Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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小さな世界・宝石を食べる・呼吸

4・小さな世界(アクアリウム)

 亘理梨杏の部屋にはたくさんのテラリウムが飾られている。テラリウムを作るのが趣味なのだ。ちなみにいくつかはバイト先である喫茶アルカイドにも飾られている。

 透明な器の中に小さな世界がある。テラリウムを作るのが好きなのは、世界を作るのが好きとも言えるのかもしれない。梨杏は今し方完成したテラリウムを飾り、それを遠目に眺めて満足そうに頷いた。これで部屋の模様替えは完成だ。今年の夏のテーマはアクアリウムだ。カーテンなどで水槽を演出して、そこに自作のテラリウムを飾る。主役は由真からもらったイルカのぬいぐるみだ。梨杏は出来に満足しながら部屋の写真を撮影した。

 

 写真をSNSに上げてから暫くすると、由真からメッセージが送られてくる。どうやら投稿を見たらしい。メッセージには一言、「クラゲ型の器なんてどこに売ってるの?」と書いてあった。

「さすがに売ってないって」

 苦笑しながら返信をする。SNSを見てメッセージを送ってくるくらいなら、実物を見に来ればいいのに――とは言わなかった。

 クラゲが漂い、イルカが優雅に泳ぐ海の中。梨杏はそこに由真の姿を思い浮かべた。由真は昔から水辺が好きだった。まるで水の中の方が生きやすいとでも言うように。でも空も好きだという。もしかしたら青くて広い場所ならどこでもいいのかもしれない。

「空も海も、人間には住めない場所なんだけどな」

 テラリウムの小さな世界を背負った海月が揺れている。ここが本当に海の中ならいいのに、と梨杏は思った。

 

5・宝石を食べる(琥珀糖)

「夏の間は飲み物と一緒にこれを出してね」

 理世子手製の琥珀糖が瓶の中に詰め込まれている。寧々から説明を受けた星音はそれをしげしげと眺めた。

「宝石みたいやな」

「食べてみる?」

 理世子に言われ、星音は一も二もなく頷いた。理世子は苦笑しながら余った琥珀糖を星音に差し出した。

「表面はサクッとしてるけど、中は思ったより柔らかい……もっと石みたいかと思った」

「石食べる人もいるわよね、そういえば」

「石を⁉」

 星音が声を上げると、寧々が理世子の言葉を引き継いだ。

「そういう能力があるのよ。ちなみに鉱物を食べるとそれが何かわかるって能力なんだけど」

「じゃあどの宝石が本物かとかわかるんや」

「食べるからわかってもなくなっちゃうけどね」

「い、意味ない……」

「発掘現場とかなら役に立つみたいよ。はじっこを食べればいいからね」

 世の中には不思議な能力があるものだ。星音はそう思いながら、二つ目の琥珀糖をつまみ始めた。

 

6・呼吸(呼吸)

「また息止まってる」

「わかってるけど、難しいんだよなぁ」

 由真は床に座って息を吐いた。今日は店の営業が終わった後で梨杏と稽古をしている。梨杏は様々な習い事をしていたため、基礎はしっかりとしている。剣に関してはほぼ独学の由真とは大違いだ。一時期師匠を持ったおかげで改善している部分もあるが、呼吸だけはどうしても苦手だった。

「ちゃんと息を流しとかないと、長時間戦闘続いたときにしんどいでしょ」

「どうしても攻撃の瞬間に息止めちゃうんだよなぁ」

「まあ実際の戦闘の時には余裕ないだろうから、稽古のときにちゃんと練習しておかないと」

 呼吸に関しては、アルもそれほど得意ではないらしい。アルのサポートがあってもどうにもならない部分だ。

「呼吸っていうのは全ての基本だよ。まあ先生が言ってたってだけだけどね」

「梨杏はどうやってやってるの? 結局ずっとイメージが掴めないままなんだよなぁ」

「私は……そうだなぁ、空気の流れを意識する感じかな。空気の流れと一体となれば、自然に吐けるし、吸える……みたいな」

「流れかぁ」

 水の流れのように目に見えればいいのだが。もしくは風を感じる力がもっと強ければいいのかもしれない。

 開け放っている稽古場の窓から風が吹いてくる。夜の風は少し澄んでいる気がして好きだ。由真は目を閉じて深く息を吸い込んだ。ああ、これが空気の流れというものかもしれない。由真は瞼の裏に、風を読んで舞うように戦う束の間の師匠の姿を思い浮かべていた。

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