勇作殿の片割れは即断即決裏目ボーイ   作:あん仔

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札幌麦酒工場

 土方一派とのひとまずの共闘が決まり、刺青人皮の囚人であろう札幌連続殺人についての情報共有がされた。

 次の犯行予想日が近いということで、連日札幌の街中を探し回ることになった。

 とはいえ軍人の多い街だ。尾形とともに物売りに変装……。

 

 

「ブフォッ」

「……」

 

 

 孝行息子の変装をする尾形の姿はに皮肉が効いていて何度見ても吹き出してしまう。

 

 

「英作殿も変装するべきでは?」

「私はほら、軍服を脱ぐだけでまあまあ分からなくなるから」

「どの口が……」

 

 

 そんなやりとりがあり、当日となる。

 夕刻になり結局犯行現場の予測なんてものは無理なんだと諦めかけたとき、ボロ雑巾のようになった石川啄木が褌一丁で姿を現した。

 

 

 邪な魂胆はともかく石川啄木の働きにより、次の犯行現場がどこであるかほぼほぼ絞り込むことができた。

 そして夜。次の犯行現場となる札幌ビール工場へ一行とともに赴いた。

 三人一組で部隊を組み、囮役、仕留め役、合図役に分かれて行動をしようと提案する土方。しかし一行の人数は14人である。

 3じゃ割り切れないわけ。

 

 

「頭巾ちゃんがいれば綺麗に割れたのにねえ」

「俺と尾形は別働として全体を狙撃できる位置で控えておこう。犯人の凶悪さを鑑みれば、ここで万に一つも逃すわけにはいかん」

「うむ……」

 

 

 ギロリと私へ鋭い視線を送りながら頷いた土方は当然のごとくこれっぽちも信用なんてしていない。

 少しでも隙を見せればお互いに噛み付く満々の形ばかりの同盟である。それも当然だ。

 しかしそれはそれ、アシㇼパの手前表立って口にすることはできないのだ。

 

 

「尾形、ヴァシリのことなんだけど……」

「アイツがなんです」

 

 

 いざ作戦が始まり、尾形と二人になって口を開く。

 

「アイツはおまえに執着していたようだし、おまえがいれば、確実に姿を表す、で間違いないよな?」

「…ええ、まあ。俺が奴ならそうします」

「う〜む、狙撃兵が厄介なのはどこでも変わらんからな……見かけたらいの一番に殺せ。というか、う〜ん、殺すまではそっちに集中してほしい」

「俺はそれでも構いませんが、ジャックザリッパーのことはどうなさるんです」

「それは俺がどうにかしよう。娼婦殺しには色々私怨もあるしな」

 

 

 素直に頷かれて、ほっと息を吐き出す。ジャックザリッパーは出来うる限り惨たらしく苦しめてから殺してやりたい。

 これは私情である。クソ犯罪者を殺せることに綻ぶ頰を手で隠しながら尾形に告げれば、ジ、とまた例のあっふ〜ん…俺のことは殺さないくせにソイツは殺すんだ…? という目で見つめられる。

 そんなんだって、しゃあないじゃん!?

 

 

「んも〜! とにかく! 尾形は狙撃に専念しろ!」

「わかりましたからやめてください」

「頼んだぞ〜このこの」

 

 

 ツンツンと誤魔化すように尾形の頰を人差し指で突きながら念を押す。

 鬱陶しそうに手で振り払われ、狙撃地点にちょうど良さそうな物見櫓を見つけた。狙撃場所は高い方が有利というのは基本のキだからね。

 

 物見櫓での警戒中、ビール工場の敷地内に見慣れた軍服の集団が入ってくるのを捉えた。第7師団だ。

 鯉登、月島に菊田特務曹長と……見覚えのあるバシリク。それから見間違えるはずもない勇作がいる。

 

 

「どうやらあのロシア人は第7師団と合流していたようですね。今ならここから狙えますが一発でも撃てば月島軍曹たちにも気づかれますな。英作殿、どうされます」

「参ったな、勇作の前での殺しは胸が痛むぜ……。鯉登と月島だけならともかく、菊田特務曹長までいるとなれば恐らく、ここで鶴見中尉殿も合流するよな?」

「そうでしょうな」

 

 

 存在に気づかれることを差し引いても敵に回った狙撃兵など面倒極まりないためヴァシリはここで殺してしまってもいい。

 とはいえそうするとヴァシリがどこまで奴らと情報交換をしているかが問題になってくる。

 ロシア語が堪能な月島がいるのだ、ヴァシリもある程度こちらの情報に通じたと思っていいだろう。また月島らも私と尾形が杉元たちと合流したとすでに知っている可能性が高まってくる。

 

 そもそもなぜ勇作がここにいるのか。

 理由を思考して、そのこと自体に沸き起こる怒りを、どうにか沈めた。

 冷静に冷静に。軍人たるもの常に非情であれ、だ。もちろん、そんな教えなど勇作の生死に比べれば犬の糞みたいなもんなんだけどさ。

 

 

「俺たちの存在はすでにヴァシリが伝えてる可能性が高い、そこは考慮から外していい。……勇作が俺への人質として機能することは鶴見中尉も重々知っているだろう」

 

 

 網走の件が頭に浮かぶ。勇作を殺すことはしないだろうという確信がある。

 菊田特務曹長がいる時点で、鶴見中尉もまたこのビール工場にジャックザリッパーが現れることを予期したというわけで……そうなれば刺青人皮を狙う陣営同士の殺し合いになる可能性だって予想できているはずだ。

 

 

「勇作は餌だな」

「……」

 

 

 ならばあの勇作は俺を誘い出すための餌というわけだ。

 双子の片割れを囮扱いされている。腹の底の怒りは沈み込み、一転して一気に冷たく冴えていく。

 手の中で双眼鏡がミシミシと軋む。

 

 

「殺す必要はない。ヴァシリを行動不能にしろ」

 

 

 囮と共に狙撃兵は厄介払いしてしまいたい。勇作が拘束される気配もなく、あそこにいるならばまだ仲間の一人として扱われているということだから。表立って殺しにかかられる可能性は低いはずだ。そう信じたい。

 ……でもやはり勇作の安全のために月島と菊田特務曹長を殺しておきたくもあるが、これまた完全な私情だ。

 

 

「いいのですか」

「鶴見中尉殿の思惑がどうであれ、勇作は怪我を負った人間を放置できん」

「わかりました」

 

 

 尾形が目盛を立てて覗き込む。

 尾形が狙うのは腹か足か、なんであれ負傷するロシア人とともに勇作にはここで舞台から降りてもらおう。

 そのとき空にジャックザリッパーが現れたことを知らせる合図の花火が打ち上げられた。

 打ち上げられた方角は牛山組のほうだ。尾形が顔を動かさずに視線だけで俺を向く。どうするかと指示を待つ目だ。

 

 

「……当初の予定通り俺が向かう。おまえは狙撃に集中してくれ」

「了解」

 

 

 どちらにせよ、刺青人皮を第7師団にも土方一派にも渡すわけにはいかない。

 

 物見櫓を降りて花火の方へと駆けていく。あ〜〜んもうっ!

 あれもしなきゃこれもしなきゃで大変だなあ!!

 

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