インフィニット・ストラトス The unsung love 作:チャーハン好き
一夏が医療室に運ばれたその夜、イラストリアスの艦長室にバルキリー隊隊長のロイ・フォッカーが呼ばれていた。
「中尉ご苦労だった。流石はエースのスカル・リーダーだな。今後もバルキリー隊を頼む」
「艦長、お褒めの言葉は恐縮ではありますが、こちらの損害も大きく、とても勝利とは呼べる状態ではありません。さらに試作の VF-0 とパイロットが多数亡くなった今では、できるだけ早く、太平洋艦隊と合流した方がいいかと」
ロイ・フォッカー中尉、統合戦争最初期から戦闘機乗りとして、その腕を振るってきたエースパイロットだ。そんな彼でも現状のパイロット不足を、補うまでのカバーはできない。
「うむ…やはりそうか。輸送中に狙われたものだから致し方ない。しかし中尉、人員不足は何もパイロットだけではない。全体的に人が足りないのだ」
「まぁパイロット候補生を何とか早急に仕上げますが、それでも間に合うかどうか…」
「ん?パイロットの中に…今回の防空戦で単機で 15 機撃墜。凄まじい戦果だな。所属は不明…?」
「それですか。私も直接本人には確認をとってはいませんが、どうやらこの艦のパイロットではないようです。申し訳ありません。こんな事になり、バルキリー隊のパイロットが不足しておりまして…」
「ところでパイロットの名は?」
「キーリンク軍曹からは、イチカ・オリムラと…バルキリー自体にも乗ったことは無かった様なので、軍の記録を確認したのですが、イチカ・オリムラなる人物は…その、登録されていませんでした」
フォッカーが言葉に詰まりながら説明する。
「おいおい中尉、それは本当か?バルキリーに乗った事もない人間が、15 機も撃墜できる筈がない!しかも敵襲下の防空戦でだぞ!1 回の戦闘撃墜最高スコアを超えているんだぞ⁉︎」
艦長が驚くのも無理はない。何せ目の前にいるフォッカーが樹立した単機撃墜スコア 12 機を超えていたからだ。
「会ってみたいものだな」
「そのイチカ・オリムラは戦闘後に、医療室へ搬送されましたが…」
「ならば問題が解決したら応接室に案内してくれ。その時は中尉、君も一緒にきたまえ」
「了解」
あの後医療室に搬送された一夏は、翌朝意識が回復した。そして何故か応接室らしい部屋に案内される。暫く待っていると帽子を被った艦長らしき男と、金髪のイケメンが入って来た。
「初めましてだね。私はグローバル・J・ブルーノ、この空母の艦長をしている」
「ロイ・フォッカーだ。バルキリー隊隊長をしている。君の名前は?」
「…織斑一夏です」
「イチカ君か。率直に訊こう、君は軍人か?」
「…いえ、違います」
グローバルの言葉に一夏は俯きながら答える。
「そうか…それなら君を親御さんの元へ帰さねばならない。住所は分かるかな?」
「……」
その問いに一夏は答えられなかった。そもそも一夏と千冬には親がいない。物心ついた時から親が居ないのだ。
その為、今の一夏はグローバルから見て、苦そうな顔に見えた。
「済まないね、聞いちゃいけない事だったな。さて中尉、君ならどうする?」
「こういう場合は、民間人保護施設のある統合軍本部に移送する事になってますが、あそこの連中も一枚岩ではない…」
「かと言って、野放しにしたら反統合軍に言いように使われて、最悪死亡するケースだってある…」
「どうします?」
フォッカーが頭を掻きながら聞くと、グローバルは暫し黙り込んで何かを考える。そして、結論を告げた。
「まぁいい。この子は、この艦で保護しようと思うんだが」
一夏は思わず、その結論に驚いた。
「良いんですか?俺みたいな得体の知れない子供を保護するなんて…」
「良いんだ、これは私等からのお礼だ。民間人とは言え、君が居なければ我々の被害が、もっと大きくなっていたかもしれん。この艦で何がしたいかはゆっくり考えてくれ。部屋は我々で用意しよう」
その後、話が纏まりグローバルとフォッカーは艦長室に向かっていた。
「しかしまだ、信じられないのかね?彼が未来人だって事は」
「証拠が証拠ですし、もう信じるしかありませんよ…」
何故かこの 2 人が、一夏に関する大まかな秘密を知っていた。それは何故か?
事は一夏との話し合い前――
「これがイチカ・オリムラのそばに落ちていたバックの中身です。漢字で名前が書かれていたので、ライゾウの旦那に確認をとってもらいました」
そう言いながらフォッカーが、一夏の私物が入ったバックとその中身を、グローバルの机に置く。置かれた物にはスマホやモンドグロッソのチケットも含まれていた。だが…
「ん?この四角い物は一体…」
「あぁ、それですか?それはどうも携帯電話らしいですよ」
そう言いフォッカーはスマホを取って、ホーム画面を表示しる。グローバルは画面に映った日付けを見て一言。
「2019 年?」
「そうなんです。日付けが 14 年も先なんです。それに整備班にもこれを見てもらったんですが、『現状の技術ではどうやっても、あと数年は掛かる代物』だそうです」
「…つまり中尉は、そのイチカ・オリムラが未来人だと言うのか?」
「自分には信じられませんが、今はそう言うことになります」
事態のあまりの大きさにグローバルは、暫く無言だったという。
「さて、どうしたものか…」
フォッカーが悩んでいると、不意にグローバルが口を開いた。
「中尉、君が預かってもらえるか」
「艦長、それは俺の養子にするって意味ですか?」
「放っておいたら良い様に利用される。それにあの少年は何か、暗い事があって、その事を無理矢理封じ込めようとしている…」
「…」
「こう言う時こそ、誰かがケアして道を間違えない様に導いていかねばならない」
一夏はまだ知らないが、これから更に戦争は長期化する。そんな時期に子供を 1 人で放り出す事は、地雷源に足を踏み入れる事と同等の危険性がある。
「君なら、彼の心のケアが出来る筈だ」
「…分かりました。あの子には自分で言っておきます」
「ありがとう中尉。彼の事は任せたぞ。後、書類は早めに頼む」
「了解」
その後、フォッカーは一夏の部屋に向かい事の顛末を説明した。
「良いんですか?」
「何が?」
「俺みたいな得体の知れない奴を、養子にするなんて…」
するとフォッカーは一夏の頭に手をおいて、撫ではじめた。
「ガキなんだから、大人に甘えたって罰は当たらないさ」
「…フォッカーさん…」
この日、一夏はイチカ・フォッカーとなった。