パーシヴァルなベルくんと最強種な姉   作:食卓の英雄

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この作品の怪物祭編長くね?
作者はそう思った


「勝負あり…か」

 

 混沌とした戦場に、都市最強の男が訪れた。

 オッタルが戦意を迸らせる。ただそれだけで第一級冒険者である彼女らの背中を冷たいものが襲う。

 ヘスティアはただその威圧感に圧倒され、ロキはこの場で猛者が動くことへの疑問と驚愕を目に宿して。

 

 誰もが、迂闊に動くことが出来ない。

 

『アアアアアァァァ―――!!』

 

 そして、この場においてその異常を認識せず、襲いかかったのは、知性持たぬモンスター故だろう。ヒリュテ姉妹を苦戦させた最後のモンスターが生存本能からか、猛者へと躍りかかり―――。

 

「邪魔をするな」

 

 剣を持たぬ方の腕の一撃。その裏拳のみであれだけ打撃では揺るがなかった体が吹き飛ばされ、ぐったりと力を失っていく。

 

 この一瞬で、場に集う全ての目を奪う。そして、明確な敵意を持って大剣を構えたオッタルは、その巨体からは想像もつかないほどの速度で地を蹴りつけた。

 矢のように、ではあまりに温い。踏みしめた大地が弾け飛び、進路の全てを蹴散らす猛撃が飛ぶ。

 

 予想外の出来事に唖然としながらも、嫌に冴えた目がその結果を捉える。

 

 轟音。そして衝撃。ビリビリと空気に伝わる振動が電撃の如き勢いを持つ衝突。近くにいたヒリュテ姉妹とガレス(3人)はあまりの勢いに思わず腕で顔を守り、それ以外の者はそもそもとして情報を認識できていない。

 故に、この場でそれを正確に捉えることの出来た人物は、アイズ・ヴァレンシュタインただ一人であった。

 

「嘘…」

 

 見開かれた黄金の瞳に映るのは、両腕で武器を振り下ろしたオッタルの姿と、それを手に持つ長槍で受け止めるベルの姿であった。

 

「くっ…!」

「やはり止めるかっ…!」

 

 ベルは苦悶の声を漏らすが、対するオッタルの言葉にも余裕がない。切り札(魔法)を使用した訳では無いが、それでも今出せる全霊の一撃。

 

 Lv.7でも最強に近い高みまで至った男の全力に、対応出来る者が今の世界にどれほどいるだろうか。

 

 例えば、ガレス・ランドロック。彼が防御のみに意識を割けばそれも不可能ではない。彼のステイタス構成はドワーフらしく力や耐久が非常に高く、スキルによる補正や装備を整えれば倒れることなく防御することは可能だろう。

 例えば、リヴェリア・リヨス・アールヴ。ハイエルフにして都市最強の魔導師。彼女の比類なき魔力を込めた最大の防御魔法ならば、猛者の一撃すら食い止める結界となるだろう。

 

 だが、その青年はただ防いだだけではない。地面を砕いてなお動かない二人が、ギリギリと音に乗って聞こえる金属音が、()()()()()をしていることを証明していた。

 

「ウッソォー!?」

「「猛者/ベルさんと互角…!?」」

 

 ヒリュテ姉妹は、オラリオに来てから今までに、苦戦のくの字すら見せない程の強者たるオッタルと渡り合うベルに驚き、逆に、ガレスは冒険者にもこれほどの強者がいたのかと目を見開いている。

 

 当然、何より力を求めるアイズも目を奪われていた。お店でちょっとした諍いを通して時に知り合った…という程の仲でもない関係だが、確かに覚えている。自分達の団長が強者だと認めた槍使い。そして、あの少女、ランスロットの身内。

 

 聞きたかった。あの恐怖を抱いてしまう子のことを。知りたかった。この感情の出処を。そして今、『知りたいことを答えてくれるかもしれない誰か』ではなく、ベル自身の腕前に見惚れていた。

 

「はぁッ、ぜぇい!!」

「…ヌゥッ!」

「どりゃあああ!」

 

 ベルは鍔迫り合いは分が悪いと感じたのか、大剣を流して足元を払う。それを飛び躱したオッタルの振り下ろしが迫る。が、同時に斬り払った槍を体ごと捻って戻し振り上げに派生。

 光の軌跡が槍に追随し、再び衝撃波が起こる。

 

 今度はさっきの逆だ。姿勢の悪い中受け止めたオッタルは後退し、ベルの振り下ろしが石畳を砕く。またも少し驚いたような顔をしたオッタルは顔を引き締めると足払い。

 うまく隙を作ったオッタルは続けて大剣での連続斬りを繰り出した。大剣という重撃での破壊を主とする武器種の嵐にベルの肉体にも傷が増える。

 しかしそれでも槍で防ぎ、身動ぎし、被害を最小限にとどめて反撃までこなしている。ベルの頬が裂け、血が吹き出す。オッタルの腕を光が刺し、肌を焼く。

 額を剣が一閃し、突き出された槍が相手の腹を傷つける。

 

 一見互角の勝負に見えるが、それでもベルの方が僅かに消耗が多い。こちらの切り札はおいそれと出せないが故に、相手がもしこれ以上の手札を持っていれば形勢は傾くだろう、とも。

 そして、それに拍車をかけるのがオッタルが猪人の獣人であるということだ。

 獣人には獣化と呼ばれるステイタス補正や特殊な効果を持つスキルを発現していることが多く、その振り幅はかなりのものだ。そして、獣化には種族間の差がままあり、ノーリスクで発動できるものばかりではない。例えば狼人であれば月夜の下でしか発動できない…などの特殊な条件があるものから、ハイリスクハイリターンであったり、戦闘技能にはあまり関わらないタイプの強化を受けるものまで存在する。

 

 だから、測れない。今戦っているオッタルがスキルを温存しているのか、条件が揃っていないのか、リスクのため使っていないのか、はたまた珍しくも獣化スキルを取得していないのか。その全ての可能性が存在する以上、普段以上に警戒しなければならない。

 

(やはり、このままでは不味い…。…だが、既にこの戦い、続ける意味がない)

「ふぅ……。猛者オッタル。貴方は強い。私の出逢った者の中でも、五本の指に入るほどに」

「…ほう、五指と来たか」

 

 そのオッタルの顔は、常よりの無表情ではなく、闘争者としてのそれ。兼ねてより忘れていた、久方ぶりに湧き上がったこの闘志はともすれば侮辱にも聞こえかねないそれを受け取り、ならばと意欲を燃やす。

 ベルはギラついたその貌にも動じず、流れる血を拭い石突で地を叩く。

 

「故に、この一撃で決着を着けさせてもらおう!」

「受けて立とう」

 

 オッタルの返答は早い。迸る闘気滾らせ、両手で大剣を構える。ただそれだけの行動の一つ一つが凄まじい重圧を放っている。

 対するベルも槍を腰だめに、水平にして槍から膨大な光を放出させる。そこには一分の隙もなく、ただその瞬間を待っていた。

 

 張り詰める空気。一瞬の空白。誰かが喉をごくりと鳴らした。

 

 そして、力は解放される。

 

「うぅぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 一瞬の閃光。眩い光の一撃が、マトモな人には到底放てぬ極光が、一直線に突き進む。構えた右腰から体の捻りと加速の乗算を受けた槍が、宙に光の軌跡を靡かせながら猛進する。

 

 そしてまた、闇を遍く照らす一条の矢に対し、オッタルはかっと双眼を見開く。

 両足で強く体を固定し、剣は大上段。しなりとともに肩を隆起させた彼は、構えた鉄塊を勢いよく振り下ろした。 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 咆哮する。凶震する。長槍と大剣が交差する。

 

 男二人の雄叫びが炸裂し、大地が割れたかのような轟音が鳴り響く。互いに今できる最大の攻撃。

 

 静寂が満ちる。

 

 二人の男は動かない。互いに武器を振り抜いた姿勢のままで留まっていた。そして、先に動いたのは――――

 

 

――――オッタルだ。

 

 

 自身を通り過ぎたベルに向き直ると、戦士は一言だけ呟いた。

 

「勝負有り…か」

 

 直後、ベルの胸から斜めに走った赤い線から血が吹き出す。

 

「ベルくん!?」

「ベルさん!?」

 

 痛ましい悲鳴を上げたのは同じファミリアの二人。先の勝負を見ていた【ロキ・ファミリア】も息を呑む。

 傷を負ったベルと、無傷のオッタル。これでは誰がどう見ても勝敗は一目瞭然で…。

 

「はい。今回ばかりという条件付きだが…私の勝利とさせてもらう」

 

 瞬間、呆気ない音とともにオッタルの持っていた大剣が崩れ落ちる。幅広の剣は幾重にも亀裂が入り、欠片がばらばらと足元に散らばっていく。

 

「猛者の武器が…」

「武器破壊!?」

「…マジかぁ」

 

 驚く周囲を尻目に、二人は淡々と言葉を重ねていく。

 

「いやぁ…流石お強い。仮に全力を出されていれば負けていたのはこちらの方でした」

「…必要がなかっただけだ。主神(フレイヤ様)からの命は手合わせと足止めだ。だが勘違いをするな…全力でこそなかったが、本気ではあった。……第一、それは()()()()()()ことだろう」

 

 確信を持って、というよりそうでなければおかしいとでも言いたげな瞳で訴える。その視線に晒されながらも、己の槍をちらりと見る。

 

「…では猛者よ。この場は退いてもらいます」

「それを違える気はない。他の幹部にも中止を呼びかけよう」

 

 オッタルの身から完全に戦意が消え、これまでの緊迫した空気が霧散する。

 知れず、ほうと息を漏らしたのは誰だったか。少なくとも、目の前で最高峰の力のぶつかり合いを見て無心でいられるものなどいなかったという訳だ。

 

 そして誰もが余韻に身を任せ、二人を視線で追っていた。怪我を負ったレフィーヤとギルド職員を衝撃から守っていたアイズも同様だ。

 瀕死の重症を負ったレフィーヤだけが、その存在に気づいていた。

 

「…ァ、イズさんっ、まだっ…!」

 

『アアアアアアアアァァァァァァァァ―――――ッッ!!』

 

「っ!?」

 

 襲い来る激痛に耐えながら、ひりつく視界の中で動く影を見た。それは猛者に一蹴され、誰もが退場したと思っていたモンスター。

 

「アイズッ!」

「あいつまだ生きて…!」

 

 レフィーヤが何とか声を上げた時には、既にアイズの目前にまで迫ってきていた。

 

 この不幸な見落としには、三つの理由があった。

 まず一つ。この食人花は今回現れた個体の中でも一際外皮が厚かったこと。個体差の大きい本種であるが、打撃に関してかなりの耐性を持つモンスターの更に強靭な個体ということで、全力でないオッタルの拳では殺しきれなかったのだ。

 

 次に二つ目。それほどの耐性を持っていたとしても、都市最強の一撃を完全に防ぐには至らない。一撃で伸された食人花は、辛うじて魔石を粉砕されなかったのである。

 

 最後に三つ。その直後に都市最強の戦いが始まり、誰もがそれに目を奪われていたため、一撃で退場したモンスターのことなど誰も気にも留めていなかったからだ。

 

 ボタン一つの掛け違い。もしあの時オッタルが武器を使っていれば。誰かが周囲にも意識を向けていれば、食人花は意識を取り戻すことなくこの世から消えていたであろう。

 だがそうはならなかった。ほんの少しの見落としで、これだけの危機が迫る。

 

 どうする…? アイズは考えていた。迫る食人花。これは単体では脅威にならない。普段のアイズであれば容易く両断せしめた程度のものだろう。

 

 だがしかし、ここに己の剣はない。アイズの力のアビリティはヒリュテ姉妹以下。スキルなどによる補正を合わせても、彼女らの拳撃にも耐えうるモンスターには効果は期待できない。

 

 武器がなくとも避ければいいだけのことだが、今だけは避けてはいけない。重傷のレフィーヤとそれを助けに来たギルド職員がいる。ここで自分が避けたら、彼女たちは道路の染みになるだろうことは疑いようがない。

 

「っ…! 掴まって!」

「へ、ってきゃあっ!?」

 

 選んだのは、彼女たち二人を抱えて跳んで避ける。咄嗟に抱えられたハーフエルフの職員はあまりの速さに何が起こったかも分からず目を瞬かせる。

 

「…い゛っ…あ゛あ゛ッ!!」

「っ、ごめん、レフィーヤ…!」

 

 重傷者を無理矢理に抱えて高速で跳んだのだ。そうする他なかったとはいえ、ただでさえ大怪我をしている傷口にさらなる痛みを与えてしまう。乱暴な痛みに苦悶の声を上げるレフィーヤに、その痛ましさに眉を顰める。

 

 

 痛みに呻くレフィーヤを気遣いながらも、足を止めるわけにはいかない。そう何度も耐えられるものではないが、この場に集うのはどれも一流の戦士。

 状況を理解するや否や、オッタルを除く戦えるもの全てがアイズを庇い立て、食人花を撃滅せんと迫るが―――。

 

(何か、来てる…? ―――――速い)

 

 瞬間、またも猛速で飛来した何かが食人花を壁へと縫い付ける。

 

「なっ…!」

「今度は何や!!?」

「また新手!?」

 

 土煙が晴れ、その正体が顕になるや、誰もが言葉を失った。あの硬い食人花の体皮にめり込んだのは、一人の猫人。それは決して、己の体ごと用いて攻撃したのではない。

 

 それは正しく、()()()()()()()

 

 口は力を失ったように開き、目はぐるんと真っ白に。折れ曲がった槍と共に投げ出されたそれは、誰がどう見ても失神していた。

 この場の冒険者は、その正体を知っていた。

 

「あれって…!」

 

女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)ッ…!? 【フレイヤ・ファミリア】の副団長がどうして…!?」

 




決着が味気なさすぎたけど、お互いガチの殺し合いではないし……。時間制限とか色々あってこういうシンプルな感じになりました。

因みに前に本気で戦ったときは4割勝てるといいましたが、スキルや魔法、奥の手全てを使った文字通りの全力で戦った場合、10割ベルの勝ちですが、使った時点で負けです
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