泥中之蓮   作:ふみどり

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構成しなおし&書き直し投稿。プロローグ。


二〇××年 某所

 奇跡のような非現実的なできごとも、起きてしまえばただの事実へと成り下がる。

 百年も前の記憶を持ち合わせているとか、当時の幼馴染みが今世の幼馴染みと酷似しているとか、記憶を前提によくよく周囲を見渡してみれば妙に見覚えのある顔がそこらへんを歩いているとか、どんなに嘘くさくて本当なのだから受け入れるしかない。

 アンタもそう思うでしょうと初対面の見知った顔に笑顔を向ければ、大変わかりやすく「取り急ぎ笑顔らしきものをこしらえてみました」と書かれているうさんくさい表情が返された。

 

「……こいつは久しいですな、()()少尉殿。お噂は伺っておりますよ、今生でもずいぶんと恵まれたご身分のようで」

 

 この煽り方、嫌みったらしい声色、オールバックの髪を撫でつける仕草。やはり一回死んだくらいで直るような生やさしい性悪ではなかったらしい。

 は、と愉快にまかせて俺も肩を揺らした。

 

「お元気そうですね()()上等兵。貴方こそ、今世でも弟君と大変仲睦まじく過ごしていらっしゃるとか? 微笑ましいことです」

 

 弟という言葉を聞いた瞬間、笑顔の仮面が盛大にひきつった。

 最大の弱点を握られているくせに嫌味を投げてくるあたり、このひと頭いいのにたまに無謀で馬鹿なんだよなあと笑うしかない。

 軍服でなくスーツを纏い、武器でなくスマホを持ち、命を奪い合うことなく言葉をかわすことが許された今世。示し合わせたわけでもないのに仕事帰りの街角で鉢合わせた今この瞬間に、何か意味でもあるのだろうか――なんて、あまりに自意識過剰な妄想が頭をよぎる。が、考えるまでもなく意味なんてないと思っているし、どうかそうであってほしいと思う。

 アイヌには「天から役目なしで降ろされたものはひとつもない」という言葉があるそうだが、俺の役目なら百年前に結構かなり頑張って果たしたはずだ。今世くらい好き勝手生きても罰は当たらない。

 というわけで、今世の俺は好奇心に逆らわない。目の前のひとがどれだけ弟君に対して複雑な感情を抱いていようとも徹底的に弄り倒してやりたいと思うし、何なら適当に酔わせてさらなる弱みを吐き出させ、ついでに酔い潰して介抱を弟君に託し、その一部始終を動画におさめて後日に盛大な上映会を執り行いたいと思う。

 ついつい笑みを深めれば、警戒を強めた彼は一歩後ずさった。

 

「あれ、どうかされました?」

「……急に寒気が」

「風邪でも? 残念だな、お時間があるなら酒でもと思ったのですが」

 

 言葉の外で「まさか逃げねえよな?」なんて言ったつもりはまったくないのだが、数秒真顔になった彼は諦めたようにため息をつき、開き直った顔で髪をかき上げた。

 

「……お付き合いしましょう。貴方のお誘いとあっては断れません」

「やだなぁそんな、パワハラ上司に誘われたみたいな言い方。あ、勇作呼びます?」

「おいやめろ」

 

 はははと軽く笑って馴染みの店のほうへ足を向けた。大人しく俺の後についてくる気配に笑いをかみ殺しながら、とっくに日も沈みきった空を見上げる。

 あまり透き通ったとは言いがたい都会の夜空に、彼と初めて話した夜のことを思いだしていた。

 




このあとに続く二話だけ書いてだいぶ満足していたのですが、もう少し読みたくなったので構成から修正してその先も書けるだけ書こうと思います。
映画が良すぎて困る。この沼まじで深い。
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