パーシヴァルなベルくんと最強種な姉   作:食卓の英雄

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インスピレーションが浮かんで半年ぶりの更新。
待ってた人おりゅ?


「無駄死に? いや、違うね。僕は信じてるのさ」

 

「あわわわわ…一体全体、どうすればいいんだい!?」

 

 ベル達が食人花の相手をし、人々の流れが濁流のように行き交う路地付近にて、ヘスティアは動揺した様子を隠さず右往左往とし、人波に流されないよう抵抗していた。

 

 ことの発端は今さきほど、食人花が円周を囲むように現れてからだ。

 円形闘技場を中心に出現。そう、出現という言葉が最も相応しい。なぜなら、石畳を割り砕き、まるで大樹の様にその身を表したのだから。

 その威容は遠方からでも伺え、発生源近くに現れた市民は当然逃げ惑う。この時、最も運が悪かったのは発生時点で円周の内側にいた人々だった。

 その様はまるで鳥籠に囚われる小鳥。円周から中央へ中央へと人の流れは移りゆき、やっとの思いで危機から脱したと思えば、そこに現れた食人花。内側と外側から磨り潰すように迫るそれは市民の情報を錯綜させ、内へ外へと人の群れがかち合うことになってしまったのだ。

 

「おい! 何やってるんだよ!? 外側にモンスターが現れたんだぞ! 内側に逃げろよ!?」

「ハアッ!? 何言ってんだよ! 中央じゃでっけえモンスターが何匹も現れたんだぞ!!?」

「ちょっ、押さないでっ…!」

「誰かっ! 私の娘を、娘を知りませんかっ…!」

 

 場は混沌と。人々の怒号と悲鳴、破壊活動による壊音が響き渡る。ギルド職員もやれるだけの活動はしているが、連鎖し、増幅し続ける恐怖は制止の声を曇らせる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!?」

「来た! 来たぞ!?」

「早く向こうへ!」

「あっちからも来てるって!!?」

「冒険者っ!! 誰か冒険者を呼べ!!?」

 

 当然、その合流地点には双方から追ってきた食人花に挟み撃ちされる形になる。冒険者は並のものでは容易く蹴散らされ、その巨体からはやしたてていた神々ですら身を引いている。

 しかし、恐慌する彼らと違って、ヘスティアは焦ることなくただ待っていた。彼女の目には、食人花の巨体の背後に迫る白騎士と、空に立ち上る凶星の輝きが見えていたのだから。

 

「でりゃぁぁぁあっっ!!」

「遅い」

 

 刹那。正しく只人の目にも止まらぬ速度。ベルはレベル7にも等しい身体能力で突貫し、それすらを凌駕する速度の超高高度からの一撃が食人花の頭を消し飛ばした。

 

「うわぁぁぁぁっ……? し、死んでる…?」

「助かった、のか…?」

 

 あまりの早業にそれを認識できない者たちの反応は遅れ、その結果から推測することしか出来なかった。彼らの主神(ヘスティア)を除いて。

 

「ベル君! ランスロット君!」

「ヘスティア様! ここにいらしたんですね! 良かった…」

 

 ヘスティアが駆け寄ったことにより、群衆もようやくその存在に気づいたのか、武器を持った彼らへと視線を向ける。

 

「みなさん安心してください! この通りモンスターは討伐しました! 以後は焦らず、冷静にギルド職員の方の指示に従ってください! …そこの方」

「はっ、はい。この度は協力感謝します!」

「いえ、お気になさらず。それよりも、私が来た道を行ってください。道中のモンスターは全て倒しました。そこを辿れば外へたどり着ける筈です」

「本当ですか!? 重ね重ね、ありがとうございます! …市民の皆さん! こちらに付いてきてください!」

 

 職員が避難誘導を再開したのを見届けると、次はガレスのいるコロッセオ付近へと進路を変え……。途端にヘスティアの耳元に口を寄せる。

 

(…ヘスティア様、何者かは知りませんが、私と姉に戦いの意志を持っている存在がいます。かなり強い。…これは誘われているようですね)

(なんだって!? こんなときに…? まさかソイツがこの件の犯人なんじゃ……)

(分かりません…。ですがその疑いがある以上、こちらも向かわないわけにはいきません)

(なんだってそんな子が…)

 

「あの」

 

 そんな、ひそひそ話を続ける二人に、一人の女性の声がかかる。

 

「どうかなさいましたか。避難に遅れてしまいますよ」

「いえ、違うのです。娘が、娘がまだ円形闘技場近くに残されているんです。助けてもらっておきながら厚かましいというのは承知していますが、どうか私の娘を探してもらえませんか…!」

 

 必死に懇願する母親に、しかしてベルは明瞭な答えを返せないでいた。先程の下手人の件も相まって、それをするのは難しいと理解していたからだ。しかし、この母親の願いを無下にすることなど考えられない。

 そんな葛藤を看破ったヘスティアは、一歩前に出て彼女の肩に手を置いた。

 

「大丈夫、安心して。キミの娘は僕が必ず見つけ出すから」

「ほ、本当ですか神様!」

「ああ、任せてくれ。円形闘技場の付近で逸れたんだね?」

「しかしヘスティア様…」

 

 トントン拍子に進む話に、ベルが苦言を呈そうとするも、ヘスティアは一枚上手だ。

 

「僕だって考えなしじゃない。向こうにはガレスちゃんもいる。()()を渡すのも理由の一つさ。それともキミは出来もしない口約束をするつもりなのかい?」

「…分かりました。くれぐれもお気をつけて」

 

 これにはベルも言い返すことが出来ずに折れた。ベルが持っていた片割れをヘスティアに託し、迷うことなく一直線に下手人がいると思われる方向へと向かった。

 

「……来たか」

「あなたが呼んだのですね。問おう! これはそちらの陣営の仕業か! ならば到底許される行為ではない!」

 

 ベルが珍しく鋭い語調で問を投げかけるも、目の前の猪人は意に介した風もなく大剣を構える。

 

「残念だがこの件は我等の仕業ではない」

「ならば何故…!」

 

 一層、語気を強める。けれど、相手は悪びれもしない。

 

「我が神のご意思だ…。加え、俺もお前の力に興味がある。それだけのこと」

「…っ、ならばこの事件が収束した後にいくらでも受けて立とう! 今は人民の避難と安全確認、モンスターの討伐が先決だ!」

「…言っただろう。我が神のご意思だと。今このときと定められたのならば従うのみだ。……これ以上の言葉は不要だ」

「この…!」

 

 取り付く島もなく、相対者は背負った大剣を抜き、ベルに向けて突きつける。……こちらも武器を抜け、ということらしい。

 

 この様子では最早こちらがどうとあっても仕掛けられるだけだ。故にこそ、この場で選ぶのはさっさと戦闘を終わらせてしまうことだ。

 だが、相手は今までに見た中でも滅多に見ない気迫を持った存在だ。一筋縄ではいかないだろう。喉を鳴らし、聖槍を構える。

 

「【ヘスティア・ファミリア】団長、ベル・クラネル」

「…【フレイヤ・ファミリア】団長、オッタル」

「あなたがかの…!」

 

 思わぬビッグネームに驚愕するベル。身がひりつくほどの強い迫力から只者ではないと思っていたが、それがまさか最強の冒険者として名高い存在とまでは思っていなかった。

 

「知っているのか」

「冒険者であるならば『猛者』の名を知らぬほうがおかしいでしょう」

「誰?」

 

「「………」」

 

 空気が死んだ。確かに『猛者』オッタルといえば世界に二人しかいないLv.7の片割れであり、正しく今の冒険者の知る最強の一角。それが常識であるのだが……生憎と、このドラゴン娘は微塵の興味もないらしい。

 

「僕が戦ろうか?」

 

 そして当然、興味がないが故に軽々しく勝負を変わろうとする。そのあまりに軽い態度にオッタルは眉をひそめるが、それをベルが手で制す。

 

「ランスロット、すまないが相手がお望みなのは私の方らしい。…出来れば、街の人を助けてあげてほしい」

「…仕方ない。今回はワガママに付き合ってあげるよ」

 

 義弟が、偽名のほうで呼んだ。これは親類との繋がりすらを超える意志を込めた嘆願。………というわけでもなく、もしこれ以上やるつもりなら一週間は姉と呼ばないという脅迫? のようなものだ。子供染みた考えだが、実際に子供の頃に思いついた姉の制御方法なのだから仕方ない。

 

 だが――飛び立とうとする彼女に対して幾多もの攻撃が浴びせられる。

 

「…チッ! 化け物が…!」

「防がれた」

「防がれたぞ」

「生意気だ」

「生意気だな」

 

 それは顔を隠した軽装の集団。男性にしては小柄な猫人の槍使いに、小人族の4兄弟。

 完全に不意打ちされたそれを、メリュジーヌは眉一つ動かすことなく、無感動に全てを迎撃する。

 更に、遠方から飛来する超速の雷光。完全に死角から放たれたそれを、視線すら向けずに切り裂く。どこかで、誰かが息を呑む音が聞こえた。

 

「…何? 君たちみたいなのと遊んであげる趣味はないんだけど?」

「ッテメェ…!!」

 

 易易と攻撃を受け止められ、さらにまるで興味もないかのような煽り口調に、女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)は激情する。

 あらかじめ言っておくが、彼女に煽ろうとする意志は一切ない。本当にただただ興味がないためにすべてがどうでもいい、というのが本音である。…そちらのほうが尚タチが悪いのだが……。

 

 突然の凶行にベルがオッタルへ視線を向けるが、「悪く思うな」と一言。

 

「我が神いわく、そこの娘がいればお前は騒動を終わらせるまで持久戦に持ち込むだろうとのお言葉を受けてな。俺としても、それは本意ではない。故にこのような戦力の割当てになった」

「…そうですか。それは確かに、本気で戦わねばならぬ理由ができましたね。ですが、いいのですか?」

「…?」

 

 真面目な口調で、ニヤリと問いかけるベルの姿に不可解さを覚える。

 

「【フレイヤ・ファミリア】は都市最大の派閥。そしてその派閥の幹部が、一度に使い物にならなくなれば……果たしてその勢力を維持することは出来るのでしょうか?」

「…面白い!」

 

 今再び、両雄相見え、裂帛の気迫を込めて互いの得物をぶつけ合った――――。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「どわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「きゃぁぁぁぁぁああああ!!!?」

 

 そして、場面は再び移り変わり……。都市内を猛速で駆け抜けていく二つの小柄な影がある。

 

「何でウチらばっか狙うんやぁぁぁぁっっ!!?」

「そんなのいいから走りましょうロキ様ぁぁぁぁぁ!!」

 

『ギャァァァァァァ!!』

 

「ロキめっちゃ追いかけられてるw」

「チョー受けるんですけど」

「じゃかぁしぃ! 巻き込んだろかクソボケがっ!!」

 

 何発端は陸路を使って先に行ったアイズ達に追いつこうとしていたその時、また別の道から現れた食人花に補足され、そのまま行きずりという形である。

 どういう訳かは知らないが、この食人花は逃げても隠れても執拗にこちらのみを狙ってきており、進路上にいる他の人物など目にも留めずに追跡する。

 当然そんな有様なために生半可な実力の冒険者では下手に手出しも出来ず、その蛮行を許してしまっている。

 

 そして曲がり角。こちらの切り返しで更に距離を伸ばそうとして曲がると……。

 

「あっ! やっと見つけたぞガレスちゃん! って何でロキなんかと一緒にいるんだい!?」

 

 ガレスの主神、紐神ことヘスティアが走り寄ってきていた。楽観的に、安心したように顔を綻ばせるヘスティアは、文句を言うような口調をして、すぐにその異様な空気に当てられる。

 

「逃げて下さい神様ぁぁぁぁぁっ!!」

「何でここにおんねんドチビィィィ!!!」

 

『グァアアアアアッッ!!』

 

 そしてその横を華麗に通り過ぎ、背後を追う巨躯が曲がり角から姿を表す。ヘスティアは曲がれ右をして全力でダッシュした。

 

「何で既に追いかけられてるんだい君ぃぃぃぃ!!?」

「うわーーん! 知りませぇーーーん!!」

 

 こうして愉快な怪物進呈(パス・パレード)が地上でも起こってしまった訳だが…。

 冒険者であるガレスと、今来たばかりのヘスティアと比べて、全知零能の身であるロキは人並みの体力しかなく、ずっと走り詰めというのは肉体的にとんでもない負担がかかる。

 故に、こういったことが起こってしまう。

 

「へぶぁ!」

「「!?」」

 

 疲れてヘトヘトになった足が縺れ、盛大にコケてしまった。

 

「ロキ様ぁぁぁ!?」

「ロキ!? ……よし、ガレスちゃんロキが時間を稼いでる間に逃げよう! 仕方ない、必要な犠牲だったんだ!」

「ええぇぇ!?」

「おまっ、マジ巫山戯んなやドチビィィ!!! アカン喰われるぅぅぅーーーー!」

 

 ガレスは咄嗟にロキを姫抱きして走る。普段馬上槍を扱う彼女にとって、この程度さしたる影響はない。

 

「うおおっ、まじでサンキューなガレスちゃん!」

「お、お、お、お姫様抱っこだとぅ!? 僕だってまだしてもらったことないのに!」

「ワハハハハハ、ガレスちゃんの初めてウチがもーらいっ! ってうおっ、何てもちもちすべすべのお肌なんや…!?」

「ムキィ―――――!」

 

 この様から割と余裕があるように見えるが、その実ジリジリと追い詰められている。

 後戻りすることなど出来ず、ショートカットしようにも家屋や民衆を巻き込んでしまう。今までは上手いこと逃げ続けてこれたが、それも道の運が良かったから。そして最早、この先は一般人の多い居住区エリア。逃げ道はない。

 

「流石に直進…は出来へんか」

「こうなったら私が…!」

 

 咄嗟に後退を思いつくも、既に食人花が姿を見せている。二人を逃し、一般市民に被害を出さないためには、ガレスが身をやつすしかない。

 そんな危機的状況に、ヘスティアは答えを出した。

 

「ガレスちゃん。君がアレを倒すんだ」

「えっ」

「は――? 何言うとんねんドチビ。お前、自分とこの団員(こども)殺す気か」

 

 その発言に、ガレスは驚き、ロキは殺気すら匂わせる。天界ではトリックスターやら悪神などの悪名が広がっているわけだが、地上にやってきてからの彼女はかなりの子供好きの神である。

 故にこそ、気に食わないやつとはいえ、神格者たるヘスティアがその判断を下したことを責める。

 しかし、事態は一刻を争う。その向けられる敵意を流しながら真剣な顔でガレスに問いかける。

 

「出来るかい?」

「で、でも神様、武器が…」

 

 ガレスとて、戦えるものなら戦っている。だが、ガレスは素手での戦闘はあまり経験がない。加えて、神を背に庇うのであれば尚更確証は持てない。仮に彼女が勝ったとして、その最中にヘスティア達や市民に被害が出ては意味がない。

 渋るガレスに、ヘスティアは満を持してそのバッグの中に収められた兵装を取り出した。

 

「これは…!?」

「これは君の為に造られた武器、素材はベル君やランスロット君が集めてきてくれた、みんなからのプレゼントさ。ほら、手にとってごらん」

 

 ガレスはその槍を恐る恐る受け取ると、まじまじと見つめる。引き金やシリンダー機構など、見慣れない構造ではあるが、使用に違和感はない。まるで、ずっと昔から手に馴染んでいるようだ。

 

「盾は用意出来なかったけど、きっと君の全力にも耐えられる。受け取ってくれるね?」

「―――っはい!」

 

 言うが早いか、すべてを受け取ったガレスは食人花へと勇よく立ちはだかる。進撃する巨躯に対して、布の服を身にまとった幼き少女。きっと誰もが次の瞬間訪れる悲惨な光景を想起し目を背けるであろう場面。

 

「おいドチビ、何考えとる。いくら武器があってもレベル1やぞ。無駄死にさせる気か」

「無駄死に? いや、違うね。僕は信じてるのさ」

「あん?」

 

「ふんっ、ぬうぅぅぁぁぁあ!!!」

『ギュァァァァァアアアアッッ!!?』

 

 途端、響き渡る絶叫。それは今までこちらに追随していた食人花のもの。

 

「んな…!?」

「ガレスちゃんの勝利をね」

 

 ロキが驚き正面に向き直ると、見えた。その長大な馬上槍で以て、真正面から食人花を抑え込むガレスの姿があった。




ガレスちゃん最高!ガレスちゃん最高!あなたもガレスちゃん最高と叫びなさい!

ちなみにロキとガレスちゃんが食人花に追いかけられていた理由は簡単です。精霊種はかなりの魔力を保有しており、また魔力によって体が構成されています(型月)。そして食人花は魔法を使う際の膨大な魔力だけでなく、魔石に込められた人には認識できない魔力まで感知しており……。
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