パーシヴァルなベルくんと最強種な姉   作:食卓の英雄

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メリュ子の初宝具回です。
説明、というか地の文多めかも


「―――たくさん落ちてたよ!」

 

「──という訳でして…」

「なるほど、ガレスちゃんが…。あの馬上槍も結構なお値段なんだけどね…」

 

 同日。夜の帳が下り月明かりがオラリオの町並みを冷ややかに照らし出す中、廃教会の地下にてベルとヘスティアが窃かな会議を交わしていた。

 先の言葉を聞き、ヘスティアが悩ましげに眉をひそめる。ギルドの支給品には馬上槍がないから、と共に買いにいった為に値段を知っているヘスティアは複雑そうにうぬぬ…と頭を悩ませる。   

 

「うーん、とはいってもウチ(ヘスティア・ファミリア)には実績がないから強い武器を造ってもらうのも難しいかぁ。個人的に依頼をするにも、自然と有力ファミリアの人になっちゃうしなぁ…」

「その、恐れながらヘファイストス様とは交流があると聞きましたが」

「ヘファイストスかぁ…。でも下界に降臨したときに色々あったから、拠点まで行っても門前払いされるし、まず会う機会がないからねぇ…」

 

 渋い顔でかの女神の威容…というより叱責を思い出して一人頭を抱える。因みにこれは完全にヘスティアが甘えて自堕落なヒモと化していたせいであるのだが、自覚しているだけに素直に飲んでくれるとは思えない。

 

「やはり、そう簡単にはいかないですよね…。なら、こちらの伝手だけでなんとかしてみます」

「でも、そっちの伝手ってあのヘルメスだろう?あいつは確かに顔が広いけど、そこまでなんとかなるのかなぁ…?それに、なーんか胡散臭いし」

 

 ヘルメス、と名を出し厄介そうに顔を顰めた一方で、それでもとどうにか知恵を絞るが、中々いい案は浮かばない。

 これは迷宮入りかと次善作へと議題が進み始めた瞬間、何かに気がついたようにヘスティアはバッと顔を上げた。

 

「あっ、あああぁぁぁぁ――っ!!」

「か、神様声を抑えて! ガレスが起きてしまいます!」

 

 急に叫び始めた神様を慌てた様子で宥め、その真意をどうにかと聞き出す。すると、先程までの悩み様は何だったのか、自信満々にそのたわわに実った双丘をどんと叩く。

 

「ふふん、ボクに任せてくれ! そういえば神会(デナトゥス)があったんだった。参加する気がなかったから忘れてたけど、あそこならきっとヘファイストスだって来る筈さ。そこでガレスちゃんのことを説明したら、きっとどうにかしてくれる。いや、なんとかやってみせるさ!」

「おお!流石神様!」

 

 素直に褒め称えるベルに気を良くした彼女はくるしゅうない、と今どき王族でも中々聞かない言葉を放ち天狗となった。

 ようやくの光明が見え始め、それならばとベルはとある古びた羊皮紙を広げた。

 

 大分傷んでボロボロのそれは図面に様々な部品(パーツ)素材(アイテム)が記され、掠れてはいるもののどうにか読める程度には原型を留めていた。

 

「これは…設計図?」

 

 ヘスティアは呟き、その異質な武器の製造に目を通す。それは、馬上槍と呼ばれる種類に含まれるのであろうが、凡そ人が想像しうる形状からかけ離れていた。

 太く、長く、先端が鋭い形状は紛れもなく馬上槍そのものだが、中途に装飾と共に細い芯が柄から伸び銃の回転式弾倉(シリンダー)の様だ。持ち手は長く、撃鉄が装着されている。

 

 通常の武装からかけ離れた異様なその姿に判断を仰ぎかねたヘスティアがベルを見ると、その委細を語る。

 

「これはかつて魔法王国アルテナで名を馳せた賢者様が設計されたという武装でして…。この通り、特殊な機構を備えて威力の増強や近距離での放射(バースト)、物理の効きにくい相手にも効果的な一体化型特殊武装(スペリオルズ)魔導式馬上槍(マジック・ランス)というものらしいです。……まあ、これも祖父の受け売りなのであまり詳しくは知らないのですが」

 

 脳内で「浪漫じゃろ〜?」と親指を立てる老人の姿が浮かび上がる。

 

「そんなものがあったのかい?」

「いえ、それが希少な鉱石や特殊な素材を多分に使うほか一流の鍛冶師の協力が必要不可欠だったので…。それに加えて国の方針にもあってなかったからかこうして図面だけが残ることになったのですが…」

 

 感慨深げにその設計図を眺めるヘスティアだったが、要求される素材を見て目を見開いた。

 

「こ、これ…最硬金属(オリハルコン)真なる銀(ミスリル)、果てには高純度の魔石や色んなドロップアイテムまで大量に要求されるじゃないか!?」

「ええ、ですが一週間前に姉が深層に一人で突入したので条件は満たしていると思うのです」

「ちょっとまって、それボク聞いてないよ?」

「あはは…申し訳ありません…」

 

 突然の告白(カミングアウト)に目を剥くが、謝るベルを責めることなど出来はしない。

 

「ま、まあ、この設計図を持っていけばいいんだね。こっちの基本のランスだけでいいのかな?」

「ええ、規格は決められているので、個別に依頼してもどうにかなるかと。足りない素材はこちらで用意するので、どうか交渉と取り次ぎをお願いしたく…」

 

 こうして、着実にサプライズ計画は進行。段取りと諸々の関係からベルは真夜中に本拠を出立し、ヘスティアは土下座の練習を始めるのであった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「─はあ!? 何無茶なこと言ってんですかヘルメス様!?」

 

 明くる日の朝。【ヘルメス・ファミリア】団長にして【万能者(ペルセウス)】の二つ名を賜る都市随一の魔道具作製者、アスフィ・アル・アンドロメダの怒号が鳴り響いた。

 というのも、朝起きてきた自分に対してあの軽薄な主神はある羊皮紙を渡してこれを作ってくれと命じたのだ。

 古ぼけてよれた設計図には、彼女ですら感嘆を覚えるほどの図面が描かれ、そしてその高い技術と蓄えた知識から、それを制作するのは可能だと理解出来てしまっただけに無理だと言えなかった。

 正直、どういうことかと問い詰めたい気持ちに駆られたが、それより先に主神は逃げ去ってしまった。可能だとは言ったが、それには素材の希少性やそもそもの加工の難易度が桁違いの代物ばかりであり、また素材は後で納品されると言っているのも不可思議だ。

 正直言って、これほどの魔道具の素材を収集するだけで理外の困難だ。彼女の知る大手ファミリアがこのような魔道具を必要としているとはとても思えず、依頼人が伏せられていることも更なる疑念を抱かせた。

 

「ああもう! やってやりますよ! やればいいんでしょうやれば!!」

 

 普段からお守り兼便利屋として扱われていたストレスが頂点に達したアスフィは爆発した。憎らしい主神への憎悪をこの魔道具に込めて。新たな技術の流入に喜んだ事実はあるが、それ以上にきな臭い依頼人に怒りを募らせて。

 

「ふむ、基本的な構造は単純。浮遊水晶(ライト・クォーツ)の水晶を始めとするアイテムで輪郭を造り、オブシディアンソルジャーの黒曜石(ドロップアイテム)の粉を混ぜた金と超硬金属で薬莢代わりの蓋を作る。高純度の魔石を溶かした液体で外付けの回路を造り外部から魔力を吸収して蓄えると…。そして、放出口と魔力に親和性のあるミスリルの道で……ブツブツブツブツ……」

 

 取り敢えずと、実践と理論での反復によりこれらの技術の真偽を確かめ、鬼気迫る様子で没頭する彼女の執務室には、丸一日人が寄り付くことはなかったという。

 

「ここは…こうではなく導体の集約と魔力の拡散性を予期して、機構との軋轢を少なくするために……ああもう!」

「アスフィ荒れてるなぁ…」

「どうせまたヘルメス様の無茶振りだろう。そら、いつまでもここにいたら俺たちまで巻き込まれちまうぞ」

 

 一心不乱に図面とにらめっこをする団長の姿を憐れみながらも、団員達は遠巻きに眺めているだった。

 

 因みに、予定されていた二日後。わざわざ「余ったものは自由にしてくれていい」というメッセージの書かれた素材の山が届けられたことを知ったアスフィは嬉しいような、苛立つような微妙な表情で頬を痙攣させていた。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 【万能者】が頭を悩ませ、ヘスティアが誠意の土下座を敢行する中、ベルはダンジョン下層まで辿り着いていた。

 ダンジョンというものは基本的に円錐構造で、下に行けば行くほど面積が増えていく。故に自然と階層を突破する時間は増える一方なのだが、ショートカットする方法は意外に存在する。

 もっとも、その殆どが死のリスクが極めて高く、ルートも不確定なので堅実に正規ルートを通る冒険者ばかりだ。もし仮に追い詰められたわけでもないのに飛び込むものがいたらよっぽどの愚者だろう。

 

 そして、その愚者は今、一心不乱にモンスターの群れを掻き分けながら疾走していた。

 

「はああああああぁぁぁ!!」

 

 いかにオラリオでも指折りの強者であろうとも、この階層では油断はできない。ましてや囲まれでもしたら万が一に繋がりかねない。故に、ベルは目的のモンスター以外は無視してこの階層中を駆け巡っていた。

 前方から現れる浮遊水晶を一撃で粉砕し、ドロップアイテムを空中で回収しては手綱を握り直す。そう、()()()

 

「頼むぞ()()()()()!」

 

 彼が跨るは白き馬鎧を纏う精霊馬。旅の道中で出会った心許せる相棒であり、忠実な名馬である。当然、通常の馬とは一線を画す身体能力を持ち、時には自ら敵を轢き潰して恐るべき速さで瞬く間に怪物達を蹂躙する。

 その連携はまさに人馬一体の領域。神々の戦の一つがここに顕現したかのような無双ぶりに気を良くしたクントリーは更なる加速で以てベルの期待に応える。

 

 そして幾度か疾風走破を繰り返し、時にミスリルの為に壁を掘削し、遠くから轟く雄叫びにクントリーが警戒の嘶きを零す。

 瞬時に気がついたベルは急いで壁に大規模な傷をつけ、横入りの可能性を極力減らし、広間にて迎え撃つために大声で自らの位置を知らせる。

 轟音が鳴り響き刻一刻と近づいてくる中、ベルは恐ろしいほど冷静に、固く槍の柄を握りしめていた。

 音は着実にベルのいる広間に近づき、やがてその巨躯を晒す。

 莫大なプレッシャーを放つ双頭の竜。唯一の移動型階層主である『アンフィス・バエナ』は、二匹の獲物を見据える。

 並の冒険者であれば蛇に睨まれた蛙の如く身体を竦ませるところだが、ベルはそれ以上の竜の存在を知っていた。故に、恐怖はない。さりとて慢心も油断も有り得ない。

 

 真っ向から向かってくる双頭竜に、あくまで迎え撃つという姿勢を崩さないベル。

 

「階層主の魔石ならば不足はない。……さあ、来い!」

 

 その言葉を皮切りにか、アンフィス・バエナの速度が跳ね上がる。二つの顎の猛追を躱しながら、ベルの槍撃が硬い竜鱗を貫いた―――。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 所変わって、ダンジョン中層。(ベル)たっての願いでガレスの槍に必要な金属を集めに来たメリュジーヌは早速飽きて帰りかけていた。

 

「もういいです。こんな地道な作業はしたくありません」

 

 とぼとぼと、けれど一応はやったと言い張れるようにするために壁を削りながら登っていくメリュジーヌ。

 ガレスの槍の素材だと知った時点でそこまでやる気はなかったし、超硬金属(アダマンタイト)最硬金属(オリハルコン)の希少性からそこまで大量に集まるはずもない。

 弟に頼られた仕事だと張り切って階層中を削り周り、途中現れたやたら素早い骨の様な恐竜を撲殺するまでは楽しんでいたが、そこまでして尚5kgに満たない量しか手に入らなかった為にテンションは最低に近い。

 今も見苦しく壁を破壊するのも、結局はサボったと思われて嫌われたくないという個人的な感情からの物だった。

 

「はあ…どこかにゴロゴロと転がってたりしないのかな」

 

 とはいえ、やるからにはやり遂げたい。あのガレスに送るものであろうが、自分だけが準備が出来なかったというのは沽券に関わる。しかしモチベーションが足らずに登り続けている。

 そんなジレンマに囚われながらも、ある場所を斬り裂いた際に奥に続く道が現れたことに少しだけ驚いた。

 少し興味が湧いた彼女はその壁を切開し進むと、何やら重厚な輝きを放つ扉の様なものが現れた。

 取手や開閉跡が見られないその扉はDの様な文字が刻まれ、薄暗い迷宮の中に異質な雰囲気を醸し出す。

 

 冷ややかな光を帯びる金属の扉は重厚で、恐ろしいことに全てが最硬金属(オリハルコン)製。

 誰が、何のために、何故、こんなところに。通常の冒険者であれば訝しみ、何か恐ろしいものに囚われたような錯覚すらを思わせるそれは、本来であれば来る者を拒み、去る者を閉じ込める難攻不落の城塞として機能しただろう。

 

 しかして今の彼女にはそれ(稀少金属)は宝の山にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

「『今は知らず、無垢なる湖光(イノセンス・アロンダイト)』──!」

 

 

 

 

 

 

―――…

 

 

 

「うわぁ、流石姉さん! 短期間で両方ともこんなに集めてしまうなんて…!」

 

 必要素材を集め終えて一度本拠まで戻ってきたベルは、先に帰ってきていた姉の戦果に驚き、純粋な尊敬の念をぶつけた。嘘偽りない称賛は誰だって嬉しいものだ。それが、世界で最も大切な家族のものであれば尚更。

 メリュジーヌはすっかり得意になり、思う存分ベルに抱きついて弟分を補充している。

 

「そうでしょうそうでしょう。これでも私頑張ったんです」

「いや、本当に凄い。…これだけあれば、もう一本どころか装備一式を揃えてもまだまだ余りが出る。でも中層で採れたんだよね? 一体、どこにこんな量が?」

 

 そう、中層。本来ならば質も量もより下の階層には及ばないものばかりなのだから、その疑問も当然だ。核心を突くようなその追求に、彼女は己の中の定義を考え直した。

 

 ダンジョン中層、誰も入らない空洞、全オリハルコン製の怪しげな扉に、アダマンタイトで覆われた壁内。

 明らかに人の手が加わっているが、取られたくないのならこんなダンジョン内なんかに放置しなければいい。第一、冒険者は道でアイテムなどを見つけて拾ったとしても、明確な罪になることはなく、余程付け狙いでもしない限り、基本的に不問となる。

 考えること僅か0.2秒。メリュジーヌはそう結論づけるや否や、それはそれは屈託のない笑みを浮かべて答えるのだった。

 

「───たくさん落ちてたよ!」

 





闇派閥「……えっ、何、この穴…!?」

扉の最硬金属も通路の超硬金属も取られた闇派閥は泣いていい。
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