Spirit of Shadow   作:狂愛花

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第6話

 

Side 龍夢

 

「ハァ、ハァ、ハァ……ッ!」

 

 私は息を切らして走っていた。

 

 一刻も早く兄さんに会いたくて、第一試合終了のアナウンスと同時に席から跳ね上がる様にして会場を駆け出て行った。

 

 三年ぶりに合う兄さんは、少しだけ容姿が成長で変わってたけど、それ以外は昔のままだった。

 

「(懐かしかった……)」

 

 兄さんとは、特別仲が良かった訳じゃない。だからって仲が悪かったわけでもない。一方的に私が兄さんを慕ってるだけ。

 

 旧家に生まれて古い考えの父から後継ぎになることを強制されていた兄さんは、勉強も運動も人並み以上に出来る人だった。まだ小さかった私も淑女としての振る舞いを身に付けろと、厳しい躾を受けて怖い思いを何度もした。

 

 その度、兄さんがそれとなく私を庇って助けてくれたのを私は鮮明に覚えてる。他にも勉強を教えてくれて、私にとって兄さんは何でも出来て何でも知ってる憧れの存在だった。

 

 だから兄さんが“ガンマ”に認定されたと知った時は、とても驚いたの同時に酷く心配になった。

 

 ガンマに認定された人たちが皆自殺しているってテレビのニュースでよくやっていたから、兄さんも死んじゃうんじゃないかって当時の私は思って怖くなった。

 

 そしてその不安は現実となって、兄は居なくなってしまった。

 

 憧れだった兄さんが居なくなって、私は深く悲しんだ。

 

 でも、兄さんは生きていた。選影に参加する人たちの中に死んだと思っていた兄の姿を見つけた。

 

 それだけでも驚きなのに、兄さんは格上の筈の“アルファ”や“ベータ”をまるで赤子の掌を捻るみたいに軽々と倒してしまった。

 

 それ以上に驚いたのは、兄さんがあの千影先輩と互角に戦った事。

 

 千影先輩は東影学園の有名人の一人で、彼女の噂は中等部まで流れてきてる。名前に影を持つ優所ある一族出身で、学園で一二を争う戦い好き。彼女に勝てる生徒は特待生以外誰もいないってみんなが話してた。

 

 そんな先輩と兄さんは激闘を繰り広げた。

 

 私を始め、観客はその戦いに大熱狂した。

 

 兄共々、幼稚舎から東影学園に通ってる私は選影試合を何度も見て来たけど、小さかった当時の私には「何だか凄いな……」としか感じられなかったけど、今目の前で繰り広げられてる兄さんの活躍を見たら感嘆の声を上げずにはいられなかった。

 

 毎年、観客が熱狂する気持ちが今漸く分かった。

 

 興奮に身を震わせ兄さんの戦いに魅入る私だったけど、鶯谷先生の試合終了を告げるアナウンスが響いたことで意識が現実に引き戻された。

 

「(あんなに試合に夢中になったのは初めて……!!)」

 

 兄さんの試合だったからだろうか、今まで見て来たどの試合よりも興奮して鮮明に目に焼き付いて離れない。

 

 私は高鳴る胸を押さえながら兄さんを探した。

 

「(逸る気持ちを抑えられず遂飛び出しちゃったけど、兄さんが何処にいるのか分からない……。中央大ホールには観戦以外で来た事ないから、選手の控室とか知らないんだよね……)」

 

 当てずっぽうで進んでいるから兄さんの居所どころか、今自分が何処にいるのかも正直分からなくなってる。

 

「(やっぱりここは無暗に動き回らない方がいいよね)ん? あれは……」

 

 走る足を緩めた所で私の視界の端に影が映り込んだ。

 

 その方向に顔を向けると、誰かの姿を視界に捉えた。

 

「良かった。あの人に控室の場所を聞いてみよう」

 

 その人が参加者なのか教員なのか、それともただの観覧客なのかは判断付いて無いけど、とりあえず今は早く兄さんに会いたいとはやる気持ちに突き動かされて、私は恐る恐るその人影へと歩み寄って行った。

 

「あの~すみません。少しお聞きしたいことが―――ッ!?」

 

 歩み寄ってその人の姿がハッキリと捉えられた途端に私の体はピタリと停止してしまった。掛けた言葉も言い切ることが出来ず、出掛けた言葉は喉の奥へと戻っていってしまった。

 

「兄…さん……」

 

 顎まで伸びている艶気のない黒髪。私よりも少し大きな背丈。さっきの試合で汚れや傷でボロボロの衣服。その上からでも分かる細いけどガッチリとした体付き。

 

 映像越しで見るよりも間近で見る兄さんの方が、三年分の成長を窺い知ることが出来た。

 

 私は意図せず、念願だった兄との再会を果たした。

 

Side Out

 

 

Side 幻進

 

「ハァ……」

 

 人通りのない廊下で俺は一人黄昏ていた。

 

「デカいとは聞いていたが、ここまでデカいとは思わなかったな」

 

 中央大ホールのデカさは学園の関係者でなくても皆知ってることがったが、実際に入って見ると話に聞く以上のデカさだった。

 

 外観は当たり前のこととして内部の地下空間、第一と第二の試合で使用される疑似的に環境を再現する疑似空間がいくつも存在する。それに加えて疑似空間がある階層にはそれぞれ参加生徒たちが休息する控室と救護室が常備されているそうだ。

 

 控室も並みのデカさじゃなくて大型商業施設にあるフードコート程の広さがあって、疲労や傷付いた生徒たちを回復させる飲食品が充実に揃えられている。

 

「流石はこの国のトップの一族が経営する学園といったところか。でも、あの空間にいるのはちょっと騒がしくて鬱陶しいな……」

 

 回復効果の高い飲食品が揃っていたとしても周りにいるのはお互いに蹴落とし合うライバル同士。そんな連中が同じ空間にいれば当然、ギスギスとした空気が周囲を漂い出すのは必定。

 

 しかも俺は参加者で唯一のガンマ。それがサヴァイブを生き抜いたとあって周囲からの好奇の眼差しが俺に注がれた。

 

「あんな状況じゃ休めるものも休めない……」

 

 珍獣を見る様な目が四方八方から向けられているのは、とても居心地が悪かった。

 

 だから俺はその場から逃げ出して、人のいない廊下へと出て来た訳だ。

 

「ハァ……。それより、さっきの試合―――」

 

 俺は先程の試合を思い返した。

 

「(想定してたよりも遥かに東影学園のレベルは高かったな。いや、俺が慢心していただけなのかもしれない。究人さんの伝手で世界中あっちこっち修行しに行ったおかげで強くなれたけど、同時に慢心も抱いてしまったか。それに早めに気づけたのは良かった)」

 

 思い出される修行の日々。幾度も血反吐を吐く思いをして、時にはボロ雑巾の様にボロボロにされた事もあった。灼熱の砂漠地帯、凍える雪山、密林のジャングル、絶海の孤島、犯罪が横行するスラム街などetc……。

 

 思い返せば色んな所に行ったものだ。

 

「(同年代と比べれば豊富な経験をしてきた所為で無意識に驕ってしまったみたいだ。だが、今度は油断も慢心もしない。本当の実戦、命のやり取りだったら俺はあの時、確実に重傷を負ってた)」

 

 千影先輩との一騎打ち。俺自身の油断と慢心、それに加えて想像以上だった千影先輩の実力の高さに遂、連撃を受けてしまった。もしも、あの一戦が殺し合いなら千影先輩たちの攻撃は俺の腹を貫いていたかもしれない。

 

 俺を鍛えてくれた人たちに知られたら確実に大目玉をくらうな。想像するだけで身震いする。

 

「あの~すみません。少しお聞きしたいことが―――ッ!?」

 

「ん?」

 

 思考の海に浸ってると誰かに声を掛けられた。

 

 俺に声を掛けるとしたら、さっきの試合で関わった千影先輩か鳳先輩、若しくは大神先輩か。

 

 でも、声は女性のものだったから、大神先輩ではないな。そう思いながら俺は声のした方に顔を向けた。

 

 そこには東影学園の制服を着た一人の女生徒がいた。

 

 女性らしい手入れの行き届いた艶やかな長い黒髪。千影先輩とは違い日焼けのない白い肌と、先輩と違って異性を必要以上に誘惑せず、それでいて成熟しつつある女性らしい体型。客観的に見ても可憐な印象を持つ女生徒だと思った。

 

「(誰だ?)」

 

 俺はその女生徒に全く身に覚えがない。でも、向こうはどうやら俺の事を知っているらしく、俺の顔を見て目を見開いたまま固まっていた。

 

「ん? 俺に何か用か?」

 

「……」

 

「(無視? 自分から声を掛けてきた癖に……)何か用かと聞いてるんだけど?」

 

 少し口調を強めてみたけど、彼女には全く効果が無かった。唯々、あわあわと口を震わせているだけだった。

 

「(本当に何の用なんだコイツ?)おい、何とか言ったらどう―――」

 

「兄……さん……」

 

「ッ!?」

 

 今、こいつは何と言った?

 

 俺の事を兄と呼んだのか?

 

 俺の事をそう呼ぶのは一人だけだ。ということは、今目の前にいるこの子は―――。

 

「龍夢……なのか……?」

 

 絞り出すように零れ出た妹の名前。

 

 それを聞いた途端、目の前の彼女の目から一筋の涙が頬を伝い落ちて行った。

 

Side Out

 

 

No Side

 

「兄さん!!」

 

 龍夢は溢れ出る想いを留めきれず、幻進に勢いよく抱き着いた。そしてそのまま幻進の胸で憚ることなく泣き叫んだ。

 

「兄さん! 会いたかったよ兄さん!!」

 

「ほ、本当に、龍夢、なんだな……」

 

 三年越しの兄との再会に感涙する龍夢とは対照的に幻進は酷く戸惑っていた。

 

 唐突な妹との再会だけでも幻進の心は乱された。それに加えて、そんな三年ぶりに再会した妹が突然、我が身に飛び込み幼子の様に泣きじゃくっている。

 

 その理由が幻進には全く分からないでいた。

 

「(何で龍夢は俺に抱き着いて泣いてるんだ? 俺たちはそれ程仲が良かった訳じゃない筈だけど……)」

 

 龍夢が兄を敬愛している一方で、幻進は龍夢との関係を可も不可もないものと考えていた。家族愛に満ち溢れた良好過ぎる関係でもなければ、憎悪し合う荒み切った関係でもない。平々凡々を絵に描いたような関係性だと幻進は思っていた。

 

 しかし、幻進は龍夢の心の内を知らなかった。

 

 過去、幻進は父親に叱られる龍夢を庇い助けたことがあり、龍夢はその時から幻進のことを優しい兄として敬愛していた。

 

 だが、生憎と幻進は龍夢を思い遣って助けた訳じゃない。

 

 勿論、少なからず妹を憐れんだからでもあるが、頭の固い父が喚き散らす声を聞くのが嫌だったから、というのが主だった理由だ。

 

 三年前の幻進は、突出してはいないが何事も卒なく器用貧乏。他者よりも少しだけ出来る人間故、そうでない者たちを見下す傾向にあった。それも常に威張り散らす傲慢無礼ではなく、相手を選んで威張ったり遜ったりする。おまけに一人では意見を主張せず、周囲に同意見の者が複数人いなければ声さえ上げない。

 

 所謂“小者”と言われるタイプの人間だった。

 

 それ故にゲンガーテストで大きな挫折を経験してしまったことは、必定と言っても過言ではないだろう。

 

 寛大な者や思い遣れる者であれば、さして親しくない相手から

泣きつかれたりしても、抱き締め返したり話を聞いたりと対応して見せるだろうが、凡人や浅慮な者は唯々困惑するだけだろう。小者も同様に。

 

 今の幻進と同じように―――。

 

「グスッ! ご、ごめんなさい。制服汚しちゃって……」

 

「いや、構わない……」

 

 一通り泣き終えた龍夢は恥ずかしそうに顔を赤く染めて幻進から慌てて跳び退いた。

 

 そんな龍夢を幻進は終始困惑した表情で見ていた。

 

「改めて、お久しぶりです。兄さん」

 

「あ、あぁ……久しぶり、だな」

 

 三年振りに交わされる兄妹の会話にしては、何ともぎこちないものだった。

 

 一方の龍夢は兄との再会に感極まり、溢れてくる言葉を上手く口から出せずにいた。

 

 もう一方の幻進は特に何も言う事はないのに自分を見つめる妹の瞳が、何か返答を求めているように見えて居たたまれない気持ちになっていた。

 

「あの……兄さんがここにいるってことは、この学校に通うんですよね? 私今、ここの中等部に通ってるんです! ということは、兄さんとこの学校に通えるってことですよね!?」

 

「え? あぁ、そうだな……」

 

「じゃあ! また兄さんと一緒に暮らせるんですね!!」

 

「ッ!」

 

 龍夢の言葉に幻進の顔色が変わった。先程までの戸惑いの表情は消え失せ、眉間に皺を寄せた険しい表情へと一変した。

 

 それを見て龍夢は自分が言った言葉の意味を理解して失言であった事を察した。

 

 幻進と龍夢がまた一緒に暮らすということは、幻進が御影家に戻るということ。それはあの頭でっかちな父親との同居をも意味する。

 

 世間体などの体面を気にするそんな父が、勝手に失踪して今まで何の音沙汰も無かった兄と三年振りに再開などしたならば、何が起こるかなんて想像に難くない。

 

 例え父親に許されたとしても幻進は“ガンマ”で龍夢は“オメガ”だ。必ず家中で二人は比べられ続けるだろう。それはガンマであると認定されて逃避した幻進にとって非常に居心地の悪い環境に違いない。

 

「ごめんなさい……」

 

 龍夢は申し訳なさそうに顔を歪めて幻進に謝った。

 

 兄との再会に舞い上がっていたとしても、それに気づけない程龍夢は馬鹿でも愚かでもない。

 

「いや……」

 

 重い空気が二人の間に漂い出す。

 

 兄に再会できた喜びから浮かれ過ぎて失言してしまった龍夢は自己嫌悪に陥る。

 

 妹の失言で過去の嫌な記憶がフラッシュバックした幻進の心中は穏やかではなかった。しかし、目に見えて気を落としている妹の姿を前にすると、素直に怒りの感情を表に出せず再び困惑することとなってしまった。

 

 気まずい空気が流れる中、ホール全域に音羽のアナウンスが響き渡った。

 

《まもなく第二試合を開始します。参加生徒たちは直ちに会場に集合してください。繰り返します―――》

 

「……時間、みたい、ですね……」

 

「あぁ……。じゃ、俺は行くから」

 

 そう言って幻進は会場へ戻る為、龍夢に背を向けた。

 

「あっ……」

 

 去り行く幻進の背中へ、引き止めようとする龍夢の手が伸びる。だが、かける言葉が思いつかず、伸ばされた手は空中で静止した。

 

「(こんな筈じゃなかったのに……っ!)」

 

 後悔するも過ぎ去った時は戻らない。思い描いていた兄との再会を自らの手で台無しにしていまい、それを払拭する言葉も稚拙な物しか零れ出てこない。

 

 それ以上何も言えず、龍夢は激しい後悔と自責の念を抱きながら、去り行く兄の背を追えず只々俯くことしか出来ないでいた。

 

「……ハァ〜」

 

 そんな妹の雰囲気を背に感じて幻進は徐に足を止め、これみよがしに大きくため息を吐いた。

 

「全く……」

 

 そして踵を返して叱られた幼子のようにドヨンとしょぼくれている龍夢の前まで戻ると———。

 

 ポン

 

「え?」

 

 落ち込む龍夢の頭を軽く、そして優しく撫でた。兄が妹をあやすように。

 

 突然のことに撫でられた龍夢は目を丸くして驚き、理解が追いついていないと言いたげな素っ頓狂な表情で兄を見上げていた。

 

「相変わらず泣き虫なんだな、お前は」

 

 そう言って幻進は困った様な笑顔を浮かべながら龍夢の頭を二三度撫でた。

 

「〜っ!!」

 

 泣く妹を宥める兄。嘗て経験した懐かしい情景が龍夢の頭の中に浮かび上がってきた。

 

「悪いが時間だから俺はもう行く。話がしたいなら色々と落ち着いてからゆっくり話そう」

 

 幼子を諭すような優しい声で幻進は龍夢にそう囁いた。

 

「……はい」

 

「じゃ、行ってくる」

 

 龍夢の頭を撫でていた手を離すと、幻進は再び会場へと向かうべく歩き出した。

 

 そんな幻進の背を今度は引き留めようとはせず、龍夢は静かに兄の後姿を見送った。

 

 見送りながら龍夢は幻進に撫でられた頭に手を触れる。微かに残る兄の手の感触と温もりを感じつつ、龍夢は懐かしい情景を思い浮かべた。

 

 まだ子供の時分に気が弱くいつも泣いていた自分を兄は困った顔をしながらも必ず宥めてくれてた。

 

 成長して姿は変われどもやはり兄は兄なんだと龍夢は安堵した。

 

「(やっぱり、兄さんはあの頃の優しい兄さんのままだ……!)」

 

 三年振りに触れる兄の変わらない優しさに龍夢の沈み切った気分は一気に払拭された。

 

 そして代わりに溢れ出てくる歓喜と多幸感に包まれ、龍夢は紅潮する頬と込み上げる笑みを抑えきれず、玩具で遊ぶ幼子の様にキャッキャッと燥いでいた。

 

「あ! やっと見つけた~。アンタ、こんな所で何やってんのよ……」

 

 そこへ龍夢を探していた茜がやって来た。龍夢が幻進を探し回っていたのと同様に茜も龍夢のことを探し回っていたらしく、彼女は少し息を乱し額に汗を浮かべていた。

 

「あ、茜……」

 

「あ、茜……じゃないわよ。いきなり走り出すからビックリしたじゃない」

 

「ごめんごめん!」

 

「それよりもどうだった? お兄さんに会いに飛び出したんでしょ? 会えたの?」

 

「うん! 会えたよ! だから、早く席に戻ろっ!」

 

 茜の問いに満面の笑みでそう答えた龍夢は、答えるや否や茜の腕を掴むと来た道を脱兎の如き速さで駆け戻った。

 

「ちょっ!? アタシ今来た所だから少し休ませてって~~~!!」

 

 折角ここまで来た茜だったが、尋ね人たる龍夢を見つけたと思った矢先、息を整える間もなく来た道を引き返す羽目になった。それも探していた龍夢に引き摺られる形、否、手を引かれる形での出戻りに茜の悲痛な叫びがドップラー効果を起こしながら通路に轟いた。

 

Side Out

 

 

Side 幻進

 

 後ろから女の悲鳴が微かに聞こえてくる。

 

 一瞬、龍夢の悲鳴かと思い足を止めかけたが、どうにも危機的なそれでは無さそうだったから歩を止めずに会場へと向かった。

 

 歩きながら俺はさっきのことを思い返した。

 

「(まさか龍夢に再会するとは思わなかったな)」

 

 ピリついた空気が漂う控室が居心地悪くて廊下に出ただけなのに、そこで唐突に妹と再会することになるなんて夢にも思わなかった。

 

「(しかし、俺は意外にも妹に好かれていたとは。別段、何か特別なことをした覚えはないんだが……)」

 

 臆病な性格の妹はクソ親父の時代錯誤な教育にいつも泣いていた。怒鳴る親父と泣き震える妹、その度に俺が二人の間に入って事を治めて来た。

 

 好かれる理由があるとすればそれ位しか思い浮かんで来ない。

 

「(にしても、体は大きくなっても中身はあの頃のままだったな)フフッ」

 

 パッと見は誰か分からなかったけど、シュンとして追い込んだ姿は昔のままだった。そんな様を目の当りにしたら懐かしくて笑みが込み上げて来た。

 

 懐かしさが出て来た所為か、別段積もる話もないのに後で話そうなんて約束をしてしまった。まぁ、昔の癖で落ち込む龍夢を慰める為に遂々そう言ってしまった。

 

「(言ってしまったものは仕方がない。全てが終わった後で何とかするか)それよりも今は目の前のことに集中するか」

 

 さぁ、次の戦いに挑もうか……。

 

To be continued

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