エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を   作:江藤えそら

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シ者と表記するとすごく某アニメっぽさがありますが、大した意味はありません。使者と死者をかけているだけなんですね。


(非)日常編② 鋼鉄のシ者

 唐突に表れた吹屋さんと唐突に投げかけられた言葉。それは、俺の思考を丸ごと停止させるのに十分だった。

「あわわわわ……ナムアミダブツナムアミダブツ」

 入間君と一緒に腰を抜かしながら念仏を唱える山村さんに、吹屋さんはムッとした顔で詰め寄る。

「だ・か・ら!! あちきはオバケじゃない!! 正真正銘この施設でみんなと暮らす同級生!!! 分かったでありんす??」

「あああああり得ませんよ!! 貴方は昨日確かに落雷に打たれて……」

「ああ、あれは若さゆえの過ちってヤツでありんす! だいじょーぶ、もうあんなミスはしないでありんす!!」

 声を震わせる入間君に、吹屋さんはグッと腕を折り曲げて拳を握り、自己の健在をアピールする。リュウ君に捥がれたはずの腕もちゃんと付いている。昨日落雷に打たれた記憶は確かにあるようだが…。

 

「黒焦げになって、腕も捥がれたはずの身体をどうやって……?」

「うふふ、それは乙女のヒミツ♡でありんす」

 俺は思わず問いかけたが、吹屋さんは手を頬に当てて照れくさそうな笑みを浮かべるばかりだった。

 

「はいよー!! てなわけで教頭先生久しぶりの登場だぜ!!」

「うわっ!?」

 

 素っ頓狂な声と共に、廊下の通気口からモノパンダが落下してきた。こんな状況でモノパンダまで現れたらますます収拾がつかない。

「オメーラ、まずは無事にコロシアイ生活を始められたようで教頭先生は嬉しいぜ! 早速校内の探索、いい心がけだぜ」

「前置きはいいの。吹屋さんがこの場にいる理由を教えて頂戴」

「あ゛?」

 モノパンダにも臆せず要望を述べる伊丹さんを一瞬モノパンダが睨みつけるが、すぐにとってつけたような笑顔に置き換わる。下手に怒ればまた昨日のようにモノクマに雷を落とされてしまう…からなのだろうか。

「おっといけねえスマイルスマイル! というわけで吹屋さんはこれからみんなのコロシアイ生活に復帰してもらうぞ!」

「復帰……?」

「そう! 復帰。こんな特例は一度きりしか認めないけどな! 彼女はみんなも知っての通りアンドロイドだし、みんなと身体的に違う部分も多いけど、このコロシアイにおいてはみんなと同列に扱うからよろしく頼むぜ!」

「同列……?」

 ただただ困惑する俺達の様子を見て、モノパンダは頭を掻きむしって騒ぎ出す。顔が赤く染まって熱を発している。

「あーもうクッッッッソダリィなあオメーラ!! ちょっとは自分で考えろよZ世代共が!! つまり!! 彼女はみんなと同じように殺され得るし、殺されたら捜査と裁判対象になるし、逆に彼女がコロシアイを起こす可能性だってあるし、そうなった時も他のメンバーと同じように裁判の対象になるってことだよ!! もちろん校則違反で罰せられるのも同じ!! いちいち説明させんなこんなコト!!」

 …とひとしきり叫んだところで突然冷静に戻り、「おぉう…ごめんよ…。本当はオイラもみんなと仲良くしたいんだよ」と呟いた。

 困惑する俺達をよそに、「なんか暴力振るってくる彼氏みたいなパンダちゃんでありんすね!」と目を輝かせる吹屋さん。

「それはそうと昨日ぶりにみんなの声が聞けて最高でありんす! みんな、改めてよろしくでありんす!」

「………」

 当然、その場にいる全員が彼女を訝しげな眼で見つめていた。特に怯えが収まらない入間君と山村さんは未だにお互いを盾にしようと押し合っている。

 

「その……君の身体は…」

「”アンドロイドだ”って? もちろんあちきは正真正銘の超高性能人型アンドロイド”アルターヒューマン初号機”!!」

「アルター…ヒューマン??」

 俺の言葉に対し食い気味に差し込まれた返答。その中で唐突に出てきたその単語に聞き覚えはなかった。

 

「アルターヒューマン……だと……?」

 この場の誰のものでもないその声は、この場所を見下ろせる場所―――階段の踊り場から投げかけられた。そこにいたのは、つい先ほど俺達に挑発的な言葉を言い放ったその人―――御堂さんだったのだ。コロシアイを告げられた時でさえ微動だにしなかったその表情が誰にでも分かるほど驚愕に染まっている。その事実が、この状況の異様さをさらに際立たせていた。

「御堂さん……?」

「そんなはずがない! アルターヒューマンは私が―――」

ママ~~~~!!!!

 動揺しながら階段を駆け下りる御堂さんを迎え入れるように、吹屋さんは満面の笑みと共にそう叫んだ。

「ママ……!?」

「ずっと会いたかったでありんすよ~!! ていうか昨日体育館で会ってたのに一瞥もくれなかったし!!」

「なんだ、貴様は……? 貴様は一体……」

 御堂さんの両手を握り、すりすりと顔を寄せる吹屋さん。俺達は皆状況が呑み込めず困惑していたが、御堂さんの困惑は俺達のそれとは性質が異なっているように思えた。

「貴様……本当にアルターヒューマンだというのか? アルターヒューマンが何か知っているのか?」

「当たり前でありんしょ、ママ!! ”超高校級のプログラマー”が開発した人工知能”アルターエゴ”に人間型のアンドロイドを組み合わせ、さらに電子化された超高校級の才能を搭載することによって生まれた”人工の超高校級”! それがあちき、アルターヒューマンでありんすよ! だから、あちきが持つ”超高校級の噺家”もれっきとした本物の才能なのでありんす!!」

「………?」

 吹屋さんが早口で述べた単語の数々。その全てが初めて聞くもので、何一つ頭に入ってこなかった。”人工の超高校級”? ”アルターエゴ”…?

「その……吹屋さん。ママっていうのは、一体…?」

 俺が問いかけると、え?と吹屋さんは不思議そうな顔を見せた。

「知らないでありんすか? あちき、即ちアルターヒューマン初号機を作ったのはこのママ、御堂秋音ちゃんでありんすよ!」

「えぇっ!? そうなの!?」

 またも唐突に衝撃の事実が告げられた。吹屋さんがアンドロイドだったというだけでも驚きなのに、それを作ったのが御堂さんだと吹屋さんは言うのだ。一体どこまで衝撃的な事実が出てきたら気が済むんだ?

 

「勘違いするな、私は―――」

 興奮気味にそう言いかけたところで、御堂さんは突如言葉を止め、顎に手を当てて数秒考え込む。

「…この女、暫く借りるぞ」

 そして、いきなり吹屋さんの腕を掴むと引っ張ってどこかに連れ去っていってしまった。

「え、あ、ちょ、ママ~~!? みんなと挨拶……」

 吹屋さんがそういうのも構わず、御堂さんは吹屋さんを引っ張って廊下に消えていってしまった。

 

 


 

「さあ、今宵は黙示録に何を記す?」

 


 

 そう言えば、彼女が先ほど俺に告げた言葉、あれは一体なんだったのだろうか。

 

 

「なんかオイラが会話に入るスキが全くなくてめっちゃ黙り込んじゃったぜ……。めっちゃ気まずいんですけど!?」

「………」

 あとに残されたのは、おろおろするモノパンダと混乱して黙り込む俺達だった。

「まあ……とにかくだな! オイラ達特別分校執行部も広~く先進的な思考で吹屋さんを人間のみんなと平等に扱うことに決めたんだぜ! みんなロボット差別なんかしないで接してあげるんだぞ! あとついでにオイラのことも平等に扱うんだぞ」

「…結局、吹屋さんがどうしてコロシアイに復帰したのかと、吹屋さんの身体をどうやって元通りにしたのかは説明してくれないんだね」

「え? ああ、そりゃコロシアイに参加する大事なクラスメイトだし、つまらねーことで消えられても困るからな。身体の方は…まあ、わかんねー方がロマンがあっていいだろ!」

「自分で消しておいて結構な言いざまね」

「適当な説明でございますな…」

「でもさっきも言ったけどこれは特例措置だからな。復活を認めるのは今回だけだぞ! 今回のはオイラ達の力と校則を破った際の罰則を分かりやすく伝えるデモストレーションの一面もあったわけだし」

「じゃあ釜利谷君の言った通り、見せしめにしようとしたけどあまり効果がなかったことを事実上認めているわけね」

「………………」

 伊丹さんの言葉に一瞬怒りの形相を浮かべたモノパンダだが、すぐに張り付いたような笑顔に戻る。

「まあ、どう解釈するかはオメーラの自由だな。言うべきこと言ったからオイラは帰るぞ。じゃ、吹屋さんと仲良くやるんだぞ~」

 モノパンダは吸い込まれるように通気口の中へと消えていった。

 

「吹屋殿が生きていたと……。やはり拙者が見た”動いていた吹屋殿”は幻ではなかったのでござりますな」

 ふと丹沢君がそう言った。落雷に打たれた後、吹屋さんの腕が僅かに動いたのを見たと彼は言っていた。彼の言葉が本当なら、彼女は落雷に打たれた後にも機能を停止していなかったということになる。そして一晩経ってその姿を完全に回復させ、俺達の前に現れたということなのか。

「それにしたって……一晩で千切れた腕を元に戻して、焼けた肌や服も元に戻したっていうのはちょっと考えづらい気もするけど」

「もしくは、モノパンダみたいに代わりの個体が大量に控えているのかもね」

「ひえっ」

 あまり考えたくない予測を伊丹さんが告げる。確かにモノパンダは落雷に焼かれ完全に四散したが、すぐに代わりの個体が現れ元のモノパンダと同じ振る舞いをしていた。もし、彼女も同じようにスペアを用意された存在だとしたら……? そんなことがあるのだろうか。

 

「……いろいろ気になりますが、今は考えていても仕方ありません。当人がいなくなった以上、施設内の探索を続けましょう」

 やっと顔色を直した入間君が立ち上がりながらそう言った。彼といい山村さんといい、吹屋さんを幽霊だと思い込んで必要以上に怯えていた様子だったが、ひょっとしてオカルトなものが苦手なのだろうか。

「これだけは聞いておきたいんだけど、吹屋さんとはどういう流れで出会ったの?」

「流れも何も、廊下の曲がり角を曲がったらいたんですよ!! 私は入間君と津川さんと三人で組んでいたんですけど、津川さんったら吹屋さんを見るなり風のように階段を駆け上って逃げてしまいました」

「あの子、走るの好きなのかしら」

 昨日、俺達に見つかった時も津川さんは同じように脱兎の如く階段に逃げていたな。身体は小さいし頑丈には見えないが、意外と身体能力は非常に高いのかもしれない。

「そういう事情ですので、ひとまずわたくし達は津川様を探して参ります。お一人で危険な目に遭われていないか心配ですし…」

「あの逃げ足があれば大丈夫だと思いますけどね! 多くの強者を見た私がウズウズするくらいの早さでしたから! あれは伸びしろありますよ」

 山村さんの変なスイッチが入りかけていたのは気になったが、とにかく階段を上がっていく二人を見送って俺たちは一階の探索を継続することとした。

 

「…やれやれ、初っ端からとんだ伏兵に見舞われたものね。今日中に調べ終えられるといいけど」

「体育館に向かわれた三人も心配でござるが……まあ何かあればチャットで連絡くらいは入るでしょうな」

「チャット? 何それ?」

「む、葛西殿は知らぬのでござりますか? この電子生徒手帳にはホレこの通り、チャットアプリが搭載されているのですぞ」

 丹沢君は慣れた手つきで電子生徒手帳の画面をスライドさせ、アプリ一覧からチャット機能をタッチした。すると、このコロシアイに参加しているメンバーの一覧が表示され、さらに各人の情報をタッチすると各々とのチャット履歴が表示された。とはいえ、まだ誰ともチャットしていないので俺の履歴は空欄だ。

「……こんなアプリあったんだ」

 いろいろ立て込んでいたとはいえ、電子生徒手帳のアプリくらいは見ておくべきだった。無駄に便利な機能をいろいろと用意してくれているようだ。よくよく見ると、一般的なタブレットのようなカメラ機能、録音機能、音楽再生アプリまで入っていた。どうしてこんなにも無駄に便利なのだろう。

「これがあれば、学園内で離れていても一応の連絡や確認は可能ですぞ。グループチャットも作れるようですので適宜作成するのもよいでしょう」

「…とはいえ、このタブレット自体モノクマ達が用意したんでしょう? ならこのチャットのやり取りは彼らに傍受されていると考えた方がいいわね」

 伊丹さんの指摘は最もだった。モノクマ達にバレたくない情報をこのチャットでやり取りするのは危険だろう。

 

「……で、ここがランドリーか」

 そんな会話をしつつ、俺達が最初に訪れた部屋はランドリーだった。ランドリーというだけあってこの部屋にあるのは壁一面にずらりと並んだ洗濯乾燥機。中央には待合用の長椅子と小さな机とゴミ箱。端の方にはこれを使えと言わんばかりに大きなカゴが何個も重ねておいてあった。一見して怪しい箇所はない。

「ふむふむ…この洗濯機は乾燥機にもなっており、洗濯物を入れてボタンを押せば洗濯が始まり、そのまま乾燥までやってくれると。特にお金などは必要なく、扉を閉めてボタンを押すだけで動作が開始し、本来洗濯機では洗えない靴やスーツなども洗えてしまうスグレモノと」

 なんだか営業販売のような語り口で洗濯機の機能を読み上げてくれる丹沢君。とても便利な洗濯乾燥機だということは分かったが、その上で一つ、あまり考えたくはない疑念が俺の中に湧き上がってきた。

「でも、この洗濯機……人が入れそうなくらい大きいね」

 それは、この洗濯機のサイズだ。大量の洗濯物を一度洗濯できるようにするためかこの洗濯機は家庭にあるものよりひと回り大きく、小柄な人間であれば中に閉じ込めることもできそうだ。当然、一度動き出せば中から扉を開ける方法はない。つまり、一見して便利な家電でしかないこの洗濯機がこのコロシアイの舞台においては人間を殺す凶器と化ける可能性があるのた。生きたまま洗濯機に押し込められて振り回され続けるなど、想像するだけで吐き気がする。

「葛西殿! そこに関しては心配が無用にござる! ホレここに書いてある通り。この洗濯機には人感センサーがついており、このセンサーが生体を検知している限り、たとえ扉が閉まっていてボタンを押しても洗濯機の稼働は行われないと書いてありまする!」

 丹沢君が指差す先にあるランドリーの壁に貼りつけられた説明パネルには、人感センサーとその機能について記載されていた。洗濯槽を覗き込むと、確かに赤く点灯する小さなセンサーのようなものが内側に取り付けられていた。小柄な人間がやっと入れるくらいのサイズである以上、このセンサーの死角に隠れることも不可能であると容易に推察できる。つまり、例え洗濯槽に人を閉じ込めることができたとしても、その状態で洗濯乾燥機を稼働させることは不可能ということだ。

「ならひと安心……なのかな。あとはそこに書いてあることが本当なのかどうかだけど……こればっかりは実際に試すのはリスクがありすぎるね」

「あのぬいぐるみ達がコロシアイをゲームとして捉えているのなら、こんなところで余計な嘘はつかないでしょう。…と、思うしかないわね。他に気になるところもなさそうだし、次の部屋に行きましょう」

 俺と丹沢君は伊丹さんの言葉に従い、ランドリーを後にした。

 

「トラッシュルーム、でござりますか」

 次に訪れた部屋は、他の空間とは打って変わって無機質で圧迫感のある薄暗い部屋だった。目前には、部屋の4分の3ほどを埋め尽くす巨大な銀色の『炉』があった。部屋の入り口のパネルに書いてあった部屋名は『トラッシュルーム』。つまり、この部屋にあるのはこの施設で出たゴミを焼却する焼却炉なのだ。この炉の大きさなら人ひとりどころか二人以上入れそうな気がする。

「ゴミは搬出するのではなくここで焼却処分するのね。ある程度この施設でインフラを完結させなきゃいけない理由でもあるのかしら」

「そこらへんは分かりませぬが……しかし資源ゴミも燃えないゴミもまとめて高火力で焼却とは、何とも環境に優しくない施設ですな…」

 焼却炉にも壁に説明パネルが置いてあり、そこに『ゴミの捨て方』なる指南も書いてあった。それによると、部屋で出たゴミは袋に入れてまとめてこの焼却炉に放り込むよう指定されていた。日中の間に放り込んでおけば、夜時間の間にモノパンダ達が焼却炉を稼働させて焼却をすると。その際、ゴミは特に分別せず全て袋に入れて放り込んで良いと。この状況で環境の心配をするのもおかしな話かもしれないが、丹沢君の気持ちも分からないでもない。捨てるたびに若干の罪悪感が生まれそうだ。

 それはそうと、パネルには焼却炉の使い方も合わせて記載されていた。基本的にはランドリーの洗濯機と同じで、正面のシャッターを手動で下ろし、横のボタンを押すと焼却が開始されるらしい。ただ、基本的にはモノパンダが夜間に操作するため、自分たちで操作する必要はないようだ。

「……で、この焼却炉にも人感センサーが備え付けられているようですな。…なになに。このセンサーは焼却炉内全体をカバーし、ゴミなどに埋もれていたとしても生体を検知して作動します。センサーが生体を検知している限り、シャッターを下ろしてボタンを押しても焼却は開始されず、代わりに警報が鳴ると」

 おおよそのシステムは先ほどランドリーの洗濯乾燥機で見たものと同様だ。違うのは、人感センサーが反応した状態で起動しようとすると、警報が鳴るという点だ。この警報というものがどの程度の範囲にまで広がるのか分からないが、仮にこの焼却炉で誰かを亡き者にしようとするなら、この警報によってその企てを広く暴かれる結末になるかもしれないということになる。これが本当なら、この焼却炉を悪用することへの重大な抑止力になるだろう。

 

『気に入ってくれたかな? ボクの超力作!』

「うわっ!!??」

 突然背後から投げかけられただみ声に、俺と丹沢君は同時に飛びあがって驚いた。振り向くと、昨日俺達を絶望のどん底に追い立てた元凶…モノクマがニコニコと笑顔を振りまきながら立っていた。元凶のはずなのに、こうして相対すると威厳や迫力は全く感じられず、ただ音声が聞こえるだけのヌイグルミにしか見えない。

『やっぱりコロシアイと言えばトラッシュルーム!だよね! 古き良きコロシアイには高性能のトラッシュルームが必要不可欠なんだよ! 葛西君たちも返り血浴びた服丸めて投げたりしてみたいでしょ?』

「何を言ってるんだ……」

『簡単に開くシャッターにボタン一つであっという間に点火しちゃう焼却炉……なんだかゾクゾクしない? もうコロシアイ欲がそそられてそそられてたまらないよね? ボクは早くみんながトラッシュトークからのトラッシュルームしちゃう展開が見たくて見たくて…』

「意味のない会話に付き合っていられないわ。行きましょう」

『待って!! このトラッシュルームのこだわりポイントだけ語らせて!!』

 伊丹さんが腹立たし気にトラッシュルームを去ると、モノクマは膝をついて涙ながらに懇願する。一体こいつは何がしたいのだろう。昨日直面した時はあんなに恐ろしかったのに、急に小物っぽく見えてきた。

 

『なんとこの焼却炉…『ファラリスくん4号』はですね、中にいる人の悲鳴をこの牛の頭から雄牛の鳴き声に変換して流してくれるこだわり機能が備わっているのでーす!』

 モノクマが指さした先は、焼却炉のシャッターの上。薄暗くて気付かなかったが、そこには確かに牛の頭を模した像が突き出ていた。その口はあんぐりと空けられている。

「は?……悲鳴を鳴き声に変換……?」

『そう! しかも!! この雄牛を通った鳴き声はこの部屋だけでなく! 放送設備を通じて施設内全体にリアルタイム放送されちゃうのです! ドキドキワクワクの緊迫生放送のはっじまりー♡ だからうっかり焼却炉の中で大声出さないでね♡』

 悪趣味すぎて吐き気がする。焼却炉の中でもがき苦しむ死者の声を動物の声に変えて娯楽化し、あまつさえそれを施設内の全員に聴かせるなんて。この焼却炉のモチーフである処刑器具を作らせた僭主と同じ狂気を感じる。

「…一応聞いておくけど、この焼却炉に人感センサーが備わっているのはあなたが意図したものなの?」

『そう、それなんだよ……。せっかく最高のギミックが思いついてハイテンションで作らせたのに、まさかこんな興醒めアイテムを炉内に設置されるなんて思わなかったよ。しょんぼり…』

 伊丹さんの問いかけに、モノクマはがっくりと頭を落としてそうぼやいた。モノクマはこの学園の施設を統括しているようだが、設備にまでは手が及ばなかったのだろうか。

「なんにせよ、そんな狂気的な仕掛けは作動しないに越したことはありませぬな。人感センサー様様です」

『ぐぬぬ……見てろよ! もっと巧妙にコンプライアンスの穴を突いた絶妙なコロシアイトラップを仕掛けてみんなをアッと言わせてやるんだから! コンプラ警察とボクの熾烈な戦いはまだまだ続くのさ!!』

 そう言うとモノクマは天井に空いた通気口に向かって飛び上がり、そのまま吸い込まれていった。あの通気口はモノクマの出入り口としても機能しているようだ。奴が現れる時、急に天井から落ちてきたように見えるのもそのためだろう。

 

「…行っちゃった」

「悪趣味な仕掛けを施しておきながら、それと矛盾する機能までつけるなんて不思議ね。わざとやっているのか、それ以外の理由があるのか分からないけど」

 伊丹さんは空っぽの焼却炉を覗き込みながら呟く。モノクマの口ぶりでは人感センサーはモノクマの意図しない形でつけられたような印象を受けたが、奴が本当のことを言っているとも限らない。ただ遊び半分でふざけているだけかもしれないし。

 

 吹屋さんの件とトラッシュルームでいろいろあったせいか、だいぶ疲れが溜まってきた。時刻もいつの間にかとっくに昼を回って夕方に近付きつつあるし、一階の調査もペースを上げていこう。

 

「……大浴場?」

 そんな俺の疲労感をあざ笑うかのように出てきたのは、大浴場の文字だった。廊下から直接男女別の脱衣所に繋がっており、男女ののれんがかけられている。

「ふむ……校則によりますと、この大浴場は夜時間の間でも22:00~2:00の間は使えるようですな。その後は清掃のため閉鎖すると。それと、脱衣所と浴場はそれぞれ異性が入ると校則違反で罰せられるとか」

 覗きや痴漢行為の防止だろうか。相変わらず変なところでしっかりしているな。深夜帯でも大浴場に入れるのはちょっとありがたい……結構楽しみになっちゃってる自分がいるな。

 

「あら、三人仲良く調査? ご苦労様」

「小清水さん…!?」

 不意に女性側ののれんをくぐって小清水さんが出てきた。特徴的な赤毛をわしゃわしゃとタオルで拭き、白衣ではなくラフなシャツとズボン姿だ。ストレートで綺麗なロングヘア姿しか見てこなかったせいか、あちこちから髪がささくれ立ったラフな格好を見るのは新鮮だ。あんまり櫛とかドライヤーとかかけるのが好きじゃないのかな。それにしても、近くにいるだけですごくいい匂いするな。これが女の子の香りってヤツか…。

「葛西殿、大丈夫でござるか?」

「あっ、いや、ごめん」

 丹沢君に呼び止められて、俺は小清水さんの姿をすっかり凝視していたことに気が付く。その横では、伊丹さんが怪訝そうに横目で俺を見ている。いや、決してこんな状況で小清水さんに見とれていたわけじゃなくて。いや、見とれていたか。いや、見とれてない。いや…。なんだ、この意味のない自問自答。

 

「どこにもいないと思ったら浴場にいたのね。あなたの行動を全て制限するつもりはないけど、こういう状況なんだからある程度は全員と足並みを揃えてほしいわね。何かあった時にあなた自身を守ることも困難になるんだから」

 伊丹さんが冷静に諭すが、小清水さんは意に介していない様子だ。

「別にあなた達に心配されるまでもなく自分の身は自分で守れるけど? 忠告しとくけど、あんまり自分たちの意見や価値観が絶対と思わない方がいいわよ。それ、人間さんの悪いクセだから」

 奇しくも、今朝食堂で御堂さんに言われたことと同じようなことを言われた。あの場に小清水さんは居合わせていなかったが、彼女も御堂さんと近しい感性を持っているのだろうか。

「…話す気があるのなら、大浴場に何があったか聞かせてもらってもいいかしら」

 これ以上の議論は無駄だと諦めたのか、伊丹さんはため息とともにそう問いかけた。

「結構豪華な浴場だったわよ。湯船も何個かあったし、ジェットバスや水風呂、サウナなんかも用意されてて。見てないけど、たぶん男子側の施設も同じなんじゃない? これだけ良い思いができるならここで暮らすのも悪くないかもね。虫さんがちょっとしかいないのだけが残念だけど…」

 小清水さんが話す内容が真実なら、ちょっとした銭湯くらい設備は整っているようだ。しかし、こんな状況なのにここで暮らすことを肯定的に捉えられる神経はちょっと分からない。やはりこの人はどこかネジが飛んでいる。

 

「失礼ながら、小清水殿が風呂好きとはちょっと意外でしたな。てっきり虫と縁がないような場所には興味がないものとばかり」

「”気持ちがいい”という感性は本能的に刻み込まれたものなのだから、それに逆らう方が不自然じゃない? 私は『お風呂が好き』という私自身の生態を自然のまま受け入れているだけよ。さーて、ひとっ風呂浴びて頭もさえたし、これで新種の虫さんを誕生させるための交配パターンが思い浮かびそうだわ! じゃあお三方とも、よい一日を」

 丹沢君の言葉にそう応えると、小清水さんは柔らかな笑顔と共に自室へ向けて去っていった。さらっと新種の虫を生み出すとか言ってるけど、倫理的にそういうのってどうなんだろう…? なんていうか、やっぱり分からない人だな。

「とりあえず大浴場に何があるかは分かったわね。調査の為だけに浴場に入るのも手間なことだし、一旦調査はこれで切り上げましょう」

「そうだね……えっと、結局1階にある施設はこんな感じかな」

 俺は電子生徒手帳で校内マップを開き、それと照らし合わせながら自身の手帳に各部屋の情報を書き足していった。

 

 

【1階の部屋・施設一覧】

 

・1-A、1-B…俺がこの施設で最初に目覚めた場所。窓のない閉鎖的な教室。それ以外に変わったことはない。

・各生徒の個室…何故か入学前の私物まで揃えられている。俺の部屋には謎の大きなファイルもあった。

・食堂…全員が食事を取れる広い食堂。一般的な学食程度の広さ。

・厨房…調理室。ホワイドボードに記載した食料が夜間に自動補充される。

・ランドリー…全自動洗濯乾燥機が多数並んでいる。

・トラッシュルーム…モノクマが特注した焼却炉『ファラリスくん4号』がある。

・脱衣所、大浴場…男女別。多数の浴槽、サウナなどを備える。

・階段…2Fに繋がっている。途中に踊り場がある。

・エレベーター…体育館のある階(地下1階?)にはエレベーターでのみ行くことができる。他の階を示すボタンを押しても反応しない。

 

 こうして列挙していくと、この1階自体かなりの敷地面積を持つことが分かる。ただコロシアイをするためだけにこんな大掛かりな施設を用意させたのだろうか。他の用途で作られた施設をジャックしたにしても大掛かりすぎる。謎は深まるばかりだ。

 

 

 報告のために食堂に戻ると、朝と同じようにリュウ君がコーヒーを飲みながら本を読んで待っていた。

「何か収穫はあったか?」

「ええと……うん、まあ。この後みんなが来たら報告するよ」

 歯切れの悪い返事を返すことしかできなかった。さっきの丹沢君のことをいつ言い出すべきかふんぎりがつかない。丹沢君は案の定ばつの悪そうな顔をしているし、伊丹さんも特に口出ししないというスタンスのようだ。あくまで当事者同士で解決しとろってことかな。丹沢君にはなかなか荷が重そうだが…。

「お、もう集まってたか」

 気まずい空間に前木君の声が聞こえ、少し俺は安堵した。取り留めのない会話をしながらしばらくすると、続々と探索を終えたみんなが食堂に集まってきた。そして、その最後には……。

 

「おっ、もうみんな集まってたでありんすね!!!」

 

 吹屋さんが食堂の扉を勢いよく開いて現れた。驚く者もいればそうでない者もおり、反応は千差万別だった。俺と伊丹さんは先ほどモノパンダが説明したことをそのままみんなに伝えた。吹屋さんは”アルターヒューマン”と呼ばれる特殊なアンドロイドであること、特例で一回限りの復帰を果たしたこと、これから俺達と同じ立場でコロシアイに参加すること。

 

「見せしめが中途半端に終わったからって復活してポイは流石に雑すぎんだろ。黒幕さんはデスゲーム初心者かな?」

「いやいや、昨今はありとあらゆる捻った展開が出尽くしてしまい、一周回ってこういう”下手くそ系”の方が売れるのだぞよ! 考えることに疲れた現代人はなんにも考えずに摂取できる単純明快な下手くそストーリーを追い求める…。サンペーはもっと世のトレンドを勉強するべきだぞよ!」

「知らねえよ」

 釜利谷君と安藤さんは相変わらずよく分からない会話をしている。意外とこの二人は波長が合うのだろうか。仲良しこよしという雰囲気でもないけど…。

 

「だからと言って、彼女をすんなり受け入れていいのかな? モノクマたちに何か不都合なプログラミングでもされているかもしれない。いや、そうでもなければわざわざ一度死んだ者を復活させて僕達に加える理由がない」

「夢郷君……それは少し言い方が…」

「いや、すまないね。僕もこんなことを言いたくはないのだが、命がかかるとなるとなかなか目の前に現れたものをすんなり信用するわけにもいかないんだ。もちろん、君達のこともね」

 夢郷君は爽やかな笑顔で不穏なことを言っている。いい感じになったと思えばこうなることの繰り返しでなかなか気が滅入ってしまう。もうちょっと空気を読んだ言動をしてくれないものだろうか…。

「ひどい!!! ニンゲンだってその気になればいくらでも洗脳する方法だってあるだろうに、なんでアンドロイドばっかり疑うんでありんすか!! ロボット差別でありんす!! 今すぐ高等人権団体に訴えて訴訟してやるでありんすよ!!」

「そんなコトができるならまずオレ達をこんな場所に閉じ込めてコロシアイさせてるやつを訴えろよ」

「さっきはあちきをオバケ扱いした連中もいるし…。あんな実体も足もない死にぞこないの非実在現象と一緒にされるなんて、この施設にはマトモな倫理観のニンゲンはいないのでありんすか?」

「ロボット差別とか言っておいて幽霊差別をするのはどうかと…」

 いろんな人がいろいろ喋り出して収拾がつかない。当たり前だが、この人数の”超高校級”が揃うと個性のぶつかり合いが凄い。

 

「…ところで吹屋さん。さっき御堂さんに連れていかれたけど、何をされたの?」

「え? あぁんもう……それ聞いちゃうんでありんすか……?」

 俺の問いに頬を紅潮させて照れ臭そうにする吹屋さん。何? そんないかがわしい感じのことしてたの?

「そういえば御堂殿は”アルターヒューマン”という単語を耳にして少し動揺しているようにも思えましたな……。そのあたりにも関係があるのですかな?」

 丹沢君の言うとおり、御堂さんはアルターヒューマンという言葉に大きく反応していたように思える。それが何を意味するかは分からないが。

「ああ、そうそう! ママはアルターヒューマンの開発に携わるという目的で希望ヶ峰の入学を受けたらしくて、アルターヒューマンについての技術的な話をいろいろ聞かれたってカンジでありんすね~」

「技術的な…? 俺らが聞いて分かるような話なのか?」

「ていうかそもそもあちきがほとんど何も知らないから取り留めのない会話しかしてないでありんすよ。あちき自身は技術的なことはなんにも知らないでありんす」

「ふぅん……そういうもんなのか。自分でメンテナンスとかしないのか?」

「さぁ……。たぶんしなくていい…とか?」

「テキトーだな…」

 御堂さんに聞かれた技術的なことは何も知らないと語る吹屋さん。その言葉が本当なのかどうかは彼女自身しか知らないが、少なくとも嘘をついているような態度には見えない。

 

「あれ……? でも、君が言うにはそもそもアルターヒューマン初号機は御堂さんが開発したんだよね? それなのに御堂さんが技術的なことを聞くってどういうこと…?」

 よくよく思い返してみれば、アルターヒューマンは御堂さんが開発したのだと吹屋さんは言っていた。だからこそ、彼女は御堂さんをママと呼んでいるのだ。それなのに、今更技術の話をするというのはどういう意味なのだろうか。

「う~ん…あちきもそれは気になったんだけど、なんか分かんないけど、ママはあんまりアルターヒューマンの内容を”覚えてない”みたいで…」

「……そうなの?」

 覚えていない? それは一体どういう意味なんだろう。頭脳明晰な御堂さんが開発した内容を忘れるなんてことないと思うけど…。

「予想だけど、内容を覚えていないというのはブラフで、吹屋さんに自分自身の詳細を語らせることで、吹屋さんが本当にアルターヒューマンかどうか試したんじゃないかしら」

 伊丹さんが予想を述べる。確かに、御堂さんならそれくらいするかもな。内容を覚えていないというのは少し無理のあるブラフに見えるが…。

「そうなのかなあ……」

「ま、本人に聞けば分かるコトだろ。聞いて来いよ、オレは嫌だけど」

 釜利谷君が無責任な言葉を投げかける。聞いたところで素直に教えてくれるとは思えないが…。

「で、あちきが何も知らないって分かったら呆れ半分で突き放されたでありんす。それで校内をフラフラしていたらみー様に会って、夕方に食堂に集まるからって話を聞いて…」

 みー様、と呼んでいるのは安藤さんのことのようだが、吹屋さんを食堂に来るよう説得してくれたのはマイペースな彼女にしてはありがたい実績だ。おかげでこうして全員に吹屋さんのことを紹介することができた。

 

「結局、吹屋自身については今葛西が言ったこと以上のことは分からないわけだな」

「まあまあ……そんなに警戒することはありませぬぞ。事情がどうあれ、今は同じ境遇に置かれた同級生なのでござりますから…」

 丹沢君がみんなを宥めると、とりあえず場の雰囲気は落ち着いた…ように見える。

「とりあえず、みんな施設内を調べたことを順番に話してこうぜ」

 前木君の呼びかけにより、本来の目的であった探索報告をすることになった。俺達も一階の探索結果をみんなに伝えた。

 各々の調査結果をまとめるとこんな感じだ。

 

・食堂、厨房(前木君、土門君、安藤さんのチームで探索)…朝に確認したとおり、厨房には一通りの食材が揃っている。人間が入れそうなくらい広い冷蔵庫と冷凍庫があり、一見すると入手が困難に思える外国の食材まで大体のものが冷凍保存されている。厨房内のリクエストボードに欲しい食材を記載すると、翌日までにモノクマたちが冷蔵庫内にその食材を用意する。調理器具も大抵のものが揃っていて、包丁やナイフのように凶器になりうる器具も誰でも触ることができるため、管理には気を付ける必要がある。

 

・二階の施設(入間君、山村さん、津川さんのチーム+釜利谷君、夢郷君、亞桐さんのチームで探索)

 二階には以下の施設があった。

 ・2-A、2-B…俺達が1階で見つけた教室と全く同じような教室だったとのこと。

 ・放送室…校内の放送を管理できる設備。マイクをONにして話すと施設中にアナウンスをすることができるらしい。

 ・化学室…パネルには化学室と書いていたものの、鍵がかかっており入れなかった。

 ・技術室…パネルには技術室と書いていたものの、鍵がかかっていて入れなかった。

 ・プール…更衣室とその奥にプールがあるらしい…が、鍵がかかっていて入れなかった。

 ・トレーニングルーム…最初に山村さんがいた部屋。様々なトレーニング器具が置いてある。

 ・購買部…謎の狭い空間。モノモノマシーンという謎のガチャガチャが設置されていて、モノクマの柄が彫られたコインを投入すると回すことができるらしい。景品はお菓子であったり、おもちゃであったり、日用品であったり、様々。モノクマによると、コインは施設内の至る所に落ちているのだとか。

 ・エレベーター…乗り場は存在するが、ボタンを押しても反応しない。

 ・階段…上に続いているようだが、シャッターが下りており上ることはできない。

 

「二階の半分くらいは入れない部屋だったんだね…」

「立ち入る場所を制限するのは一体どういう意味なりね…? リャン様達に入られると嫌な場所とか?」

「モノクマの考えることなんか空想したってしょうがねーだろ。なんにせよ、今の時点でオレ達が行ける場所はこれっきりってコトだ」

 

 二階の探索チームの報告によると、二階には放送室をはじめいくつかの設備があったものの、その半分くらいは鍵がかかっていて入れないようだった。どうやら一階には主にインフラ・宿泊設備がある一方で、二階は学校にあるような部屋や設備を意識しているようだ。

 

「…で、どうすんだぁ? 結局オレっち達が脱出できそうなとこは見つかってねぇぞ」

「そりゃあこんなとこに閉じ込めといてすぐ逃げられるような道を用意してるワケねーだろ。脱出口はオレ達で作るんだよ」

「作ると仰いましても……。そもそもこの施設、窓が一つもないのがとても気になりますね。わたくし達の脱出を防ぐためなのでしょうが、閉塞的この上ない」

 釜利谷君の言葉に入間君がそう答えた。確かにこれだけ施設内を回ったのに全く窓がないというのは不思議で、まるでこの狂ったイベントを起こすためにこの施設自体を設計したかのような不気味さを覚えずにはいられない。

 

「うぅむ……どうやらこの施設からの脱出の糸口は今のところ無いようですな……」

「みんな、まだ慌てる時間じゃないでありんすよ!! きっとなんとかなる!! これからゆっくり対策を考えればいいのでありんす!! コロシアイさえ起こさなければじっくりゆっくり考える時間はあるのでありんすから!!」

 沈み込むみんなを激励するように、吹屋さんは机を強く叩いてそう声を上げた。気休めと言えば気休めだが、そういう風に元気づけてくれる人がいると少し気は楽になる。

「お~、人形のクセにいいこと言うじゃん」

「あーーーっ!! ロボット差別!!」

「ちょ、吹屋様、暴力はダメですって。うわ、なんて力ですか!」

「いてっ」

 しかし、釜利谷君の空気の読めない一言で顔を真っ赤にした吹屋さんが真っすぐ彼に襲い掛かる。入間君の制止を振り切り、釜利谷君の頭をはたいた。ここまでデリカシーがないと流石にちょっと軽蔑するよ、釜利谷君……。

 

「おいおいやめろって。早速こんなところで喧嘩してる場合かよ」

「ははは、そうプンプンすんなよ。冗談だって」

「三ちゃん、冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ…。これじゃあ御堂が朝言ったとおりになっちまうぞ」

「はは、そうだな。悪かったよ吹屋。もう二度と言わねえさ」

「………」

 肩をすくめて謝罪する釜利谷君。正直、全然誠意がある謝り方には見えない。こんな感じで上手くやっていけるんだろうか。…いや、上手くやっていかないと。御堂さんの言うような不干渉主義にみんなが染まってしまったら、きっとモノクマの目を逃れて脱出するなんてできない。後で釜利谷君には個人的に話をしたいところだが…。

 

「はぁ、いろいろ話したら疲れちゃったよ。ご飯にしようぜ」

「そ、そうですな! そろそろ時間もよい頃でしょうし……」

「それじゃあ私がキッチン行きますよ! 朝はお世話になったわけですし、お料理は得意なので任せてください!」

 気まずさを紛らわすためか、前木君が食事を提案するとみんな一斉に動き出した。各々が自分のやりたいように過ごす中、俺は食堂の真ん中で津川さんや安藤さんと談笑している吹屋さんに声をかけた。

「ん、ユキマル? あちきに何か用?」

「いや、大したことじゃないんだけど……。さっき廊下で会った時に行ってた黙示録がどうだかって言葉…。あれは一体どういう意味だったのかなって」

 俺はこの機にと思い、気になっていたことを尋ねた。これまでの彼女の言動からは、その言葉の意味に結び付きそうなものはなかった。彼女が何を思ってそれを言ったのか、一度直接問いただしてみる必要があると感じたのだ。

 

「え、う~ん……? あちき、そんなこと言ったっけ…?」

「え……? 吹屋さん言ってたよ。なんで唐突にそんなことを言ったのか全然分からなくて」

「え~、ほんとに!? あちきそんなこと言った覚えないでありんす」

 予想だにしない回答だった。まさか、そんなわけはない……と言いたいところだが、彼女がアンドロイドである以上は彼女自身に何かが起きているのかもしれない。それを言うとまた怒らせそうなので言わないでおくが。

「ん? なんの話ぞよ?」

「みー様、男女の言った言わない論争に首を突っ込むのは野暮なりよ。外野は遠目からエモだけを吸うものなり」

 津川さんと安藤さんは変な勘違いをしているようだから放っておくが、やはり吹屋さんについていろいろと気になることが多すぎる。面倒だが、彼女と二人で話していろいろ知っているであろう御堂さんにもコンタクトを取った方が良いかもしれない。

 施設の調査が終わったとはいえ、まだまだやることは多そうだ。それらが終わるまでは……終わった上で打つ手がなくなるまでは……俺達の希望の灯が消えることはない、はずだ。

 

 

 ふと、食堂の隅に座るリュウ君と目が合った。彼もまた、俺に対して何かを伝えようとしているのだろうか?

 

 




歯切れの悪い終わり方ですが、次へ繋げるためということでここはひとつ。
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