Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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寧々と由真のある日の朝の話(或果がアルカイドに住み始めるよりも前の話です)。
※天鵞絨企画様主催のTwitter内展示企画「早起きにはマーマレード」参加作品です(5/29にTwitterにあげたものと同内容です)。


Drip

 目覚ましの音でのそのそと起き始めた由真は、洗面所で顔を洗ってからうがいをする。その間も目は半分以上閉じられている。彼女は朝に弱いのだ。先に起きていた寧々はいつもながらのその光景を微笑ましく思いながら、二人分の朝食の準備をしていた。

「……おはよ」

「うん、おはよう」

 キッチンに入ってきた由真が、眠い目を擦りながらコーヒーを淹れる準備をする。保存容器から豆を取り出し、ミルで挽く。何年も喫茶アルカイドでコーヒーを淹れ続けているだけあって、ほとんど寝ているのではないかという状況でも、その仕草に迷いはない。けれど家で飲むコーヒーは、店で出すものとは淹れ方が違う。由真は寧々があらかじめ沸かしていたお湯を確認し、ドリッパーにコーヒーフィルターをセットした。店ではコーヒーサイフォンを使う。だから由真が淹れるドリップコーヒーは、家でしか飲むことができないのだ。

 挽いた豆をフィルターに入れ、コーヒー豆に湯を染み込ませていくように注いでいく。粉が膨らんでいくのを確認しながら、少しの間蒸らす、ドリップのやり方を教えたのは二回だけなのにもうすっかり体に染み付いているようだ。真面目なのか負けず嫌いなのか、上手くいくまで何度も練習してしまうので、由真にコーヒーの淹れ方を教えた当初は、コーヒーの飲みすぎで多少寝不足になってしまった。そんなことをふと思い出して、寧々は微笑んだ。

 チン、と音がしたので、オーブントースターに放り込んだ食パンを取り出す。寧々はそれぞれの皿の上にそれを置いて、その隣にサラダとヨーグルトを並べた。

「寧々はブラックでいい?」

「うん」

 朝はいつもブラック。けれどたまに違う気分の日もあると知っていて、由真は毎日確認してくれる。律儀だよなぁ、と思いながら、寧々は食卓についた。寧々の目の前にメンダコ柄のマグカップが置かれる。先週、由真が衝動買いしてしまったものらしい。由真の手元にはそのマグカップの色違い。そしてマグカップの中身はオレンジジュースだ。

 由真はブラックコーヒーが飲めない。苦いものは嫌いで、いつも喫茶店でコーヒーを淹れているくせに、本当は甘いジュースが好きだ。

 ――由真は毎朝、私のためだけにコーヒーを淹れてくれる。

 口には出さないけれど、それが自分の特権だと、寧々は密かに思っている。

「いただきます」

 パンにはバター。りんごのジャムはヨーグルトの上に一口分。寧々はパンにはジャムで、ヨーグルトには何も入れない。二人で生活を始めて、最初に苦労したのが味の好みの違いだった。朝食は米かパンか。カレーは甘口か中辛か辛口か。味噌は赤なのか白なのか。少しずつ互いが納得できるように擦り合わせていって、今の二人の食卓がある。由真がコーヒーを淹れておきながら、自分では飲まないのもその一つだ。そのかわり朝食を用意するのは寧々の仕事なのだ。寧々はトーストに齧り付きながら言う。

「なんかさぁ、今日の夜中華的なもの食べたくない?」

「私、めちゃくちゃ鮭食べたい気分だったんだけど」

「鮭使う中華料理なんかあったっけ……」

「少なくとも私が作れる中にはない」

 今でもこんな風に、どうしても二人の意見が噛み合わないときはあるけれど。

 

「ちょっと後で、鮭使う中華のレシピ検索しとくわ」

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