1話が短いので数日分まとめてあります。
気温を下げる能力・求人広告・空を飛ぶ能力
1・気温を下げる能力(夕涼み)
夕涼み、なんて言葉は過去になってしまった。暑すぎる。夕方になっても熱が引かない。そんな中で自然の力でどうにかしようとしたら確実に熱中症になるだろう。梨杏は沈みかけた夕陽を恨めしそうに眺める。
「頭から水浴びれば涼しいんじゃない?」
「何でいつもそうワイルドなのよ」
しかも倉庫からコーヒー豆が入った袋を運ぶとなると、更に汗だくになる。しかし幼馴染の由真はそれを軽々担いでいた。
「こう暑いと、周辺の気温を下げる能力ほしいよね」
「ね」
「カナエの親戚にいるんだって、周辺の気温を下げる能力者」
「いいなぁ、連れてきてほしい」
「でもカナエが『おじさん、気温下げるときにいっつもしょうもないギャグ言うから嫌』って」
「気温ってそうやって下げるんだ……」
気温は下がるがテンションも下がりそうだ。もう少しいい方法はないのかと考えたとき、どこからか夜の色が混ざった風が吹き始めた。
2・求人広告(喫茶店)
高校進学を機に、バイトでも始めようと思った。求人サイトをぼんやりと眺めているが、ピンと来るものがない。そもそも能力者というだけで採用されないなんていう話もある。あんまり意味のないような些細な能力だってあるのに。星音は溜息を吐いた。
「あー、これか? 能力者歓迎……」
たまにそういう求人もある。能力者が多い地区の店などによくある。星音はその特集ページを見ながら、悪くなさそうな求人にチェックをつけていった。
「制服かわいいところとかええな。あとまかない出るとこ……ん?」
画面に一瞬ノイズが走る。しかしそれは一瞬で消えたため、星音は気のせいだろうと結論付けた。
「喫茶店かぁ。制服かわええなここ。能力者歓迎、時給もそこそこ……治癒系能力を探してる?」
喫茶店で何でそんな能力が必要なのか。多少疑問に思ったが、星音はその求人から目が逸らせなくなっていた。星音は人の外傷を治すことができる。それがこの店なら役に立つかもしれないのだ。
「……ま、応募だけならタダやし」
そもそも喫茶店での仕事に多少憧れもあったのだ。星音は寝転がりながら、あまり深く考えずに早速応募ボタンを押した。
***
「あれね、一部の治癒系能力者にだけ表示される求人票だったのよ」
「そんなことできるんや」
「できるけど、本当はやっちゃダメなやつだよ」
寧々があっさりと犯罪行為を告白する。でもそれがあったからこそ今の星音があるのは事実だ。喫茶アルカイドのバイトを始めてから危険なことに巻き込まれることも増えたし、美味しいスイーツで体重も増えてしまった。それでも応募ボタンを押したことを後悔したことはない。
3・空を飛ぶ能力(飛ぶ)
「それってどうやってるの?」
訓練中に由真が尋ねてきた。アルはゆっくりと着地しながら答える。
「足に能力を使ってバネみたいにしてるんだよ」
「じゃあ本当に飛べるわけではないんだ」
「そうだな。これはただの滞空時間の長いジャンプだ」
「飛行系の能力者っているんだっけ?」
「空中浮遊は聞いたことがあるな。飛べるやつもいるんじゃないかな」
「そっか……見てみたいな」
***
「なんか昔、見てみたいとは言った気がするんだけど」
それは敵としてという意味ではなかったのだが。由真は溜息を吐いて剣を構えた。相手は自由に空を駆ける。跳躍を繰り返したところで流石に限界があった。
「このタイプは黄乃に任せたほうがいいかもな」
特殊光線で能力を一時的に停止し、落下していくところで電子網を使う。落ち着いて実行できるならそれが一番穏便な制圧方法だった。しかしその彼は今は他の現場にいる。
「いや、あの方法なら」
由真は剣をしまい、近くのビルに向かって走り出した。ビルの近くには星音と悠子たちを待機させておくことも忘れない。
ビルの屋上のフェンスを乗り越え、由真は建物の端に立った。暴れ回っていた能力者が由真を見つけて向かってくる。由真は挑発するように手招きをした。
靴に能力を使って、由真はビルの屋上から飛んだ。重力を相殺するような能力はないから、当然体は下に向かって落ちていく。しかしわずかな時間があれば十分だった。
「空飛べるなら、もっといいことに使いなよ」
空中で捉えた能力者にスタンガンを当てる。気絶はしなかったが、一瞬集中が途切れたために能力が解除される。由真はスタンガンを投げ捨て、再び手に剣を出現させた。能力を最大出力にして、目に見えない切先を地面に突き立てる。その近くでは悠子たち警察が電子網を手に待ち構えていた。
***
「いや、大丈夫なのわかってても厳しいやろ……」
「わりと楽しかったよ」
「まあかすり傷ひとつなかったからよかったですけど」
飛行能力を使って暴れ回っていた能力者は無事にお縄になった。土壇場で能力を使われて逃げられる可能性もあったけれど、自分の領域である空中で一瞬で勝負を決められたことですっかり戦意喪失していたらしい。
「由真さんって高いところも好きですよね?」
「寧々には『馬鹿と煙は……』って言われたよ」
「とりあえず怪我には気をつけてくださいね、本当に」
星音の言葉を聞いているのかいないのか、由真は静かに空を見つめていた。