勇作殿の片割れは即断即決裏目ボーイ   作:あん仔

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脳みそ食え

 

 なんこ鍋とやらを皆で食べる。

 なんこは腸を味噌で煮込んだモツ鍋だとかなんとか。作った張本人である家永が教えてくれた。

 

 

「英作、私もあーんをしてやる」

「あはは、遠慮しとく〜」

「食えッ!!」

「えぇ……」

 

 

 匙を差し出すアシㇼパを拒否しようとすれば、カッと目を見開き怒られた。

 困惑しながら差し出されたモツを口に含む。結構な量のモツを口に入れられてしまった。

 噛み切れない。

 

 

「いいぞぉ、英作ぅ〜。あとでチタタㇷ゚もしような? な?」

「ひゃい……」

 

「おいジイさん、椀貸せ。届かねえだろ」

「私のも頼む」

「チッ仕方ねえな」

 

 

 そんなことをしていると尾形が端の席に座るジイさん二人に声をかけた。

 永倉と土方から椀を受け取り、尾形が家永に渡している。

 アイツ、なんか年寄りには優しいよね。

 

 

「…………アンタら、その顔ぶれでよく手を組めてるな」

 

 

 また怖い顔で杉元が口を開く。

 おっ、一触即発か?

 

 

「特にそこの鶴見中尉の手下だった男……一度寝返ったやつはまた寝返るぜ」

「杉元……お前には殺されかけたが、俺は根に持つ性格じゃねえ。でも今のは傷ついたよ」

 

 

 言い方がもう根に持ってんのよ。

 

 

「食事中に喧嘩すんなよ」

 

 

 テーブルの両側から無言で睨み合う二人に白石がツッコミを入れた。

 私も口を挟みたくてウズウズする。

 モゴモゴと口の中のモツを飲み込むため咀嚼を早めた。

 モツが多すぎて噛み切れない。

 

 それに杉元の言ってることは私にも当てはまっている。

 戦友を裏切って、前線から脱走したわけだし。

 杉元の言葉を借りるなら、一度逃げた奴はまた逃げる、だろうか。

 それを行った理由はあった。

 尾形に脅されたとか、尾形の指示だったとか。

 でも結局選んで行動したのは私だ。

 

 断固として拒絶することもできたわけだしな。

 私の選んだ選択を尾形のせいにはしたくないものだ。

 

 もしも坑道から月島の死体が見つからなければ熊岸長庵という贋札犯を頼りにすることになった。

 せっかく人数はいるので坑道で死体を探す組と剥製屋の建物に残ってヒントを探す組に別れることになった。

 私はアシㇼパと杉元、それから牛山の組み合わせで坑道を探し回っている。

 

 

「英作さん……あの尾形っていう男は信用しない方がいい」

「え、なんで?」

「さっきも言ったけどさ、一度寝返る奴は何度でもってね。アイツは鶴見中尉の手下だったんだし、警戒しといて損はないと思うぜ」

 

 

 わざわざ改めて忠告してくれる杉元に思わず頰が緩んでしまう。

 そして肩を思い切り叩く。

 

 

「いたっ、いたいっ! 強いよ、英作さんッ!」

「私のこと心配してくれてるんだ? 嬉しいよ、杉元、……でもな、私と尾形ってただ旅の道連れってわけでもないからさぁ」

「えっ、それって──」

 

 

「杉元! 英作! 大変だ! 煙が!」

 

 

 杉元に異母兄であると話そうとしたところ、血相を変えてアシㇼパが空を指さす。

 剥製屋の方角から、火事を知らせる煙が見えていた。

 

 

 異常事態。

 

 

「杉元、いつでも発砲が出来るように準備しておけ」

「っ、お、おう!」

 

 

 思考を切り替える。

 肩にかけていた銃を手に取り剥製屋の方へと駆け出した。

 

 

 近付くとダアン、ダアン、と銃声がいくつも響いている。

 結構な数だ。

 建物へ歩兵銃を構える第7師団の兵士たちの軍服。

 坑道で生き延びた月島が鶴見中尉に顛末を報告したというところか。

 贋物を見分ける方法に繋がる証拠を隠滅しに来たわけだ。

 

 

「杉元、中の奴らを頼む。俺は外で注意を引く」

「わかった!!」

 

 

 目の色を変えた杉元とアシㇼパを背負った牛山が真っ直ぐに建物の方へ近づいていく。

 

 銃を構えて、引き金を引く。

 杉元たちを撃とうとしていた兵士の額を撃ち抜いた。

 

 

 ダアン!

 

 すぐに私に気がついて、他の兵士が発砲してくる。木の影へと身を隠して、頭半分と銃口だけを建物へと向ける。

 

 

 銃撃戦が始まった。

 うん、でも、どいつもこいつも射撃にさほどの精度はないな。

 同じように銃弾を避けて、木の幹に隠れ出したが、つま先に頭と、銃身とほんのわずかにでも幹から出れば撃ち抜いた。

 

 

「出るな! そこにいろ! つま先だろうが陰から出たらそこを撃たれるぞ!」

 

 

 ……。

 タイミングを見計らって後退する。向こうは狙撃を警戒して勝手に膠着してくれている。

 建物の裏に回って、杉元たちと合流した。

 

 

「永倉たちを探して合流する。おまえたちは先に月形へ向かえ」

「こいつらと?」

「何の話だ?」

 

 

 そういう感じらしい。

 土方の言葉に困惑する牛山と尾形。杉元には先に話していたのか特に驚いた様子はない。

 

 

「牛山が保護者だね……」

「えぇ??」

 

 

 呟くと牛山は完全に困ったという雰囲気で冷や汗を流している。

 その視線の先にはまた無言で睨み合う杉元と尾形がいた。

 気持ちはわかる、と思わず頷いてしまった。

 

 

 ★

 

 

 

 夕張から月形へ向かう。

 

 

「おい! 尾形やめておけ」

 

 

 道中で見つけたヤマシギを獲ろうと銃を構えた尾形へアシㇼパが制止をかけた。

 

 

「なんでだよ、食うんだろ」

「一羽に当てられたとしても他のが逃げてしまう」

 

 

 ヤマシギの習性を教えてくれるアシㇼパは真剣なそのものだ。

 なのだが、やたら杉元が「や〜い怒られてやんの〜」という顔で尾形をニヤニヤと見ている。

 

 

「フン」

 

 

 髪を撫でつけながら、そっぽを向く尾形の顔を覗き込む。

 久しぶりに淀んだドブ川のような黒目と目が合った。

 表情は変わらず、スンとした能面だ。感情が読み取れない。

 

 

「………」

「英作と尾形も罠を作るのを手伝ってくれ」

「ああ、今行くよ」

 

 

 尾形の拗ねてる顔、見たかったな〜。

 アシㇼパの指示に従い、ヤマシギを獲る為の罠を仕掛けた。

 

 

「たくさん獲れるといいねっ、アシㇼパさんっ」

「これだけ罠を作ったんだ、きっとお腹いっぱい食べれるぞ」

「楽しみだね〜」

「うんうん」

 

 

 目をキラキラとさせて杉元とアシㇼパが話している。

 そんな二人を牛山とともにホッコシとしながら見守るなか、

 

 

「………」

 

 

 無言のくせにやたらと、物言いたげな視線を送ってくる尾形にも気がついてはいた。

 

 早朝。

 野営地から音もなく離れていく尾形の背中を見送る。

 

 

「なんだ、アレ」

「まあ、ムキになってるんじゃないかな」

「まさか。そんなガキじゃあるまいに」

 

 

 同じく起きていたらしい牛山の言葉に、昨日の様子から尾形の内心の予想を答えた。

 アシㇼパと杉元はまだまだ夢の中だ。

 

 

「ちょっと見てくる。アシㇼパたちのことよろしく」

「お〜」

 

 

 牛山に見送られて、尾形を探しに向かった。

 ヤマシギを撃ちに行ったならヤマシギの多いところを探せば自然といる位置の予想もつく。

 

 

「……なんです」

「様子を見に来た」

「随分と暇を持て余していらっしゃるようですな」

 

 

 ヤマシギに狙いをつける尾形を見つけて、近づいていく。

 振り返りもせず尾形が先に声をかけてきた。

 

 

「夕張から何か言いたげだったろう。聞きたいことがあるなら今のうちだぞ」

「……いえ、とくには」

 

 

 ダアン、ダアン。と銃声が響く。

 話しながらで照準が少しズレたのか、飛翔するヤマシギのギリギリで弾は外れたようだ。

 

 

「チッ……」

「ようやく話せるかと思ったんだが、忙しそうだな。また私の用事はあとにするよ」

「用事……? 俺に何か?」

 

 

 背を向けたところで尾形の声が追いかけてきた。

 でもまあ何かをしながら話すようなことでも、急ぎで話しておきたいことでもないしな。

 

 

「あとでいい」

 

 

 ヤマシギ狩りの邪魔をしたら悪いと、手を振り、その場を離れた。

 

 

 野営場所に戻るとアシㇼパと杉元も目を覚ましていた。

 ヤマシギの罠の様子を確認しに向かった。

 縁がなかったのか、あれだけたくさんの罠を仕掛けたにも関わらずヤマシギは二羽のみだった。

 

 

「杉元と英作も羽をむしるの手伝え」

 

 

 むっすりとしながらヤマシギの羽をむしっていくアシㇼパはご機嫌斜めだ。

 ヤマシギの美味しい脳みそを杉元に食べさせたかったんだね。

 

 そこで、三羽のヤマシギを尾形が持って帰ってきた。

 

 

「三羽も……」

「今朝またいなくなったと思ったら……散弾じゃないのによく撃ち落としてこれたもんだ」

「お〜、やるなあ、尾形。すごいぞ」

 

 

 スン、と澄ました顔で髪を撫でつけていた尾形も素直に褒められて悪い気はしないらしい。

 勢いよく胸を張って見本のようなドヤ顔を見せてくれた。

 

 

「腹立つな、こいつ」

「チッ、アシㇼパさんに無理だって言われたからってムキになっちゃってさ……ハンッ」

 

 

 杉元の減らず口に尾形の顔もム、としたものに変わる。

 なんだかよく表情が変わるな〜。

 私と再会したときの変顔ほどじゃないけど……なんか、かわいいんじゃない?

 

 

「まあまあ、これで皆で食えるんだからいいじゃん。な?」

「杉元は銃が下手くそだから妬ましいな」

「別に!」

 

 

 喧嘩に発展しないようにほどほどのところで仲裁したら、アシㇼパが見事に図星をついてくれた。

 プンスコと杉元は全然気にしてないけどねっと言わんばかりにヤマシギの羽をむしるのに熱中し始める。

 気にしてるの丸わかりなんだよな。

 

 

「英作、はい」

「ありがと〜」

「ちんぽ先生、ヤマシギの脳みそです」

 

 

 匙がわりの頭蓋をアシㇼパから受け取り、一息に口に放った。新鮮な脳みそだよ。

 

 

「あ〜ヒンナヒンナ」

「…………」

 

 

 そんな私を僅かに口を開けて呆けた顔で見つめていた尾形の口にも頭蓋骨の匙を突っ込む。

 突っ込むと決めたから突っ込んだ。悪いか。

 

 

「っぐ」

「美味しいなあ、尾形ぁ。ヒンナって言うんだぞ〜」

「、っアンタなあ……っ」

 

 

 口を押さえて、青褪めた尾形が私を睨みつけてくる。

 また滅多にない表情が見れて、自然と頰が緩んだ。

 脳みそ……最初は私もなかなか慣れずに苦労したものだ。

 

 

「意外とイケるだろ、尾形」

「…………」

 

 

 すると尾形の目から険しさが掻き消えて、また表情がいつもの能面に戻ってしまった。

 

 

「あとは内臓ごとチタタㇷ゚にする」

「で〜た〜っ、チタタプっ!」

「チタタプ?」

 

 

 そんな私と尾形を置いて、アシㇼパ先生のアイヌ飯講座は続いていく。

 

 

「アシㇼパさん! 尾形がチタタプって言ってません!」

「…………」

「尾形ぁ………どうしたぁ?」

 

 

「ブフォッ」

「いやあ、賑やかな飯どきだな」

「くく、ほんとに」

 

 

 チクる杉元も、うざい担任みたいなノリのアシㇼパも面白い。

 そのあと出来たヤマシギのチタタㇷ゚を煮込んだオハウはとても美味でした。

 

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