「あっ、見て見てランスロット! 竜だよ竜!」
「何あれ弱すぎ。ほんとに竜種? ちょっとありえない」
「そ、そうなんだ……」
パーシヴァルとヘスティアの戻ってこないまま、二人は闘技場に於いての調教を観戦していた。
しかし、ガレスがテイムという真新しい技術や魅せを意識した立ち回りに目を輝かせる中、メリュジーヌは非常につまらなそうに冷めた目で見下していた。
もっとも、その美麗な顔はいつもの仮面で覆い隠されているのだが。
ガレスが場を盛り上げようと話を振っても、メリュジーヌはとことん自分のスタイルを崩そうとはしない。そろそろガレスも折れかけようとしたところで、ふと周囲に目を向ければある共通点のある人物が慌ただしく駆け回っていた。
「なんだろ…」
よくよく見れば、それらは【ガネーシャ・ファミリア】の構成員達だった。最初はこの祭りの運営も忙しいのかな、なんて思っていたけれど、どうにも違う気がする。なんていうか…何かよくないことが起こってるような。そんな気がする。
「あれ、あの人たちって…」
ガレスが目にしたのは少し前に豊饒の女主人にて一悶着あった【ロキ・ファミリア】メンバーの…アマゾネスの姉妹とエルフだ。
「ランスロット、あの人達…」
「………? 誰だっけ」
視線を送るが、ランスロットはまるで何も覚えていないような。否、実際に覚えていないのだろう。彼女にとってはほぼ全てのものが弱者。強者の傲慢とも親しいものだが彼女のポリシーは少し違う。
本人は人間を疎んではいるが憎んでも、見下しているわけでもない。単純に『個体での生存能力の低い生命体』と捉えているだけであり、メリュジーヌ本人は自分にも思うところがあるために『生まれ持った生態』を理由に相手を差別はしない。
しないのだが…。それとこれとはまた別の話だ。
別の世界の彼女は仮にも己が身を預ける主君の城に乗り込みあわよくば首を取りかけるほどの速攻を仕掛けてきた下手人を手づから迎撃してもその顔を覚えていなかった。といえばどれほど他者に関心がないかが理解できるだろう。
「ほら、あの豊饒の女主人の時の! 何かあったのかな…」
「……? ああ、そういえば無駄な贅肉のついたのと美の欠片もない寸胴の!」
「ちょっ!?」
あまりに失礼な物言い。それも歓声に紛れているとはいえ結構ハキハキと言ってしまった。向こうはこちらに気づいていないようだし、聞こえてなければよいのだが……。
「だれが無駄な贅肉だ!?」
「今寸胴って言った!!」
残念ながらその祈りは天に届かなかった様である。
「ってアンタたち、あの時の…」
「ガレスちゃんとランスロット…だったっけ?」
こちらの様子を視界に入れ、知己の相手と知りその怒声を収める。
追従するエルフの少女レフィーヤも含めて、あれだけ濃いことをしたのだから強く印象に残っている。
「何かあったんですか? さっきから騒がしいみたいですけど」
ガレスの問いにアマゾネスの姉の方、ティオネが答える。
「それが私達にも分からないの。【ガネーシャ・ファミリア】の連中が慌ただしいけど…」
ちらと横目で構成員の姿を捉える。手当たり次第に神や冒険者に耳打ちを行っており、何かを要請しているようにも見える。
都市の憲兵としての余裕がない彼らの動きに、いよいよ何かしらの事態が起きていると感付く。
「私達は様子を見るつもりだけど、あんた達はどうするの?」
そんなもの決まっている。無論――――。
―――…
「ロキ!」
「おっ? 三人共に……ドチビの眷属かい」
駆けてゆく三人組にガレスだけついていき、彼女たちの主神、ロキのもとまでたどり着いた。メリュジーヌは我関せずと言った様子で動かなかったために置いてきた。
闘技場を囲む広場はようやく統率の取れた動きを見せていた。ギルド職員が各々の役割に奔走し、武装した【ガネーシャ・ファミリア】の団員と頻りに検討しあっている。
そして、この場からでも分かる程の大きな淡い黄緑色のモンスター達。それが闘技場を囲むようにして
桃髪のギルド職員と共にいるロキに話を聞くと、どうもモンスターが突如として複数現れたらしい。
ティオナは驚きそれが祭りで連れてこられたモンスターの脱走かと言うと、ロキは難しい顔を作る。
「いや、それが違うらしいんや。【ガネーシャ・ファミリア】が捕まえたモンスターじゃないーって。というかあんなモンスター誰も見たことないやろ? そんな新種がいきなり複数現れるなんて事があってたまるか。これは絶対裏で関わっとる奴がおる」
普段おちゃらけた雰囲気のスケベオヤジの側面は何処へやら、その細い目を開いて真剣に情報を整理してゆく。狡猾な道化としての頭の回転の速さは付き合いの長い者ほどよく知っている。
そんな推理を一ギルド職員の身で聞いてしまったミィシャはドンマイとしか言えないだろう。
レフィーヤがアイズはもう向かったのかと問えば、頭上高い闘技場の一角を指され、そこには金糸の少女が街を俯瞰していた。
「…また、減った」
彼女の視線の先。暴れまわる蛇型モンスターは、しかして、蒼い流星の様な何かが天高くから降り注ぎ、灰と化し風に攫われた。
「あれっ、一体倒された。【ガネーシャ・ファミリア】仕事早いね」
「さすがと言うべき手腕だけど、これじゃあ私達の出番はないかもね」
「そうそう、そこなんやけどな。あれ最初は七体出てんねん。でも【ガネーシャ・ファミリア】も他のファミリアからも、討伐報告が出てないんや」
「え……!?」
レフィーヤの焦ったような声が続く。これだけの非常事態、【ガネーシャ・ファミリア】ともあろう組織が黙って見過ごす訳が無い。何より彼らはメンツよりも民衆の安全を取る善良なファミリアだ。
特化した戦力こそ少ないものの規模質共にオラリオでもトップクラスである。そんな彼らが怠慢をしているとでも言うかのような報告に一同は唖然としているが、その反応を受け取ったロキは誤解を解くための台詞を続ける。
「ああ、ちゃうちゃう。ガネーシャんとこの眷属はサボってたりしてへんよ」
「えー? もっとわかんないよー!?」
単純な思考回路のティオナはそれだけで情報の精査を諦め答えをせびる。しかし、それは皆が思っている共通事項だ。この期に及んで焦らすつもりもない主神はあっさりとその問いに答えた。
「あのモンスターがな、強すぎるんや。まあ、皮肉にもそれで【ガネーシャ・ファミリア】の無実が証明されとんのやけどな」
強すぎる。とはどういった意味だろうか。普通に考えれば、そんじょそこらの冒険者では敵わないモンスターというところだろう。
しかしながら、現に地上まで出てきているモンスターともなれば、潜在能力にしてLv.2。かなり見積もってLv.3が限度だろう。
確かにそれならばそこらのファミリアには太刀打ちできないし、そのクラスともなると拠点を開けておく期間も長くなる。しかし、それならば上級以上の冒険者所属数がオラリオ最大の【ガネーシャ・ファミリア】で対処できるし、突出したアイズという駒もいるのだ。そして、あの速度で斃されているのなら第一級がいけばすぐにでも片がつくと、そう二人は思っているのだが……。
「…これは他言無用なんやけどな。あのモンスターに
「「は…?」」
絶句。その名は知っている。というより、名の立つものは往々にして注目されるこの迷宮都市。強い者の名が広まるのは当然として、その中でも間違い無く知名度の高い名が飛び出してきたのだから。
片や、【ガネーシャ・ファミリア】の副団長にして、自分達と同じ領域にある
都市の名声に深くないレフィーヤですら硬直する中、新参であるガレスは問う。
「あの、そのお二人って…?」
「おろ、ガレスちゃん知らんの? っていうかしもたな。この話他には言わんといてな」
ガレスに念押しし、ロキは話を戻す。
「
などと言われても、第一級冒険者と第二級冒険者が倒せなかったとなると、あれは一体なんなのか。
「じゃあ、あれ誰が倒してるの? そんな強いなら有名なファミリアとかだと思うんだけど……」
そして当然浮かび上がる疑問。
「……なんか、目撃した住民からはなんか真っ白な騎士だっちゅー話やけどなぁ…。そんな冒険者おったかぁ…? しかも、あの感じからみて多分一人、或いは少数が駆け回りながらやっとるな」
「嘘ですよね…? そんな人……」
レフィーヤが言いかけ、つい最近出会ったある人物がふと候補に上がる。
「あ! きっとベルさんですよ!」
心当たりのあるガレスが声を上げる。強いというのはなんとなく分かっていたが、それほどか。
「ふーん、まあそこんとこは置いといて、今んところ死者はいないみたいやけど、対処は早いほうがええ。さっきの情報からしてアイズたん一人で行かせるのもあれやし、二人共ついて行き。流石にLv.5三人なら余裕やろ。おーいアイズたーん、もうええでー!」
その言葉を合図にして、風を伴いながら轟と射出されたアイズに、アマゾネス姉妹とエルフの少女が続く。
「よーし、私も!」
「ガレスちゃんはこっちや」
遅れて駆け出そうとするガレスの首根っこを掴み、その初速を妨害。
「えー…」
「えー。やあらへん。いくらドチビとはいえ余所んとこの団員寄越すわけ無いやろ。しかもLv.1の上に武器もないんやろ? 大人しくしときや」
「うぐぐ…」
痛いところを突かれたとばかりに表情に出るガレスに、我が意を得たりとロキが絡む。
「まあまあ、アイズたん達に任せて
「はーい…」
◆◆◆◆◆
「きゃああああっ!?」
「誰か助けてぇぇっ!!」
「おい、ちんたらしてんな急げ急げ!」
人々が我先にと石畳をかけ、混沌とした喧騒が怒声と悲鳴によって彩られる。
この蛇のようなモンスターは突如地下から現れるや周囲を蹂躙し尽くし、住民を恐怖の渦に陥れる。
この恐慌には向かっていった冒険者が悉く返り討ちにされていることも相まってその勢いを増幅させていた。
「皆さん! 少し道を空けて下さい!」
「うおっ、何だ!?」
「馬…?」
ベルがクントリーの通れる幅を確保しようと声をかけると、流石に迫りくる馬の進路から人が割れる。
迫る食人花を視界に収め、クントリーの勢いそのままに突撃すると同時、遙か上空にて煌めく彗星が着撃する。
「ベル、こいつらは?」
「姉さん…!」
蒼い流星の正体は、メリュジーヌその人であった。音速を超えたその威力は足から着地したにも関わらず、一撃で食人花を葬り去った。
そしてメリュジーヌは状況説明、そしてベルの怪我の有無を確認するが、それらは一切の心配がない。灰により多少薄汚れて入るもののそれらは全て殺されたモンスターによる、文字通り遺灰だからだ。
それよりも、ベルはメリュジーヌがここにいるという事実に問うた。
「それで、姉さんがここにいるってことは…ヘスティア様のことはガレスに任せてきたんだね」
「………え?」
「………え?」
互いに詰問し、沈黙。
前もって言っておくと、ヘスティアはベルが戻った後になって離れたため、ベルの認識では三人が一緒に闘技場にいるものだと思っていたのだが……。
「ヘスティアは知らないよ」
「な、何故…?」
「だって、用事があるってどっかいったんだもの」
「ガレスは…?」
「他の冒険者と一緒に外に行ったけど」
ベルは頭を抱えた。まさか主神の安否も不明な中で活動しているなんて……いや、割といつもどおりだった。
だが、それはそれとしてヘスティアは大切な主神だ。その所在を信頼できる姉に託したベルは、事態を一刻も早く解決しようと残りのモンスター目掛けて精霊馬を走らせるのだった。
【悲報】ヘスティア忘れられる【ロリ巨乳】