エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を 作:江藤えそら
永遠にも思える下降は不意に終焉を告げた。籠型のエレベータは重い音を立てて静止し、一瞬遅れて視界に再び光が取り戻された。
扉が開いた先に待っていたもの―――そこは、赤いカーペットに赤い装飾の施された悪趣味な空間だった。部屋の中央部を取り囲むように16台の弁論台がぐるりと並んでいる。そして、そのうちの二つには津川さんと釜利谷君の写真がついたパネル―――の上に、ピンク色で「?」が描かれていた。これは一体何を意味しているのだ?
『うぉっほん。ようこそ、学級裁判場へ! 弁論台にそれぞれ名前書いてるから、自分の場所見つけて立ってね!』
部屋の奥では、弁論台を見守るように高い位置に玉座が設置されていた。そこに座りながら俺達を出迎えるモノクマ。まるで囚人達の殺し合いを娯楽に昇華する貴族の如き振る舞いだ。
「ちっ、こんな悪趣味なモン用意しやがって……」
「本当に……やるしかないのでござりまするな…」
俺達は青い顔をしながらも己の場所に立つ。ここからは全員の顔をよく見渡せる。焦燥、恐怖、困惑、悲哀、みな一様に負の感情をその顔に浮かべている。しかし、その傷を癒す間もなくそれは始まってしまう。
『うぷぷぷぷぷ! 楽しみだなあ! オマエラがこれからどんな絶望を描いてくれるのか、どんな絶望を彩ってくれるのか! わっくわくどっきどきのお待ちかね、学級裁判の始まりだよ!』
【学級裁判・開廷!】
『それじゃあオマエラも分かってると思うけどボクから学級裁判のルールをお伝えします! 学級裁判では、誰がクロなのかをみんなで話し合ってもらいます! 議論の後、多数決でクロだと思う人に投票してもらいます! 見事クロを当てることができればクロだけがオシオキされ、クロを当てることができなければクロ以外の全員がオシオキされ、クロは晴れてこの施設から”卒業”することになります! ちなみにアホ教頭は施設内設備の修理のため欠席です。特等席で裁判を眺める権利はボクだけのもの! うぷぷぷぷ…』
「くっそ~、あちき達結局コイツの思うままに動かされてるでありんす……」
「…それでも、命が掛かっている以上、今を凌がざるを得ん。貴様ら、覚悟はいいな」
御堂さんが全員を見回す。覚悟ができている…とは言い難いが、やるしかないのだ。
「早速水を差して悪いんだけど。この裁判に制限時間はあるのよね? あるなら明示してもらえないかしら」
伊丹さんの唐突な問いに『ふぇ?』とモノクマは素っ頓狂な声を上げる。
『まさか始まって一分も経たないうちに痛いとこを突かれるとはなぁ…。まあ、制限時間はあるにはあるよ。けど、それを明示しちゃうと時間に追われて焦ったり、逆に意味のない話題で時間稼いだりとかいろいろ
「なんですかそれ! 制限時間分からないままやる人狼ゲームがありますか!」
山村さんが弁論台を叩いて反論する。このイカれた学級裁判をただの人狼ゲームに例えるのもいかがなものかとは思うが。
『ああもう! オマエラはそうやってすぐ本題から外れたトコで永遠に噛み付いてくるんだ! そういうのはSNSでやってろって! ほら、さっさと議論始めた始めた!』
「奴に何を言っても無駄だ。議論を開始するぞ。我々には共有できていない話もたんまりあるのだ、無駄足を踏んでいる暇はない」
御堂さんの言葉で俺達は渋々本題へと戻る。それにしても、議論と言っても一体何から始めればいいのだろうか。
「…まずは被害者の特定ではないかね? この事件、遺体の状況がかなり特異だ。それに、現時点で二名行方不明者がいる。亡くなったのは誰なのかを確実にしておく必要がある」
夢郷君が告げると、「その通りだ」とリュウ君も同意する。
「被害者が誰かは事件の大前提だ。最初に明らかにしておきたい」
「えっと……行方不明になったのは釜利谷とリャンちゃんで……結局捜査時間にも見つからなかったよね……」
亞桐さんの言うとおり、その二人のどちらかが被害者であることは間違いないだろう。
「でもよぉ、リュウが遺体を調べてたんだろ? 骨格とかで特定できたんじゃねぇのか?」
「―――いや、それは違うんだ」
土門君の言葉の中にある綻び。それを聞いて俺は自然とその言葉を吐いていた。
「あ…ご、ごめん。別に意見を全否定したいわけじゃなくて。ただ、リュウ君が検死した時に"人物の特定は困難"っていう意見を貰ったんだ」
コトダマ:【リュウの検死結果】
リュウによると、焼却炉にある死体の特徴は以下の通り。
・ほぼ完全に灰と化しており、僅かな骨片が残るのみ。
・身体的特徴や性別が明らかになるようなサイズの欠片は無い。
・死体の人数も判別できない。
俺がそう言うと、リュウ君が自身の検死結果を詳細に説明した。
「それほどまでに骨が細分化してしまっていたとは……こういう例えが正しいかは分かりませぬが、まるで火葬のような……」
ううむ、と丹沢君が唸る。
「そうかぁ…。じゃあ結局あの遺体が誰なのかは分からねえってコトなんだな」
「いや、直接的ではないけど間接的な根拠なら見つかっていたわ。そうよね、葛西君?」
「そうだね」と俺は伊丹さんの呼びかけに応え、手帳の該当ページをめくる。
「焼却炉の入り口付近に落ちていた津川さんのリボン。そして焼却炉内に落ちていた津川さんの電子生徒手帳。津川さんの私物が焼却炉周辺から二つも見つかっている。あの遺体が一人分なのか二人分なのかは分からないけど、少なくとも一人は津川さんであると考えるのが自然だ」
そう言いながら俺は顔を俯ける。あれだけ可憐で愛らしい姿をしていた津川さんが物言わぬ灰に姿を変えてしまったなど、今でも信じがたい。結局、彼女が最期に言った意味深な言葉の真意は何だったのだろうか? 今となってはそれも知る由はない。
コトダマ:【焼け残ったリボン】
焼却炉の入り口、ゴミの投入口に燃え残ったリボンが引っ掛かっていた。津川が身に着けていたリボンと同じものと思われる。
コトダマ:【津川の電子生徒手帳】
焼却炉の煙突下付近に落ちていた津川の電子生徒手帳。灰の中に埋もれていたことと煤が付着していたことからある程度焼却炉の中に放置されていたものと思われるが、電子生徒手帳自体の耐熱性により機能は損なわれていない。
「…焼却炉の中で見つかった津川さんの電子生徒手帳。そして、焼却炉の入り口に引っかかっていたリボン。これらはいずれも津川さんの持ち物だ。状況を鑑みるならあそこで亡くなったのは津川さんと思うのが自然だ…」
「そ、そんな……津川殿が…」
「で、でも…さっき葛西君は釜利谷君の電子生徒手帳も焼却炉で見つけたと言ってませんでしたっけ? それなら津川さんも釜利谷君も条件として大して変わらないのでは…」
「いや、そうとも言えないんだ」と、俺は山村さんに返答する。
「どういう理由かは分からないけど、釜利谷君の電子生徒手帳は最初は焼却炉にはなく、後から見つかった。遺体発見時点では焼却炉の中にはなかったんじゃないかと推測できる。だから、発見物から被害者を推測するなら津川さんの可能性が高いことに変わりはない」
「後から電子生徒手帳が見つかっただと? それも気になるが……一旦置いておこう。では次に津川梁の動線についてさらうぞ。食堂にいた津川梁が何故焼却炉で死ぬことになったのか?」
御堂さんが全員をジロリと見回しながら質問を投げかける。
「ふむ…それが僕にも分からないところだ。少なくとも停電前は津川君が廊下に出てくる瞬間は見ていない」
「私達は停電直前まで食堂にいらっしゃる津川様を見ております。その後、電子生徒手帳の光で視界を取り戻した時にはもういらっしゃいませんでした。その間は1分足らずくらいかと記憶しております」
「そのような短時間で食堂から消えるなど……まさに手品の如き所業ではござりませぬか!」
夢郷君、入間君、丹沢君が順番に自らの疑念を吐露する。確かにその情報だけだと不可思議な事象にも思える。だが、食堂における津川さんの立ち位置を考慮すると、説明はできる。
「俺と津川さんは停電の直前、ダクトのすぐ近くにいた。もし停電の最中の僅かな時間に津川さんが消えたとすると、ここを使ったとしか思えない」
コトダマ:【津川梁の所在】
コロシアイ発生前、津川は葛西達と同じく食堂にいた。しかし停電直後、忽然として姿を消してしまった。停電中に電子生徒手帳の明かりを元に探すが、見つからず。停電回復後も姿を見せておらず、捜査時間にも見つからなかった。依然として行方不明のままである。
コトダマ:【通気口】
施設内を駆け巡るダクト。小柄な人物なら這って通ることができるくらいの幅になっている。食堂を始め施設内のあらゆる部屋に繋がっており、トラッシュルームの煙突にも繋がっている。
煙突からの煙が逆流しないように通気口内にはフィルターが設けられているが、食堂の通気口に設けられていたフィルターは鋭利なもので裂かれていた。
「あぁ、俺と入間と三人で確認したあのダクトか。確かに体の小さい津川なら中を通ることはできるかもな…」
「でもさ前木。停電の暗い中で高い場所にあるダクトに身体を突っ込むなんてできるの?」
「亞桐さんは知らなかったと思うけど、停電の時津川さんはダクトの直下くらいの位置にいたんだ。それにあのダクトは実際はそこまで高い位置にあるわけでもない。手探りで位置さえ分かれば暗闇の中で素早く入り込むこともできる…と思う」
それでも、彼女が非常に高い身体能力を持っていることと通気口への入り方に関して何か経験があることが前提となる。それについては何とも言えないところだ。
「…で、通気口の中のフィルターは津川が通過する際に破った痕だったってワケだな。あの素材ならペンとかでも簡単に裂けそうだし」
「ありがとう、前木君。それで大事なのはこの後なんだけど。あの通気口は施設内のあらゆる部屋に繋がっているだけでなく、トラッシュルームの煙突にも繋がっていた。あの通気口が津川さんの動線と考えて間違いない」
「辿り着いたか。では私から一つ補足をしておこう」
俺の言葉にそう続いたのは御堂さんだ。
「津川梁が通気口から焼却炉に入ったのは間違いないだろう。そして、奴はどの部屋からも迅速に通気口に入れるよう事前に練習を繰り返していたはずだ」
「練習、でありんすか? なんでそんなことを?」
「それは、私が立案した脱出計画の要こそ津川梁だったからだ」
「……!」
脱出計画。いろいろ事件が続いてすっかり忘れかけていたが、元はと言えば御堂さんがこの学園から脱出する方法を思いつき、それを実践したことが事の始まりだった。その全貌がついに明かされる時が来たのか。
「津川梁は小柄な割に相当な身体能力を持っている。それは最初の頃に貴様らも気付いていただろう」
そう言えば、最初に俺と邂逅した時の彼女は脱兎の如く階段を駆け上り、逃げようとしていた。あの時に身体能力の片鱗は既に見えていたのだ。
「通気口の中を通れるほど小柄かつ身体能力に優れることがこの脱出を成功させる最大の条件だった。それが何故か分かるか?」
「オイオイ、もったいぶるなよ。時間がないって言ってんだろ!」
「待って前木君。…”煙突”……だよね?」
俺の言葉に御堂さんは小さく頷いた。煙突、それこそが御堂さんが見出した脱出の方法だったのだ。
コトダマ:【煙突】
焼却炉の奥部から上方に伸びる煙突。かなり長いが、先の方に微かに光が見えることから外に繋がっている模様。四角いフレーム状の金属を繋ぎ合わせて作られており、継ぎ目の部分に手や足を引っ掛けることで登ることができる。
「捜査の最中に見つけた焼却炉内の煙突なんだけど…。上を見ると僅かだけど光が見えた。外に繋がっているという証拠だ。それにあの煙突は内部の段差に手や足を引っかれば登れなくもなさそうだった。相当な身体能力の高さは求められるけど、それさえ満たしていれば最上部まで登るのも不可能じゃない」
「そうねえ。捜査時間の時に私も登ろうかと思ったけど流石に怖くてやめちゃった。でも、あんなに高い煙突、登ったところで降りるのが難しいんじゃない? 内側には段差があっても外側にある保証はないし、どうやって降りるつもりだったの?」
と、小清水さんが御堂さんに問いかける。確かに高さ20m以上はありそうな煙突を登って外に出たとして、問題はその後だ。御堂さんが何も考えていないとは思いがたいが―――。
「……リュウに用意させようとした長くて頑丈なロープだ。あれは単に釜利谷三瓶を縛るためのものではない。脱出に使うのが本当の目的だ」
「ロープでありんすか…?」
確かに御堂さんは食堂を出る際、リュウ君にロープを用意するよう依頼していた。だからこそリュウ君は体育館階の倉庫に向かったんだった。
「そっか! 煙突のてっぺんにロープを括りつけて、それを伝って地上に降りるんですね!」
「実に短絡的な発想だ。煙突の頂上にそのような突起が都合よく存在する保証はない上に、そもそも数十mもあるロープの重量は10㎏をゆうに超える。そんなものを抱えて煙突を登るのは流石の津川梁にも難しいと判断した」
「じゃあ、どうやって…?」
「図示できるものが無いから口頭での説明になるが、よく聞いておけ。単純な話だ」
①まず体育館倉庫からロープを調達する。ロープは頑丈かつ非常に長いものを用意する。煙突の二倍以上の長さがあれば好ましい。条件に合致するロープはあらかじめ倉庫内で見つけておいた。
②津川梁とリュウがそれぞれ体にロープを巻いて結ぶ。この際、ロープは解けないように固く結ぶことと、一か所に力がかかり過ぎないよう工夫して結ぶ。また、ロープの余長はリュウの身体に巻き付け、丁度ロープの長さが煙突の高さと同程度になるように調整する。
③次に津川梁が煙突を登る。その間、リュウは焼却炉内、煙突の真下で待機。万が一津川梁が落下した際に受け止められるようにしておく。
④津川梁が煙突を登り切ったら、その時点でロープも伸び切る。リュウは自分の身体に巻かれているロープを一周ずつほどき、余長を足していく。津川梁は煙突の淵にロープを引っかけ、そのまま煙突の外に出る。
⑤リュウは自身の身体に巻き付いているロープを一周ずつほどき、少しずつ津川梁を下に降ろしていく。津川梁よりリュウの方が遥かに体重が重いため、ロープが伸び切っている限り津川梁が落下することはない。
⑥津川梁は地上に到達後、調理場から借用したナイフでロープを切り、外で救援を求める。
「これが私の考案した脱出計画の全貌だ。至極簡単な話だろう? だが、情報の漏洩を防ぐためにリュウには決行の瞬間まで計画内容は伝えていなかった。…結局は決行前にこのようなことになってしまったがな」
御堂さんが考案した脱出計画。それは津川さんとリュウ君の体重差とロープを使った、シンプルながら合理的な脱出トリックと言えた。
「…でも、いいのかよぉ? モノクマの目の前でそんなコト喋っちまってよぉ。もうその計画使えねーぜ?」
「フン。諦めるのだな、土門隆信。どの道このタイミングで事件が起きた時点でこの脱出計画は筒抜けだったと見るべきだろう」
暗号や読唇術を使うほど用意周到な御堂さんがあっさり打ち明けたのだから、本当にもうこの計画には執着がないようだ。言葉には出していないが、津川さんに計画を伝える手段として読唇術を使ったのかもしれない。
『一応言っとくけど、ボクは校則違反でない限り皆さんの脱出計画には一切干渉しません! 殺すのも出るのも自由! できればちゃんとコロシアイしてほしいけどね。ボクも今回は相当焦ったんだから!』
「よく言うわ。あんな停電とか起こしといて」
『そういうのについてもボクと教頭は一切関与していないよ! 学級裁判みたいなイベント時や校則違反発生時などの特例を除いて、この施設内でオマエラの身に起こる全ての事象はオマエラの中の誰かが起こしたものと宣言しておきます!』
「その通りだ。だからこそ釜利谷三瓶のような"我々の中に潜む内通者"が必要なのだ」
「ややこしい話でありんすね…」
校則違反という形で明確なルール違反を犯していない限り、モノクマは俺達の脱出計画には直接には干渉できない。しかしながら俺達に脱出を遂行されるのは困る。だからこそ、俺達と対等な"コロシアイ参加者"たる釜利谷君を使って邪魔をさせたのだ。今、彼がどこにいるのかすら分からないが…。
「御堂君の計画については大体理解できた。で、リュウ君には伝えていなかったと言っているが、津川君には何をどの程度伝えていたのかな?」
夢郷君が問うと、一つのため息と共に御堂さんは答えた。
「流石に津川梁は計画の要だからな。計画の大体は事前に伝えていたさ。そして、”万一の時はすぐに通気口に入って煙突に向かえ”とも伝えていた」
「……!」
俺の中で点と点が繋がる。停電というイレギュラーな状況を確認した津川さんは、黒幕が何らかの意図をもって脱出の妨害に動いたことを察知した。そして、黒幕よりも先手を打つために先んじて煙突に向かった。少なくとも、津川さんが短時間で食堂から消えた理由についてはこれで説明がつく。
「計画について理解できたところで、お前の話に戻ろうか、御堂。俺達がトラッシュルームに突入した時、お前は壁際で気絶していたが、一体何があったのだ?」
と、リュウ君が問いかける。御堂さんは苦虫を嚙み潰したような顔で俯きながら答えた。
「…正直に言って、私にもよく分かっていない、というのが正直なところだ。
リュウを倉庫に向かわせた後、私はトラッシュルームで脱出に向けた最終確認を行っていた。イレギュラーな事象が無いか、焼却炉の中に異物が無いか、煙突が今も外に通じているかなどな。そうしているうちに停電が起きた。私は電子生徒手帳を起動して視界を確保しようとしたが、何故か起動ができなかった。流石に私も多少パニックになってしまってな…。そうこうしているうちに扉が開く音が聞こえ、その直後に背後から殴られた。私が覚えているのはここまでだ」
御堂さんが語った内容を逐一メモに転記する。確かに伊丹さんが言っていた「頭を強く打った形跡がある」という証言とも矛盾はない。とりあえず信用して問題なさそうだ。
コトダマ:【御堂秋音の所在】
コロシアイ発生前、御堂は脱出計画遂行のため食堂を後にした。全員がトラッシュルームに入った時、御堂が入り口付近で気絶していた。伊丹によると頭を強く打った形跡があった模様。同じく気を失っていた安藤共々モノクマに連れ去られ、治療を受けている。裁判には意識がある状態で参加する予定。
「電子生徒手帳が起動できなかった…? それってどういうことでありんすか? 故障?」
吹屋さんが身を乗り出す。彼女を始めほとんどの人は電子生徒手帳に強制シャットダウン機能があることを知らない。突然の停電に加え電子生徒手帳まで起動しなくなったとなれば、御堂さんが一瞬パニックに陥ったのも無理はない話だ。
「私から説明致します。実は、我々はランドリーと放送室で隠しブレーカーのようなものを見つけておりまして。それには各人の名前が書かれたスイッチ…と言うかツマミのようなものがありまして…それを下ろすと該当する方の電子生徒手帳が強制的にシャットダウンされる仕組みとなっておりました」
「ちなみに、施設内の電源もそのブレーカーで操作できるようだったから、停電もそのブレーカーで起こしたと思うのが自然だろうね」
と、入間君と夢郷君が説明すると御堂さんはため息をついた。
「そうか。停電に遭遇したら電子生徒手帳を起動することくらい当然予想がつくことだ。そこまで入念に対策されていたのではどうしようもないな」
『人聞きが悪いなあ! 電子生徒手帳はその性能の万全さを保つためにみんなが寝ている時間とかに遠隔でメンテナンスソフトとかを走らせることがあるんだよ。そういう時に再起動のための遠隔強制シャットダウン機能とかが必要なの!』
「でも、その存在を事前に知っていて、それを悪用して撹乱できたのはアンタと繋がってる釜利谷しかいねーだろ!」
『さっきも言ったけどボク達は君達が校則の範囲内で何をしようが干渉はできないよ。でもまあ、"コロシアイせずに脱出"なんてイレギュラーを起こそうとしたら、同じくイレギュラーで対抗しようとする奴もいたかもしれないね。ボクや教頭ではない誰かが、ね』
「それが三ちゃんってことかよ……お前にとっては都合の良い捨て駒か…!」
『とはいえ完全にアンフェア扱いされるのは心外だよ。そのブレーカーだって現に捜査時間に自力で見つけてるわけでしょ? そういう設備も、普段のコロシアイの中でも見つけようと思えば見つけることだってできるように置いてるよ。それこそ釜利谷君しか知らないようなパスワードで封印されてるとかならウダウダ言うのも分かるけどね。分かったらボクに文句言うのはやめて議論に戻ること。はい論破』
「ウ、ウゼー…」
「そいつを相手取っての論戦はそれこそ時間の無駄だ。やめておけ」
モノクマは呆れたように言い放つ。モノクマや連中に繋がっている釜利谷君が俺達の知らない設備を使って攪乱を試みたことは、黒幕側の人間しかその設備の存在を知らないことを鑑みると随分アンフェアだが―――モノクマはそれを『脱出というイレギュラーに対応するためのイレギュラー』と説明した。この説明に納得はできないが、現状コロシアイが進行している以上、奴の言い分は否が応にも飲み込まざるを得ない。
コトダマ:【隠しブレーカー】
ランドリーの床下に隠されていたブレーカー付き配電盤。これを下ろすと施設内を意図的に停電させることができる。同じものが放送室の機材の中にも存在し、両方で電力のオンオフを切り替えることができる。ブレーカーの状態は共有されているため、片方が落ちるともう片方も落ちた状態となり、逆もまた同じ。
また、同じ配電盤には各生徒の電子生徒手帳のオンオフを切り替えるブレーカーも存在し、これを落とすことで対象の生徒の電子生徒手帳を遠隔で強制シャットダウンできる。
「話がとっ散らかりましたので、一旦まとめましょうぞ。御堂殿は津川殿とリュウ殿の協力を得て、ロープと煙突を用いた脱出計画を実施しようとした。しかし突然の停電と電子生徒手帳の強制停止により混乱し、その間に背後から何者かに襲われ、意識を喪失したと」
「そんな感じだね。ありがとう」
丹沢君がまとめてくれたことでこの事件における御堂さんの動きは大体分かった。だが、それによって新たに芽生える疑問も数多く存在する。
「…で、結局秋音ちゃんを背後から襲ったのは誰なワケ?」
亞桐さんが素朴な疑問を挟む。
「誰って、それを探すのが議論の目的だろ。どう考えてもそいつが犯人なんだから」
「前木君の言う通りだが、僕には気にかかることがあってね。何故犯人は御堂君を気絶させるに留めたのか? 暗がりの中とはいえ、御堂君が犯人の声などから人物を特定する可能性はあったはずだ。わざわざ御堂君を生かしておくのはリスクでしかない」
「確かに……」
夢郷君の疑問にみんなが口を閉じる。犯人は何故御堂さんを襲ったにも関わらず、気絶させるに留めたのか。殺してはいけない理由があったのか。それとも…。
「そこら辺考えても当事者の御堂さんが分からないなら分からないだろうし、先に周りの情報から補完してみたら?」
と、小清水さんが指を立てて誘導する。彼女にはその謎の答えに辿り着く道筋が見えているのだろうか。
「補完って?」
「例えば、津川さん。あの子、通気口を通って食堂から焼却炉に向かったんでしょ? 彼女が被害者だっていう前提で話を進めるなら、彼女はいつどのタイミングで焼却炉に到達してそこで亡くなったの? 御堂さんが襲われるよりも前? 後?」
「それは……どうなんだろう」
確かに津川さんが焼却炉で亡くなったなら、どこかのタイミングで焼却炉に到達していないといけない。しかし、トラッシュルームでは御堂さんが背後から襲われるという事件が起きていた。この二つの事件の時系列を確定させておく必要がありそうだ。
「それについては考えるまでもないと思うけど」
と、伊丹さんが口を開く。
「だって、私達がトラッシュルームに突入するきっかけは何だった? あの恐ろしい声を聞いたからじゃない。モノクマが言っていた悲鳴を増幅して施設内に流すっていう機構の効果よ」
「あぁ……そういえばそんなこと言ってたっけ。本当に悪趣味な話だ…」
「ですが、そうなりますと津川様は私達がトラッシュルームに突入する直前に亡くなられたことになりますね…」
「そして、ママが気絶したのは停電の少し後だから、リャンピーが亡くなった時には既にママはトラッシュルームで気絶してたハズでありんす! 時系列的にはママが襲われたのが先ってコトでありんすね!」
伊丹さんや吹屋さんが言うとおり、俺達が焼却炉から悲鳴を聞いたのは死体発見の直前だ。そうなると、御堂さんが気絶させられたよりもかなり後に焼却炉での事件が起きたことになる。
コトダマ:【焼却炉“ファラリスくん4号”】
校内で発生したゴミを処理する焼却炉。中は小部屋程度の広さがあり、灰や炭で溢れている。人感センサーを備えている。ゴミ投入口は人間が入れるほど大きく、分厚い扉が備えられている。上部に排気口となる煙突があり、上方に向かって伸びている。稼働した際の火力は非常に強く、遺体も急速に灰と化してしまう。
また、モノクマが設計したこの焼却炉には、中にいる人間の絶叫を牛の頭の形状をした装飾から牛の鳴き声に変換して発する機能が備えられている。この鳴き声は自動で校内中に設置されているスピーカーを通して放送される。牛の装飾は焼却炉のゴミ投入口の真上についており、トラッシュルームの中では放送を通さない生の雄牛の声を聞くことができる。
「あれ? でもよぉ……焼却炉ってなんかホラ、人がいる間は起動しねぇって話じゃなかったか? なんで津川は焼き殺されたんだぁ?」
土門君が言っているのは焼却炉の機能―――人感センサーのことだろう。確かに俺も最初は同様の勘違いをしていた。しかし、あれは決して焼却炉で人を焼き殺すことが不可能であることを証明するものではないんだ。
「モノクマが言うには、あの焼却炉の人感センサーが人間を感知している間は焼却炉を起動することはできない。けれど、既に起動した状態であれば人が入っても反応はしない…可能性があるんだ」
捜査時間にリュウ君が言っていたことをかいつまんで説明した。彼の言ったことは仮定でしかないが、モノクマの言葉と矛盾するものではない。
「それについては葛西幸彦の言うとおりだ。脱出計画の実行に先立ち、私が確認しておいた」
と、御堂さんから思わぬ援護射撃が飛んできた。
「確認って…どうやって?」
「直接人体を入れるわけにはいかんからな。焼却中の焼却炉を覗き窓から目視し、内部の人感センサーがどうなっているか確認しただけのことだ。焼却中、センサーは遮熱カバーのようなものに覆われていた。十中八九オフ状態になっていたと考えてよいだろう。ちなみに、焼却炉の扉は燃焼中でも全く問題なく開くことができる。つまり、あれはこの上なく殺人に向いた焼却炉だというわけだ」
モノクマは焼却炉に人感センサーが付いていたことを”興醒め”と評していたが、あの憔悴は全くのデタラメだったということになる。実際にはあの焼却炉は駆動中に人を放り込めば簡単に殺人を犯すことのできる仕組みになっていたのだ。
コトダマ:【人感センサー】
焼却炉内に備え付けられているセンサー。これが人間を検知している間、焼却炉は動作しない。ただし、一度焼却炉が起動すると人感センサーは機能しなくなる―――つまり、起動中の焼却炉に人間が入っても焼却炉が動作を止めることはないのではないかと疑われている。
「そうなると津川さんがどの経路で焼却炉に入ってしまったのかが気になりますね…」
「考えられる経路は『煙突から入った』したパターンと『焼却炉の扉から入った』パターンになるね」
「でも、焼却炉の扉から入るには廊下からトラッシュルームに入る必要がありますよね? 私達は停電が回復してから何回か廊下を行き来していますし、その間に廊下を通ってトラッシュルームに入るのは難しいのではないでしょうか」
「ほう、山村君にしては実に的を射た指摘だ。明日は雪でも降りそうだね」
「オメーは馬鹿にしたようなことばかり言うな!」
「いぇい☆」
「褒められてねーから巴ちゃん! 気付いて!」
「だが、扉から入ったのではないとすると、煙突から焼却中の焼却炉の中に飛び込んだというのか。文字通り自殺行為でしかないぞ」
亞桐さん達のやり取りをスルーしてリュウ君がそう指摘する。
「私は脱出計画を津川梁に伝えた時、何かあったらすぐに焼却炉に来るようにとは伝えたが、煙や熱を僅かにでも感じた際には直ちに引き返せとも伝えていた。津川梁が正常な判断を下せる状態であれば、焼却炉が稼働していると分かっていて通気口内を進むような真似はしなかったはずだ」
と、御堂さんが付け加える。
「津川梁が食堂の通気口から焼却炉に向かっている間に何が起きたのか…。その鍵を握るのが貴様だ、安藤未戝」
「……zzz」
「えぇ!? 寝てる!? 命かかってるのに!?」
唐突に御堂さんから指名を受けたのは安藤さんだった…のだが、安藤さんはまさかの立ったまま爆睡を決め込んでいた。隣の入間君が揺さぶり起こすが、初日から変わらない神経の太さには驚きを通り越して呆れすら感じる。
「んむ? 吾輩の出番かの」
「その無神経さを咎めるのは後にしておく。貴様が津川梁を追って通気口に入った際の状況を思い返して話せ」
「え、未戝ちゃんってリャンちゃんを追っかけて通気口に入ったの?」
「私はその場に立ち会っていたわけではないが、食堂で津川梁の後に行方不明になったのであればそれしか考えられんだろう。少し考えれば分かる話だ」
確かに安藤さんはみんなで津川さんを探している時に忽然といなくなってしまった。どうやら彼女はその時に既に通気口の存在に気付き、吸い込まれるように中に入ってしまったようだ。彼女も津川さんに次いで体格は小さく、どうにか通気口を通れそうではある。しかし、俺達に何も言わず入ってしまうのは困りものだ。この図太さを見ていると今更かもしれないが…。
「それで、津川様を追いかけて通気口に入ったと言うのは本当なのですか?」
「うむ、みんなでリャン様を探している時にふとダクトの蓋が開いていることに気付いてのう。なんとなくそこが怪しいと吾輩のカンが言ってあったぞよ。ちなみに蓋は開きっぱなしだと見栄えが悪いから内側から嵌め直しておいたぞよ」
「そんなことするから分かりづらくなったんじゃ…」
「それで吾輩は何も考えず前に前に這って行ったのだがのう、ある時から急にダクトが煙だらけになってしまってのう。ロクに息もできず、真っ暗で身動きも取りづらく、大ピンチに陥ってしまったのだぞよ!」
「そのタイミングで焼却炉が稼働してたってこと…?」
「いよいよ吾輩も年貢の納め時かのう〜と思っていたが、しばらくすると煙が引いたので先に進んでみることにしたぞよ」
「後ろに下がって食堂に戻ろうとは思わなかったのか?」
「ダクトの中は身体の向きを変えられないくらい狭かったから、前に進むのと比べて後ろに下がるのは物凄く難しいのだぞよ。残された体力でここを出るには前に進むしかなかったぞよ。それで、気付いたら焼却炉の中に落ちていたぞよ」
安藤さんは自らの身に起きた事を時系列順に話していった。最初は津川さんを追いかけるために通気口に入ったものの、道中で煙に覆われてしまい、酸欠の中で必死に前に進んだ結果、捜査時間になって焼却炉の中に落ちてきた。彼女が息も絶え絶えな様子であったことや全身が煤で覆われていたことも納得はできる…。彼女の行動はこの事件において起きたことの時系列を整理する上で大きな意味を持っているかもしれない。
コトダマ:【安藤未戝の所在】
コロシアイ発生前、安藤は食堂で津川を探していたが、突如として行方不明になった。その後、捜査時間の最初の方に焼却炉の煙突から焼却炉内に落ちてきた。発見された際、煤だらけの格好で意識を失っていた。同じく気を失っていた御堂共々モノクマに連れ去られ、治療を受けている。裁判には意識がある状態で参加する予定。
「そうなると、津川は安藤より先に通気口に入ったわけだよな? 御堂が言う通りなら、通気口に煙が出てきた時点で引き返して安藤と鉢合わせていたはずだが、そうなってはいなかった」
「あんな狭い所で鉢合わせたらお互い身動きが取れなくて大変だったのう〜」
「津川梁はともかく、安藤未戝は通気口を通過する練習は積んでいない。また、津川梁はより体格が小さく身動きは取りやすい。両者が通気口内を通過する速度には大きな差があったはずだ」
「何が言いたい?」
「焼却炉が稼働する前に、津川梁が焼却炉に到達していた可能性があるということだ」
「え? でも、リャンピーは煙突から稼働中の焼却炉に落ちて亡くなったんでありんしょ? リャンピーが焼却炉内にいる状態だと焼却炉の稼働はできないって話だったでありんす!」
「いや、御堂が言いたいのはこうだ。"津川が一度トラッシュルームに到達した後、何者かによって焼却炉の扉から中に押し込まれて焼き殺されたのではないか?"とな」
吹屋さんが指摘した疑問に、リュウ君が答える。
「うぅん…? なんだか複雑な話ですね。誰がどうやってそんなことを?」
仮に津川さんが想定よりも早くトラッシュルームに到達していたら? その問いが頭の中に浮かんでくると同時に、その時トラッシュルームで何が起きていたかを思い返す。
「えっと…確か、御堂さんは停電の最中にトラッシュルームで誰かに襲われたと言っていたよね。津川さんが通気口に侵入したのも停電の後だから、時系列的にはその辺りということになる」
俺はそう話しながら手帳に書かれた事象同士を丸で囲み、線で繋いだ。
「停電後の時系列を詳細に詰めるのは難しいけど、その辺りということが分かっていればある程度起きた事を類推することもできる。例えば……御堂さんを襲った人物が津川さんを焼却炉に押し込んだ人物と同じかもしれない、とか」
「……!」
その場にいる全員の表情がにわかに変わるのを感じた。自分の立てた仮定が間違っているかもしれないという恐怖はありつつも、その言葉を喉奥に押し留めておこうという気は毛頭湧いてこなかった。
「…単刀直入に聞きまする。御堂殿を襲い、津川殿を葬り去ったと思われる犯人は一体…?」
「その結論を急ぐのはまだ早いが、おおかた可能性のある人物の目星は既に立っている。そうだろう、葛西幸彦」
「………」
御堂さんからこの振られ方をされるのは初めてではない。つい数時間前にもあったやり取りだ。今度は覚悟を決めて自力で名前を言わなければならない。まだ確たる証拠はないが、この事件の容疑者として最も可能性が高い人物の名を。
「今現在も行方不明になっている釜利谷三瓶君。停電中のアリバイという点からも、彼が最も犯人に近い存在と言わざるを得ない」
その言葉を聞いて驚いた素振りを見せた人はほとんどいなかった。誰もが脳裏をよぎった可能性ではあった。黒幕側としてあまりにも不平等な情報を得ていた彼は、今回起きた停電などのイレギュラー事象の首謀者とも言える。彼がこの殺人事件を巻き起こした犯人という論理は至極真っ当なものだ。しかし、それが分かっていても、安易にこの事件の全てを結論づけるわけにはいかない。
「まあ…そう考えるしかないよな」
「じゃ、じゃあ……もう投票?みたいなのやって、さっさとこんな議論終わりに…」
「亞桐君。気持ちは分かるがまだまだ解かなければならない謎はいっぱいあるはずだ。例えば、その釜利谷君は今現在生きているのかどうか?とかね」
「ですが、仮に彼が生きていないとしても、投票先は変わらないのですから意味の無い議論では…?」
「まさか貴様らは、この裁判は"犯人を当てればそれで終わり"とでも思っているのか? 釜利谷三瓶は黒幕の尖兵だ。奴の行動を洗い出すことで黒幕に関する情報を公の場に示す機会を当てられているのだ。この機を逃す愚物に脱出の権利は二度と訪れんぞ」
入間君の反論に御堂さんが釘を刺す。今現在の情報では釜利谷君がどうなって今どこにいるのか、その情報は明らかになっていない。彼が犯人であるということも"そうかもしれない"という段階でしかない。この状況での投票はあまりにリスキーだし、御堂さんの言う通り彼の行動を洗うことが黒幕との繋がりを掴むチャンスにもなる。ここで議論を終わらせるわけにはいかない。
「モノクマがどう言おうと、この事件は黒幕が直接的に関与してるって私ずっと言ってたじゃない。この事件はただのデスゲームイベントじゃないのよ」
「貴様はやたらと黒幕周りを気にしているようだが、何か思うことでもあるのか?」
小清水さんに御堂さんが問いかける。確かに小清水さんは事件発生直後からやたらとモノクマに突っかかり、事件の犯人よりも黒幕の周りを明かすことに執着しているような気もする。もちろん黒幕がどんな人物なのかという命題は俺を含め全員が気にしていることではあるが、彼女は他の人達とは一線を画す目線で事態を俯瞰しているようにも思える。
「あなた達、モノクマに毒され過ぎよ。私達の目的はこのコロシアイゲームに勝つことじゃなくて、このコロシアイゲームを降りることでしょ? 犯人捜しで満足するなって言ったのはあなたじゃない。私は最初っからその目線で事件を見てたってだけよ」
「…フン、今はそういうことにしておこう。では釜利谷三瓶が何故この場にいないのか。奴が事件の間に何をしていたのかを整理するとしようか」
「それなら、一緒に行動していた夢郷とか土門たちが知ってるんじゃないか?」
と、前木君が彼らの方をチラリと見やる。夢郷君、土門君、山村君の三人は釜利谷君と共に行動をしていた。
「そうだな、捜査時間中に葛西君達に話したことと同じこと順番に話していけばいいかな?」
「そうだね、それでいいと思う」
夢郷君は捜査時間中に話したことと同様の話をこの場で全員に対して行った。
コトダマ:【夢郷の証言】
停電前、釜利谷が所用でランドリーに入ろうとしていた。口論の後、結局は土門が同伴することでランドリーへの入室を認めた。その後、停電が発生した。電子生徒手帳を起動しようと試みたが、ボタンを押しても起動せず、真っ暗闇の中で行動することになってしまった。黒幕に襲われる可能性があったため、声や物音を立てないように土門から声をかけられた。夢郷は廊下に伏せて待機していた。しかし足音や扉を開くような音が続いたため、少し後に周囲の人間に声をかけたが、誰からも返答はなかった。
それからさらに後、停電が回復した時には廊下には自分しか居なかった。
「まあ、おおかた想定していた通りだな。いろいろと指摘したい対応はあるが、それらは後だ。これで停電を起こしたのが釜利谷三瓶であることがほぼ確定したな」
「ああ、僕もそう考えて間違いないと思っているよ。ランドリーで彼がしゃがみ込んだ場所にブレーカーがあったわけだからね」
「問題はその前じゃない? 釜利谷君が突拍子もなくランドリーに行きたいと言い出したのをすんなり受け入れるなんて流石にお粗末すぎない?」
「その話は後にすると言っただろう」
「…いえ、もしかするとその違和感はこの事件の根幹に直接関わっているかもしれないわ」
小清水さんが言い出した疑問を御堂さんが却下しようとするが、それに異を唱えたのが伊丹さんだった。思えば、入間君も捜査時間に「何故釜利谷君をランドリーで好き勝手に行動させたのか」と疑問を抱いていた。こうも多くの人物が同じ疑惑を抱いたのであれば、その疑惑はただの疑惑では終わらない可能性が生じる。
「何が言いたい?」
「夢郷君に聞きたいのだけれど。釜利谷君がランドリーに行きたいと言い出した時、最終的にそれを認めようと結論付けたのは誰なの?」
「それは……どうだったかな。僕は訝しんではいたが…」
「わ、私もそうですよ!!」
伊丹さんに問われて夢郷君と山村さんは慌てて否定する。一方俺は、捜査時間中に夢郷君が話していた内容を思い返していた。
「まず釜利谷君が用を足したいと言って食堂を出た僕達だったが、用を足した後、食堂に戻る際に釜利谷君が『ランドリーに忘れ物があるから取りに行きたい』と言い出してね。もちろん怪しかったから却下して食堂に戻るつもりだったんだが…」
「結果的にはランドリーに連れて行くことにしたんだ。土門君が電子生徒手帳のチャットで密かにメッセージを送ってきたんだ。『黒幕に繋がる動きが見られるかもしれないから、泳がせたい』と」
俺は自分の背筋がぞわりと逆立つのを感じた。この事件が発生してからある人物の動きに関してずっと抱いていた違和感。それが今、結実したように思える。
俺はその人物に顔を向け、深呼吸してから問いかけた。
「土門君―――君は、この事件にどう関わっているんだ?」
【学級裁判・中断】
リメイク版の学級裁判は、リメイク前で行っていたような「ノンストップ議論」「議論スクラム」などのゲーム的な演出を行わず。あくまでも小説としての形を重視した形式で進めております。
リメイク前のような演出の方が良かったというご意見が多ければリメイク前の形式に戻す可能性もあります。