エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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よいお年を。


Re:たったひとりの最終裁判(けっせん)

 

 

 ―――状況を整理しよう。

 

 俺は"超高校級の脚本家"として"私立 希望ヶ峰学園"に入学する予定だった。しかしいつの間にかこの謎の空間―――釜利谷君が言うには"希望ヶ峰学園"らしい―――に連れてこられた。いつ、どこから、どうやって連れてこられたのかは全く分からない。この場所には、俺と同じように連れてこられた生徒が多数存在していた。そこで俺達は謎のヌイグルミから"コロシアイ"を命じられて―――。

 

 頭から整理していたらキリがない。要するに、今俺は―――。

 

 

 "津川梁(つがわ りゃん)"と名乗る金髪の美少女と正座して相対していた。何、この状況。

 

 

「つまりお前は、1人で施設内を歩いていた時にモノクマからのメッセージをタブレットで受信。コロシアイのルールを見て怖くなり、他の奴らがどう動いているかチェックするために尾行していた、と」

 彼女が述べた言葉を前木君が分かりやすく整理して言い直した。

「ご、ごめんなさいなり!! 見せられるものはなんでも見せるし舐められるところはどこでも舐めますから命ばかりはお助けくださいなり!」

 独特の語尾で話す少女…津川さんはそう叫びながら勢いよく土下座した。

「普通にかなりアブないこと言ってねーか、コイツ」

「そんなことはどうでもいいのよ。何故私の第一助手である葛西君に求愛行動をしたのか説明してもらえる?」

 求愛行動なわけないでしょ、と俺は思わずツッコんだ。状況的には完全に事故だが、俺は彼女のパn……着用しているものに顔面を埋める形となってしまった。セクハラで済むのかどうかも怪しいレベルの行動だ。しかもそれを多くの生徒達にリアルタイムで見られたのだ。人生でここまで生きた心地がしないのは初めてだ。

 昔、友達に頼まれて書き下ろしたライトノベルでこういうシチュエーションを書いたことがあったな。あれを書いた時の俺は未熟だったと思う。実際に体験してみて感じるのはドキドキやワクワクなどではない、ただ純粋な罪悪感と恐怖だけだ。俺の人生終わったかも。

 

「その……尾行してるのがバレて…とっさにマズいと思って逃げようとしたら…そこの彼に階段の踊り場でぶつかって、それで……」

「運が良かったんだか悪かったんだか」

 それで奇跡的な態勢で俺の上に覆いかぶさってきたと。そんなことあるのか。前木君も踊り場で突然津川さんにぶつかられるなんて()()()()()。ただ、この事件がなければ彼女にも警戒されっぱなしで近づけなかったのかもと思うと複雑な気持ちではある。

 

「…俺は別に何ともないけど、お前はケガとかしてないか? 結構な高さから落ちたろ」

「リャン様は別に…。彼が下敷きになってくれたから」

 一人称も独特な彼女…津川さんは不安そうに俺を覗き込んだ。俺は背中全体を強打したものの、逆に背中全体で衝撃を受け止められたことで特定の箇所に大きなダメージを負ってはいなかった。背中がヒリヒリするくらいだ。

 

「ちょっと。まだ求愛行動の理由を聞いていないんだけど」

「だから求愛じゃないんだって」

「えっと…貴方は彼の付き人なりか?」

「そんなわけないでしょう。付き人は彼の方よ。付き人というより奴隷よ」

 俺が何も言い返さないからって好き放題言うな、小清水さんは。第一助手って奴隷なのかよ。

「ほえ…? よく分からない関係なり」

「安心しろ。オレ達も全然分かってねえ」

「えっと、俺と小清水さんのことはいいから。とりあえず俺達は君と同じくこの学園に閉じ込められて殺し合いをさせられようとしている被害者仲間だから、怪しむ気持ちは分かるけど協力してほしいんだ」

「………」

 津川さんは不安そうに俯く。合流した状態で殺し合いの話を聞かされた俺たちとは違って、一人でそれを聞かされた彼女の不安は計り知れない。他の生徒に警戒を抱くのも不思議はない話だ。

 

「気休めかもしれないけどよ、こうやって複数人で行動してれば変な気を起こすこともできないだろうよ。心配なら小清水の後ろにでもいればいいんじゃねぇか?」

「この人はヤダ」

 土門君の建設的な提案を一瞬で蹴る津川さん。土門君は女性同士ということで気を遣ったのだろうが、もうここまでのやり取りで小清水さんの印象が最悪になっている。

「…キミの後ろにいても、いいなりか?」

 代わりに、津川さんは俺の背中にぴったりとくっついた。他の感情よりまず先に困惑が訪れた。

「え? 君にあんなことしちゃった俺でいいの…?」

「…あれは事故だし。それに、キミはなんとなく…()()()()()を感じる…から」

 人柄の優しさのことを言っているのなら、前木君や土門君の方がありそうなものだが。何故彼女に気に入られているのかピンと来ない。小清水さんにも何故か目をつけられるし、これまでの人生で女性と関わったことなんてほとんどないだけに不思議な感じだ。

 

「あなたが葛西君と団体行動をするのは勝手だけど葛西君は私専属の奴r…第一助手なの。勝手に私の視界外に連れ出さないでよね」

「今また奴隷って言いかけたな」

「分かった、分かったから。…あ、そういえば君の才能についてまだ聞いてなかったね。生徒手帳に書いてある情報、見てもいい?」

 相変わらず面倒くさい小清水さんをいなしながら津川さんに許可を取ると、彼女は特に抵抗する素振りを見せることもなく頷いた。生徒手帳のプロフィールは誰でもいつでも見ることができるようだが、御堂さんにあんな言われ方をされた後だと勝手に見るのも気が引けた。

 

「えっと…”超高校級のコスプレイヤー”? 俺はちょっと聞いたことはないけど…きっとその界隈では有名人なんだよね」

「う~ん…たぶん、ディープなファンなら知ってるくらい?」

 と、津川さんは頬に指を当てながら呟く。コスプレ界隈というのがどれくらいの規模感なのか分からないが、人によってはテレビ出演するくらい成功している人もいる。彼女もそういった大スターの卵といえる存在なのかもしれない。さっきのハプニングのせいであまり意識できていなかったが、物凄い美人だ。人形のように丸く大きな瞳、透き通った綺麗な肌。それだけに余計にさっきの件での罪悪感が増すが…。

 

 

せぇいやぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 津川さんのことを聞き出そうとしていたら藪から棒に大声が階段上から聞こえてきた。この施設は一体どうなっているんだ? 

 その場にいた全員がギョッと階段上を見ると、顔をしかめたリュウ君が階段の出口、二階の廊下にいた。大声を上げていたのは、彼に襲い掛かるセーラー服の女性だ。まだ見ない顔…ということは、彼女がここに集められた最後の生徒…”超高校級の空手家”、山村巴(やまむら ともえ)さんということになる。

 

「どうして避けてばかりなんですか!!! せっかく素晴らしい好敵手に出会えたんです、心地よく打ち合いを楽しみましょうよ!!!」

「ここは稽古場ではないし、俺は稽古相手ではない。時と場を考えろ……」

 リュウ君はさっき見せた底知れぬ強者感はどこへやら、あからさまに困り顔だ。山村さんはそんなリュウ君にお構いなしとばかりに正面に正拳突きを四、五発放つ。”超高校級”の名を冠するだけあってとてつもないスピードだ。リュウ君は最低限の動きでそれをかわし、なおも対話を試みる。

「お前は状況が分かっているのか? こんなところで油を売っている場合ではないぞ」

「そういうワケにはいきません!! 強いオトコを見たらまず殴り倒せとお師匠に教わったのです!!」

「どんな教育だよ!」

 思わず放った前木君の言葉で、リュウ君と山村さんはこちらに気付く。山村さんは怪訝そうな顔でこちらを一瞥し、そして……。

「ヒェッ!?」

 と、突然拳を体に引き込んで萎縮する。

「今度はなんだよ」

「すみません……私軟弱アレルギーでして。軟弱なオトコをみると蕁麻疹が出てしまう体質なんです」

「軟弱で悪かったな! どんな体質だよ!」

「いえ、あなたじゃなくてそこの座り込んでる彼です」

 山村さんが指さしたのは紛れもなく俺だった。え? 俺が軟弱すぎて蕁麻疹出してるのこの人は。

「あーなんだ、それなら良かった」

「良くないよ!!」

 小清水さんといいこの人といい、なんで初対面でこんなに人を舐め腐れるのか。俺はこんな超高校級にならなくて良かった。

 

 

「えーっ!!! コロシアイ!?!?」

 事情を説明すると、山村さんは分かりやすく飛び上がった。知らなかったのかよ…。そういえば土門君の言葉が本当なら彼女はずっと二階のトレーニングルームにいたんだっけ。モノクマが現れて説明することもなかったようだ。

「コロシアイってなんですか!? 私、試合は好きですけど殺すのは武道の精神に反しています!! 絶対嫌です!!」

「いや、俺らだって納得してねーよ。目が覚めてから何が何だか…」

「混乱しているのはみんな同じよ。でも助け呼ぼうにも俺らスマホとか私物も無くなってんだろ。だからこそみんなで集まって状況整理しようっていう話よ」

 取り乱す山村さんに釜利谷君が告げると、彼女は納得した表情で腕を正面に突き出した。正拳突きで返事するのが癖になっているのだろうか。

「それは良いですね! こんなことを強いる黒幕を見つけ出してボコボコにしましょう!」

「そう簡単にいくなりか…?」

「その間、葛西君は私の研究室の掃除をしてもらうわね!」

「俺だけ話し合いハブられるの?」

 相変わらず会話のテンポが狂うが、とりあえず全生徒の存在を認識することはできたわけで、ここからみんなでどうするか話し合うのが目下やるべきことになるだろう。

 

”ピンポンパンポーン”

 

「!?」

 だしぬけに大きな音が建物中に響いたので、リュウ君と小清水さん以外の全員がビクッと肩を震わせて驚いた。

 

『オマエラ! これから夜時間になります。夜時間は一部の施設が施錠されます! それと、個室以外での故意の就寝は禁止となります! それではまた明日もレッツコロシアイ! おやすみなさい』

 

 モノクマのだみ声が放送となってあちこちに設置されているスピーカーから聞こえてきた。生徒手帳を確認すると、夜時間というものの定義が記されていた。

 

・夜22時~朝6時の時間帯は”夜時間”となります。夜時間の間は食堂、大浴場など一部の施設が施錠され進入禁止となります。また、時間帯を問わず個室以外での故意の就寝は禁止されているので気をつけましょう。

 

「え? もうそんな時間だったのか?」

「そーいやこの建物窓もねーしな。時間感覚も無くなるぜ」

「食堂とか大浴場があったこと自体今知ったんだけど……どーする? みんなで集まれそうな部屋は軒並み閉じてるっぽいぞ」

 どうしよう。みんなで集まること自体は廊下でもどこでもできそうだが、個室以外での就寝禁止というのも気になる。全員で集合して寝たりしたら殺し合いが起きないからだろうか。

 

「今日は疲れちゃった。私は部屋戻って寝るわね」

「おいおいどこ行くんだよ。てか個室ってどこだよ」

「え? 一階の廊下曲がった先にあったじゃない。見てなかったの? じゃ、おやすみなさい」

 そう答えながら小清水さんは足早に一階の廊下を進んでいった。

「こんな状況でよくそこまで目が利くな」

「どうすんだい? みんなで集まるのは無理そうだぞ」

「部屋がちゃんと施錠できるなら、部屋の調査も兼ねて今夜は各自部屋で過ごすっていう形でもいいんじゃないかな」

 困惑した土門君に俺はそうアドバイスした。もし本当に個室が用意されているのなら、どんな場所か見ておきたい。

 

 1階の廊下の角を曲がると、左右にずらりと扉が並んだ空間に出た。扉にはご丁寧に各生徒の名前とドット絵がはめ込まれていた。一体いつこんなものを用意したのだろうか。

「施錠のことは心配するな。このタブレットでロックをかけることができ、一度ロックすれば俺の力でも容易に開けられるようなものではなかった」

 リュウ君が懐から取り出した電子生徒手帳をかざしながらそう言った。

「いつの間に確認したんだよ」

「目を覚まして真っ先にな。おかげで体育館に行くのが遅れた」

「なるほどな」

「そんなところにまで目をつけるなんて流石好敵手! ここから出たら真っ先にお手合わせ願います!!」

「断る」

「呑気か」

 相変わらず気の抜けた会話を背に受け、俺は電子生徒手帳を扉のドアノブにかざした。まるでホテルのドアのように、ピッという電子音と鍵の開く音がした。恐る恐る中を覗くと、これまたホテルのような小綺麗な個室が姿を現した。

 

「扉は普通に空いたね…。中も……ここから見る感じ普通に綺麗な部屋だ」

「気をつけろよ、何があるか分かんねえぞ」

 念のためリュウ君に扉を押さえて開けっぱなしにしてもらい、個室に入った。部屋の中にはゴミ一つない、それでいてどこから集めたのか俺が昔からよく読んでいる愛読書や俺が所有しているものと同じタイプのノートパソコンが置かれていた。…ネットには繋がらないようだが。

 

「わぁ~、綺麗な部屋だな……。これ、お前の私物か?」

 一緒に中に入った前木君が感嘆の声を上げた。

「そうみたい……だけど…なんでこんなところに」

「怖いな……ひょっとして俺らの部屋にもこういう私物が放り込まれてんのか?」

 モノだけなら同じ物を用意することができるかもしれないが、パソコンの中に入っている作りかけの脚本の資料なんかも正確に同じものだ。こればかりは再現などできるはずもない。このパソコンは間違いなく俺の私物そのものということになる。どうやってこれをこんなところに持ってきた。少なくとも俺の家に侵入できなければこんなことはできないはず…。

 

「マジかよ……一体どうやって?」

 気の抜けた会話ばかりで失いかけていた危機感と恐怖感が再度俺の背筋を撫でた。忘れてはならない。敵は底知れないヌイグルミ達であることを。奴らが一体何者でどんな力を持っているのか、俺は全く知らない。突然雷を落として人を殺したり、俺の私物をこんな場所に用意したり、俄かには信じられないような芸当ばかりだ。

 

「…とりあえず……部屋の中は安全ではありそう。監視カメラが気になるけど…」

 クローゼットには俺の私服や制服がずらりと並び、棚や収納にも私物が詰まっていた。その不気味さを除けば、危険物や不審者が部屋の中にいるということはなかった。トイレやシャワーも完備されているが、至って清潔で不審な点はない。唯一、個室内を俯瞰するように一個設置されている監視カメラの存在だけが不安を煽った。トイレとシャワーには流石に設置されていないとはいえ、生活空間すらもあのヌイグルミ(を動かしている何者か)に監視されていると思うと気が滅入るばかりだ。

 

「扉はリュウの言う通り頑丈っぽいし、部屋にいれば誰かに襲われるってことはなさそうだな。あのヌイグルミが変なコトしてこなければ…」

「一応インターホンはあるみたいだから、部屋にいて何かあったらすぐ呼んでね。頑張って起きるようにはするから。ところで、土門君と釜利谷君は?」

「ああ、あいつらは体育館とか施設内に残ってる奴らに声掛けに行った。とりあえず今夜は部屋に戻って、明日の朝8時くらいに食堂に集合ってコトで」

 生徒手帳のマップを開きながら前木君が告げる。食堂は今いる1階にあり距離も近いため迷うことはないだろう。体育館で見た面々が無事か気になるが……突然あんなことを言われて鵜呑みにして人殺しをするような人はいないと信じたい。

 

「じゃあ俺も自分の部屋行くわ。いろいろわけわかんなすぎて疲れた」

「うん……おやすみ。これからそうなるか分からないけど……よろしく」

 俺が手を差し出すと前木君は少し照れ臭そうに握手に応じた。こんな純粋な目をした好青年が殺し合いをするなんて思えない。こんなバカげた場所は早く出ていこう。助けは来る……来るはずだ。だってこんなに世間的に影響力の高い高校生達がいなくなったのだから。メディアも気付かないはずがない。

 

 居合わせたみんなとあいさつを交わし、戻っていく前木君を部屋の入り口から見守っていると、彼に続いて歩く津川さんが不意にこちらを振り返った。

「……?」

 彼女は何か言いたげにこちらを見つめていたが、何かを振り払うように首を横に振ると、微笑と共に小さく手を振り、部屋へと入っていった。彼女は、俺に何を伝えたかったのだろう。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 俺は靴を脱ぐと、大きなため息とともに勢いよくベッドに倒れ込んだ。ベッドはひんやりしていて柔らかかった。とても寝心地の良い高級品だとすぐに分かる。安眠を得るにはこの奇怪すぎる状況だけが唯一にして最大の障害と言えるだろう。

 

 何とか俺は起き上がって最低限の生活行為を行った。トイレもシャワーも、至って清潔で普通に使える。あのヌイグルミに監視されているのかもしれないと思うと使うのも気が引けるが、そうも言っていられない。

 

 再びベッドに転がって天井を眺めていると、この状況が本当に夢でないことを頭のなかで念押しする思考が何度も繰り広げられた。間違いなくこれは現実だ。意識も実感もある。だがその意識も、俺自身の疲労によって次第に眠気の濁流の中に押し流されていった。肉体的にも精神的にも、今日の出来事は普通の高校生が耐えられるレベルのものを遥かに凌駕していた。

 

 疲れた。今日はもうこれ以上考えるのはやめよう。きっと、きっと明日になれば何かいい方向に向かうはずだ。きっと……。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 居心地の悪い浮遊感を全身で感じる。これは夢なのだと自覚している冷静さが妙に不気味だった。俺はこの世界で、()()()()()()()()()()()()()

 

 夢の中で作られた偽りの記憶が脳裏に流し込まれる。その記憶は徐々に実体を形成し、固形化する。そこは、炎に包まれた()()()。俺は、()()()と対峙していたのだ。()()を握りしめ、対峙していたのだ。

 これは現実ではない。夢の世界だ。その認識ははっきりある。ならばなぜ、ここまではっきりと、まるで本当にそれを見ているかのようにそのイメージが浮かぶのだろう。夢というのはもっとぼんやりした意識の中で認識するものだと思っていた。

 

「ああ……足りない」

 ()()()は確かにそう言った。

「こんなものでは、世界をスクエナイ。そう思ったから、この脚本は()()()()()のでしょう。()()()()()()()には、こんな脚本では物足りないと」

 それに続いて誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。()()()を責め立てるように、あるいは問いただすように、激しい何かが飛んでくる。その声にはなんとなく聞き覚えがある。この声の主は―――。

 

「スクッてよ」

 そんな声には応えず、()()()は今までとは違う少し苦しそうな、まるで助けを求めるような声でそう言った。

「スクいたいんでしょう、”全人類”を。ならスクッてよ、”全人類(たったひとりの私)”を」

 

 裁判場を包む炎が勢いを増す。その炎は()()()を包み込み、黒く焦がしてゆく。俺は何をしているんだ? ただ見ているだけ? 何も理解せず、何もできないまま? 

 炎が背を伸ばす音に紛れて聞こえてくるのは、()()()の断末魔。俺はまた、惨劇を傍観することしかできないのか。…()()

 

『もう全ての歯車は動き出しているんだよ』

 

 背後から聞きなれただみ声が俺の耳に突き刺さる。振り返ると、そこにはモノクマがいた。()()()のように偉そうに座ることも、悪意に満ちた嫌味を言い放つこともなく、じっと立ち尽くしてこちらを見つめている。

 

『ほら、しゃんとしなよ。()()()()()()()が君を待ってるんだから』

 

 この小さな白黒の喋るヌイグルミから発せられる言葉は、他のどんな人間のものよりも重みがあった。何故そう感じるのかは分からない。だが、それだけははっきりと分かるのだ。

 俺はモノクマから視線を離し、元向いていた方向に向き直る。そこにはもはや炎に包まれた裁判場はなく、静寂に包まれた暗い建物が広がっていた。ちょうど今、俺達が生活している空間と全く同じ場所だ。俺はその暗闇に向かって一歩、また一歩と足を進める。

 

『うぷぷぷぷぷ! どうぞ頑張ってね!』

 

『”たったひとりの最終裁判(けっせん)”は、まだ始まったばかりなんだから』

 

 その言葉を聞いて俺は、何故か自嘲するように寂しく笑った。その言葉に俺は一体何を思ったのだろう。そして、俺の意識は少しずつ揺らぎ、闇に溶けていった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 翌日、俺は昨夜と全く同じ天井を見つめながら目を覚ました。残念ながら、この異常なコロシアイ生活は一時の悪夢ではなく現実そのものであった。

 

 結局、あの夢の意味も内容もほとんど分からなかった。だが、断片的に得た記憶と言いようのない感覚が俺の胸中に残り続けていたのは紛れもない事実だ。

「……うん?」

 俺は思わず声を上げた。自室の机の上に、見たことのないファイルが置いてあったからだ。寝る前にはこんなものはなかったはずだ。自室の扉は施錠していたはずだから、寝ている間にこんな悪戯ができるのはモノクマくらいだろうか。だが何のために?

 

 さらに不思議なのは、そのファイルが空っぽだったことだ。プラスチックの大きなファイルで、中には相当な枚数の紙を綴じられそうだが、その割にはそのファイルには一枚も紙が綴じられていなかった。モノクマを呼びつけたら何か分かるだろうか。それは後で行おう。とにかく俺達にはこれからやらなきゃいけないこと、確認しなきゃいけないことがたくさんある。

 

 何も綴じられていないファイルには、短いタイトルが刻まれていただけだった。

 そのタイトルの中にこれから俺達が歩む途方もないくらいの絶望が込められているようで、俺は戦慄せずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

《生存人数:??人》

 





***********


 津川梁(つがわ りゃん)
 女子生徒/145㎝/42㎏
 【好きなもの】ファン、おばあちゃん、甘いもの
 【嫌いなもの】巨躯、しょっぱいもの
 【人称】「リャン様」「キミ」「苗字+くん(きゅん)」「苗字+ちゃん(たん)」

  背が低い金髪の美少女。SNSで引っ張りだこの有名コスプレイヤーだが、ニッチな界隈ということもあり世間での知名度は高くない。自分自身を一人のキャラとして認識し、キャラ付けの一環として独特の喋り方で話している。ありとあらゆる化粧品を使いこなすメイクマスターである一方、メイクに頼らずとも非常に端正な顔立ちをしている。あざとすぎるとも評されるその言動には賛否あるが、本人は至ってお人好しな少女である。オタク気質な部分もあり、私物がほとんど推しキャラクターのグッズで埋まっている。また、SNSなどを通じてアンチ、ストーカー等に絡まれた経験もあってか、稀に冷徹な人生観が垣間見える。何故か葛西に対する好感度が高い。


 山村巴(やまむら ともえ)
 女性生徒/166㎝/57㎏
 【好きなもの】稽古、スイーツ、死闘
 【嫌いなもの】軟弱な人、ムカデ
 【人称】「私」「苗字+君」「苗字+さん」

 セーラー服を着たポニーテールの女子生徒。中学時代から全国大会で複数回優勝を果たしている空手の天才少女。真面目な反面、脳筋気質。型だけの稽古ではなく相手のいる戦いを極めることに重きを置き、常に強い相手との死闘に飢えている。逆に軟弱な人間を見るとアレルギーが出るため、周囲の人間を全員強くしようとしている。私室や身だしなみはしっかり整える反面、服が汚れても気にしなかったりご飯を荒々しく食べたりと、繊細さと豪快さが同居している不思議な人物。時節別人のように口が悪くなることがあり、どこか情緒不安定。スイーツが好きだったりSNSでの”映え”を気にしたりと、年頃の女子高生らしい一面も覗かせる。非常に達筆。

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