勇作殿の片割れは即断即決裏目ボーイ   作:あん仔

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夕張の鹿男

 夕張に着いた途端、尾形がふらりと離れようとしたので繋がれたままだった手に力を込めた。

 抗議するように尾形は目を細めて私をジッと見つめてくる。

 

 

「月島がいる」

「だとしても勝手に離れようとしない。報告連絡相談は基本だっての……強襲するか?」

「いや、月島がいるなら鶴見中尉がここで何かをしているってことだから、それを探る」

 

 

 行きたい方向を指差しながら言う尾形に、ふむと頷く。

 繋いでいた手を離し、その方へ足を進めた。

 

 

「わかった、そうしよう。指揮はおまえがとれ。予行練習だ」

「…………了解」

 

 

 目を点にしていた尾形は髪を撫でつけ、思考を切り替えたように口の端を吊り上げる。

 月島の様子を窺うと、どうやら剥製屋に逗留しているらしいと分かる。

 剥製屋……、なーんか、いや〜な予感がしますねえ?

 そういや原作で偽物刺青人皮とかそんな話もあったかも〜〜!!

 

 

 あったかも〜〜!!(エコー)

 

 

「で、どう動く」

 

 

 月島が桶を持って銭湯に向かったのを確認してから尾形へ問いかける。

 指揮官は尾形だからね。

 

 

「前山をやります。それから剥製屋に中尉殿の目的を吐かせましょう。月島は長風呂です、剥製屋に吐かせるだけの余裕はあるかと」

「それだけだと作戦の根拠として薄いな。どんな不測で月島が戻ってくるか分からんぞ。悠長にやる時間はない。剥製屋を攫って場所を変えたらどうだ」

「……指揮官は俺では?」

「尾形上等兵殿〜〜、これは提案であります。採用するかどうかは指揮官殿にお任せします」

 

 

 ジッと見つめ合う。

 こんな揉める時間も勿体無いんだけど。

 

 

「分かりました。採用します、強襲は任せても?」

「もちろん。指示をください」

「……俺が前山を撃つのと同時に剥製屋を確保しろ」

「了解」

 

 

 木の幹に銃剣を刺し、小銃の支えとした尾形が剥製屋に狙いをつける。

 私も動いて、玄関へと寄っていった。

 

 窓には鉄格子。

 出入り口は玄関しかないようだ。

 泥棒の侵入を警戒してのものか、それとも内にいる誰かを逃さないためなのかは判断が難しい。

 玄関には鍵が閉められていた。仕方なく蹴破り、建物内に侵入する。

 途中で壁に立てかけられていた小銃のボルトを抜いた。

 

 

「ちょっと! 前山さんですか? 何度言えば扉を静かに閉めて頂けるんでしょうかね?」

 

 

 うわっ……、なんだアレ……。

 美青年といった顔立ちの剥製屋のズボンがなんか、変。

 足の間にもう一本の足がブラついている。いや下ネタでなくてだな。

 

 

「あれ、前山さんじゃないんですか? じゃあ、月島さんが戻ってきたのかな……月島さ〜ん?」

 

 

 銃剣を握ったまま物陰に身を潜めて様子を窺う。

 窓の割れる音がして、前山の身体が床に倒れた。遅れて銃声。

 

 

「………え、前山さん?」

 

 

 突然倒れた前山に固まる剥製屋の首に腕を回して、締め落とす。

 失神して、力の抜けた剥製屋を腕に抱えてそっと、床に寝かせた。

 とりあえず、この気持ち悪い三本足のズボンを脱がせたい。こんなの着てる奴を担いでいたら目立ってしまう。

 

 

「っ……どうやって脱がすんだぁ!? これぇ!?」

 

 

 構造が前衛的すぎて脱がし方が分からない。しゃあねえ、斬るか。

 銃剣を握り直したところで、外から拳銃の銃声が聞こえた。

 

 尾形が何かを伝えようとしている。

 例えば月島が戻ってきたとか。

 剥製屋を攫うか、鶴見中尉に生存を知られるか。天秤にかけて、歯軋りをする。

 

 銃剣を握ったまま物陰へ潜んだ。

 

 

 

「江渡貝ッ! 生きてるか!」

「は、つ、月島さん!! 大変です、前山さんが!!」

 

 

 意識を失っていた剥製屋に駆け寄って月島が支え起こす。

 ここで鶴見中尉の目的を聞けたら当初のこっちの目的は果たせる。

 息を殺して耳を澄ませる。

 

 

「……わかっている。場所を移すぞ江渡貝くん」

「は、はい!」

 

 

 月島が動こうとしたところで、窓が割れて床に銃痕が出来る。

 尾形が狙撃しているようだ。

 う〜ん、ここで月島を殺して剥製屋を捕らえろということだろうか。

 

 

「わぁ! また狙撃ですよぉ! 月島さぁん!!」

「動きづらい! 抱きつくな! くそ、尾形め……!!」

 

 

 月島の目がギラギラとしている。

 え〜〜ん、なんで尾形は月島のこと中に入れたの〜〜????

 やだ〜〜、私が殺るしかないの〜〜????

 でもでも鶴見中尉に生きてるってバレたくないよ〜〜〜〜!!!!

 

 ここで月島を仕損じての、もしもを考えると動きづらい。

 月島は経験豊富な叩き上げの兵士だ。殺す気でやらなければこちらが殺されるだろう。

 しかしそうすると江渡貝に注意を払えない。隙をみて逃げられるかもしれない。

 江渡貝の誘拐が目的のため、殺すのも逃すのも悪手だ。

 江渡貝を先に殺すのも逃すのはもちろんのこと月島を仕損じるのもだめ。

 やだやだ尾形に私のかっこいいところ見せたいのに!

 

 せめて何か顔を隠せるもの……、とあたりを見渡して目に入ったのは。

 

 

 

 物陰を移動して、それを被った。

 

 

 ★

 

 

 額を撃ち抜かれた前山の死体を前にして、月島は奥歯を噛み締める。

 ぎり、と歯が軋んだ音をだす。

 窓から見える木々の間に軍服が一瞬見えた。

 屋外からこれほどの精密射撃を行えるのは、第7師団において、尾形を含めて二人のみだった。

 

 残るもう一人はすでに戦死しているため、必然的に狙撃手の正体は尾形となる。

 窓からの狙撃を警戒しながら、江渡貝とともに部屋を移動した。

 この家に出入り口は玄関しかない。当然、尾形はその機会を待ち構えているだろう。

 

 

(鶴見中尉を裏切った上に、邪魔までしようとはな……!!)

 

 

 壁に立てかけておいた歩兵銃からはボルトを抜かれていたため、武器は銃剣しかない。

 顔を青ざめさせながら、完成したばかりの偽物の刺青人皮を脱がすのを見守る。

 

 

「急がないと、急がないと!」

 

 

 つい直前まで意識を失わされていたとは思えない機敏さで江渡貝は動いている。

 

 

(……まて、江渡貝は気絶していた?)

 

 

 ジャキ、と音が背後でした。

 握りしめた銃剣をもって背後へ突き刺しながら振り返る。

 銃身を銃剣の刃で上方へと逸らした。

 

 

 そして見えた()に一瞬思考が止まる。

 

 

 鹿。

 

 

 ズダンッ。

 至近距離の銃声が鼓膜を揺らす。耳のスレスレを弾が走った。

 上へとずらした銃身を掴んで、銃剣を鹿の被り物をした何者かの首へと突き刺そうと一歩踏み込む。

 

 

「ッラァ!!!」

「むんッ!」

 

 

 刃が届く寸前に腹を蹴り上げられて、身体ごと飛ばされた。

 背骨が軋む。

 両足が僅かに浮くほどの鈍い衝撃があった。

 鹿男の手には歩兵銃がある。距離を取られてはジリ貧だ。

 月島は歯を食い縛りたたらを踏みながら、どうにか銃身から手を離さずに射線を逸らし続ける。

 銃を構える隙を与えないために銃剣で鹿男へ突こうとするも手首を掴まれてしまう。

 こめかみに血管が浮くほど、月島は両腕に力を込める。

 

(銃剣の先が鹿男に届けば……!!)

 

 

 それはおそらく鹿男も同じであった。銃身を握られた歩兵銃が震えるほどの力をもって、どうにか月島の方へと動かそうとしているのが見て取れる。

 腕力は五分(ごぶ)

 完全に事態は膠着していた。

 

 

「月島さん!!!」

「ッ……!!! 隠れろ、隙をみて逃げろ……!! 江渡貝ぃ……!!!」

 

 

(ついさっき江渡貝を気絶させたのはコイツか……!!)

 

 

 再び拳銃の銃声が外から聞こえた。

 江渡貝が刺青人皮を鞄に詰めて、外へ駆け出したのを見届けてから月島はギリギリと歯を食い縛る。

 

 江渡貝の作業部屋には窓がない。

 この鹿男は尾形の仲間だろう。

 屋外の尾形からの援護もない今が倒す唯一の機会である。

 

 

「誰だッ……!! 貴様はッ……!!」

「ヴッ……!!!」

 

 

 さらに一歩、鹿男へ踏み込んで下から頭突きを食らわせた。

 鈍い感触。鹿男が小さく呻く。

 

 

「ッ」

 

 

 鹿男に足を踏まれた。

 踏み潰すように体重がかけられており、一瞬月島の意識がそちらへ。

 鹿男が銃を離す。腰にさげていた銃剣を抜くと刃を回転させ再び月島の腹を蹴り上げた。

 

 

 ガタン、と大きな音をたてて、月島の体が床に倒れる。

 銃剣を持つ手から鹿男の手が離れており、月島の腹へ馬乗りとなった鹿男がそのまま月島へ銃剣を振り下ろす。

 

 

「うわっ鹿男だ!!!」

 

 

 そんな間抜けな声に鹿男の意識が一瞬逸れる。

 鹿男の横面を銃剣の柄で殴りつける。

 グルンと鹿の頭が一回転して、再び正面を向く。

 その隙に鹿男の足の間からどうにか這い出て月島は立ち上がった。床に転がる歩兵銃を手に取ろうと、伸ばし──。

 

 

「動くな!!!」

 

 

 鋭い声とともに月島へと弾が撃ちこまれた。

 

 銃弾を避けながら床を転がり銃を掴んだまま月島は剥製の後ろへ移動し身を潜める。

 顔に傷のある男。杉元が銃を構えていた。

 再度発砲された杉元の銃弾が床に穴を開ける。

 

 

(ここにきて不死身の杉元まで手に負えんぞ!!)

 

 

 ギリ、とまた奥歯が軋んだ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 逃げた江渡貝くんは頼んだぞぉ!! 尾形ぁあ!!!

 

 

 という気持ちで月島とやり合っていた。現れた白石と杉元に戦闘は中断されて、どうしたものかと物陰に隠れる。

 歩兵銃を奪られた。

 今の私は鹿の頭を被っているため、杉元達の前には出られない。

 出たとして、月島がいる限り正体を明かせないのだ。

 鹿の剥製を被った男が目の前にいたら普通に撃つでしょ。

 そういうことだよ。

 ま〜た私の装備が銃剣だけになってしまった。

 

 はて、これからどうしたものか。

 杉元と月島を避けながら、物陰を移動する。どうやら月島も隠れているようで、杉元たちが探している声がしている。

 

 どうすんだよ、これ……。

 ……つけるか、火……?

 いやでも。

 

 

「うわっ狙撃だ!! しゃがめ! 白石!!」

「えぇえ!?」

 

 

 窓が割れる音がした。遅れて銃声が聞こえる。

 どうやら尾形はまだ援護しているらしい。江渡貝くんは確保したよね?

 したよね?? ねっ??

 

 それなら月島と杉元たちを建物内でぶつからせて、その隙に……。

 ともかく江渡貝くんが偽物の刺青人皮を作ったことは把握している。せめて見分け方だけでも聞き出さないとならない。

 

 

 月島さえ殺せたら、あとは一気に簡単になるんだけどな……。

 

 

 

「あぶねえから白石は下がってろ!」

「ク〜ン」

 

 

 普段通りの会話が聞こえてくる。

 月島ぁ!! どこだぁ!!

 杉元たちに見つからないように月島を探す。

 先におまえを殺せなきゃ話が進まねえ!!!

 

 離れた場所から銃声が二発。けれど外からではない。

 

 

「鉄格子が……さっきの兵士が逃げたのか……?」

「追う?」

「いや、この家が気になる」

 

 

 そんな声がして、思わず舌打ちをしそうになってしまった。

 声がしている方向は尾形の位置から真反対だ。狙撃を警戒して逆側から逃げたということだろう。

 月島が逃げたなら顔を出せるけど……。

 

 

 床に転がる人皮のサンプルを拾い上げた。

 

 

「白石! 気をつけろよ! まだ中にあの鹿男がいるかもしれねえ!!」

 

 

 少し離れた別の部屋から杉元の声が聞こえた。

 

 

 

「白石〜〜」

「ぎゃっ」

「し〜〜、静かにしないと頭かじっちゃうぞ〜〜。白石。これを杉元に見せてやって。逃げた兵士を捕まえないと偽物の刺青人皮が出回っちまうぜ」

「ひんっ、えっ、えいさ──」

「今の私は謎の鹿おじさんだ。あとで合流するから秘密にしろよ」

 

 

 コクコクと頷く白石にサンプルを渡して、手を離した。

 白石が杉元の方へ駆け寄っていくのを見送る。

 

 

 よし、これでゆっくり探せる。

 江渡貝君が逃げて部屋を出たすぐあとに杉元たちがやって来た。

 

 窓側に立ち、尾形へ合図をする。

 

 

 尾形が江渡貝くんを捕まえていないのなら、江渡貝くんはまだ建物の中にいる。

 

 

「それで?」

「鶴見中尉の目的は偽物の刺青人皮の製作だった。杉元たちに月島を追わせているから、そこは置いといていい。江渡貝はまだ中にいるはずだ」

「手分けか」

 

 

 壁に立てかけられたままの歩兵銃を拾い上げて、抜いたままだったボルトを入れ直す。

 月島という脅威が去ったので、ここは尾形と手分けをするのが手っ取り早い。

 ツーマンセルで周囲を警戒しながら、一つ一つ部屋を確認していく。

 

 

「なんだこりゃ。いい趣味してるじゃねえか」

「そうかな〜〜??」

 

 

 人間剥製の部屋に尾形の瞳孔が僅かに開く。

 

 

「剥製屋の坊やはどうやら中尉殿にぞっこんらしいですね。これは懐柔は難しいかも……」

「あ」

「しまった……逃げられた」

 

 

 建物内をぐるりと回ったあと、戻ると白熊の子供の剥製が消えていた。

 

 

「二人もいて、気づかねえのかよ!」

「普通、思いつかんでしょう! 剥製の中に隠れとるなんざ!」

「それはそう!」

 

 

 二人で白熊を探しに建物の外へ向かう。

 

 

「ともかく月島より先にとっ捕まえないと……いつまでその頭は被ってるんです?」

「月島が死ぬまでだよ!」

 

 

 聞き込みしながら夕張の街を駆けていく。

 ちなみに私はずっと鹿の剥製を被っている。

 

 

「鶴見さんッ! 鶴見さんッ!」

「江渡貝く〜〜ん」

 

 

 ようやく見つけた江渡貝くんに尾形が銃を構えて近づいていく。

 二足歩行の白熊はやたらと目を引くため、たぶん一番早く見つけられたはずだ。

 

 

「鶴見中尉という死神に関わったのが運の尽きだ」

 

 

 おうおうノリノリやんけ。尾形を見守る姿勢に入ろうとしたとき視界の端でチカ、と光が見えた。

 尾形に飛び付き、身体を伏せさせる。

 

 ズダン。

 尾形のいた位置に銃弾が当たった。

 

 

「乗れ! 江渡貝ッ!」

 

 

 その隙を見て月島が江渡貝くんをトロッコに引っ張り上げた。

 トロッコが離れていく。

 

 

「いたっ! 俺たちもトロッコで追いかけるぞ!」

 

 

 杉元の大きな声が聞こえた。

 月島江渡貝の乗るトロッコと、それを追う杉元白石の乗るトロッコ。

 

 

「連中が潰し合うのを待って、刺青人皮を掠め取りましょう」

「ノリノリっすね」

「……何か問題でも?」

「いや、やる気があるのはいいことだ。……ところでさっきなんで月島を家の中に入れた?」

「……英作殿が兵士を殺すところが見たくて……」

「こわいよ、その欲求」

 

 

 そして私と尾形もトロッコに乗り込み、坑道へと突っ込んだ。

 

 

 

「今のは少し傷つきましたよ」

「でも私におまえが女を抱いてるところを見たいって言われたら、おまえだってこわくなるだろ?」

「…………別に…………?」

「うそこけ」

 

 

 尾形の言葉を鼻で笑う。ならなんだよ、その妙な間は。

 

 

「ははあッ」

 

 

 切り替わったレールを狙撃し、私たちの乗るトロッコは月島と江渡貝のトロッコと同じ道を進む。

 江渡貝が振り返り顔を青ざめた。

 自分たちを追いかけてくるのは、前山を殺した男と鹿頭の男だ。

 こわいよね。

 

 

「オイ、止まれ止まれッ」

「マイトに火を点けたぞォ、止まれーッ! 発破に巻き込まれるぞッ!」

「!?」

 

 

 炭鉱夫が叫ぶ。

 

 

「いかん」

 

 

 尾形が歩兵銃でタイヤを巻き込み、トロッコを止めた。

 瞬間前方でダイナマイトが爆発して、大きく空気が揺れる。

 スン。と鼻で空気を吸い込む。ごく僅かな金属の焼ける臭い。

 

 

「ぬぬぬ…、クソッ、英作殿も手伝っちゃくれませんか」

「いや、尾形。今すぐここから離れるぞ」

「? クンクン」

 

 

 尾形も異臭に気づいたらしく鼻を動かしだす。かわいいね、遅いけどね!

 

 

「おいなんか臭わんか」

「金属が焼けたにおいが……」

 

 

 ブワリと異臭が一気に広がった。

 

 

「ガス突出だ!! 発破がガス溜まりを当てちまった!!」

「逃げろぉ! 爆発するぞおお!!!」

 

 

 尾形の襟首を掴んで地面に転がすとその上に覆い被さる。

 爆発が起きて、トロッコがそのままひっくり返った。

 

 

 メタンガスは空気より軽いはずだ。匍匐前進で進めばガスを吸わずに……。

 

 そのとき強い風が坑道内で発生した。掴まっていないと身体ごと吹き飛ばされそうなほどの強い風だ。

 

 

「もどしだ!! さらにデカイハレツ(爆発)が来るかもしれん!! 早く外に逃げろっ!!」

 

 

 続いた爆発によって、目の前が真っ白に染まった。

 

 

「グゥ……ッ! 尾形、……!」

 

 

 運良く岩盤と木材の隙間に倒れていた。

 尾形もなんとか意識があるようで、ボロボロながらも動き出す。

 見当違いの方へ向かおうとした尾形の手を引く。

 

 

「ゲホゲホッ」

 

 

 咳き込みながら、とにかく進み出口へ向かう。

 道すがらガスでやられたのか動かない炭鉱夫たちを踏み越えた。

 

 炭鉱火災の消火法は坑道の密閉しかない。急がないと、出口がなくなる。

 

 

「ゴホッゴホッ」

 

 

 喉が痛い。

 袖で口を押さえる。早く、急がないと尾形まで死ぬ。

 

 

「おい! アンタら、こっちだ! 通風口がこっちにある!」

 

 

 気分はまさしく天の助けだ。

 

 

 

 ★

 

 

「死ぬかと思っだ」

「……」

 

 

 どうにか外に出て、深呼吸をする。そばで見ていた人に水をもらって喉を潤した。

 新鮮な空気が美味い。

 

 鹿の頭を外した。

 まだつけてたのかよ!?

 そうだよ!!! 悪いか!!!

 

 

「おいアンタなんで……」

 

 

 人混みの中に体格のいいスーツの男の背中を見つけた。

 牛山だ。

 一緒に杉元一行もいる。

 

 

「尾形、合流しよう」

「……ああ」

 

 

 尾形と共に牛山の方へと寄っていく。会話を聞くにどうやら知り合いらしい。

 

 

「なんであんたがこんなところに」

「連れたちと夕張に来ていたがふらっと居なくなってな。探していたらお前らがトロッコに乗ってるのを見つけたんだ」

「連れ?」

 

 

 不思議そうに首を傾げる杉元へ、牛山がこちらを顎で示した。

 杉元の目が私と尾形とを交互に見つめ丸くなる。

 

 

「しょうがねえ、そいつら連れてついてこい」

「えっ、英作さんと、おまえは確か鶴見中尉のとこの……なんで牛山と?」

 

 

 同じく呆然とする白石へウインクをしておいた。

 さっきのは秘密な♡

 

 

 

「贋物は……おそらくこの六体の剥製を利用して作られた」

 

 

 剥製屋に戻り、尾形氏による状況の説明が始まった。

 江渡貝くんに作られた贋物は六枚。ただでさえ困難な刺青人皮集めがさらに難易度を増してしまうというわけだ。

 

 

 土方が合流して、空気が一触即発といったものに変わる。

 肩の歩兵銃を下ろしかける杉元に、尾形とアイヌの男が警戒を強めた。

 

 

「久しぶりだな? 白石由竹、お友達を紹介してはくれんのか?」

「ひょっとして……キロランケの村に来たってのはこのジイさんか?」

「……そうだ」

 

 

 アイヌの男が答える。

 ヒィン! 空気が重いヨォ!!

 腰の銃剣をいつでも抜けるように内心で身構えながら様子を窺う。

 杉元が暴れだしたら杉元を、土方が刀を抜いたら土方を止める。

 ともかくここは争う場面じゃねえだろ。

 

 

「のっぺらぼうは本当にアイヌかな?」

「ほお……そこまでたどり着いていたか」

「のっぺらぼうも出し抜こうって魂胆かい? アイヌの埋蔵金でもう一度蝦夷共和国でも作るのか? 土方歳三さん」

「私の父は……!!」

 

 

 アシㇼパの言葉に土方が動く。

 銃剣の柄を握って、一歩、杉元と土方の方へと近づいた。

 

 

「手を組むか、この場で殺し合うか。選べ」

 

 

 グギュルルルルル……。

 

 

「ブフォッ!」

「えっ、英作〜〜!!!」

 

 

 思わず吹き出せば顔を赤くしたアシㇼパに足を踏まれた。

 笑いを堪えながら、すみませんと片手をあげて謝罪の意を伝える。

 アシㇼパの足がグリグリと私の足の甲を踏み躙っている。痛くはないけどやめてね。

 

 

「刺青人皮を持っているなら我々が買い取ろう。一緒に国を憂いてくれとは言わん」

「は?」

「……刺青を売ったカネで故郷に帰り嫁さんでももらって、静かに暮らせる道もあるが若いもんにはつまらん道に聞こえるかね?」

 

 

 永倉の言葉に思わず反応してしまった。

 普通に永倉にはスルーされたが、べしべしと真剣な話を邪魔するなとアシㇼパは無言で頭を叩こうとしてくる。

 いやだって、喧嘩しに来てる人に国を憂うとか言われてもさあ……ねえ?

 

 

「のっぺらぼうに会いに行って確かめたいことがある。それまでに金塊が見つかって貰っちゃ困る」

 

 

 グルルっコロコロコロコロっ。

 

 

「会いにいくだって?」

 

 

 コロコロコロコロっ。

 

 

 コロコロッ。

 

 

「なあに? コロコロって!?」

「私が何か作りましょうか?」

「家永生きてた!?」

 

 

 アシㇼパのお腹の音が止みそうになく、食事をすることになった。

 お腹すいちゃったんだからしょうがないね。

 アシㇼパの頭を撫でくりまわす。

 

 

「英作、どこに行ってたんだ。叔父さんが心配してたぞ」

「村に兵士が来ちゃってさあ、逃げたんだよね〜。一応借りてた服とかは言伝と一緒に近くの知り合いに届けてくれるように頼んだんだけど」

「一応は届いてる。でも心配していたぞ、急にいなくなるから」

「そりゃすまんねえ。あのときマカナックルは海に行ってたから別れの挨拶が出来なかったんだよなあ」

 

 

 なでなでとアシㇼパのデコを撫でる。

 

 

「英作さん、アンタはなんで土方たちと?」

「成り行きってやつ? 村から出るとき脱走兵の尾形について行ったんよ〜」

「へえ……脱走兵、ね」

 

 

 鍋を突きながら何となくの状況を話した。

 私のことなんて土方たちはどうでもいいと思うけどね。

 白石とアシㇼパの間の席に座ったからか、席の離れた尾形がジイッと見つめてくる。

 なんだよ。

 

 

「ていうかさあ、さっき」

「白石オラあーん」

「ぅあづっ!!」

 

 

 白石の口にモツを突っ込む。秘密って言ったろ。

 ……言ってなかったっけ?

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