戦姫絶唱シンフォギア〜 Web Warrior 〜   作:湯呑み茶碗

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終焉の名を持つもの

 

 日付の変わった12時過ぎ。

 深夜とも言える時間に、三人の装者とスパイダーマンは町外れの廃病院の前にいた。

 

『いいか! 今夜中に終わらせるつもりで行くぞ!』

『明日も学校があるのに夜半の出動を強いてしまい、すみません』

 

「気にしないでください。これが私達、防人の勤めです」

「街のすぐ外れにあの子達が潜んでいたなんて」

『ここはずっと昔に閉鎖された病院なんですが、二ヶ月前から物資が搬入されているみたいなんです。昼にスパイダーマンさんに調査してもらったんですが……』

「水道やシャワーなんかも使った後があったから、多分ここにいたのは間違いないと思うよ」

「しゃ、シャワーってお前!? アイツらがいたらどうする気だったんだよ!?」

 一通り中を探索したスパイダーマンが答える。その言葉に顔を赤くしながら動揺するクリス。

 

「い、いやそんな邪な気持ちがあって覗いたわけじゃないよ!? ただ、人がいたかの確認には一番適切かと思っただけで! そもそも彼女達は敵なんだからいたらいたでラッキー! くらいにしか!」

「ラッキーってお前……! 完全にそういう考えで覗いてるじゃねえか!」

「いやラッキーってそういう意味じゃなくてえーっとほら! 早く事態が収束するならラッキーって意味で!」

 

 三人からジト目で睨まれ、慌てて手を振りながら否定する。反論すればするほど疑いの目は大きくなるのだが、必死に弁明する彼にそんな事を考える余裕はない。

 

『とにかく、スパイダーマンさんのおかげで先日まで人がいた事は確定しましたから』

 

「ま、まぁ、そこまで分かってんなら後はしっぽを引きずり出してやるだけだ!」

「そうだな。スパイダーマン、話は後で聞かせてもらう!」

 何とも言えない気分になりながら、走り出す二人を追いかける響とスパイダーマン。

 

「昼もそうでしたけど……スパイダーマンさんって年下の女の子が好きとかそういう趣味ですか?」

「ち、違うよ!? そもそも僕はまだ18歳だからそこまで年は離れてないよ!」

「18歳!?」

「アレ言ってなかったっけ?」

「聞いてませんよ! もっと年上なものかと……」

「こっちに来る前に高校を卒業したばかりだったからね。まあでも、そう? 僕って大人っぽく見える?」

「いえ、そう言われると割と納得できます」

「あ、そう……」

 スーツを着て接することしか無く、判断材料が声と話の内容程度しかないため響は勘違いしていたが、そもそも彼の振る舞いや声などはどちらかと言えば幼い方だ。

 

「にしても、十五歳の時からヒーローになったって聞きましたけど、三年で色々ありすぎじゃないですかね……」

「うん。それは僕が一番思ってる」

「集中しろ二人とも」

 

 病院の中に入りながらも無駄話を続ける響とスパイダーマンを翼が一喝する。

 その視線の先には、通路の奥からこちらに向かってくる大量のノイズ。

 

「──Killter ichiival tron──」

 

 聖詠を歌い、先陣を切るクリス。

 

 

 ──BILLION MAIDEN──

 

 

 両手に構えたガトリングを掃射するクリス。その隣に、ギアを装着した翼と響が並ぶ。

 

「やっぱり! このノイズは……!」

「ああ、間違いなく制御されている」

「つまり、この近くに操縦者がいるってわけだね」

 

 スパイダーマンの言葉を皮切りに、四人が走り出す。

 

「立花! スパイダーマン! 雪音のカバーだ! 懐に潜り込ませるな!」

「おっけー。誤射しないでよっと」

 

 先行したクリスと、その後ろを走っていた三人が散開する。

 各々が拳、剣、銃弾で順調にノイズ達を炭化させていったはずだった。

 

「えっ!?」

 

 砕かれたはずのノイズが復活する。切り裂いても、砕いても、焼き払っても、まるで効いていないかのように復活する。

 しかし、それはギアを纏った三人による攻撃を喰らったノイズのみで、スパイダーマンが殴り砕いたノイズ達はそのまま炭化し、消滅している。

 

「なんで……! こんなに手間取るんだ!」

 息を切らしながら辺りを見回すクリス。スパイダーマンが撃破してはいるものの、広範囲攻撃の無い彼一人で減らせる量は多くない。

 

「息が荒いよ。大丈夫?」

「ギアの出力が落ちている……!」

「え!? それってまずいんじゃないの!?」

「あぁ……このままでは」

「待って! なにか来る!」

 近くにいた三人を庇うように前に出て、襲撃してきた謎の生物を殴り飛ばすスパイダーマン。

 

「何あれエイリアン!?」

 天井の配管を蹴って再度、スパイダーマンに向かって飛びかかるエイリアンもどき。それを前に出た翼が迎撃するが

 

「アームドギアで迎撃したんだぞ!?」

「なのに何故炭素と砕けない!」

 それが炭化することは無く、離れた位置で身構えていた。

 

「まさか、ノイズじゃ……ない?」

「じゃああの化け物はなんなのさ!?」

 

 その時、拍手の音と共に、暗闇から一つの人影が現れる。

 

「えっ!?」

「ウェル博士!?」

 

 彼女達が護衛を行い、その後ソロモンの杖と共に行方不明となっていたウェル博士がそこにいた。

 

「そんな。博士は岩国基地が襲われた時に……」

「つまり、ノイズの襲撃は全部……!」

 

 先程の化け物をケージの中へ入れると、答え合わせでもするかのように語り出す。

「意外に聡いじゃないですか。明かしてしまえば単純な仕掛けです。あの時既に、既にアタッシュケースの中にソロモンの杖はなく、コートの内側にて隠し持っていたんですよ」

 

「ソロモンの杖を奪うために、ノイズを制御し自分自身を襲わせたのか!」

 

「バビロニアの宝物庫よりノイズを召喚し、その制御を可能にするなどこの杖を置いて他にありません。そして、その杖の所有者は今やこの自分こそが相応しい! そうは思いませんか?」

「それはどうだろうね!」

 ソロモンの杖に向かいウェブを発射するが、直前で現れたノイズにって防がれる。

 

「テメェッ!」

「っ!? クリス! それはダメだ!」

 

 ウェル博士に向かってミサイルを発射しようとするクリスを制止しようとするが、止まらない。

 

「がっ……!? ああああああああ!!」

 

 この時スパイダーマンは、この時二つの事を危惧していた。一つは、クリスによってウェル博士が殺されること。こちらは彼がノイズで攻撃を防いだ事により回避された。もう一つは、適合係数が下がった状態での大技によるギアのバックファイア。

 クリスがダメージを受けた事で、自滅を狙ったウェル博士の策にハマった事になる。バックファイアに苦しむクリスを抱えている間にウェル博士はノイズを使い崩壊した病院から脱出していた。

 

「クソっ……! なんでこっちがズタボロなんだよ!」

 

 クリスを抱えながら外に出ると、そこにいるウェル博士の手から先程まで持っていたケージが消えていた。

 

「アレは! ノイズがさっきのケージを持って!」

「このままじゃ海の方に逃げられる!」

 響とスパイダーマンの言葉通り、飛行型のノイズが先程までの化け物を収納したケージを吊り下げながら、洋上へと向かっていた。

 

「響! そいつを捕まえておいて! あとクリスの事もお願い! 翼!」

「あぁ!」

 声ををかけると同時に二人は海の方へ伸びた崩落した橋に向かって走り出す。

 

「策はあるのか!」

「一応ね! あとはちょっと足場があると助かるんだけど……」

『そのまま跳べ! 翼! スパイダーマン!』

 足りない1ピースを埋めるように通信機へと声が響く。

 

 その声を聞き、勢いよく海に向かって翔ける。

 飛距離が足りず落下するが、その瞬間、海の中から巨大な潜水艦が浮上する。それを足場に二人がもう一度飛び上がる。

 そして、スラスターを噴かす翼の足にウェブを貼り付けるスパイダーマン。

 

「ハァッ!」

 

 スラスターで勢いを乗せ脚を大きく振る翼。ウェブに捕まったスパイダーマンが振り子の要領でノイズの方へと飛ばされる。

 

「だあぁっ!!」

 

 その勢いのまま全力でノイズにパンチを入れる。そして、ノイズが砕け散った事により落下していくケージにウェブを飛ばし手繰り寄せる。

 

「よしっ! あとちょっと!」

 

 あと少しでケージに手が届くと言うところでスパイダーセンスが反応し、咄嗟に身体を逸らす。

 唐突に現れた槍はウェブを切断し、水面で停止する。そのまま手を伸ばしていれば腕ごと切断されていただろう。

 

「やばっ!」

「糸を飛ばせ! スパイダーマン!」

 

 槍に邪魔されバランスを崩した体をひねり声のした方へウェブを飛ばす。それを潜水艦の甲板に着地していた翼が掴み力強く引き寄せる。引っ張られたウェブに引き寄せられる形で翼の方へ飛んできたスパイダーマンを片腕でキャッチする。

 

「ナイスキャッチ……またあの子か……」

「とりあえず降りろ……」

「あぁ、ごめんね」

 

 夜明けの太陽を背に、水面に浮かぶ槍の上に立つマリアに視線を向ける二人。

 

 

 

「時間通りですよ。フィーネ」

 

 ウェル博士が響に後ろ手で拘束されながら彼女に呼びかける。

 

 

「フィーネだと……!?」

 

「終わりを意味する名は、我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

「まさか……じゃあ、あの人が……!?」

 

 

「新たに目覚めし、再誕したフィーネです」

 

 


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