ローラの休日 真実の愛の物語   作:こえくぼ

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今始まる、ローラと春波洋樹(オリキャラ高二)のトロピカる恋物語!



プロローグ〜エピソード1

プロローグ

 

 白日夢。

 

 あいつと過ごした時間を言葉にするならば、そんな言葉がぴったりだ。白昼に目を閉じて、太陽を見上げた時のように、強い輝きの中で夢を見ていたように。だけど、それは夢でも幻でもない。あいつは、今だって海のどこかで、確かに存在している。

 高慢で鼻っぱしらの強い喋り方も、吐息が混ざった甘い声も、大人びたしなやかな仕草も、白く透き通った肌も、艶やかなピンクの巻き髪も、純粋な光を湛えた水色の瞳も… 全てが愛おしくて、片時だって頭から離れない。

 離れている時間が余計に思いを募らせるように、日に日にあいつの存在は俺を圧倒する。まるで四六時中胸ぐらを掴まれてじっと見つめられているみたいに。

 側にいたい。できるならば、思いっきり抱きしめて、一生離したくない。

 叶わない思いに、狂おしいほどに身悶えながら。でも、これが俺たちの選んだストーリーだから。

 

 

ーこれは、人魚と人間の、真実の愛の物語ー

 

エピソード1 出会い

 

  その日、あおぞら水族館のアルバイトを終えて着替えた洋樹は、水族館の裏口へ向かってスケートボードを片手に歩き出した。

 スケボーは中学時代、父の仕事の関係でアメリカのロサンゼルスに住んでいた時から、ストリート系の文化に憧れて始めたものだ。

 冷房の効いた館内から重い扉を開けると、初夏のムッとした空気がなだれ込んでくる。まだ仄明るい空の黄昏と木々の間から漏れる月明かりが、街灯のない道を緩く照らしていた。

 七月に入ってまだ間もないが、あおぞら市には夜空に様々な虫の鳴き声が響き始めている。

 この道の先には、今はもう使われていない水族館のプールがあるのだが、洋樹が幼い頃はよくアシカやイルカのショーなどをやっていて、父と母とよく見にきていた。だからたまに、懐かしさでこの通用口を通りたくなる。

 スケボーに乗ってプールの脇を通り過ぎようとしたその時、チャプンッ、と誰もいないはずのプールから水音が聞こえてきた。水族館の職員が掃除でもしているのだろうか。挨拶をしようとそちらに目を見遣ると、洋樹は信じられない光景に息を呑んだ。

 ザッパーン……!

 それは、キラキラと水飛沫を上げながら月に向かって舞う、美しい人魚の姿だった。

 

「は〜、やっぱり水の中は気持ちい〜……。足もいいけど、夕方になるとなんであんなにダルくなるのかしら……」

「あのー……」

「へっ!」

 洋樹が水槽のガラス越しに声をかけると、人魚の格好をした少女は驚きのあまり跳び上がった。

「あのー、ここ、立ち入り禁止ですよ?」 

「に、ににに、人間!あ、あなたこそこんなとこで何やってんのよ!とっくに閉館時間過ぎてるでしょっ?」

「いや、俺、水族館で働いてるから、帰り道で」

「へっ?そうなの?」

 少女は驚いて首を傾げた。こうして話していると、水に濡れた肩にかかるピンクのウェーブの髪と、大きく見開いた水色の瞳が月明かりの逆光のなか次第に浮かび上がる。洋樹は好奇心をそそられ、その姿を捉えようと目を凝らした。

「……にしても、よく作られてますね。尾鰭。すげー精巧」

 造形といい水中に靡く質感といい、まるで本物のようによく作られている。一体どんな素材で作られているのだろう、と洋樹が繁々と眺めていると、少女はむくれて、「……失礼ね。本物よ!」と声を低くして反論した。洋樹は意表を突かれ、「へ?」と口をポッカリ開けて間の抜けた顔を少女に向けた。少女は畳み掛けるように言葉を続ける。

「だーかーらぁ、本物の人魚だって言ってるの」

「いや、そんなわけないでしょ」

 注意されたことに腹を立てた当てつけだろうか?と洋樹が訝しんでいると、彼女はジャンプして洋樹の立っている客席の方に降り立ち、器用にぴょんぴょんと飛び跳ねてベンチに腰掛けた。

「何だったら尾鰭に触ってみてもいいのよ?ほら!」

 なぜか上から目線の物言いだが、洋樹は差し出された尾鰭に触れてみることにした。

「ん……?ん〜、確かにこれは…本物の魚の鰭の感触……。う、鱗も……!」

「ちょっと!本体の方まで触っていいって言ってないでしょ!」

「あ、悪い!つい、興奮して……」

 信じられないことに、触った感触は、確かに魚のそれであった。

「ほんとにほんとに本物なのっ?」

「だからそうだって言ってるじゃない」

 洋樹は動揺する気持ちを抑え、大きく一呼吸つくと、彼女の隣に腰を下ろした。確かに最近市内で人魚目撃情報なる噂が錯綜していたが、まさか現実に目の当たりにすることになるとは。

「たまげた。ほんとにいたんだなぁ、人魚。てっきり自撮り動画撮影してるユーチューバーか、フェイクニュースばら撒いてる違法な奴かと思った……」

「失礼ね!まぁ無断で泳いでるのは確かだから、そこは目を瞑って欲しいけど……」

「でも、人通りはないとはいえ、こんなとこにいたらみんなに見つかっちゃうぞ?」

「まぁ、大丈夫よ。普段は人間の女の子のカッコで、そこの水族館の寮にホームステイしてるの」

 淡い光に包まれた彼女は、次の瞬間足を持った人間の少女の姿に変身した。水色のセーラー服は、あおぞら中学校の留学生の制服だ。髪にはエメラルドグリーンのカチューシャ、足元は緩い白地のルーズソックスを履いている。

「へ?人間に変身できるの……?ますますファンタジー過ぎて頭がついていかん……」

「人魚でも人間に変身できるのは私だけよ。人魚の常識を超えた、特別な人魚なの」

 ふふん、と臆面もなく長いピンクの巻き髪をかき上げながら大層得意気である。

「あそぅ……。それにしても、人魚が人間界になんの用だよ?見つかったら色々厄介なんじゃないのか?最近人魚を見たって言う噂、よく聞くし」

 洋樹の問いに、「それは……」と彼女は少し思案して、自分の言葉を噛み締めるように続ける。

「それは、女王になるため……。そう、私がここにきたのは、プリキュアを見つけて、後回しの魔女の野望を阻止して、女王になるため!そうよ、最近まなつたちと一緒にいることが楽しくて、人間になれて浮かれてたけど…私の目的は、女王になることだわ!」

 両手を胸の前でぐっと握りながら、前を向く眼差しには強い意志が宿っている。

「プリキュア?後回しの魔女?女王?」

「そうよ。魔女の力もどんどん強くなるし、このままじゃ人間界も大変なことになるんだから!」

 夢かうつつか区別がつかぬような話に首を傾げる洋樹に向かって、少女は前のめりながら捲し立てる。

「なんか話についていけないけど、最近噂になってる、やばい怪物のことか。それもデマだと思ってたけど……」

「本当よ!私はそれを阻止するためにやってきた、さしずめ麗しき正義のヒロインってとこかしら?」

「あ、そっか、人知れず戦う正義のヒーロー、みたいな?」

「まぁ、そういうことよ」

 少女は洋樹の言葉に、満更でもない、という風に腕を組んでうなづいている。

「なんかよくわかんないけど、でも人魚の国かぁ。行ってみたいなぁ。しかも人魚の国の女王かぁ〜。想像できない」

「そうね、グランオーシャンは、深海にひっそりと佇んで、人魚と海の妖精たちが暮らすとても綺麗な国。女王様は、皆んなから信頼されて、すごく尊敬してる、私の憧れの人……。あんな人になりたいって小さい頃から思ってて……って、なんで初対面のあなたにここまで話さなきゃなんないのよ!」

 月を見上げ、瞳を輝かせて夢を語っているかと思ったら、次の瞬間にはころっと表情を変え突然怒り出す。忙しなく表情を変える彼女の隣にいると、可笑しみが込み上げてくる。

「それもそーだなーははは!」

 すると少女は不思議そうにじっと洋樹の顔を覗き込んだ。やたら気の強い態度や言葉とは裏腹に、水色の瞳は海のように柔らかく澄んだ光を湛えている。

「な、なんだよ」

「あなた、私を見ても全然驚かないのね。普通の人間なら、騒いで逃げ出すか追い回すかするとこなのに」

「えっ?驚いたよ?うーん、でも、こうやって目の前にしたら信じるしかないし……。よく水族館の館長も言ってるけど、海の世界だってまだまだわからないこといっぱいだろ?宇宙なんて考えるだけで途方もないし!この世界自体人間の想像を遥かに超えてるっていうか」

 少女は夜空を見上げる。

「宇宙……」

「そうそう、宇宙もこの地球もロマンいっぱいだよ。でやっぱ俺、海が好きだからさ。海洋研究者になりたいんだ」

「ふーん、それで水族館で働いてるってわけね」

「親父も研究者で、館長とはその縁でガキの頃から知り合いでさ、色々世話んなってて。とにかく人間の理解を超えたものなんていっぱいあるんだ。信じなきゃ損だって俺は思ってる。……って、答えになってる?」

 洋樹が心配そうに少女の顔を横からちらりと見遣ると、彼女はくすくすと笑い出した。

「ふふ、見た目と違ってなかなかロマンチストなのね」

「う、うるさいっ!」

 

 その時、水族館の寮の方角から、「ローラァー?夜ご飯できたよー?」と、別の少女の声が響いてきた。

「あ、まなつ!今行く!」

 そう言うと、ローラと呼ばれた彼女はスクっと立ち上がった。洋樹は慌ててローラに声をかける。

「あ……、あのさ、また、ここに来れば、会えるかな?」

 ローラは振り返ると、少し間をおいて「あなた、名前は?」と、洋樹の名を尋ねた。

「春波、春波洋樹」

「私はローラ・アポロドーロス・ヒュギーヌス・ラメール。ローラでいいわ。人間の男の子とあんまり話したことなかったけど……、なかなか楽しかったわ。また会いましょっ、洋樹!」

 ローラはそう言ってウインクをすると、少女の元へ駆けて行った。

「ローラァ〜、何やってたの?」

「ううん、別に、泳いでただけ」

「そっかぁ。じゃあお腹すいたでしょ?今日は特大ハンバーグだよぉ〜!」

「まなつが食べたいだけでしょ?」

「えへへーばれたぁ?」

「まぁ、悪くないんじゃない?お腹減ってきたわ」

 洋樹は暗がりの中、寮の方角へと消えていく二人の背中を見送る。後ろ姿ではあるが、ローラを呼びに来たサイドポニーテールの少女には見覚えがある。確か以前、水族館で研究員として働いている夏海碧から、アルバイト中に一人娘として紹介されたことがある。

「てことは、夏海さんの家にホームステイしてんのか……」

 

 洋樹はしばらくプールサイドで月明かりを眺めながら、呆然とローラとの出会いを思い返していた。不思議なことに、人魚と出会ったという衝撃的な事実よりも、彼女自身のことが気になっている。

 類い稀なる偉そうな態度の割には、少しも嫌味を感じさせない小気味よさ。それすらも彼女特有のご愛嬌のように映ってしまう。少しの湿り気もないサバサバした器量がそう思わせるのだろうか。それに初対面でなぜ夢のことなど語ってしまったのだろう。

 しばらくベンチでぼんやりとしていた洋樹は、空腹を覚えスケボーに乗って家路へと向かった。

 途中、人通りのない道で気が緩んだ彼の脳裏に、月夜に舞う美しい人魚の姿がよぎった。

 ー月に照らされたピンクの艶やかな髪に、水色の瞳ー

 ゴッ!その瞬間、目の前が真っ暗になったかと思うと、激しい火花が飛び散った。洋樹はドッと尻餅をついた。どうやら、一瞬上の空になった彼は、目の前の電柱にぶつかったらしい。

「い、いってぇ〜……」

 状況を飲み込むと、打ち付けた額と尻がジワジワと痛み始める。心配して声をかけてくれたサラリーマン風の男性に、洋樹は額からの流血にも気づかずに愛想笑いを浮かべる。そしてギョッとしてたじろぐ男性の横を通り過ぎて、痛む尻をさすりながらすごすごとその場を立ち去った。

 

 翌日、洋樹は水族館の休憩室でまなつの母の碧に声をかけられた。

「春波君!その怪我、どうしたの〜?」

「あ、いや、なんでもないっす」

「さては彼女に殴られたとか!?」

「いや、そんなんいないんで……。ところで夏海さん、人魚の存在って信じますか?」

「へ?突然何言ってるの?打ちどころ悪かった?」

「あ、いや、なんでもないっす…… (知らないんだ……)」 

 




次回 エピソード2 予感
pixivに連載中のシリーズ小説です。
こちらにも試しに投稿させていただきましたが、順次連載していきたいと思います。
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