勇作殿の片割れは即断即決裏目ボーイ   作:あん仔

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前半ちょっとシライシです


函館へ

 

「なあ俺の家臣になれよ」

 

 

 房太郎のそんな声が聞こえて、あーあ…と何故だか思った。

 

 

「そうそう、それでね〜」

「えぇっ!! そんなことが…!?」

 

 

 嬉々として語る杉元に、少しばかり大仰な反応を返すのは英作の双子の片割れだという花沢勇作だ。

 よくよく見れば顔の傷が違うのだが、よく似た顔だちをしており初見ではすぐには気づけないだろう。事実、白石も札幌停車場に現れた勇作を英作と間違えた。

 

 

(英作ちゃんとはあんまり似てないって言ってたのは杉元だっけか……)

 

 

 杉元のオチのない話にも目を輝かせ、朗らかに笑う勇作はこうして改めて見ると確かに全く違っている。

 当の英作は房太郎に絡まれながらも、真っ直ぐに勇作を見つめている。その眼差しの柔らかさときたら、あまりの〝らしくなさ〟に白石は思わず鳥肌を立ててしまった。

 

 白石の知る花沢英作という男は、もっと、こう……そんな柔らかな目をする男じゃなかった。白石的には杉元並に物騒で危険なやつという認識だった。

 そりゃあたかだか一年と少しの……それもこの金塊争奪戦でだけの浅い縁ではある。

 

 会って間もないころには、偉そうに命令をされてなんだコイツは元のくせに軍人ぶりやがって、と腐ったものだ。

 育ちがいいんだと、あとから知った。

 自らを前線から逃げ出した臆病者の脱走兵だと嘯いて、会って間もない囚人が死なないように声を荒げたこともあった。

 

 

(……物騒だけど、まあ……いい奴だよな)

 

 

 それこそ杉元と同じく──。

 

 英作は、この金塊争奪戦がなければ出会うどころかすれ違うことすらなかった類いの人間だ。

 まず生まれた世界が違う。育った世界もまるっきり違って、これから生きる世界だって決して交わることはないだろう。

 

 家族が大事で、家族のために国を背負って、守りたいと願うからこそ己は強靭であるように振る舞ってる。そんな英作にまつわる全てのことが白石にとっては縁遠く、だからこそアホらしいと他人事で鼻白らむ。

 

 

(実際は結構ドジるし、たま〜に見たまんま人に嫌われそうなタチをしてる尾形ちゃんと同じくらい意地の悪いことを言ってくる……でも妙に面倒見はいいんだよな、身内でもない奴を庇ったり怪我人の世話を焼いたりしちゃってさ)

 

 

 偉ぶっていけすかない軍人の中に、英作のような人間もいると知れただけでも今回は得るものがあったかもしれない。

 いややっぱりここまで必死に駆け回って、金塊がなかったら暴れて三日は寝込む。

 

 

(金塊のためにここまでしたんだから、少しくらいのおこぼれが欲しいもんだぜ……)

 

 

 どれだけ違う人間であっても英作はよほど嫌おうと思わなければ、嫌いになれない性格をしていた。自然と人が集まってくる性質とでもいうべきか。

 双子の片割れだという勇作を見てみれば、なるほど育った環境や周囲の人間が初めから良いものだったのだろうと納得で──。

 

 

「はぁ?」

 

 

 白石はそんなことを考えながらウトウトとしていた。ふと英作が声を上げる。

 閉じかけていた瞼を開けると、英作がコチラを見ていた。ギョッとして眠気が飛び去る。

 

 

「え、エッ、なに?」

「シライシ〜〜、お前〜〜〜」

 

 

 目に険を乗せ、英作が責めるように白石を呼ぶ。

 

 

(エッなに、俺なんかしちゃった?)

 

 

 眉を吊り上げた英作が座席から立ち上がり、白石の目の前までやってくる。

 直前に英作のことを考えていたこともあり、無駄に慌ててしまう。

 

 

「シャチの竜田揚げだと……私のいない間に美味そうなもん食いやがって……」

「エッそれ!?」

 

 

 勢いよく隣に座った英作に睨まれる。

 そんなことでそんな真剣な顔してんの、この子!? と白石は杉元や勇作の方へと目を向けた。

 

 

「そういえば確かにあんときゃ英作さんはいなかったな」

「あはは……英作は昔っから好奇心が強いから……」

 

 

 思い出すように顎をさする杉元に、勇作の方は苦笑とともに頭を掻いていた。

 見てないで止めてほしい、と白石は思うが誰も止めちゃくれないのである。

 

 

「ズルッ! ズルくないッ!?」

「え〜〜〜……そんなこと言われてもぉ…」

 

 

 シャチの竜田揚げと言われて、記憶が蘇ってくる。確かにそんなこともあったな。

 それにしたって英作ちゃん、なんだか幼児返りでもしてるの? とでも言うような様変わりぶりだ。

 双子の片割れがいて軍人モードが緩んでいるんだろうか。

 

 

「房太郎の勧誘がしつけえから、ちょっと盾になっとけ、白石」

 

 

(アッそういうね?)

 

 ボソリと呟かれた英作の言葉に白石も、納得──。

 

 

「お前、あとで絶対に私にもシャチの竜田揚げを作れよ。作らなかったらケツが腫れるまでしばいてやるからな」

「やめてぇ??」

 

 

「シャチか……食ったことねえなあ、どんな味かな……」

 

 

 目を輝かせる英作に──これ本気のやつだあ、と白石は思わず遠い目をしてしまった。

 そういえばラッコを食べるのにもやたらと乗り気だったような天竜人…いや、あのときの記憶を思い出すのはやめよう。忘れておいた方がいいこともある。

 すべてが終わったあと、ご所望のシャチの竜田揚げを用意しなければ本気でケツをしばかれてしまうのだろう。

 

 そこまで考えて白石は思わず吹き出してしまった。

 

 

(ほ〜んとに厄介な子だよな! 英作ちゃんってよ!)

 

 

 

 

 ⭐︎

 

 

 

 

 ふとアシㇼパに名前を呼ばれた。

 

 

「……解けたみたいだ!」

 

 

 そして金塊の在処が明らかとなる。汽車の床に広げられた刺青人皮はとある建物の形を描き出していた。

 

 

「五稜郭だ──」

 

 

 金塊の隠し場所が明らかとなった。

 門倉が自分のスジ彫りの場所を刺青人皮の五稜郭図の上へと広げていく。

 五稜郭の、特徴的な星の形を作る上では別にあってもなくてもいいなあ……。

 しかし脳裏にいつかの日に見た五稜郭の全体図を思い出す。

 

 

「……」

 

 

 思わず勇作の方を振り向く。勇作も同じことを思っていたのか、ちょうど目が合った。

 これの地図さあ……実家の蔵にあったよな?

 年齢的に父上ではないだろうから、祖父か父の兄あたりが実際に戦っていたのだろうか。なんか因縁めいててイヤだぁ……。

 

 

《はこだて〜〜》

 

 

 ちょうど汽車も函館に着いたようだ。

 

 

「ふうん……最後の目的地がわかったのがいいが、俺たちはどうすりゃいい?」

 

 

 停車場へと降りながら土方へ声をかけた。とはいえ、だからといって金塊の在処まで知られたからには放っておくわけにも行かないだろう。

 

 

「明治政府への人質として自分が機能すると言ったのは貴様だ」

「そりゃな? ただこれから五稜郭に行くってんなら俺を連れていくのは良い手とは言えねえよな。わかっていると思うが、俺はいくらでもどうにかするぞ」

 

 

 土方にギロリと睨まれ、肩をすくめる。だって事実なんだもの。

 出来れば勇作だけでも、どうにか別の場所に……まあ無理か。

 鶴見中尉がいつ追いつくかも定かじゃない現状では人手が足りないよな。

 

 

「もう戦力にならなそうなのも混じってるじゃねえか、足手まといになるだけじゃないかね」

「あの男が大人しく引き下がるとも思えんな」

「あれぇ? もしかして俺の話してる〜?」

 

 

 クテンと首を傾げて、海賊が入ってきた。そうだよ、お前の話だ。

 服が乾いて、ビール臭は比較的マシになったがシャツには黒く固まった血痕ががっつりと残っている。

 

 

「まあまあまあ。とりあえず腹ごなしでもどうだい? 腹が空いてちゃ戦もなんとやらだろ?」

「……」

「……」

「な! お二人さん!」

 

 

 土方との間に今度は杉元が割り込んでくる。

 別に殺し合いに発展しようってわけでもないんだが、おまえには仲裁に入ってこられたくないんだよなあ……どの口がというかなんというか、ネ。

 

 

「俺の心配までしてくれてるのやさし〜ね、おたくの弟さん」

「! ああ、そうなんだ。英作は口が悪くて、よく勘違いされてしまうけど優しいやつでね」

「ウンウン──」

 

「とりあえず、大人しく引き下がって貰えりゃいいんだな?」

「──あ゛?」

 

 

 勇作へと話しかけていた房太郎の膝を横に蹴り付けた。ガクン…と房太郎の身体が崩れる、そして位置の低くなった房太郎の首へ腕を回した。

 

 

「房太郎くんってば、気ィ抜いちゃってか〜わ〜い〜い〜」

「てめ…ぇ、ふざけっ……」

「王になるってんならまずは生き残ることだぜ、房太郎」

 

 

 房太郎の爪が軍服に食い込んできた。血走った目にギョロリと睨みつけられる。

 そんな抵抗をする房太郎を見下ろしながら腕へとさらに力をこめていく。

 しばらくそうしていればグルンと房太郎の黒目が裏側へ移動する。フッと身体から力が抜けていき、私も腕の力を抜いた。

 おそらくだけと負傷してたから、ここまで簡単に落とせたんだろうな、と。通常状態だともっと手こずったろう。

 

 

「じゃあ、置いてくところを探すか」

「ふむ……適当に話のわかる医者がいるな」

「いいね。ついでに鎮静剤もたっぷり打ってもらおうか」

 

 

 力の抜けた房太郎の身体を持ちあげて肩に担ぐ。世が世ならファイヤーマンズキャリーだとか呼ばれている担ぎ方だ。

 

 

「夏太郎、医者を探して来い」

「えっ、は、はい!」

「あれ……英作ちゃんと土方って実は仲良し……?」

「ンなわけないだろ」

「いずれは殺し合う」

 

 

 降伏するっつってんのにまだ殺し合い希望かよ、このおじいちゃん。新撰組って本当に血の気が荒いんだから〜!

 

 

「なんだよ、おじいちゃん。殺し合いたいの」

「……示現流とは因縁がある」

「へえ……」

 

 

 心の底からイヤな縁なんだよな〜。

 というか土方は本当に私も勇作も連れてくつもりなのか。いざとなったら、私に都合のいいようにどうにかしちゃうけど…本当にいいんですか?

 

 

「おっイカの串焼きがあるぜ! おじいちゃ〜ん! 買って買ってぇ〜!」

「オイッ! 調子に乗るなよ、タコ坊主! ……いくつだ?」

「ヤッタ〜!」

 

 

 停車場を出て、通りに出た途端に風に乗ってイカの串焼きの香ばしい匂いがしてきた。

 そういや何も食ってねえな。とおそらく全員が空腹を思い出したのだろう。

 いの一番に白石が永倉と土方にタカリにいった。さすがの早技である。

 

 

「花沢少尉、俺が運びます」

「うん、ああ…悪いな」

 

 

 海賊を有古へと受け渡す。

 

 

「貴様らもいるのかッ!? そこの薩人!」

「別にいら……」

 

 

 ギャンと永倉に怒鳴られ、咄嗟に怒鳴り返そうとしたときだ。隣の勇作の腹が大きな音を響かせた。

 勇作は腹を抑えて、顔を赤く染めていく。とても恥ずかしそうである。

 たまらずダル絡みしそうになるのをグッと堪えた。

 

 

「……す、すまん」

「一本くれ」

「ケッ! 育ち盛りめが!」

 

 

 毒づきながらイカの串焼きを買ってくれるのはなんなの。ツンデレなの?

 

 

「どうも小腹が空いてしまって…」

「半日移動しっぱなしなんだ、仕方ないって」

「英作は平気かい」

「うん」

 

 

 夏太郎が戻ってきて有古とともに診療所へ房太郎を運んだ。医者の指示で視察台へと寝かせる。

 町医者は看護婦とともにバタバタと治療の準備を始め──見張りのつもりか付いてきた土方はさらに門倉たちへ金塊を運び出すための荷車の手配を指示している。

 

 

「それで、貴様らは……」

 

 

 土方が私と勇作を振り向く。

 

 

「勇作もついでに診てもらえ、その足じゃ歩くのも辛いんじゃないか」

「なッ…! おまえだって怪我をしてるだろ! 言っておくけど太ももより腹の傷の方が重傷だからな!」

「もういいやめろ。貴様ら、二人とも残れ。五稜郭までついて来られても殺すしかないからな」

 

 

 眉間に皺を作り、呆れたように告げる土方に思わずきょとんとしてしまう。瞬きをして、渋面の土方を見つめる。

 

 

「え〜〜〜、いいんですかぁ? 俺と勇作を揃って自由にしちゃってえ? いくらなんでも舐めすぎじゃねえの、おじいちゃん? 耄碌したかよ」

「英作!」

「フン……好きに言え。第七師団を相手にするのは想定内、そして奴らを倒せば次は貴様を相手取ることになる……そうだろう?」

 

 

 やはりどこまでも好戦的に笑う土方に呆れてしまう。さすがにここまできて殺意は感じないというもののだ。

 

 

「この期に及んで戦争希望かよ。アンタだって今の世界情勢を知らんわけじゃないだろうに、混乱なんて起こせば日本は沈むぞ」

「それも──ロシアの南下を防がなければ時間の問題だろう。そしておそらく……最終的な結末は誰が金塊を手にしようとも変わらん」

 

 

 そんな土方の言葉になんとなく理解してしまった。

 もちろんそれは私の願望まじりの勝手な憶測に過ぎないが、新撰組も時代の潮流に飲み込まれ敗者となっただけで国士、だったのかも。なーんてな。あの時代を知らない私がどう思おうが妄想にすぎまい。

 

 

「そうかい、それじゃあこっちはこっちで好きにさせてもらおうぜ。おじいちゃん」

「ああ、好きにしろ。夏太郎、軍刀と拳銃を返してやれ」

「エッ! い、いいんすか……?」

「どちらも手負いだ。その状態でどう足掻くつもりなのか、お手並み拝見と行こうか、クソガキ」

 

 

 びっくりした顔の夏太郎から軍刀と拳銃を返却された。こっちもびっくりなんだよ。本当にどうしたの……?

 絶対に殺しといた方がいいけどね……。

 

 

「ハッ、このクソジジイ」

 

 

 夏太郎と門倉を連れて、去っていく土方に小さく毒づく。カッコつけやがってえ〜!

 帯刀ベルトを付け直し、勇作の太ももの手当てを医者に依頼した。ついでに私もシャツを脱いで腹の傷を診てもらう。

 

 

「どうするんだい、英作」

「そりゃあ、向こうのお望み通りに戦争しかねえだろ」

「相変わらずの蛮族ぶりだね! エイサクっ!」

 

 

 突然の声にギョッと度肝を抜かれた。度肝を抜かすのなんて初めてだぞ。

 そして振り向くと診療所の奥から看護婦姿の見知った顔がタバコを咥えて現れたのである。

 

 

「フミエ!? おまえだったの!?」

「そうアタシだよッ!」

「誰ッ!?」

 

 

 勇作の悲鳴のような声が診療所に響いた。

 

 

 

 ★

 

 

「話は菊田と勇作少尉から聞いてるよ」

「勇作?」

 

 

 フミエの言葉に勇作を確認すれば、照れくさそうに頬を掻いてはにかんでいる。うーん…これは品行方正。数多の妨害も虚しく聯隊騎手に選ばれるはずである。

 

 

「杉元たちの元に行く前に電報を打っておいたんだ、山田殿の連絡先なら教えてもらっていたから」

「でかした! さすが勇作! 愛してるぞ!」

「うん、知ってるよ」

 

 

 タバコを咥えたままのフミエが一枚の紙を掲げる。

 

 

「それから菊田からも連絡があったのと、つい一時間前に鶴見が各地の部下たちに電報を送ったおかげでここ函館の五稜郭にいるとわかったわけさ」

 

 

 電報には《大至急五稜郭へ》と記されている。発信人は当然のように鶴見中尉だ。

 鶴見中尉も暗号を解いたらしい。汽車で移動するとして少なくとも半日……。午後の函館行きの汽車は出発しているが、鶴見中尉がそれを律儀に待つわけもない。

 

 

「私たちも動かなきゃな。フミエ! 準備はどれだけできてる?」

「先んじて連絡はしてあるけどね、距離もある。言っておくが十二時間じゃかなり厳しいよ!」

 

 

 バタバタとシャツを羽織った。にわかに忙しくなってきた。

 あとは仮にも脱走兵である私が受け入れられるかという問題もあるにはあるが、そこはどうにかする。

 うん、こっちはこっちで上手く行きそうだ。

 

 

 

 

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