エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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こんなペースでプロローグ終わるのか?


No killing? No kidding!

 

【挿絵表示】

 

 

 

「いえ……初めてお会いした……と思いますけど」

 と俺が答えるより早く、その女性はガバッと地面に伏せて釜利谷君の足元を歩くアリに顔を寄せる。

 

「はぁぁぁ~~~ん♡♡ 触覚の角度エグすぎィ♡♡ 良かったねぇ人間さん如きにその儚くも尊い命を散らさずに済んで……」

 恍惚の表情でアリに何かを語りかける赤髪ロングにメガネの彼女は、ドン引きする釜利谷君にギョロリと目を向ける。

「今回は未遂だから許したげるけど、次同じことしちょったらおまんの(タマ)獲ったるけぇのぉ!!!!!」

「なんで広島弁の輩風なんだよ」

 呆れながら立ち上がる釜利谷君は、電子生徒手帳を開いて彼女の顔と情報を照らし合わせる。

「”超高校級の昆虫学者”小清水彌生(こしみず やよい)……。ゴミを分解する虫とか排水を浄化する虫とかを品種改良で作った天才昆虫学者…だとよ」

「品種改良だなんて!!! こちとらそんな人間都合の事情で虫さんを弄るような真似してないわよ!!! 撤回なさい撤回!!! 私は虫さんが食料不足に悩まされないように手助けしてあげただけ!!!」

 今度はガバッと起き上がり釜利谷君に詰め寄る。何というか、思想の強そうな人だ。

「文句はこのプロフィール書いた奴に言えよ。お前はさっきの騒動にはいなかったみたいだが事情は分かっ」

「人間のクセにべちゃべちゃ喋らない!!! ぜ~んぶ知ってますよ!!! この電子生徒手帳に書いてあることならね!!」

 喋るのは人間だけなのに”人間のクセに喋るな”、とはどういう意味なのか。彼女は白衣のポケットから電子生徒手帳を勢いよく突き出して見せてきた。白衣同士なのに随分折り合いが悪い二人だ。

 

「の割には全然動揺してなさそうだけど…」

 俺と釜利谷君の後ろから前木君が怪訝そうに呟く。

「人間を殺し合わせることがそんなに変かしら? ただの人間社会の縮図じゃない。蟲毒の方がよっぽど残酷よ!!!! 蟲毒反対!!! 蟲毒を娯楽化する全ての人間に厳罰を!!!!」

 この少ないやり取りだけでも、かなりヤバい人であることがよく分かった。超高校級って本当に千差万別なんだな。なんだか自分が思いのほか常識人寄りだったことに安心すら感じている。

 

「ところでそこのあなた!! そこの生存能力薄そうな人間さんよ!!」

 小清水さんは俺の顔を指さして勢いよく呼びかけてきた。当たり前のように指さすのやめてほしいんだけど。しかも今しれっとディスられなかった?

「え……俺?」

「あなた、とてもいい目をしているわね!! 私の特級最重要研究助手に任命するわ! 明日から研究室の雑巾がけ、お願いね!」

 やたら肩書が多い役職に勝手に任命されたかと思えばその役職からは想像もつかないくらいのド雑用を命じられた。どこが最重要助手なの?

「えっと、言いたいことが色々あって。まずここはあなたの研究所ではありません。それと、俺は脚本家であって昆虫学の知識はまるでないのであなたの助手にはなれないです」

「えーっ、本当に!? 二つ返事で受け入れてくれるなんて嬉しいわ! これから宜しくね!」

 物凄くドライに断ったのにこの人は一体何を聞いていたんだ? 虫と会話しすぎて人間と会話できなくなっちゃったのかな。これ以上関わりたくないんだけど…。

 

「おお…なんか良かったじゃん、葛西。仲良くやれよ」

 前木くんが面倒ごとは嫌だと言わんばかりに俺を小清水さんの方に押しやった。世知辛い。助けてくれたっていいじゃないか。

「小清水さん…でしたっけ? その……研究熱心なのは良いことだと思うけど……今って緊急事態なワケで。それは分かってるよね?」

「ええ、もちろんよ! こう見えても私、今マンディブラリスフタマタクワガタさんくらいには気が立ってるんだから」

「うん、生きている間に2度と聞かないであろうクワガタの名前を喩えに出されても全く伝わらないんだけどね。かなりまずい状況ってことが分かってるなら協力してほしいんだよね。まずはその施設内に散らばったと思われる生徒達を見つけて、それで……」

「今後どうするか話し合う、が最優先なんじゃねーか?」

 前木くんが続けざまに言った言葉に俺は頷く。

「この施設がどこにあってどういう場所なのか、あのヌイグルミはなんであんなことを言ったのか、そしてどうしたらこの施設から出られるのか…。考えることは山積みだけど、とにかく今は考える頭がいる。曲がりなりにも"超高校級"の小清水さんならそれくらい分かるでしょ?」

「曲がりなりにも、てところは引っかかるけど。まあ仕方ないわね、誰かに殺されるのか警戒しながらじゃ虫さんと触れ合うことすら叶わないわ。早く片付けて、この施設中の虫さん達を幸せにしてあげましょう!」

 言い方を工夫してみたら何とか納得してくれた。頑張れば言いくるめることはできそうだがいかんせん関わっているだけで疲れる人だ。とりあえず俺たち四人は1階に移動するためエレベーターに乗った。

 

 

 初めて会うはずの人物だし印象も今のところ最悪なのに、彼女のことがなんとなく気になってしまうのは何故なのだろう。

 

 

「………!」

 エレベーターの扉が開く音がすると同時に、誰かの怒鳴り声が微かに聞こえてきた。廊下の先からだ。

「なんだぁ? どっかでドンパチやってんのか?」

 釜利谷君は頭をガシガシと掻きむしりながら廊下を見回す。前木君もそれに続いて廊下の先へと進んでいった。俺もそれに続こうとしたが…。

 

「でもクモ綱の中でもクモガタ類にはクモさんと近縁じゃない種もあってね、例えばザトウムシさんなんかは豆粒みたいな体に糸みたいに細長い足を八本持ってるから一見するとアシナガクモ系のクモさんに見えるんだけど、」

 離れようとすると小清水さんが物凄い力で腕を掴んできて離さない。そしてずーっとよく分からない虫の話をし続けている。めちゃくちゃ面倒くさい。顔は普通に美人なのに、こんなに女性に近付かれて嫌な気持ちになったのは初めてかもしれない。

 俺はさながら馬車を引く馬のように腕を掴んで離さない小清水さんを引っ張って声の元へと足を運んだ。

 

 

「ふざけんなってんだ! なんでオレっちがコロシアイなんざしなきゃならねぇんだい!」

 先ほどまで俺が意識を失っていた教室の中。そこで、作業着のような恰好をした体格のいい男子生徒がモノクマと言い争いをしていた。突然いなくなったと思ったらこんなところにいたのか、モノクマは。

「あぁん!? …うわっ、お前らもしかして…」

「怖がんなよ。そこのクマの被害者仲間だ」

 突如教室に入ってきた俺達を見て狼狽える彼に、釜利谷君が不敵な笑みと共に呼びかける。

 

『ちょうど良かった。どーもボクはこういう石頭のお世話は得意じゃなくてねー。君達の口からコロシアイのルールってやつをじっくりゆっくりビックリ教えてあげちゃって!』

「ビックリは余計だな」

「…と、とにかく! オレっちは世界で一番高いタワーを立てるためにこの学園に来たんだい! お前みたいな喋るヌイグルミにコロシアイしろって言われたところでそうは問屋が卸すかってんだ!」

『はいはい、そういう江戸っ子の前時代的むさ苦しいテンションは守備範囲外でーす。ボクはダウナーで無関心でナイーブな令和っ子だからね。あれ、リメイク前準拠だと平成っ子?……わかんね! 現代っ子って言っとけば問題ないか』

 ぶつぶつとわけの分からないことを呟く不気味なモノクマを無視して俺は彼の元へと歩み寄った。電子生徒手帳の情報と照らし合わせながら…。

 

「”超高校級の建築士”土門隆信(どもん たかのぶ)……君で合ってる?」

 名前の下に書いてある経歴まで目を通す時間はなかった。俺は存じ上げていないが、恐らく建築関係で世間一般に評価されるような功績を上げているのだろう。立派な体躯を見るに、設計や管理だけでなく実際に体を動かしてもいそうに見える。

「おうよ! オレっちは……ってそんな胸を張って名乗っていられるような状況でもねぇか。ったく、変なとこで目覚めたと思ったら急に喋るクマは出てきやがるしよう…」

「まあそこらへんの状況のすり合わせとかは後でもできんだろ。とりあえず今はホラ、他に離れ離れになってるやつらを拾いに行こうぜ。一人にしとくと先走った奴に殺されるかも分からんからな」

「三ちゃん、サラッと怖いこと言うな…」

 釜利谷君の言うことはもっともだが、そんな恐ろしいことをあっけらかんと言うものだから怪しく見えてしまうのだ。

 

「お、おうよ……てことはお前らはほとんど集まってたってコトか?」

「ああ、さっき体育館で”入学式”済ませたトコだ。お前含め、何人か欠席者がいたみたいだが」

「そーだったのか!? オレっちはそんなこと全然知らねぇで歩き回ってたぞ」

「まあ、体育館に集まったのも流れというか、自然とそうなったってだけで誰かが号令したわけじゃないからね……」

「ところで土門さ、俺ら以外に生徒に会ったりした?」

「ん? ああ、オレっちは2階の教室で目を覚ましたんだけどよ、確か2階にはトレーニングルーム?みてぇな場所があってよ、そこで女がトレーニングしてたな。確か空手家だっけか」

「空手家……ああ、コイツか。”山村巴(やまむら ともえ)”……目覚めてすぐ状況も確認せずトレーニングかよ」

 そこはなとなく小清水さんや安藤さんに通じるヤバさをその人からも感じるのは気のせいだろうか。そういえば小清水さんは静かだけど何を…。

 

「小清水さん、何してるの?」

 彼女は教室の入り口の方でぼうっと立っていた。目線は壁の方。たぶんだけど…ダニか何かを見ているのだろうか。無理矢理引っ張ったらまた変なスイッチが入りそうだなあ…と渋っていたら釜利谷君が彼女の白衣の袖をグイと引っ張った。

 

「オイ小清水、行くぞ。次はその山村ってヤツを捕まえに行く」

「捕まえるて。言い方」

「ええ……何? 何か話してたの?」

「マジか。そこからかよ」

「ごめんなさい、私哺乳類の出す音は優先的に聞き取れない体質なの。どうしてもダニさんが壁を歩く音が気になっちゃって…」

「どんな特異体質だよ、生きづらすぎだろ」

「まあ、詳しい事情は後で葛西君からこってり小一時間聞くから大丈夫よ! よろしくね、葛西君に哺乳類さんに哺乳類さんに哺乳類さん!」

「葛西以外全員哺乳類呼びかよ! 名前くらい覚えろ!」

『ちょっとボクは!? れっきとした哺乳類クマ目クマ科なんですけど! シャケもしっかりつかみ取りできるんですけど!』

「クマ目なんて目はないけど」

『え!? そうなの!?』

「なにこの会話」

 

 ……頭が痛くなりそうだ。

 

 

 

「つまり、1Fと体育館はエレベーターでなければ行けないが、1Fと2Fはエレベーターでも階段でも行き来できる」

「そうそう。オレっちはエレベーターがあるなんて知らずにそこの階段から1階に降りてきたんだ。そんでそこの教室であのクマに出会って…」

 数分後、俺たちは1階の廊下でそんな会話をしながら歩いていた。モノクマは教室で『ボクは哺乳類なんだ~!』と騒いでいたので置いてきた。本当に殺し合いを強いられているのか疑問なくらい緊張感のない空間だ…。

 

ねえ、ところでさっきから後つけられてるんだけど誰?

「!?」

 小清水さんのあまりに唐突なカミングアウトに俺と釜利谷君はビクッと肩を震わせた。一方、先を歩いていた土門君と前木君は聞こえなかったようで階段を上がり始めていた。

「あ? なんだと? どこだ?」

「さっきから足音がひょこひょこ聞こえてうるさいのよね。そこにいるんでしょ?」

「哺乳類の音は聞こえないんじゃなかったのかよ」

 小清水さんは苛立たし気にメガネのずれを指で直しながら廊下の曲がり角へと歩いた。次の瞬間、その角から物凄い速度で小さな人影が飛び出してきたのだ!

 

「えっ?」

「わっ!!」

 その人影は一瞬で俺と釜利谷君の横を通り抜けると階段の方へ抜けていった。あまりの速さに顔は見えなかった。一瞬目に移ったのは綺麗なブロンドの髪だ。

「おい、そっち行ったぞ! 捕まえろ!」 

「え? 何を?」

 土門君がそう答えながら振り返った時には、その人影は既に彼の横を通り抜けようとしていた。俺と釜利谷君も慌てて階段のふもとまで来たが…。

 

「ぎゃっ!?」

「キャァッ!!」

 

 男女の鋭い悲鳴が踊り場から聞こえてきた。そして俺の視界に広がったのは―――。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 数秒の後、視界が真っ暗になった。一瞬のめまいの後、後頭部に激痛を感じた。何人かの俺を呼ぶ声が聞こえ、そこで―――。

 

 

 布。圧倒的、布。

 

 何故か俺は顔面全体で”布”を感じていた。顔にタオルを押し付けられているような感覚だ。そして両耳に温かい肌のような感触…。

 ゆっくりと目を開けると、そこには俺の理解を超えた光景が広がっていた。

 

 

 

 階段のふもとで、何故か金髪の小柄な美少女が俺の顔を跨いでいた。耳に感じる肌は彼女の太ももで、顔面に感じる布は、間違いなく彼女のパn………。

 

 

 

 

 ―――こんなところで(社会的に)殺されるなんて、冗談じゃない!

 

 

 

 




世界一アツくないタイトル回収。
次話でプロローグは終わりです。


―――――――


“超高校級の建築士”

 土門隆信(どもん たかのぶ)

 男子生徒/185㎝/75㎏
 【好きなもの】運動(水泳以外)、家族
 【苦手なもの】水、曲がったこと
 【人称】「オレっち」「苗字呼び捨て」 

 大手ゼネコン「土門建設」社長子息。中学生の頃には自力で大型建築物の設計に携わり、政府の新築庁舎にも彼が持つ土門建設の技術が取り入れられているという。幼少期から設計・施工・管理技術の英才教育を受けたエリートであるが、本人は身体を使った土木作業を好み、泥臭い仕事にこそ生きがいを見出している。昔気質の江戸っ子ではあるが堅物の気はなく、誰とでも柔軟に打ち解ける人の良さを感じさせる。情に厚いがゆえに曲がったことは人一倍嫌いであり、また自分が悪いと思った言動は見過ごせない。年頃の妹がいるらしく、意外と同世代の女性への気遣いが繊細である。




 ”超高校級の昆虫学者”

 小清水彌生(こしみず やよい)

 女子生徒/168cm/57kg
 【好きなもの】虫系全般、触手、羽音
 【苦手なもの】小動物、犬猫、鳥、人間
 【人称】「私」「苗字+君」「苗字+さん」

 明るい赤髪をロングヘアにした白衣の女性。なかなかスタイルが良い。昆虫に関する様々な論文を発表、また既存の虫の遺伝子を掛け合わせることでゴミを分解する虫や汚水を浄化する虫などを新たに生み出し、昆虫界に激震を巻き起こした。本人は過激とも言えるほど昆虫の保護に熱心であり、前述の品種改良も人間社会の為ではなく現代における昆虫の生息域を拡大するために行った研究である。ただしそれが良い方向に進む限り技術による遺伝子改良自体に抵抗は感じておらず、前述の改良をはじめ次々に品種改良した昆虫を生み出し、人間の淘汰圧を超越した昆虫の誕生を目指している。あまりにも思考が偏っており言動が極端であるため人が寄り付かない。一方で何故か葛西のことをとても気に入っており、特別助手に任命した。

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