2022/06/10 0時04分追記
すいません、ちょっと修正しました。
やってきた一団、【ロキ・ファミリア】は空いていた席――予約席に迷わず着席し、朱い髪の女神の音頭によって宴会が開催された。
「ロ、ロキだって「煩い」痛ぁいっ!?」
思わずといった様子で叫ぼうとしたヘスティア様をメリュジーヌが速攻で叩きのめし、席に突っ伏する。流石に手加減したのか大きなたんこぶができる程度で済んでいるが、もし僅かでも殺す気があれば首から上が地中深くまで埋められていたことだろう。
「【ロキ・ファミリア】…」
あの予約席はそういうことだったのかと納得すると同時に、その練度の高さに驚かされる。皆一様に素晴らしい強者揃いだ。オラリオでも屈指の派閥という名に嘘偽りはないことが伺える。
ぽつりと溢した言葉を拾っていたのか、シルさんが側によってきてこそこそと話してくれる。
「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです。彼らの主神であるロキ様が私達のお店をいたく気に入られまして」
なるほど、それは納得だ。こんなにもいいお店なら何度でも通いたくなる。
「みなさんキレイですねー」
そう、【ロキ・ファミリア】といえば美女が多いことで有名だ。それもそのはず、主神のロキが美女、美少女など顔がいい人物が好みでスカウトしているために自然とそうなってしまうのだ。これでただの面食いファミリアで終わらないあたりがその実力を物語っているだろう。
深層の遠征を終えた直後の宴会で、その探索期間は2週間に渡ったらしい。ちょうど、ベル達が冒険者となった次の日から潜っていたのだ。
「なんでロキのやつなんかがここにいるんだよぅ…」
「神様はあちらの主神と面識が?」
「あるも何も、やたらとボクに突っかかってきては色々と馬鹿にしてくる憎らしいやつさ! ボクに胸が負けてるからって嫌がらせをしてくるんだぜ?」
「む、胸ですか…」
正直反応に困る。この反応から恐らくそもそも反りが合わないのかもしれない。たまたまきっかけがそれだっただけで、多分条件が変わっても似たようなことになっているのではないだろうか。
周囲の空気も戻ってきたとき、顔を赤らめた狼人がジョッキを傾けながら声を上げる。
「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」
「あの話…?」
話しかけられた少女、第一級冒険者アイズ・ヴァレンシュタインが何のことだか分からないといった風に小首を傾げながら青年の言葉を待つ。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で仕留めたろ!? そんで、いただろ?あんときの白髪のガキ!」
ミノタウロス、5階層。
それだけで事のあらましが何となくだが理解できた。
「ミノタウロスって、17階層で返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出してった?」
「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上っていきやがってよ、俺たちが泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ」
要するに、あの上層にミノタウロスがいたのは、彼ら【ロキ・ファミリア】と敵対した個体が逃げ出してきたから、ということらしい。
所謂異常事態による進出ではなかったのは良かったが、本来あの階層に潜っている者からすれば命に関わることだ。その失態を、酔っているとはいえ他の派閥や一般客もいる酒の席で言うのは下手をすれば信頼や威信に関わるのではないだろうか。
「それでよ、いたんだよ、やたらと装飾の多い鎧着た細っこい白髪のガキが!」
――マズイ。
「抱腹もんだったぜ、顔は見えなかったが、肌を真っ青にしてよ、立ち竦んでやがんの!」
「――白髪の、ガキ?」
――非常にマズイ!
姉さんはその見た目から色々と侮られがちだ。外の方を旅していた時も一見ガタイのいい私より絡まれる回数が多かった。あれで結構短絡的な所がある姉は純粋な一般人以外は、特に悪意ある輩には容赦しない。
以前もラキアの兵士たちに侮辱され、全員もれなく半殺しにした前例がある。そして一番の問題がここなのだが、レベル――つまりは肉体性能の高い人間ほどつらい目に遭う。殺しこそしないが、その鬱憤を晴らすようにボコボコにしていくのだ。
ラキアの兵士の内、レベル1は一撃で気絶したが、レベル2やレベル3の将校はなまじ頑丈なだけに苦痛が長引いていた。
見たところ、あの狼人の青年は第一級冒険者だ。しかし姉さんに抵抗できるほどの強さではない。それでは苦しむ時間が増えてしまう。
(姉さん抑えて…!)
無言でその会話に耳を澄ませる彼女を必死で宥めようとしながら、ガレスやヘスティアにも視線で助けを求める。
「…ガレス?」
ガレスがいない。視線を巡らせれば、席を立ってズカズカと【ロキ・ファミリア】の方へ歩む姿が映る。慌ててヘスティアに止めてもらおうかと席を見るが、当の女神は大盛りパスタの前で気絶しているため役に立ちそうもない。
「ああいう奴等がいるせいで、俺たちの品格が下がるってもんだ。全く、勘弁してほしいぜ」
「ちょーっと待ったぁー! それ以上の狼藉は神が許してもこのガレスが許しません!」
「………はあ?」
手遅れだった。まさか、姉に警戒するあまりガレスが言ってしまうとは。ああ、確かにガレスも結構無茶な部分があるから……。私のミスだ…。
「…何だ、テメェ」
「今の話のファミリアの身内です! さっきの話は聞いてました! ミノタウロスを5階層で始末したって言ってますけど、結局はそこまで逃してるじゃないですか!」
その睨みに怯むことなくハキハキと述べるガレスにその他のメンバーは気まずそうに顔を逸らす。
「…確かに、それは事実だ。この場で言うべきではなかった。挙げ句、被害者を笑うだなんて、最大派閥として相応しくなかったね。謝罪しよう」
静観していた小人族の少年が頭を下げる。それにギョッと目を剥くのは他の団員たち。こちらが悪いのは分かっているが、流石にどこの派閥の者かも分からない少女に頭を下げるのは体面が悪い。
「か、顔を上げてください団長! 悪いのはあの話を止められなかった私達ですから!」
「このバカベート! 何団長に頭下げさせてんのよ!」
団長と呼ばれた少年を庇い立て、反対に非を認める【ロキ・ファミリア】の団員たち。まさに四面楚歌といった様子で責め立てられる青年は針の筵だ。
「むむむ、確かに私も当事者ではないのに言ってしまったので、これ以上は何も言いません。でも、謝るべき相手は私じゃありません!」
そう言って、こちらを矢面に担ぎ上げるガレス。酒場全体の視線が、私達に集中する。
「あ……」
「あはは…どうも。彼女のファミリアの団長をしている者です」
私の自己紹介を聞き、【ロキ・ファミリア】団長がこちらに向かおうと歩を進めた瞬間、青年は目を見開いて叫んだ。――姉さんに向かって。
「テメェ、あのときのガキ!」
「ベルはガキじゃないっ!」
一瞬で加速した彼女はするりとベルの拘束を抜け出し、口を開いたままの青年の顔をテーブルに叩きつけた。
飛び散る木片、沈み込む灰髪、空に打ち上げられる料理の数々。
空気が凍った。一撃でベートが叩きのめされたことはさることながら、その移動すら異次元の域。前へ踏み出したフィンの真隣を超えて、団員で囲まれているベートの元――則ち【ロキ・ファミリア】の懐へ誰が止める間もなく入り込んでみせた。
そして発言。これは認識の相違によるものだ。これだけ逞しい青年と、スレンダーな体型の少女。どちらがガキに見えるかと問われれば後者なのだが、実年齢はベルの方が圧倒的に下。名指しでないのが更にその勘違いを助長させ、酔っていたせいか青年の指の向きが定かではなかったのも悪かった。
結果、ベルの事を言われていると思い込んだメリュジーヌによってベートは叩き伏せられた。
数名から「えぇ………?」と疑問が湧いたが、発言する勇気があるものはいなかった。
そして、最後。ウエイトレスの顔から血の気が失せ、青ざめた様相でこちらとカウンター向こうを視線で往復させる。その闘志にも似た何かは、果たして誰のものか。
「アンタら……!」
巨人だ。小さな巨人がいる。ミシミシと握力だけでカウンターの木材を毟り取ると、それを一纏めにして板材を支柱ごとぶち破る。
「アタシの店でこんなマネして、タダで済むと思ってるんじゃないだろうね…!!」
彼女はミア・グランド。豊饒の女主人の初代女将にして、都市有数のレベル6。【
因みに、カウンターを叩き割った際にヘスティアが投げ出されたのはご愛嬌というやつだ。
―――…
結局、両ファミリアは監督不行き届きとしてそれぞれの主神が今夜の間店員として働くということになった。
「……フム、ベートが言っていたのは見間違いで、本当はそこのキミが倒したってことかい?アイズも、それで合ってるんだよね?」
「うん。私じゃない」
賠償金を置いて店から追い出された彼らは中央広場に集まり、それぞれの話を述べていく。簀巻きのベートを抜きにした話し合いにより、事の真相が明らかになった。
当然、虚偽の申告などないよう、どちらにも属していない神に確認を取っている。
「改めて、ファミリアの団員がすまないことをした。こちらの不手際を酒の席で出しあなた達を罵ったばかりか、それすら勘違いで実は尻拭いまでしてもらっていたなんて、迷惑をかけすぎている」
「私からもすまない。あの馬鹿者を止められなかったせいだ」
「いえ、お気になさらず。酒の席の話なので特段気にしていなかったのですが……彼女が飛び出してしまって」
「うう…すみませぇん」
視線を横に流すと、申し訳無さそうに謝るガレスの姿。本人の気持ちは理解できるぶん、あまり責めることは出来ない。やや猪突猛進気味な彼女が抑えるなんてするはずがなかったのだから。
「今回はお互い様ということで…。ガレスも、それでいいよね?」
「ハハ、そう言ってもらえてありがたいよ」
両団長による協議によって、今回の一件はお互い様ということで処理された。不手際であるミノタウロスの件とその対処の謝礼、ベートの罵倒。メリュジーヌの一撃に釣り合うかと問われれば首を傾げざるを得ないが、その辺りはファミリアとしての体栽がある。
「それはそれとして――君たちは何者なんだい?」
「…それはどういった?」
「僕達の懐にあっさり入り込んで、酔っていたとはいえベートが気絶するほどの一撃を食らわせることが出来た。これでも都市中の有力者は頭に入れてるはずなんだけど、ヘスティア・ファミリアの名前も、あの特徴的な彼女の姿すら耳に入っていないんだ。見たところ、君もかなりの使い手だろう?」
放たれる圧力。きらりと輝く瞳からの追及。流石に言い逃れは出来ないか。止む無くその経緯、辿った道を答えようとした。
「まあ、これは僕の個人的な疑問だからね。詮索はしないよ」
同時、彼の纏う空気が霧散した。
「都市外にも強者はいるし、事情…それこそ主神の意向もある。今さっき話をつけた相手に対して行うものじゃないし、他派閥である以上僕にはとやかく言う筋合いはない」
本当にさっぱりと諦めたように語る彼の口調に、反してまだ何かを伺うような思案気な眼光が覗く。
「…いえ、ありがとうございます」
その心遣いに感謝をするべきか、それとも探りを入れられたのかは定かではない。だが、今は無用な勘繰りだ。たとえそうだったとして、彼らならば悪いようにはならないだろうという予感があった。
「じゃあ改めて。僕はフィン・ディムナ。ロキ・ファミリア団長で二つ名は【
「私はベル・クラネル。生憎と名乗れる二つ名など持ち合わせていませんが、ご容赦を。ほら、二人も」
「……ランスロット。妖精騎士」
「私はガレス!姓はありません! ベルさんの一番弟子で、いつか立派な騎士になるのを目指しています!」
淡白に通り名を名乗るメリュジーヌに対し、むんと身体に力を込めて名乗るガレス。
「そういえば、そっちの君の名前はガレスなんだったね。こっちの
「え! そっちにもいらっしゃるんですか!? じゃ、じゃあ、町の人達にはちゃんづけで呼ばれてるので…」
「ガレス『ちゃん』…だね。…フフッ、ごめんよ。君と違うのはわかっているけど、その度に
ふと脳裏に浮かび上がる女物の衣服を纏うドワーフの老将。
問うたフィンは堪らずといった様子で吹き出し、思い浮かべてしまった哀れな団員たちが吐き気か爆笑か、とにかく腹を抑えて蹲る。
「お、おいっ! なんじゃ人の目の前で! 流石に失礼じゃろぉがっ! 第一儂が一番想像したくないわッ!?」
「アハハッ…!いや、ごめん。余計な一言だった。それじゃ、僕たちはこれで失礼するよ。ベートも早く連れ帰ったほうがいいだろうしね」
団長であるフィンが話を切り上げ、ぞろぞろと道を引き返していく【ロキ・ファミリア】。ベル達もその姿を見送ると、誰から言うでもなく
「…ふう、それじゃあ私達もそろそろ眠ろうか」
「ベル、今日は私と一緒に寝よう。冬を越えたといってもまだまだ寒いので体温が恋しいのです。竜なので」
「……まあ、いいけど。
ベルとメリュジーヌは同じ掛け布団に身を移し、抱え込むように寝に入り、それを視界の隅に捉えたガレスもパジャマにナイトキャップの完全装備だ。寝る気満々である。
さて、点灯する魔石灯の明かりを消し、静寂の夜が訪れる。
「おやすみなさーい。……って、アレ、何か忘れてるような……」
生来の勘の良さも眠気の微睡みには働かず、やがてすーすーと規則的な呼吸音が地下の一室を支配した。
一方その頃、豊饒の女主人では。
「ベルくーん! メ、ランスロットくーん! ガレスちゃーん! 置いてくなんて酷いじゃないかー!」
「じゃかしいわアホ、ウチかて同じやわ! こんクソドチビと一緒に皿洗いなんぞしたくもないわ!」
「そっちの不手際をぺらぺら話す眷属のせいだろぉ〜? 狼の世話は慣れてるなんてよく言えたもんだね!」
「はあッ!? なんやドチビ喧嘩売っとんのかぁ!」
「煩いよッ! まだまだ皿はあるんだから口じゃなくて手を動かしな!」
「「ハイ! スミマセンでしたぁッッ!」」
ちょっとしたキャラクター紹介
ガレスちゃん
姓がない。なんなら鎧も持ってない。馬上槍を地上で軽々と扱うことからその戦闘センス自体は悪くないが、まだ未熟。見た目は重戦士タイプかと思いきや、力や耐久でなく俊敏が最も高い見た目詐欺。
実は人間ではなく精霊だが、まだ5歳なのに加えて人とずっと関わってきたためあんまり風格がない。
ヘスティア様
二次創作でよく苦労人になったり女神(ガチ)になったりする神様。
こういうベルくん強化…これは強化でいいのか?モノでは精神的な理由で胃薬が手放せないが、この作品では大盛りのマッシュにより胃薬が手放せなくなった可哀想な人。