Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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アルカイドにコーヒー豆を卸している店の娘・カナエ。癒しの能力者であるカナエの能力とは一体――。


もふもふな彼女

「あ、そうだ。今日カナエが来る日なんだよね」

 星音がアルカイドで働き始めて一ヶ月が過ぎたある日。由真がカレンダーを見ながら言った。

「カナエさんって確か卸業者の?」

「そう。星音と同い年で、カナエも能力者だよ」

「へぇ、そうなんや。どんな人なんですか?」

「うーん……癒し系かな……?」

 あと十分でカナエが来る予定の時間らしい。星音は期待と緊張を胸に、同い年だというカナエの到着を待った。

 

「こんにちはー」

 十分後、アルカイドのドアを開けて入ってきたのは、襟足あたりで髪の毛を切り揃えた少女だった。腕には何故か真っ白な猫のようなものを抱えている。そして足元にも同じものがいて、微かに動いているように見えた。

「結構荷物あるでしょ。下ろすの手伝うよ」

「あ、ありがとうございます。えーと……彼女がこの前言ってた新人の子ですか?」

「そうだよ。カナエと同い年の」

 由真とやりとりをしていたカナエは、それを聞くと、今度は星音に頭を下げた。星音も一緒に頭を下げる。

不破(ふわ)(かなえ)です。家が豆の卸業者で、ここにはいつも手伝いできてます」

(うち)は瀧口星音。これからよろしくな」

 星音が差し出した手をカナエが握る。その瞬間にカナエの後ろでぽんっという音が聞こえた。音と同時に現れた真っ白でふかふかの毛を纏った球体に星音は目を瞠る。

「これが私の能力で……テンション上がったときにこのもふもふを生み出すってだけなんだけど」

「このもふもふ生きとるん? なんか微妙に動いとるけど……」

「寧々さんが言うには能力波を核にした動物と植物の間っぽいやつらしいけど……でも三日で消えちゃう」

「逆に三日はあるんや……」

 そのもふもふがあまりにも気持ち良さそうで触りたくなってしまう。星音がうずうずしていると、カナエが腕に抱えていたもふもふを星音に差し出した。

「あげる」

「え、もらってええの?」

「うん。触りたそうだったし」

 実際に触ってみるとずっと手放したくなくなるくらいに触り心地がいい。結局星音はそれを腕に抱き、猫にするようにその毛並みを撫で続けることになった。

「それ、もらったの?」

 星音がもふもふを堪能していると、いつのまにかコーヒー豆が入った袋を抱えた由真が戻ってきていた。カナエと星音が話している間に荷下ろしをしに行っていたらしい。

「由真さんめちゃくちゃ余裕そうに持ちますねそれ……」

「一つ十キロくらいだよ?」

「それを二つ抱えたら二十キロやろ……」

 その細腕のどこにそんな力があるのだろう。体重の三分の一は明らかに超えていそうな重さがあるものを汗ひとつかかずに担いでいるあたりは、やはり鍛えているのだろう。

「あ、そういえば由真さん」

「何?」

 担いでいた袋を下ろした由真にカナエが話しかける。

「昨日すごく大きいやつができたんでおみやげとして持ってきたんですけど」

「え、本当に? もらっていいの?」

 由真の顔が明らかに綻んでいて、声もいつもより高くなっている。カナエは、ちょっと持ってきますね、と言ってから外に出て、数秒後にカナエの三分の二はある大きさのもふもふを引き連れて戻ってきた。

「やばい、本当におっきいじゃん」

「昨日ずっとクリアできなかったゲームクリアして、テンション上がっちゃいました」

「やーばいこれめっちゃ気持ちいい」

 由真はおそらくカナエの話はもう聞いていないだろう。巨大なもふもふにテンションが上がりすぎている。カナエはそれを見ながら柔らかく微笑んでいた。

「由真さんいつもめちゃくちゃ喜んでくれるからプレゼントしがいがある」

「人間をダメにするソファーもらった人みたいになってる……あんな顔初めて見たんやけど……」

 こちらの顔の方が由真の本質なのだろうか。けれど普段の表情や戦闘中の顔にも嘘はないように感じる。星音はもふもふに体を預けてだらけきっている由真を見つめた。

「星音もこれやろうよ、めっちゃ気持ちいいよ」

「ふふ、だってさ」

 カナエに促され、星音も由真が触れている大きなもふもふに体を預けた。確かに気持ちいい。これはだらけてしまう気持ちもわからなくはない。星音はあまりの心地よさに目を閉じた。

 

 

「ああ、またカナエ来ないかな……」

 その二日後、由真が溜息交じりに呟いた。カナエの作るもふもふは約三日しか保たない。しかも先日のような巨大なもふもふは滅多にお目にかかれるものではないらしい。かくいう星音も、すっかりあのもふもふの虜になってしまった。

「お客さんいっぱい来たら豆なくなってカナエ呼べるんちゃいますか?」

「そうだね……この店そんなお客来ないけど……」

「それは残念や……」

「あ、でもカナエって確か星音と同じ学校だよ?」

「そうなん!? 全然知らんかった……」

 星音は能力者が多い学校に通っているので、危険ではない能力を持つ人は埋もれてしまいがちだ。それで気が付かなかったのかもしれない。

「そっかぁ……何組やろ。今度探してみよ」

「もふもふ目的で?」

「いや……まあそれもあるけど、普通に友達になりたいというか……」

「いいんじゃない? 喜ぶと思うよ。多分向こうも友達になりたいと思ってるし」

「何でわかるん?」

 ひょっとして本人に聞いたのだろうか。そう思って尋ねると、由真は口元に手を当ててくすりと笑った。

 

「だって、星音と握手したときにもふもふが出てたじゃん」

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