろそろ……」

 

 

 パアン。タイミングよく銃声が響いた。

 簡単な話、追跡者がいるときに巣へ直行直帰は出来んだろうと思ったのだ。追手を撒くためにわざと複雑に、遠回りをしてみせるだろうという予測だった。

 

 銃声の方へ向かえば肩で息をした鯉登が天へ銃口を向けていた。

 

 

「音之進〜!」

「英作どん!」

「おまえなら追いつけると信じてたぜ〜!! さすがだ〜!」

「ッ!!!!」

 

 

 鯉登の目がキラキラと輝きだし、ぱああっと笑顔に変わる。幼い頃であったなら、このまま抱き着いて頭を撫でくりまわしているところだ。

 今はどちらも便宜上は軍人であるため控える。鯉登は褒めればすぐに調子に乗っ……チョロ……扱いやす……感受性がガキのま……若いから助かる。

 まあ根がどんなクソガキでも上手に出来たのなら褒めてやらないとな。

 

 

「………」

「置き引き! ゴラァ!!」

「う、うわああッ!!」

 

 

 置き引きを杉元が締め上げる。

 

 

「長吉! おめえ設営をほっぽり出してどこに……アンタら、は?」

 

 

 

 テントから現れた男性が締め上げられている真っ最中の置き引きと、私たちを見て目を丸くする。

 座長であるという男へ月島が事情を話す。

 

 

「申し訳ございません! よりにもよって兵隊様から荷物を盗むとは……こいつはみなしごで育ちが悪く何度罰を与えても悪い癖が治らんのです!」

「土下座なんてもういいよ」

 

 

 置き引き、長吉と揃って深く土下座をする座長らへと杉元がいう。正直土下座なんて、『土下座までしてるんだ許してやれよ』って周りに思わせるためのパフォーマンスでしかないと思うので私にはピクリとも響かない。

 この時代ではまた少し違うのかもしれないけどさ。

 

 責任を取ると日本刀を持ち出して、長吉を切りつける。長吉の頰が赤い筋が走る。それをみて咄嗟に拳が動いた。

 

 

「やめろ!」

「何やってんだテメエ! まだ子供だぞ!」

「むぎゅぅ」

 

 

 杉元の拳と挟み込んだことで座長の頰が圧縮されて、口と鼻から血が散った。

 本物かと思いきや、日本刀は血糊の仕掛けがされた手品用のものであったらしい。

 人騒がせだな!

 

 

「そういうの嫌いだ」

「え〜! これでも人気演目なんですよ〜?」

 

 

 顔を顰めると座長が鼻血を流しながらお茶目にウインクをした。

 樺太公演を控えているという座長に、杉元が何かを思いついた顔をする。

 

 

「これだ!」

「何が?」

 

 

 目撃情報から考えてアシㇼパはまだ近くにいると杉元は予測しているらしい。

 どうかな……犬橇で移動しているのはわかっているんだし、そもそも鶴見中尉の追手を警戒していれば大きな街には寄らないような気も……。

 そもそも追手がいると知らない可能性もあるにはあるのか。

 

 

「俺を樺太公演に出せ! ”不死身のハラキリショー“でこの大都市豊原に俺の名前を轟かすんだ!」

 

 

 本気?

 

 

 どうやら本気らしい。唯一のツッコミ役と思っていた月島もそれが一番合理的ならば、と粛々と受け入れる面持ちだ。

 本気?

 

 

「英作くんは肩を壊してしまっているんですね、演目に出すのは危険なので、客寄せをしてもらいましょうか?」

「なんでもいい、早く終わらせよう……」

「では公演までに衣装を用意しておきますね」

 

 

 ニコ☆ と座長が何やら含みのある笑みを浮かべている。

 曲芸の才能を開花させた鯉登に、演技大根の杉元がハラキリショー。曲芸の才能なし、とされた谷垣と月島は……。

 

 

「ッブフォっ!!」

「……」

「おらおら源次郎ッ! また手がお留守だよッ! 足にばっかり集中してるからッ!」

 

 

 パンパンと手を叩き、谷垣を叱咤するのは振り付け担当の山田フミエである。二人は曲芸の演目のわきで踊る少女団として踊ることに決まったのだ。

 幼い少女たちに混じって踊るおっさん二人だ。笑ってはいけないと思いつつも、そのシュールな練習風景を見るたび思わず吹き出してしまう。

 

 

「英作さん、次はこっちの箱を運んでくれる?」

「はいよ〜」

 

 

 客寄せをするらしい私は公演当日まで練習などもないので、大人しく裏方に徹していた。

 

 

「俺は少女団の、お荷物です……ッ!! ブヒィッ!! うまくッオロれないッ!!」

「ングヴフォッ」

「…………」

 

 

 そんな手伝いの間、テントの裏で泣きじゃくる谷垣の嘆きが聞こえて、さすがに腹が痛い。腹を押さえて地面に手をつき笑いを堪える。それでもブルブルと身体が震える。本当に勘弁してくれ。

 

 

「え〜い〜さ〜くッ!! アンタの衣装ができたよっ! 寸法が合ってるか確認するからさっさと着な!」

「……」

 

 

 そうして時間が過ぎて、少女団のおっさんたちの衣装とともにフミエから差し出された衣装にもう二度と少女団の二人を笑うことは出来ないのだと悟った。

 公演前の衣装合わせだ。

 

 

「よく……お似合いですよ……英作少尉殿」

 

 

 珍しくも柔らかな微笑みを浮かべた少女団の月島が私の肩を叩く。

 

 

「私に笑われたこと根に持ってるんだろ? なあ月島ぁん!」

「ああ、もうすぐ練習が始まるようです。客寄せをお願いします、英子さん」

「んぎぃッ!」

 

 

 ニコニコしながら月島が衣装用のテントから出て行ってしまう。

 喉仏を隠すために喉の辺りまで覆われたシャツに肩幅の広さを隠す位置に調整されたパフスリーブ、足元まで広がる長いドレスの裾。

 早い話が女装である。

 

 女装であるが流石にプロであるのか、男くさい部分が上手い具合に目立たなくされて遠目からは女性とも見えそうな完成度だった。

 被されたウィッグは右目の眼帯が隠れるように結われている。

 まさかここまでとは、いやマジですっげえ……。

 姿見に映る自分の姿に見惚れる。母に似た勇作とほぼほぼ同じであるゆえに顔も天才すぎた。

 

 

「着替えは終わりましたか? 英作くん…おお! お似合いですよ!」

「ははぁ、だよなぁ? こんな美女、世界が放っておかねえよなあ??」

「いいですねえ! では当日まで、この看板を持って、豊原を歩き回ってください!」

「は?」

 

 

 座長にそう手渡されたのは

 あのロシアで大人気!

 山田曲馬団が近日公演! 

 と、記された看板である。

 客寄せってそういうことかよ……。看板を掲げて、渋々と街へと向かう。

 

 

「おお…!?」

「えっ美人…!」

「いや、でけえなっ!?」

 

 

 ザワザワと騒がしい街をしばらく練り歩き、テントへと戻る。賞賛が心地よい。

 ふと公演舞台のテントで言い合う声が聞こえてくる。覗いてみれば、杉元と鯉登が言い合っていた。

 どうせまた何かくだらないことでいがみ合っているんだろう。

 

 

「おいテメエら。ちゃんと練習してんのかよ、もう公演当日は近いぞ」

「ッキエ!? その声、英作どんか!?」

「え〜!? なになに、どうしたのぉ? 英作さん、そのカッコ!」

「客寄せの衣装だ。どうだ似合うだろうが」

「ぜんぜん似合うちょらん!」

「似合う似合う! すっげえ! 女の人にしか見えねえよ!」

 

 

 と、同時に正反対の感想を言ったことで杉元と鯉登が口をつぐんで睨み合う。

 

 

「おい…ボンボン…。言っていいことと悪いことがあんだろうがぁ……ッ! わざわざ見せに来てくれてんだぞ! 似合うって言ってやれよ!」

「似合っていないものを似合っていないと言って何が悪い! 英作どんが女装など…英作どんに一番似合うのは軍服だ! 知らんのか、杉元!」

「あぁ?」

「やる気か?」

 

 

 バチバチと火花が散っている。

 うーん、どっちもどっち。杉元たちにわざわざ褒められたくて見せにきたわけでもないし、軍服は確かにカッコいいけど一番似合うと言われても割と嬉しくはない。

 

 

「ホラ! アンタら! 練習が終わったんならさっさとどきな! こっからは少女団の練習時間だよッ!」

「源次郎ちゃん、基ちゃん、本番の予行練習だよ! 頑張ろね!」

「うん!」

「……」

 

 

 キャアキャアと本番の衣装に身を包んだ少女団の皆さんが入場された。何故だか首が太く目をキラキラと輝かせる少女団の谷垣と月島がともにいる。

 予行練習である故に当然の如く本番の衣装に身を包んで。

 

 

「………」

「………おい、なんとか言ってやれよ」

「に、似合っているぞ! 月島軍曹! 谷垣一等卒!」

「ッ! (ニコ)」

「…………」

「ングヴフォッグフォッヒェええッ」

 

 

 杉元に促された鯉登の褒め言葉に、谷垣がパァと笑顔を浮かべて笑みを返してくれる。月島は無表情だ。

 私は必死に笑いを堪えるため地面を殴った。ゲンジロちゃんかわいいねっ!

 

 

 

 そして公演当日。

 鯉登が見事な曲芸……かなり練習とは違う動きでの曲芸を見せた。少女団の演目も終わり、残るはメインの不死身のハラキリショーだ。

 

 

 舞台の上で杉元が練習通りの動きで腕と足に水をかけ日本刀で腕やら足やらを切っていく。

 いざハラキリ、というタイミングでロシア人が拳銃を構える。

 

 

「!?」

 

 

 思わず駆け寄ろうと、したところ腹を切ろうとしていた杉元が見事な剣捌きでロシア人たちを切り捨てた。本当に血飛沫をあげて倒れているようなロシア人に困惑。

 

 舞台袖で柄のない日本刀を掲げる鯉登と月島にそこでようやく気がついた。……本物なんかい!

 

 

「おまえら流石に笑えんぞ…」

「本物じゃと気がちたや途中でやむっち思うたんじゃ!」

「鯉登少尉……」

 

 

 ロシア人を舞台袖に引きずりながら苦言を呈した。死なれて損はないとはいえ、杉元が死んでいたらアシㇼパの信用を得られなくなる。

 

 

「次からはもっと考えて行動するんだな、杉元は本気でやる男だ、音之進」

「ぐぐぐ…」

「さあ、鯉登少尉。我々も行きますよ。演者である我々は挨拶に出なければ怪しまれる」

「フンっ!」

 

 

 鯉登の言い返せないさまがおかしくてネチネチと言い添える。とんでもない形相で睨みつけてくる鯉登を月島が舞台の方へ引きずっていった。

 

 

 その後、元情報将校である座長から亜港監獄にいるというパルチザンの情報を手に入れた。杉元のハラキリショーは鯉登の曲芸に完全に食われてしまったが無駄じゃなかった!

 私たちの公演は無駄じゃなかったのだ!

 

 女装までしたんだから、そう思わせて欲しい。

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