インフィニット・ストラトス The unsung love 作:チャーハン好き
「こちらスカル2! 誰かこの通信を拾っていないか?親父!輝!早瀬大尉!マクロス!」
そう呼びかけるが、通信は依然として雑音しか流れていなかった。
フォールド巻き込まれたイチカは、意識が回復したとき見知らぬ宙域を彷徨っていた。それから何度も無線で呼びかけても、応答は一才無かった。この段階で分かっている事があるとすれば、それはイチカの目の前に大きな灰色の星があった事だ。
「はぁ...せめて親父達でも居てくれたら...っ!」
慣性のまま静かに星の周りを回っていたイチカに、太陽の光が差し込んだ。それと同時にイチカは前方に、太陽に照らされて青く輝く星を見つけた。
「まさか...地球なのか...?」
イチカの心が少しだけ明るくなる。仮に前方の星が地球だとすれば、今イチカが回っている星は月だという可能性が高くなる。イチカはすぐに、YF-3S のメインカメラのレンズを最大倍率まで伸ばして、コックピットメインスクリーンに青い星を投影する。送られてきた映像に写っている星は紛れもなく、5ヶ月以上も前に後にした地球だった。
「(まだ助かる...!)」
イチカは思わず胸から出そうになる思いを鎮め、機体のチェックを開始する。マクロスから土星まで飛ばしただけあって、機体の燃料が心配だったのだ。いくらマッハ 5 を出せる機体でも、月軌道から地球まで最低でも半日近く掛かる。何とかロシュ限界点まで飛べれば、後は地球の引力で勝手に地球まで進む事ができる筈だ。
「持ってくれよ...」
イチカは機体に念じて、フルスロットルで月軌道から発進していく。
その数時間後、イチカはアラスカ上空を飛んでいた。土星とは違って障害物が何も無かった事が幸いし、YF-3Sは残った燃料を半分だけ使って大気圏に突入できた。イチカの狙いはアラスカの統合軍本部に降りる事だった。マクロスが帰還するまで後1ヶ月以上は掛かる。なら、その間は本部に居た方が得策だ。
だが、本部の所在地に飛んでみると、軍の建物は見つからない。そればかりか無線は誰も応答せず、辺り一面真っ白な雪景色が広がっていた。 こればかりはイチカも訳が分からなかった。しかし、そろそろ休息が必要だ。
そう思ったイチカは、近くの小島にガウォークで降り立った。ストライクパック形態のままでは、自重を支えきれないため、こうして重量を分散しているのだ。
「はぁ...一体俺はどの地球に降りたんだ?」
イチカはそう呟きながら海からの風を受け、薪火でもするかと思い、近くの森へと足を向けた。
某所
基、とある戦艦の甲板でウサ耳を付けた1人の女性が、最近の日課となりつつあった食後の散歩をしていた。暫く歩き、甲板の端に座って女性は輝く星空を眺め始めた。その時だった。不意に流れ星が1つ、流れ始めた。女性は気にしない。ここ、アラスカではお馴染みの光景だ。
しかし、今回は違った。 その流れ星は流れ星にはあるまじき、急な方向転換をしたのだ。
「何だろう?」
そう思った女性はその謎の流れ星を調べてみたいと考え、何処かへ電話を掛けた。
『どうしました束様?』 「あ、クーちゃん。ちょっと人参ロケット出しておいて。ちょっと調べたい物があるから」
束と呼ばれた女性はそう言うなり、星空を眺めながら立ち上がった。
イチカは近くの森から薪を拾い集め、火をつけ黄昏ていた。そして胸のポケットからスマホを出し、一枚の写真を呼び出して眺めていた。このスマホは出撃の度に、御守り代わりに入れているものだ。呼び出した写真は、イチカに抱き着いている鈴と一緒に撮ったものだった。イチカはもう何度目になるか分からない悲しそうな表情を浮かべるが、直ぐに決心した表情を浮かべる。
「必ずお前の元に戻るから、待っていてくれ鈴…」
そう決心を呟いているとバルキリーのレーダーが何かを探知したのかアラームが鳴り響いた。 急いでレーダーを見ると、高速で何かが自分のいる所に向かっている。
「会敵まであと30秒って、早すぎないか?」
イチカは急いで島から 離れようとしたが、接近してくる物体が早すぎた。なので、離脱を諦めて右手のライフルを夜空に向けた。だが--
「ロックしない?相手が小さいのか?」
イチカはライフルが使えないとみるや、機体をホバリングさせ、機首を空に向けた。
その動きに連動して、機体下部からバトロイドの頭部バルカンが迫り出す。
「見えた」
接近した物体を発見したことで、バルカンが射撃を開始した。夜空にたなびくバルカンの閃光。
それも束の間、バルカンの射撃を浴びた物体から煙が上がった。程なくして、物体は錐揉みしながら砂浜に墜落した。墜落した衝撃で砂煙が舞う。その様子を見たイチカは機体を砂浜に下ろし、墜落した物体に近づいてみた。
「人参…人参…なのか?」
イチカは墜落した物体を見て、思わず呟いた。
砂煙が晴れて、見えた物体が、大きな人参だったのだ。
「一体全体どうなって…⁉︎」
イチカはそう言うと、突然、腰のホルスターから軍から支給されていた拳銃を引き抜き、目の前の人参に構えた。
それもそのはず、目の前の人参が突如、半分に割れ、その中からウサ耳を付けた女性が出てきたからだ。
「もう、なんなのさ〜急に…」
「動くな!」
人参から出てきた女性に、イチカは銃を向けた。
今は、この女性が要注意人物なのだ。女性は女性で、銃を向けるイチカに気付いたのか、顔にイチカに向けた。
「え?…た、束さん…?」
イチカの口からその言葉が出たのは、その直後の事だった。