パーシヴァルなベルくんと最強種な姉   作:食卓の英雄

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ガレスちゃんに聖杯捧げてない奴おりゅ?


「やはり都市最強は伊達じゃないな…」

 

「とおぉぉりゃああああ!!」

『ギィシャァァァ!!?』

 

 食人花を真正面から受け止めたガレスは、勢いのなくなったそれを弾き飛ばす。その頭は跳ね上げられ、しかし直ぐにまたガレスへと意識を向ける。

 

「うひゃっ! このー! やったなー!!」

 

 またも体そのものを凶器とした一撃が迫るが、これを迎撃。

 とても馬上槍を扱っているとは思えない身軽さでその頭に飛び込むと、勢いを載せた見事な突きを披露する。

 

 これがただのモンスターであったのなら、その時点で決着は着いていただろう。しかし、ガレスの認識が蛇型のモンスターであったということが災いした。

 

「何や、アレ」

「気持ち悪ぅーい!!?」

 

 カパァ…!

 

 と、頭部と思われていた場所が開き、花弁のようなそれが顕になる。ガレスはこの状態でも口腔内の弱点である魔石を穿つことが出来たが、馬上槍という武器の特性から、引き抜くのにタイムラグが発生する。

 手傷を負った痛みを絶叫に変えた食人花が迫る。こちらの攻撃は終わり、倒したと油断したガレスの体めがけ、口腔にズラリと並んだ牙を突き立てんとする。

 ガレスもこれには大層驚き、槍を引き抜くのも忘れて頭突きにて応戦しようと構えたが……。

 

「ガレスちゃん! 構えて持ち手のレバーを引いておくれ!!」

「は、はい!」

 

 放たれた指示に、訳も分からぬまま即座に従う。その素直さや従順さは彼女が子犬に例えられる要因である。

 そして腰だめに構えたガレスが引鉄を引くと、槍の先から青い魔力が勢いよく放射される。形を持った魔力の波は、濁流のように押し寄せ、食人花の口内を焼き尽くし、生命線たる魔石を粉微塵に砕ききった。

 

「やったあ! 流石ガレスちゃん!!」

「何ですか今のっ!? すごいすごーい!!」

 

 灰と化すモンスターを前に、危機を乗り切った二人の主従はやったやったと飛び跳ねて喜ぶ。かなり相性のいい二人である。 

 

「どうだいガレスちゃんその槍は!」

「はい! これ、とっても凄いです! 思いっきり使っても全然大丈夫で、何だかずっと使ってたようなフィット感です! 最後のアレも魔力をぶわぁー! ってやってて!! わ、わたしなんかがこんな業物持ってていいんでしょうか…!?」

「いいんだよガレスちゃん、それは日頃頑張ってる君へのプレゼントなんだから。それに、僕としても眷属(こども)の武器がない、なんてのはファミリアの沽券に関わるのさ。どうか貰っておくれよ」

「…! ありがとうございますヘスティア様!」

「礼を言うならベルくんとランスロットくんにね。あの二人が希少な素材も全部集めてくれたんだから」

 

 またも元気よく「はいっ!」とガレスは応答する。もし尻尾があればとてつもない速度で振られているであろう。

 

「おいドチビ、一体どういうことや」

 

 そんな二人に、水を差す神物がいた。ロキだ。いつもの飄々とした雰囲気を無くしたロキの神としての覇気に、さしものヘスティアといえど押され気味だ。

 

「どういうことって」

「その眷属(こども)に決まっとるやろ。いくら武器が良くても、レベルの壁はそう覆せるもんやない。それも、下手を打てばレベル4でもやられかねんモンスター相手に、レベル1が勝つなんて、それこそお伽噺や。ドチビ、お前もしかして(うちら)の力使ったんじゃないやろうな?」

「そんな訳ないじゃないか!」

「ほお? じゃあどういう訳か説明してくれるんやろうな。100歩譲ってガレスちゃんがレベルを偽装してるとしても、その癖に経験が足りとらんように見えたがなぁ。後ろめたいことがなかったら、言えるやろう」

「うっ」

 

 下界でご法度の『神の力(アルカナム)』使用の有無。即ち、ヘスティアがガレスを改造したのかと問い質す。

 声を荒らげて返すが、反発するだけ言葉巧みに追い詰められる。いよいよもって視線が刺すように鋭くなったところで、またもや街の一角を衝撃が襲う。

 

 驚いてその方向に視線を向けると、土煙の位置的に恐らく円形闘技場から少し離れた先の広場だろう。

 

「って、そうだ! まだ女の子が!」

「あん? 女の子?」

「うん、円形闘技場の近くではぐれたみたいなんだけど…」

 

 一緒にいたガレスとロキは気がついたようだ。

 

「あっちは【ロキ・ファミリア】の皆さんが向かった方向…!」

「……それなら強さに問題はないとは思うけど。あそこにいた場合が一番危険だ」

 

 あの様子だ。無駄足ならそれでいい。幸いにも、他の地区に現れた食人花はベルによって掃討されているため、そこ以外での危険はほぼないと言っていい。ただ、何かのアクシデントがあってその場にいた場合が最悪だ。下手をすれば、その場にいる冒険者に気づかれず、巻き込まれる可能性があるのだ。

 

「――ごめん、ロキ。話は後だ。今はあっちをなんとかしないと―――」

「あぁ? ――チッ。しゃあない。……後で絶対説明してもらうからな」

 

 最初は逃げるための方便かとも思ったが、重ねた瞳はただ純心に満ちていた。元々ヘスティアは善神であり、更に腹の探り合いが出来るような性分はしていない。それも含めて騙し通しているのならとんだタヌキだが……。

 ともかく、ロキは言いたいことをぐっと飲み込んでヘスティアを解放した。

 

「ガレスちゃん、行くよ。最悪、戦わなくていい。ボクたちの最優先目標は迷子の子が巻き込まれていないの確認だ。いないならこの騒動が収まってからみんなで探せばいい」

「っはい! あ、でもどうしましょう…。神様とロキ様は…」

「キミだけでも先に行ってくれ。万が一が起きてからじゃ遅いんだ」

 

 その言葉に、ガレスは走り出す。最も高いステイタスである敏捷を活かして、兎のように身軽に―――ではなく戦車のように直線距離を征く。

 

「さて、ボク達も…」

 

 ヘスティアも続こうかとしたところで、遠方から一騎の馬が駆け抜け、ヘスティアの前で停止し体を下げる。

 

「この子はベル君の……。乗れ、ってことかい?」

 

 コクン。ヘスティアの問いに明確に答える意志を持ってクントリーは頷いた。

 

「ありがとう。ロキ! 君も乗れ! 早く着きたいんだろう!?」

「あぁ? っちょい待て、んな得体の知れんぉわぁっ!?」

 

 渋るロキを器用にも乗せ、しっかり捕まったことを確認したクントリーはガレスへ追いつくべく華麗な疾走を始める。

 

「うわぉ、疾い疾ーい!」

「おおおおおおぉぉ!?」

 

 風に煽られ、ツインテールがうねる。その超スピードに前に乗るヘスティアははしゃぐが、ロキとしてはたまったものではない。

 無理矢理乗せられたロキはほぼ投げ出されかけたところをヘスティアに掴まることで何とか耐え、けれど風で靡く髪と謎の紐が顔中に当たり非常に鬱陶しい。かといって、視線を下げれば巨乳(己にないモノ)がばるんばるんと脈打つ様子を直視してしまう。

 

「ムキぃい―――ッ!!」

「のわぁぁぁあっ!?」

 

 伸ばした手がそれを揉みしだくのも仕方がないことだった…のだろうか。わちゃわちゃと馬上で暴れまわる二人に、大ジャンプをすることで黙らせたクントリーは一目散に目的地へと駆け抜けるのであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 広場で戦闘を行っていた、【ロキ・ファミリア】のアマゾネス姉妹と山吹色の妖精。

 いくら素手とはいえ第一級冒険者(Lv.5)の攻撃をことごとく阻む体皮に苦戦し、魔法で仕留めようとしたエルフは予想外の急襲(ヘイト)に対応できず腹を貫かれ瀕死。

 

 更に増えた敵に悲鳴を上げる。

 

 辛うじて割って入ったアイズによって戦線は押し戻されたかと思われたが、不壊属性(いつも)のつもりで武器を使った代償として武器を破損。

 再び、絶体絶命の状況に陥ってしまう。

 

 それだけならば、まだ立て直しようはあった。一旦退くか、魔法を解いてヒリュテ姉妹のサポートに徹すればよかった。

 

 少なくとも、避けるのに苦戦し始め、姉妹に声をかけられてからはそう思っていた。

 

 しかし、アイズは乱戦の最中にも見つけてしまった。屋台の影に隠れるようにして獣人の子供が座り込んでいるのを見つけてしまった。

 

「―――」

 

 もとよりの退避経路へ避けてしまえば、その少女はこのモンスターに屋台ごと潰されてしまう。それは、駄目だ。

 そうして、風を全力で纏った彼女は、潰されている左の退路に一か八か突っ込み。

 

猛り狂う乙女狼(イーラ・ルプス)ッッ!!」

『アァァァアアア――――ッ!?』

「えっ?」

「なっ!?」

「嘘!?」

 

 その体躯で塞がれた道が強い魔力の奔流と共に爆散する。そのことに唖然としたのは一瞬。すぐに立ち直ったアイズは周囲を俯瞰し、まだ残っている食人花を警戒する。

 

 そして、その合間に今の事象を起こした人物を見る。

 

「え、あなたは…」

 

 酒場の、と続けようとして放たれたガレスの言葉に目を瞬かせる。

 

「すみません! えっと、アイズ・ヴァレンシュタインさんですよね! こっちの方に小さな女の子は居ませんでしたか!?」

「っ、それならそこの屋台の影に」

「ありがとうございます!」

 

 それを知るや、素早く駆け寄ろうとした。あまりにハキハキと動くものだからレベルが1だと言われたことも忘れていたが、アイズはガレスが魔力を発していることを確認して叫んだ。

 

「駄目っ! そいつは魔力に反応する!」

 

 言うが早いか、ガレスへ向かって別の食人花が首を擡げる。こうなったらと、より高い魔力を発しようと風の勢いを強めたが、既に勢いづいた体は止まらない。

 当のガレスは、子供を抱えていて戦闘は困難だ。

 

「オラァっ!」

「でえぇいっ! やっぱ硬ーい!?」

 

 それを庇ったのは、ヒリュテ姉妹。向かってくる食人花を殴りつけ進路を反らし、彼女たちを救ったのだ。

 

「あ、ありがとうございます…」

「礼はいいから! その子を避難させてあげなさい!」

「ゴメーン! その槍貸してー!」

「え、えええぇぇっ、嫌ですよっ、今さっき貰ったんですから!」

 

 そんな呑気な話になるが、食人花は健在。ガレスは安全圏へ逃げようとするが、食人花は姉妹の攻撃も意に介さずガレスのみを狙い続ける。

 

「ひーん! どうしてぇ!?」

「魔法は使ってないのに何でー!?」

「どういうこと…!? っ、もしかして、魔石か何か持ってる…?」

 

 その言葉に、ガレスはハッとする。ベルトやホルスターに完全装備した専用弾頭だ。これには、多くの魔力が込められている。まあ、仮に無かったとしても狙われていただろうが、ガレスはそんな故知りもしないため仕方がない。

 

 素直に持ってると言えば、今すぐ捨てなさいと言われ、けれど完全に装備してしまったために、子供を抱えながら外すのも一苦労だ。何より、こうして進撃するモンスター相手に悠長に外す時間などない。

 

「この子をお願いします!」

「えっ」

 

 自然、ガレスはアイズのとこへ少女を預けた。無手での戦闘にも長じている二人と違って、武器を失った剣士であるアイズに渡すのは合理的なのかもしれない。

 突然渡されたことに戸惑うも、何とか状況を飲み込んだ彼女は一旦安全圏へ逃れる。

 

「行くぞー!」

「ちょっ!? あなたLv.1でしょうがっ!?」

 

 ガレスの特攻に焦ったティオネが叫ぶが、予想を裏切り、ガレスは立ち回っていた。どうすればいいのか分からず、けれど視線だけは外さないようにしながら、アイズは思った。

 

(あの子は、何だろう。何か、気になる)

 

 豊饒の女主人ではもう一方の少女を気にし過ぎて気づかなかったが、何故だか少し親近感を感じる。

 

「っ、こんっ、のっっ…!」

「ナイス!」

「何でそんなに強いのかは聞かないけど、正直ありがたいわ」

 

(どうして、だろう。あの子が強いから…?)

 

 アイズには、その理由が分からなかった。今挙げた理由も、Lv.1と聞いたのに関わらず、あの食人花と戦えるだけの戦闘能力を誇っているからだろう。そして、沸き上がる不思議な感覚に首を傾げていると、蹄の音と騒がしい女神たちの声が届く。

 

「やっと追いついた!」

「アイズたーん!」

「ロキと…ヘスティア様?」

 

 その声に思考を打ち切ったアイズは、何故二人して馬に乗っているのか、等聞きたいことはあったが、二人に子供を預ける。これで、自分も戦いに行ける。

 

「動かないでください、治療のためにここから離れます!」

「げほっ、かっっ、ぁぁ…!」

「ッ、レフィーヤ!」

 

 ギルド職員の声が届き、今やっと、レフィーヤのことを思い出した。何故、腹を貫かれた彼女を放って戦いに出ようと思ったのか。戦えるのが自分のみであるといった状況ではないのだから。

 

「ア、イズ…さん。ごめ、なさ…」

「アイズ・ヴァレンシュタイン氏!? いえ、何かポーションをウィリディス氏に!」

 

 ハーフエルフのギルド職員が必死に訴えるが、生憎と、ロキの護衛として来ていたアイズにそんな持ち合わせはない。痛みに悶えるレフィーヤを、オロオロと見つめることしか出来ない。

 

「あと一体っ! トドメは任せたっ!」

「はいっ、ガレス頑張りますっ!」

「……やっぱりちょっと慣れないわね…」

 

 姉妹二人で隙を作り、そこをガレスが突き殺すパターンが完成し、最早殲滅も時間の問題となったその瞬間、家屋が吹き飛び猛速で何かが飛んできた。

 

「!?」

「ちょっと、また新手!?」

「ううん、モンスターじゃない!」

 

 咄嗟にレフィーヤを庇ったアイズは、それを注意深く睨みつける。砂煙がたっていたのも束の間、一直線に石畳を砕きながら飛来してきたそれを、彼女は見たことがあった。

 

 壁に叩きつけられ、汚れで濁った白髪に、握られたままの槍。よく鍛えられた肉体を持ち、いかにも好青年といった風の顔立ちをした人物はベル・クラネルその人だ。

 

「ベルさん!?」

「クラネル氏!?」

「いてて…、やはり都市最強は伊達じゃないな…」

 

 起き上がったベルに、疑問の声が届くが、それより尚、呟いた単語に耳を奪われる。

 都市最強。その異名()が許されているのは唯一人。ベルが飛んできた跡を、戦える者は、いや戦えない者もその威圧感から自然とそちらに視線を向けていた。

 

 瓦礫と化した建物から現れたのは赤髪の猪人(ボアズ)

 

猛者(おうじゃ)…オッタル…!」

 

 無差別に暴れまわる人類の天敵たるモンスターよりも尚、この静かに歩みを進める彼の方が恐ろしい。

 誰もが、その歩みに緊張を伴った目を向けた。




オッタル鬼つええ!このまま逆らう奴ら全員ブッ殺していこうぜ!…え?メリュ子が相手ですか…。そう…。
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