Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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能力の便利な使用・月はさやかに・ここに地終わり海始まる

13・能力の便利な使用(定規)

「やっぱり取れないか……」

 寧々が箪笥の下に定規を入れて何やら格闘していた。たまたまそこに通りがかった由真は何をしているのか気になって尋ねる。

「お気に入りのピアスが転がってそこに入って行っちゃって。ある場所はわかるんだけど定規じゃ微妙に届かなくてさぁ……」

「箪笥どかすのも大変だしね……」

「本当にあと数センチって感じ……あっ」

 寧々が由真を見て急に声を上げる。由真は首を傾げた。

「なに?」

「この定規持って、いつも剣でやってるみたいに能力をちょっと伸ばしたら……取れませんかね?」

「……え?」

 それはまさかの提案だった。由真が使っている或果が作った剣は刃が作られていない。刃の部分は能力で見えない刃を作り出しているのだ。もちろん切らないようにすることもできるし、少し動かして手が届くところまで転がすことならできるかもしれない。

「うまく調整できないとピアス粉々になるんじゃ……」

「このまま出せないよりはそっちの方がいい」

「えー……壊しちゃったらごめんね」

 調整はあまり得意ではないのだ。それでも由真は定規を持ち、それを少し伸ばすように力を纏わせた。

「そうそう、そのへん」

「あ、見えた」

 銀色のピアスを引き寄せるように慎重に力を使う。手が届くところまで転がした由真は、そこで軽く息を吐いた。

「こういう使い方初めてしたよ」

「力ってのは使いようなのよ」

 何だか便利に使われただけのような気もするが、別にいいか、と由真は伸びをした。

 

14・月はさやかに(さやかな)

「どうしようかなぁ……」

 ある舞台の主演のオーディションが近く開催されるらしい。役どころは姉と敵対する剣士の妹。クライマックスには大規模な殺陣があるらしい。

(いや、殺陣とか未経験なんですけど)

 マネージャーは「緋彩ならできる」と言うが本当だろうか。でも魅力的な役だ。「受けるだけならタダだから!」と楽観的なマネージャーはよく言う。とはいえやるなら徹底的にやらなければならない。

(でもなぁ……)

 緋彩が悩みながら歩いていると、前方に人だかりができていた。見覚えのある女性警官が立ち入り禁止のテープの前に立って人だかりを押し留めている。何があったのだろうか。人の壁の向こうを見ようと緋彩は背伸びをしたり軽く飛び跳ねたりした。

 壁になっている人たちの話によると、能力者たちが強盗をして、逃走を図ったところで民間の協力者と交戦になっているらしい。

(民間の協力者ってことは、もしかして)

 うまく人と人の間から中を見られるようになった。規制線の向こう側には予想通りの姿が見えた。戦っている能力者は近くにあるものを手を触れずに発射することができるようだ。由真は飛んで来るものを捌きながら距離を詰めていく。

 相手は気付いていないかもしれないが、決着は既につきつつある。由真の動きには余裕があった。相手は由真の足元を崩そうと攻撃する。しかしそれが届く前に由真は高く飛び上がった。

 頭上には大きな月があった。満月を背に、由真の影が浮かび上がる。人と人の隙間からそれを見ていた緋彩は思わずそれに見惚れてしまった。

 背後に回られ、強盗は一瞬で気絶させられた。無力化された強盗に警官が手錠をかけている。一仕事終えた由真は深呼吸をしてからこちらに向かって歩いてきた。

「由真さん!」

「あれ、どうしたのこんなとこで?」

「たまたま通りがかって。今日、星音は?」

「星音は今日シフト入ってないんだ。今日は梨杏と一緒」

「私やることなかったけどね」

 由真の後ろから姿を見せた梨杏に緋彩は会釈をした。そのまま梨杏と一緒に帰ろうとする由真を緋彩は呼び止めた。

「あ、あの!」

「どうかした?」

「由真さん、私に剣を教えてくれませんか?」

「えっと……どういうこと?」

 緋彩はこれまでの経緯を簡単に説明した。しかし由真は少し悩んでいるようだった。

「私、我流だから参考になるかどうか……」

「殺陣は動きが決まってるので、その辺は大丈夫です」

 さっき見た由真の姿。月を後ろに舞うように戦う姿が、今度オーディションを受ける役にぴったりだと思ったのだ。

「殺陣の稽古はちゃんと専門の先生がついてくれるはずなので、自主練に付き合ってくれればそれでいいんですけど」

「そういうことなら……」

 

***

 

 それから一ヶ月後、緋彩は無事にオーディションに合格した。これから稽古は本格化していく。その前に盗める技術は盗んでおきたかった。

「由真さんって、本当に剣術とかは習ったことないんですか?」

「習い事は色々やったけどね……。梨杏は弓道とか剣道とか色々やってたらしいけど。習い事はピアノとかバレエとかそういうやつ。合気道はちょっとだけやったけど、身につく前に色々あったから」

 指先まで動きが綺麗なのはバレエをやっていたからなのだろうか。緋彩は由真の何気ない動きにさえ目が奪われてしまいそうになっていた。

 

15・ここに地終わり海始まる(岬)

 深夜に目が覚めてしまった。

 星音にしては珍しいことだ。もう一回寝ようとしても寝られない。それならいっそツーリングでもしようかと思って布団を抜け出す。パジャマから服に着替えながら、星音は不意に思い立ってスマホを引き寄せた。

 寝ているならそれでいい。でももし起きているなら。

『今から海行きません?』

 メッセージを送るとすぐに返事が来た。

『いいよ』

 短い答えに少し嬉しくなりながら家を出る。まず目指すのはアルカイドだ。

 

***

 

 由真を後ろに乗せてから一時間ほど走り、目的地に辿り着く。星音がバイクに鍵をかけている間に、由真は岬に向かって歩き出していた。星音はその後ろをゆっくりと追いかける。

(やっぱ水が似合うんだよなぁ)

 由真自身が水辺を好むというのはあるが、それを差し引いても水が似合う人だと思う。地面が終わるところまで静かに進んでいくその背中を星音は見つめた。

 水平線を見つめる由真は何を考えているのだろうか。このままでいたらいつか水の中に帰ってしまうのではないかと馬鹿馬鹿しいことさえ考えてしまう。

「――由真さん」

「何?」

 振り返った由真は笑っていて、それに安心した。星音は由真の隣まで行き、海を見つめる。

「ここ、蘆花(ろか)岬っていうらしいですよ」

「そうなんだ」

「なんか、ポルトガルにある地の果ての岬と同じ名前だから、ここも地の果てって主張してるらしいですよ」

「地球って丸いから、どこでも名乗れば地の果てになるんじゃない?」

「そうなんですよね」

 取り留めのない話をしながら二人で水平線を見つめる。いつのまにか少しずつ空が明るくなり始めていた。

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