SAO:TS~アインクラッドで合法的に美少女になる方法~   作:スプライト1202

2 / 3
第002話『フレンジーボア』

 

 《ソードアート・オンライン》を起動すると、あたり一面が中世風のファンタジー世界に様変わりしていた。

 

「おお……うおおおおおおおお! すげぇえええええ!」

 

 これがVR! これが世界!

 すげぇ! すげぇ!!!! 

 

 キョロキョロとあたりを見渡す。

 

「ここどこだろう? とりあえず自分の姿を確認したいんだけど……おっ」

 

 ちょうどよさそうなガラス窓の店を発見。

 その前へと移動、しようとして転ぶ。

 

「ぎゃふん!? 痛……くない! けど歩きにくい。これがVR……んんん?」

 

 と言っている途中で違和感を覚え、首を傾げる。

 

「あー、あー。……めっちゃ女声じゃん俺!?」

 

 今さら気づく。

 見下ろせば手足もほっそりとしていた。視点の低さも合わせて考えるに女性キャラクターになっているらしい。

 

「つか、女キャラだと声も女になるのか。しかもこんなに自然。はえ~、すっご。……おっとっと」

 

 なんと優秀なボイスエフェクトか。

 思いつつフラフラと危ない足取りで立ち上がった。

 

 まだVR慣れしてないからだろう、身体の動きにズレを感じる。

 声も動作も違和感はあるが、そのうち慣れるだろう。

 

「おぉぉ~~~~!」

 

 窓ガラスの前に立つと、かわいらしいキャラクターが映り込んだ。

 右手を上げれば右手が上がる。頭を振れば、鏡の中でも長い髪が揺れる。

 

 これが今の俺の姿か。

 

「すげぇ~~。あーでも表情の感度はあんまりだな」

 

 おそらくは表情筋へと送られる電気信号が閾値を越えたかどうかで、表情を切り替えてる。

 んだと思うのだけれど、判定がかなりシビアらしい。

 

 おっ、でもオーバーリアクションしたら反応するな。

 青ざめたり汗が出たり、漫画チックな演出入って……なかなかおもしろいな。

 

「というか、今更だけど」

 

 これ、どう考えても妹のアバターだよなぁ。

 

「あちゃー、自動ログインしちゃったのか?」

 

 サブキャラを作って動かすつもりだったのに、そのまま再開されたらしい。

 

「さすがに自分のセーブデータで勝手に動き回られたら、アイツも気づくし激怒するよなぁ。って頭ではわかっているのに、あーれー」

 

 身体がフラフラと移動をはじめる。

 

 俺は駄犬だ。『待て』のできないダメ犬だ。

 戸棚の奥のエサはガマンできても、目の前のエサはガマンできない。だからこそネット断ちして情報そのものを遠ざけていたのに。

 

 それが今、目の前に《ソードアート・オンライン》の世界が広がっている。

 そんなのもうダメだ。辛抱たまらん。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけ……」

 

 といいつつ俺はガッツリと街を見てまわり始めた。

 へへっ……まだ、まだ大丈夫さ。いつもの調子でいくとユリカはどうせ長風呂だ。ならもう少しくらいは猶予があるはず。

 

「おぉー、細かいところまですげー作り込まれてる」

 

 花壇の花に注目するがすさまじい解像度。

 まさか、このクオリティで見える範囲全部作られてんのか? だとしたら頭がおかしいにもほどがある。もちろんいい意味で。

 

 そのクセ処理落ちのラグは感じない。

 いったいどうやって演算しているのか。変態技術だな。すごすぎてわけがわからない。

 

 さすが次世代機。

 13万円するだけのことがある。いや、むしろこれは安すぎる。

 

 それにNPCのクオリティもすごいな。

 会話パターンこそ決まっているが、そこから逸脱しなければ人間と見まごうほど自然に受け答えしている。

 

 けれど。そういうのもすごいとは思うけれど。

 やっぱりMMORPGとくれば……。

 

「戦闘したい!!!!」

 

 勝手に街出たら怒られるかな?

 身体がウズウズして仕方がない。

 

 ちょっとだけ。もうちょっとだけだから!

 1回敵倒すところまでやったら終わるから!

 もはや俺の理性のタガはガバガバだった。

 

 まるで憑りつかれたみたいにフラフラとした足取りで街の外へ向かった

 

 足を一歩、街の外へ踏み出したのと同時。

 視界に【OUTER FIELD】のメッセージが表示され、一陣の風が頬を撫ぜた。

 

「んん~、気持ちいい~!」

 

 そんなところまで再現しているのか、と驚きつつ歩みを進める。

 あたり一面の草原。

 

 現実に比べれば単調な匂い。

 しかしすさまじいな。ゲーム内なのに匂いを感じるなんて。

 

 腰から武器を抜いて、構える。

 大きなナイフにも見える曲刀――《カトラス》というやつだろうか? 片手持ち、幅広で反りのある片刃の剣だ。

 

「おぉー、重量感あるな。つっても本物に比べたら軽いんだろうけど。フゥー! テンション上がるぅ!」

 

 正眼に構えて、せいっ、せいっ、と振ってみる。それだけで楽しくって仕方ない。

 男の子はだれだって剣や銃が大好きだ。

 

「ほかにも武器ないのかな? どうせならもっとデカい武器とかのが好みなんだけど。というかアイテムってどうやって見るんだろ」

 

 チュートリアルを受けていないから操作方法がわからない。

 メニュー画面とかないのだろうか?

 

「ま、いっか! その辺は自分のアカウントやキャラを作ってからで」

 

 《カトラス》を肩に担いだまま道を進んでいく。

 今はこの武器の重ささえ楽しい。

 

 まだVRでの歩行に慣れず、何度も転びそうになりながら進む。

 ゆっくり、一歩ずつ。

 

 そのとなりをほかのプレイヤーがスイスイ通り過ぎていく。

 どうやら、みんなすでにほかのVRゲームで肩慣らししてきているらしい。

 

 当然か。

 ナーヴギアの発売から半年が経っているし、ユリカのように初回入荷分の同梱版を手に入れたのだとしても1週間の猶予があったんだから。

 

「あ、でもだんだんわかってきたかも」

 

 現実みたいに身体を動かそうとするんじゃなくて、むしろゲームだと割り切って動きをイメージしたほうが歩きやすい。

 自分の肉体を動かすのではなく、コントローラでゲームのアバターを操作する延長線。

 

 たとえば人体は構造的に肘が逆に曲がらない。しかし、3Dポリゴンにそんな縛りはない。今、腕に感じている《カトラス》の重量にしたってそうだ。

 それらはすべて仮初(データ)で、あくまで本物に準拠・再現しているにすぎない。

 

 こういう感覚の誤差も次世代機とか出てきたら解消されていくんだろうなー。

 

「ふむふむ、いい感じいい感じ」

 

 少しずつ歩きがスムーズになっていく。

 

「けど、この身体の感覚に慣れたら、逆に現実での運動ヘタクソになりそうだな」

 

 なんて冗談を言ってるうちに、わりと遠くまで来てしまっていた。

 知らず知らずのうちに、歩く練習に夢中になっていたようだ。

 

「おっ。第1村人ならぬ第1モンスター発見」

 

 念のため周囲を確認。

 1番近いプレイヤーでも遠くにぽつんと見える2人組だけ。

 彼らもモンスターと戦っているようだが、この距離ならうっかりジャマしてしまうこともなさそうだ。

 

「よしよし、やっるぞぉー」

 

 最初のマップということもあり敵はノンアクティブモンスターのようだ。

 こちらが視界に入っても、気にも留める様子がない。

 

 視線を集中させると黄色いカーソルとHPバーが表示された。

 名前は……《フレンジーボア》。外見はまんま青いイノシシだ。

 

 ゆっくりと背後へ回り込み、近づく。

 《カトラス》を大上段に構え……。

 

「チェストぉおおおお!」

 

『プギィイイイイ!』

 

 赤いダメージエフェクトが散った。

 

「おおっ! 手応えアリ!」

 

 《フレンジーボア》のHPが減少し、カーソルが赤色に変化した。

 雄たけびを上げながらこちらに向き直る。

 

「お~、怒っとる怒っとる」

 

 《フレンジーボア》が地面を前足の蹄で掻き、突進してきた。

 

「う、お、おっと!?」

 

 ドタドタと慌ただしくも回避――ドテン、とこけた。

 ドカッ、と衝撃。

 

「あわわわわ!? ぐへっ!?」

 

 身体が跳ね飛ばされ、赤いダメージエフェクトが俺の身体から舞う。

 視界左上のHPゲージが削れた。

 

 うわー、油断した。足がもつれた。

 慣れてきたと思ったらこれだ。もっと訓練が必要だな。

 

「痛、くはないけどちょっと気持ち悪ぃ。……っとっとっと!?」

 

 次の突進。慌てて立ち上がる。

 幸いにも《フレンジーボア》の動きは遅かった。回避は十分に間に合った。

 

「さすがに、こんな序盤のザコ敵に負けるとかはしたくないんだけ、どっ!」

 

 体勢を立て直せば、あとは難しくなかった。

 

 成功してみれば、なんということもない。

 予備動作はわかりやすいし、攻撃も直線的で少し横にズレるだけで当たらない。

 

「ほっ! よっと! よしよし転ばないように気をつけてなー」

 

 自分に言い聞かせながら、回避を繰り返した。

 乱数だろうか、ときどき失敗することもあったが慣れてくる。

 

 相手が次の攻撃へと移るタイミングや攻撃範囲が掴めたところで、こちらからも打って出ることにする。

 

「そろそろいけそうだ」

 

 《フレンジーボア》は突進後いくらかの硬直がある。

 そこへ一撃を加え、すぐに少し後ろに下がって距離を取る。

 十分にとった間合いで次の突進も躱し、また一撃を加える。

 

「いい感じいい感じ」

 

 それを2回、3回と繰り返し……。

 

「っしゃぁ、勝った! ……おっ」

 

 ウィンドウがポップアップする。

 

 ――――――

 【Result】

 Exp  24

 Col  30

 Items  2

 ――――――

 

 加算経験値、獲得コル、それからドロップアイテムが表示された。

 多いのか少ないのかはわからない。

 

「って、うわ!? 思ったよりギリギリだったんだな」

 

 俺のHPバーは4分の1ほどにまで減っていた。

 うーん、ザコ敵相手にやられすぎだろ。

 

 それに予想外に時間がかかるな。

 ザコ敵1体倒すのにこれか。

 

「ま、いっか。……んんぅ~っ!」

 

 背伸びする。

 ほどよい疲労感。軽く運動をしたあとみたいな達成感が満ちていた。

 

 VR空間での疲労は現実とは同一ではないものの、近しいものがあった。

 こんなことまで再現してるのかすごいな。

 

 1体しか倒してないけど、もう切り上げて街に戻ろうか。

 うっかり死んでしまっても困る。まだ序盤だからデスペナルティなんてないだろうが、念のため。

 

 なにより、これ以上勝手にユリカのデータを進めたらバレかねないし。

 彼女が部屋に戻ってくる前に、キャラを元の場所に戻してログアウトしよう。

 

「~~~~!」

 

「~~、~~~~!」

 

 ……と。

 街へ向かって歩いていると、行き先から言い争いのような声が耳に入る。

 あれは俺と同じようにモンスターと戦っていた二人組か?

 

 こんなめでたい日にケンカかよ、と視線を向けてしまう。

 近づくにつれ話の内容がはっきりとしてくる。

 

「おいおい……ウソだろ、信じられねぇよ。今、ゲームから出られないんだぜ、オレたち!」

 

 その大声と話の内容に衝撃を受け、思わず立ち止まってしまう。

 俺に見られていることに気づいた二人組がこちらに手を振り、近づいてくる。

 

「おーい、そこの嬢ちゃん! そう、あんただ! いきなりで悪ぃんだがあんたはログアウトできるか!?」

 

「……っ!」

 

 バンダナをつけた美丈夫が食いつくような勢いで問うてくる。

 言われて思い出す。そういえば俺、チュートリアルを受けてないせいでメニューの開きかたもわからないままだ!?

 

 あれ? マズくね?

 

「ログアウトできない、かも」

 

「そんなっ、嬢ちゃんもか!? じゃあやっぱり……」

 

「え!? キミも!?」

 

 俺の驚愕の声に、バンダナの美丈夫がもうひとりと顔を見合わせる。

 黒髪の美青年が頷いた。

 

「あぁ、俺たちもなんだ」

 

「ふたりとも!?!?」

 

 えぇ!? えぇえええええ!?!?!?

 メニューの開きかたわからない人、俺以外にもいたんだ!?

 

 というかこの様子だと結構多いのでは?

 さすがにユーザへの配慮足りないと言わざるを得ない。

 

 あるいはこれって説明するまでもない”次世代の常識”なのだろうか。

 俺たちは今『このスイッチを押すと電源が入るんだよ』と携帯電話の使いかたを説明されるおじいちゃんの立場なのだろう。

 

 順応すべきはデバイスではなく俺たちのほうなのかもしれない……。

 やだやだ、年はとりたくないもんだ。

 

 しかし……。

 

「そっかー、ふたりもログアウトできないのかー。じゃあ仕方ないし、一緒にほかの人にも聞きに行こっかー」

 

「お、おう。そうだな」

 

「あぁ」

 

 ふたりを伴って歩きはじめる。

 

 ちらりとふたりの容姿を盗み見る。

 ふーむ、当然といえば当然だがどちらもゲームのアバターなだけあってイケメンだ。

 現在の俺も美少女だから、あまり人のことは言えないが。

 

 俺はアバターどーしよっかなー。どんなのがいいかなー。

 基本的にデカいのが好きだから筋骨隆々とかアリだな。肩に重機乗っけたい。

 

「嬢ちゃんよぉ、おめぇ随分と肝っ玉が太ぇんだなぁ。オレぁ不安でしょうがねぇよ」

 

「そう? そこまで心配しなくても大丈夫じゃない?」

 

「俺は……あまり楽観視しないほうがいいと思う」

 

 黒髪の青年がなにか予見でもしているみたいな、険しい表情で言う。

 

 いやいや。ちょっとそこら辺でプレイヤー見つけて、尋ねるだけで大げさな。

 もしかするとコミュニケーションが苦手なタイプなのかも。

 

 あるいは、アニメ的な表情演出のせいだろう。

 この世界では表情が大げさに表現されるから、ふたりともお互いの不安げな顔を見て過剰に深刻になってしまっているのかも。

 

 よしよし、ならばここは俺が気分を切り替えてやろう。

 

「せっかくだし自己紹介しないか? 俺は――」

 

 左上に視線を向けると拡大表示された。

 

 ――――――――――

 Lirili

  65/ 250 LV: 1

 ――――――――――

 

「――リリリだ。よろしく」

 

 プレイヤー名を確認して述べた。

 いつもユリカがゲームで使用しているニックネームだった。

 

 にしても助かった。メニューの開きかたすら知らない俺でも自分のプレイヤー名はすぐにわかった。

 どんなゲーム初心者でもプレイヤー名を見落とすことだけはないだろうな。なにせ視界にある唯一の情報がHPバーとプレイヤー名なのだから。

 

 ほんと、シンプルなUIだ。

 より没入感を増すためなのだろうが。

 

 だったらプレイヤー名よりメニューの開きかたを常時表示して欲しかったもんだが……いや、今後パーティを組んだとき仲間のHPバーも表示されるとしたら、やはりプレイヤー名の表示は必要か。

 

「「俺……?」」

 

 クラインとキリトが首を傾げる。

 

「あ、いや。あはは」

 

 忘れてた。今の俺は女キャラだった。

 しかしふたりともこの手のゲームには慣れているのだろう。納得したように聞き流してくれた。

 

「俺はキリトだ」

 

「オレはクライン。よろしくな」

 

「よろしく。ふたりは――」

 

 質問しようとしたそのとき。

 リンゴーン、リンゴーンと鐘のような、あるいは警報音のようなサウンドが鳴り響いた。それは”遊び”の終わりを告げる合図だった。




 《ソードアート・オンライン》はゲーム開始直後(13:00時点)ではログアウトできた。
 あるいはログアウトボタンは存在した。

 それが17:25までのどのタイミングで消失したのかは不明。


 ちなみにデスゲーム開始後でもログアウトできないだけでログインはできる。
 GGOのピトフーイさんはSAOやりたくてナーヴギアを隠し持ちながら、2年間ずっとそのことに気づかんかったんやなぁ……。


 ※追記
 全プレイヤーの移送完了後、SAOサーバーへは新たなIPアドレスからログインできないようフィルターが設定されたため、事実上ログインも出来なくなっている。
 ログインするにはSAOプレイヤーが入院している病院のアドレスを利用するなどの手順が必要。

 ↑指摘ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。