宇佐美の身体をもう一度支えて立たせた。
──勇作は上手いことやれているだろうか、なんて自分で言い出したくせに不安になる。
足りない人手を勇作に手伝ってもらおうと思いついたのはいいものの、正直なところ方や宇佐美、方やジャックザリッパーの相手をさせることになってしまう。
どっちの相手も勇作には荷が重いのでは、と心配でアシㇼパのことは杉元が守るだろうという根拠のない信頼と、合流した尾形をアシㇼパたちの元へ向かわせた。
「ふふ……いま百之助がいたら、どんな顔をするかな……」
血を流しすぎて朦朧としだした意識の中で宇佐美がぼやく。
“勇作”に人を殺させたことが、そんなに嬉しいのかと少しばかり呆れてしまう。そういえば原作でもそんな話があったような、なかったような…どうだったかな。
鶴見中尉にこのことが報告されたとしても、ここまでしてみせた相手をすぐさま切り捨てようとは思わないはずだ。もしくは鶴見中尉ならギリギリまで泳がせようとすると予想している。
花沢中将の息子というだけで、それなりの利用価値があるのだ。
そうして工場を出た。
「花沢少尉」
タイミング悪く待ち構えるように出迎えた鶴見中尉と第7師団の兵士たち。
咄嗟に腰に佩いたままの軍刀へ一瞬意識が向かうが神経を然集中させて手を動かさないように努めた。
鶴見中尉が両手を広げて私たちへと歩み寄る。
「宇佐美上等兵はどうしたのだ」
「あに…尾形上等兵との交戦で負傷いたしました。すんでのところでわたしが間に合ったのですが…尾形上等兵は逃してしまいました」
「そうか。宇佐美上等兵」
鶴見中尉が宇佐美を抱きしめ、支え直す。
朦朧として焦点のあっていなかった宇佐美も鶴見中尉の存在に気がついた。
「鶴見中尉殿…“写し”は勇作殿がお持ちです……門倉部長を捕まえてください……それともう一つ、裏切り者の菊田は勇作、殿が……」
声が尻すぼみになっていき、最後の言葉はしっかりと声になっていなかった。
けれど鶴見中尉にはそれだけで十分だったろう。一瞬だけ真っ黒な光のない黒目が私を見つめた。
「よくやった宇佐美上等兵。やっぱりおまえは信頼できる優秀な兵士で、大切な戦友だ」
そんな言葉に宇佐美は震える手を鶴見中尉の顔へと伸ばす。
「きみが無事でよかった。今はとにかく傷を治しなさい、時重くん。また私のために一番働いておくれ」
「あぁ……篤、四郎さん」
宇佐美の身体から力が抜けた。糸の切れた人形のように首が垂れ下がる。
一体なにを見せられているんだ。内心で呆れてしまったのは秘密だぞ。
・
ズキズキと痛むような気のする胸を押さえながら、立ち上がる。
コートの下に装備していたナガンがまた一丁壊れてしまった。
「ああ、クソ……やるにしたってもう少し手心というか、あまりに急すぎませんかねえ、英作殿……」
花沢勇作にはない右目の傷跡ですぐに向かい合う相手が弟の英作の方だと気がついた。
宇佐美が気づかなかったのはきっと英作自身が宇佐美に傷のある方を見せないように顔の角度を調整していたことと、それに加えて宇佐美が花沢兄弟のどちらにも嫌悪はあれ一片の興味も抱いていなかったからだろう。
……それにしても気づけ、という話だが…まあこちらとしては都合がいいので有り難く利用させてもらおう。
宇佐美が気づかなくとも、その上の鶴見中尉が気づかないはずもないのだが。
花沢英作の生存と目的は、元情報将校であるフミエさんから人づてに聞かされていた。
俺がナガンを収集して胴体に装備していることはそれなりに有名だという自負がある。おそらく英作もそれを知っていたのだろう。
と、それがああしてこうなっているわけだから、死んだふりをして自分のために働けということなのだと理解した。
「……とりあえず入れ替わってるはずの勇作殿を探すか……」
再びぼやく。少しずつ煙の広がり出した工場内をさらに進んだ。