10・椿(散った)
理世子を駅まで送っていく最中、由真は椿を見つけた。椿の花は花の形のまま落ちる。由真は辺りを見回して、地面に落ちた花がどこの木のものなのかを探した。
「あんな崖みたいなところに生えてる……」
「こういう斜面って
「寧々は相変わらず色々知ってるな……」
由真は落ちた椿の花を拾い上げた。軽く土を払って見てみる。本当に咲いたままの姿だ。この散り方がお見舞いの時などには良くないと言われているのは知っている。けれど椿の花がどうして花の姿のまま落ちるのかは知らなかった。寧々なら知っているのだろうか。
「――うん、似合う」
理世子に椿の花を近づけてみる。まるでお姫様のような格好をした理世子には花がよく似合うと由真は思った。しかし理世子はおっとりと笑って言う。
「椿は由真の方が合ってると思うけど」
「そうなの? 不吉って意味?」
「お見舞いの話じゃなくてね」
理世子は由真から椿の花を受け取り、それを由真の耳の近くに器用に飾った。
「椿が花の形のまま落ちるのはね、下を向くことしか出来ない人にも花の姿を見せてあげるためなんだよ」
それは明らかに迷信の類いだと思った。由真は知らないけれど、科学的にきちんと説明できるものだったりもするのだろう。けれど理世子の話は悪くないと思った。足下しか見られないような苦しみの中で、不意に美しい花を見つけたなら――少しは心がほどけていくような気がするから。
「私はずっと家の中にしかいられなかった。でも、そんな私にも綺麗な花が見えた」
「私は何もしてないよ」
「椿の花だって特に何かしているわけじゃないわよ。言ってしまえばただ散っているだけだもの。でも、そういうものが誰かを救うことだってあるのよ」
「そっか」
椿はただ生きて、花をつけて、そして自然の摂理に従って花を落とした。それだけのこと。でもそういうものになりたいと由真は思った。由真はそっと椿の花を外し、地面に置く。
「外しちゃうの?」
「誰かがまた見つけるかもしれないからね」
俯いて歩く人の道を彩るように。そう願いを込めて、由真はそっと椿の花の横を通り過ぎた。
11・何でもは作れない(錬金術)
「ちなみになんですけど、或果さんってお金は作れるんですか?」
「違法だけどそれ」
「わ、わかってますけど、ちょっと気になって……」
珍しく星音と或果のシフトになったとき、思い切って或果に聞いてみた。客は常連の、ケーキセットで三時間は粘る小説家志望しかいない。要するにわりと暇だった。
ちなみに或果の能力は絵に描いたものを具現化するというものだ。由真が使う剣は或果が作ったものでもある。
「お金は偽造防止の技術が凄すぎて無理だね。そもそも、私が能力で作ったものって、どんなに硬いものでも解析すると紙って出るのよ」
「じゃあ見た目はそれっぽくても、素材は再現できひんってことですか?」
「そうなるね。金塊とか作ってもジョークグッズの域を出ないかな」
「そっかぁ」
「何、星音ちゃんお金欲しいの?」
バイト代は十分もらっている。特にお金が欲しい用事はないのだが、昨日ネットで見た煌びやかな景色が気になって仕方ないのだ。
「ゆ、夢の国の最高級の部屋に泊まりたくて……なんかお金稼げる方法ないかなと……」
「星音ちゃんの能力、場合によってはお金取れると思うけど……」
その発想はなかった。これまで無償で人の傷を治してきたのだ。いや、アイスとか奢ってもらったことはあるけど。
「でも擦り傷治すのに金取るのもどうかと思って……」
「じゃあコツコツ稼ぐしかないわね……」
「ですね……」
結局そんなうまい話はないのだ。
後日寧々に聞いたところ、物質を変化させる能力自体はあるけれど、それも鉄を金に変えるようなものではないらしい。確かにそんな稼げる能力があるならこれまでにもっと話題になっているだろう、と星音は真面目にバイトをすることを決意するのだった。
12・チョコミントパフェ(チョコミント)
「星音ちゃん、チョコミントは平気な人?」
「平気ですよ、どうして?」
「たまに歯磨き粉の味っていう人いるじゃない」
「歯磨き粉食べて怒られたことありますよ、私」
このままでは食いしん坊キャラになってしまいかねないと思いつつも正直に星音は言う。理世子は星音の答えを聞くと笑顔でチョコミントのアイスが乗った豪勢なパフェを出してきた。
「ちょっと試食お願いしたくて」
「いいですけど、何でも美味しいしか言わないですよ?」
「いいの。これはお店に出すものじゃないから」
早速出されたチョコミントパフェを食べてみる。ミントの爽やかな味とチョコの甘さと苦さがちょうどいい。下の部分もゼリーなどが多く使われていて、食べやすくて夏にはピッタリだ。
「今すぐに店で出してもいいくらい美味しいですよ!」
「これを出すのは予算が……」
「ああ……。ん? じゃあ何のためにこれを……」
「昨日由真が『暑すぎる……さっぱりしてるけど甘いもの食べたい、チョコミントアイスとか』って言ってたから……」
「めちゃくちゃ具体的に欲望言ってるやん……」
物欲があまりない由真にはそういうことがあまりないので、理世子も気合が入ったのだろう。
「じゃあ由真が買い出しから戻ってきたら早速出そうかな」
楽しそうな顔をしている理世子を見ると、星音も楽しくなる。それはそれとして、パフェは美味しかったのでもう一度食べたいと思った。