パーシヴァルなベルくんと最強種な姉   作:食卓の英雄

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ベルは鐘を鳴らして人を救う。パーシヴァルは鐘を鳴らす手伝いをして世界を救う。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!



パーシヴァルなベルくんと最強種な姉

 

◆◆◆◆◆

 

 

 ―――僕は、私は、英雄になるんだ。それが例え、造られたモノであったとしても―――

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「でぇいっ!」

「ふっ、はっ、そこっ!」

「ぬうっ」

 

 暗い迷宮に、剣戟が木霊する。それは音をも超えた斬撃の嵐と正確無比に全てを貫く槍の機関銃の交差。一合交わすたびに激震の走るような威力の応酬を続けながら、二人の騎士は互いに笑みを浮かべていた。

 

 一人、白き鎧を纏いて長槍を振るう白髪の青年。195cという大柄な体格ながら素早く槍を動かし、立ち回りも決して鈍重ではない。

 相対するのは一転して小さな影。蒼き鎧を装着し、腰まで伸びる白髪を靡かせながらも両腕に備わった鞘から細身の剣を突き出し超高速の乱撃を加えていく。

 

 並の人間であれば既に100の肉塊にされて余りある攻撃を凌ぎきった青年は槍を下から斬り上げる。

 青年の持ち得る筋力を最大限に利用した一撃は完璧に防がれてしまったが、そのお陰で密着していた距離は離れた。間合いとしては6M、常人同士ならばそれなりのものとなるが、こと超人の域にある二人にとっては瞬きすらも許せない短さだ。

 だがそれでも、槍の間合いは確保できた。

 

「閃光!」

 

 青年は叫ぶと槍を下段に構え、再び突貫。白光を帯びた槍の穂先が少女の胸を掠め、ちりちりと音を立てる。反撃に右腕を薙ぐ彼女の剣閃を戻した槍の柄で受け、その勢いのまま反転させた槍を上から叩きつけた。

 

「裂帛!」

「うん、いい一撃だ。でも素直すぎるね」

 

 少女はそれを両拳の鞘で受けきっていた。白光の余波が地を別ち無数の残痕を刻むが肝心の少女は無傷。ましてや己の優位な位置から叩きつけた筈の槍は完全に押し留められ、どれだけ力を込めようともより深くへ届くことはない。

 青年は慌てて背後へ跳ぶが、それと同時に、それでいて完全に青年の速度を超えた突撃が襲いかかる。

 

「ぬうっ」

 

 右手の鞘が湖光に輝き強烈な打撃を生み出し青年の身体に撃ち込まれる。既のところで槍で受けるが、それが悪かった。痺れる腕で立て直そうと槍を縦に構えるより早く、より力の籠もったスレッジハンマーが直撃した。

 

「うっあ…!」

 

 青年より遥かに小柄な少女の一撃で壁まで飛ばされた彼の体が岩壁に拓を取る。致命傷ではないが、それでも命をかけた本気の戦いにおいては決定的な隙。

 それを態々見逃し、剣を霧散させた彼女は鈴のなるような声音で語りかける。

 

「ベル、ほんの少しだけど、成長したね。以前なら三手前の攻撃でのされてたのに」

「はは、これでも努力はしたんだけど…やはり姉さんにはまだまだ敵わないか」

 

 苦笑し、差し出された手を握り立ち上がった青年は身体に付着した塵を払い落とすと、二人並んで和やかに歩き出す。

 

「さて、私は戻るつもりだけど、姉さんは?」

「キミがそうするのなら僕も付いていくさ。この辺りで面白い戦いが出来るのなんていないし」

 

 まあ、面白くても嬉しい訳ではないけどね。そう付け加える彼女に、青年はまたも苦笑を漏らす。

 この会話の途中にも迷宮はモンスターを産み出し、二人の進路を塞ぐものの鎧袖一触。姿を見せる側から彼女の超速剣技に呑み込まれては一瞬で灰と化す。

 

「姉さん、魔石は出来るだけ残しておいてほしいんだけど…」

 

 迷宮から産み出されるモンスターの胸部に入っている魔石。それは未知の力を宿し、様々な便利な道具を造ることが可能な物質。質のいいものほど高価になるそれはこの迷宮に潜る者達の主収入となるのだが、彼女はそれすらをも徹底的に斬り刻んでいた。

 

「…弱すぎるのが悪い」

 

 ぷいっと、ややバツの悪そうに頬を膨らませている。彼女としても自覚はしているのだろうが、言ってもやめないということは事実としてそう思っているのだろう。

 

「うーん、やはり私が頑張るしかないか。神様にはもっとお腹いっぱいご飯を食べてもらいたいからね」

「…ベル?あんな女神なんか気にしなくてもいいんだよ」

 

 仮面越しで判りにくいが、ジト目で睨んでいるのだろう。それはそれとしてモンスターの処理も怠らないのはその圧倒的強さが伺える。

 

「さて、じゃあ戻ろうか。夕餉には期待しておいてほしい。力のつくものを出そう」

 

 彼らのいる場所はダンジョン17階層。このオラリオでも己の壁を突破した者のみしか辿り着けない階層難易度を誇り、またそこに潜る者達は上級冒険者と呼ばれて下級冒険者からは羨望の的となっている。

 

『ゴアアアァァァァァァッッ!!!』

 

 踵を返した瞬間、そう遠くない距離で地響きと咆哮が轟いた。

 「迷宮の孤王(モンスターレックス)」。特定の階層にのみ出現する強力な固有モンスター、ここ17階層ではゴライアスという巨人型モンスターが該当する。

 

「この声は2週間前に倒した…」

「ふぅん、まあ折角だしやってくるよ」

 

 制止の声をかける間もなく飛んだ彼女は一直線に声の方へ駆け抜け、続いて地響き。そうしない内に巨大な魔石と何かの皮を持って返ってくる。

 

「これでさっきのはチャラだ」

 

 自慢気にそれを見せびらかし、臨時収入を確保したところで、二人はようやく帰路についた。

 

 

―――…

 

 

 二人はかなりのハイペースで残りの階層を踏破し、今まさに5階層を抜けようとしている時に、新たな嘶きが遠方から迫る。

 猛進の影はただこちらへ向けて走り込んでおり、いくつかの角を曲がった辺りでその姿を視界に晒す。

 

 ニMを超える身の丈、盛り上がった逞しい筋肉を毛皮という天然の鎧で覆い、何より目につくのはヒトのそれとは異なった牛頭。本来ならば中層域からしか現れないはずのミノタウロスがそこに佇んでいた。

 

「ミノタウロス…何故上層に?」

 

 疑問に思い、この階層にいる冒険者には危険すぎるなと槍を構えたその時、隣の少女騎士が流星のように飛び出した。

 

「はぁ…折角弟と二人きりの時間を過ごしてたのに、邪魔しないで欲しいな」

 

 チン。

 ミノタウロスはその接近も、抜刀も、そして構えの終わりすら認識することなく間抜けな顔を晒した。

 

『ヴォ?』

 

 直ぐにベルの隣まで戻ってきた彼女はまるで興味を失ったように上の階層に向かって歩き出す。ベルも未だ立ち呆けるミノタウロスを気にもせずに後を追う。

 

 何故か二人が背を向けたのを認識すると、ようやく正気に戻ったミノタウロスが吠声を上げたその瞬間だった。

 

『グブゥ!? ヴゥ、ヴヴモオオオオオオォォォオォ!!?』

 

 バラバラと、絶叫しながらミノタウロスの姿が崩れる。血しぶきを上げ、ズレ落ちる肉塊は最早己の理解できる範疇を超越し、訳も分からず崩壊する体を抱いたまま、最後に魔石が二つに割れてその意識は消え去った。

 

 やがてそれも灰と化し、その凄惨たる遺体の痕跡はどこにもない。ここに残ったのは何もない。しかしながら、その光景を見ていた影が一つ。

 

(アレは…何?)

 

 ダンジョンの壁伝いにこちらを覗く、金の長髪を腰まで伸ばした髪と同じ色の瞳を持つ少女だ。

 その麗しい瞳を見開いて、先の場所をいつまでも眺めていた。それは信じられないものを見るように、思いがけないものを見たように。

 

(速い…速すぎる。ここからでも、辛うじて目に追えるかどうか。…ううん、それよりも――)

 

 大昔の、悪い夢を思い出した。父と母が小さく弱い私を置いていき、どこか光の彼方に消え去っていくあの様子。

 

(アレは、あの人は、本当に―――?)

 

「…ア………、……イズ、おいアイズ。聞いてんのか?」

「ベート、さん」

 

 どうやら思考に没頭していたらしい。仲間の狼人に声をかけられてようやく気がついた。

 

「ミノタウロスは仕留めたんだろ?さっさとフィンの所に戻るぞ。こんな上層まで逃げやがって面倒くさいったらねえぜ」

「あ、はい」

 

 先を行く狼人に急かされ、咄嗟に思考を打ち切って踵を返した。それが防衛本能からの行動かは、神ですら預かり知らないことだった。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「ただいま帰った!」

 

 ここはオラリオの一隅、誰も寄り付かないような廃れた教会のその内部、地下へと続く階段を降りながらベルは声を投げかける。

 

「おかえりベルくんにメリュ「君にその名を呼ぶことを許した覚えはないよ」…ランスロットくん」

 

 出迎えたのは小さな身体に豊かな双丘を実らせ、長い黒髪を二つ結びにした少女。

 彼女の名はヘスティア。神の一柱であり、二週間前に出来た新興ファミリアの主神でもある神物だ。自らのファミリアの一員でありながら未だ辛辣な対応のメリュジーヌには幾度か挑んではその全てで轟沈している。

 

「ご飯はまだかい? 今日はちょっとした臨時収入が入ったから沢山食材が買えてね、私が腕を振るおうと思っているんだが…」

「おお、それはいいね! 是非そうさせてもらうよ」

 

 一転、ひどい落ち込みようから立ち直り机の片付けに取り掛かるヘスティア。因みにこのときベルに抱きついていれば、姉からの鉄拳制裁が下っていたことだろう。地味なファインプレーだ。

 

「それで、君たちはどこまで行ってきたんだい?」

 

 どこまで。冒険者となって二週間しか経っていない者は筋が良くても5階層程度が限界であり、そう選択肢は多くない。より経験のあるファミリアの先輩が同行しているのならともかく新興派閥にそれを期待することは出来ない。

 それが普通だと理解してなお、ヘスティアは二人はその限りではないと自信を持ってそう言えた。

 

「今日は17層までですね。セーフティゾーン直前の階層、それに嘆きの大壁以外はこれといってメリットもないので、隅で模擬戦形式の鍛錬をしていました」

「17層かー、初日にそこまで迷い込んで帰りが遅かった日はよく覚えてるよ。まさか階層主を倒して帰ってくるのはちょっと、いやだいぶ…かーなーり予想外だったからね」

 

 少し前の記憶を思い返し、遠い目で語るヘスティアは謎の哀愁を伴っていた。

 

「ええ、ですので帰りに湧いたゴライアスを姉さんが討伐してきました。今回は魔石も無事でドロップアイテムも落ちたので換金額も良かったです」

 

 じゃらりと音がなる麻袋を見せ、諸々を差し引いて金庫に入れる。

 日々の生活費を除けば、この二人の出費は少ない。ベルの武具はこのオラリオに来たときから持っている槍と鎧があるし、メリュジーヌくんも同じだ。私服の類もあるし、稼ぎはいいしで、ボクとしては手のかからないでいい子なんだけど、あんまりに出来がいいとかえって心配になるっていうのは本当だったみたいだ。

 ヘファイストス、これが親心ってやつかな。その点もう一人は結構買い物とかが好きで、たまにボクと一緒にショッピングなんかもするから費用的にはありがたいんだけどね。

 

 さて、メリュジーヌくんが美味しいと言っていたベルくんの料理、はたしてどれほどのものかなと厨房を覗けば、大盛り、いやそれすら遥かに超えたギガ盛り。盛りに盛られた肉と根菜が人数分皿に用意されていた。

 

「ベルくん…あの、その量なんだけどね…」

 

 あれを食わせられるのかと、青ざめた顔で話しかける。するとベルは朗らかに、その意を汲み取り申し訳無さそうに皿の中身を移動させる。

 

「ああ神様、申し訳ありません。

 

―――――まだ足りませんでしたか」

「違―――うっ!?」

 

 

 何とか増量だけは回避した。勿論そもそもの量は変わっていないのでヘスティアの胃は死んだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 後日、胃もたれに苦しむヘスティアはソファーチェアに体を横たわらせながら問う。

 

「ここ二週間断られてるけどさ、一応言っておくよ。神の恩恵を刻む気はないかい?」

 

 他の神が聞けば馬鹿なことをと嘲笑するであろう言葉を、なんてことないようにヘスティアは呟いた。投げやりな言葉にも微笑を返し、分かりきったことをと口を開く。

 

「ええ、ありません。私はまだまだ未熟、恩恵を受けるより今は生身の体を鍛えていきたいのです。幸いにも、今の私の力でも通用しますから。どうにもならない敵が現れるのならその限りではありませんけどね」

 

 ファミリアを結成してから毎日続いているこのやり取り。初日はまさか断られるとは思わなかったので大層驚き、そのままダンジョンに行くものだから不安だったが、現在進行系で結果を出しているのなら、文句は言えない。

 ヘスティアとしては神の恩恵を受けるメリットや安全性も説明したのだが、何れもそれとなく断られている。

 

 彼の姉であるというメリュジーヌにもそれは提案したのだが、嫌悪感を剥き出しにして「そんなもの刻ませる訳ないだろう!」と激昂された。

 

 故に、『ヘスティア・ファミリア』の構成員3名のうち、1名しか恩恵を受けていないのだ。…まあ、今はまだ爆睡している最後の一人も人間ではないので実質0人みたいなものだが。

 鍛錬と称してとてつもない槍さばきを見せる彼は傍から見れば恩恵受得者にしか見えない。

 

 何でも、オラリオに来る前から戦っていたとの事だけど、一体どれほどの経験を積めばあの領域に辿り着けるのか、想像に難くない。

 未だ謎の多い人物だけれど、人柄も悪くないし、素直で嘘のつけない子だ。眷属になったからには、その全てを受け入れる覚悟が、僕にはあるのさ。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 彼の名はベル・クラネル。

 許されざる選定の槍の担い手であり、高潔な志を宿すもの。

 彼は知らぬことだが、その噂は都市の外で語られている。

 

 何者にも勝る白光の騎士にして、稀代の竜殺し。

 どこからともなくやってきて、危機を打ち破る者がいると。

 

 曰く、純白の髪、鎧、槍は穢れなき証明である。

 曰く、竜の谷を白馬に跨り踏破した。

 曰く、その高潔さに犯罪系ファミリアが自首をした。

 曰く、自らの体を盾にし、全てを守護し、光で癒やしを与える聖騎士である。

 曰く、とある神が恩恵の有無を聞き、それは否であると答えて神がそれを真実と認めた。

 

 曰く、曰く、曰く、曰く―――。

 

 真偽も定かではない噂は枚挙にいとまがないが、それと出会ったものはその噂を一概に出鱈目だとは言い切れなかった。

 清き行いを為し、対価も名声も求めない彼のあり方は眩しく映り、名前も名乗らない彼は、神々の言葉で清き者を意味する言葉でこう呼ばれている。

 

 人域の限界者、白光のパーシヴァル

 

 背丈195c、体重110kgの彼が、実はまだ14歳の少年であるということは、全く知られていないことだ。

 

 




思いつきでやってみた。反響があれば続く
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