Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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3.栗かぼちゃのパンプキンタルト

「――正直な話、能力者の方が楽だったのだけど」

 喫茶アルカイドのテーブル席に座り、寧々が言った。今日は店は休みの日だが、旧校舎の調査をしている星音とカナエ、由真と寧々が集められている。

「つまり……能力者じゃなかったってこと?」

「少なくとも能力波は感じない。でもそれ以外のものを感じるわね」

 それはつまり本当に幽霊の類だったということか。星音は栗かぼちゃのパンプキンタルトの試作品を食べながらも寧々に尋ねた。

「……幽霊って、存在するもんなんですか?」

「私の目には映画で見るような人間の形をしたやつは見えなくて、なんとなくぼんやりした光みたいなのが見えるだけなんだけど……でも、能力者とは違う色に見えるから、別のものであるというのはわかる感じね」

 いわゆる霊感とは少し違うが、同じようなことができるのは間違いない。でもこの科学の時代に幽霊とは。

「あと、幽霊……と言っていいのかはわからないけど、そういう超常的な存在自体はあるわよ」

「えらい確信持ってはりますね……」

「『霊的なものに干渉する能力者』ってのがいるのよ。その能力の存在が霊的なものの存在を証明してる」

 星音とカナエと由真が同時に首を傾げる。よく考えたら寧々以外はあまり成績の良くないメンバーばかりが集まっていた。人選ミスのような気がしなくもない。

「例えばね……由真の能力は種に干渉するけど、それはこの世に種を持った人がいるから初めて能力として成立すると言えるのよ。この世に最初から種を持った人が一人もいなかったら……少なくとも全く意味はないじゃない?」

「確かに……?」

 どうにかついていける。寧々の見立てでは、確かにあまり意味のない能力というのはあるが、能力として成立しないものは存在しないということだった。幽霊に干渉できる能力があるなら、その対象である幽霊は存在する。

「で、私が知ってる人で一人、霊的なものに干渉できる能力の持ち主がいるんだけど」

「でも寧々、あの子は」

 由真の反応を見る限り、由真も知っている人のようだ。寧々はタルトを一口分切り分けて、ゆっくりと口の中に運んだ。

「もう呼んじゃったわよ」

「え?」

「だからここに試作品があるんでしょ」

 星音はタルトを食べる手を止め、半分以下になっていたタルトと寧々の顔を交互に見た。寧々はフォークを手ににやりと笑う。

「星音たちは会うの初めてよね。うちのケーキを作ってくれてる子が今ここに来てるのよ。というわけで、入ってきていいわよ」

 寧々が奥に向かって声をかけると、おずおずと腰あたりまでの黒髪の少女が顔を出した。どこかの姫のような、フリルやレースを多用したワンピースを着ている。黄乃がここにいたら目を輝かせそうなくらいの可愛い服だ。

「彼女は鵜飼(うかい)理世子(りよこ)。年は私とか由真の三つ上で、今はうちのケーキを作って卸してくれてるの。で、霊的なものに干渉できる能力者」

 由真は理世子に近付いて行って、彼女を椅子に誘導した。白と淡いピンクの、お姫様か妖精のような理世子と黒一色の由真は対照的で、彼氏と彼女のようにも見えてしまう。

「理世子、出てきて大丈夫だったの?」

「うん。新作の感想も聞きたかったし……お守りも持ってきたから大丈夫!」

「いざとなったら私が何とかするから」

 どういう意味の会話なのだろうか、と星音が思っていると、寧々が簡単に解説してくれた。

「霊的なものに干渉できる能力のせいで、道を歩けば怪現象が起きる体質なのよ。上から植木鉢降ってきたりとか……」

「普通に危ないやんそれ……」

「でもよく効くお守りが手に入ったから今は大丈夫。ここまでも何もなかったし。それにいざというときは由真が守ってくれるしね」

「植木鉢が降ってくるレベルは限界があるやろ……」

 いくら由真が俊敏に反応できるといっても、生身の体なのだ。外に出るだけでそうなるなら、なるべく外には出ない方がいいと思う。

「あ、タルトすごく美味しいです!」

 カナエが理世子に言うと、理世子はにっこりと笑った。確かにケーキは絶品だ。甘さ控えめなのに一口食べるごとに幸せになる味だ。

「このタルトならブレンドもう少し酸味強くしても……」

「その話は後にしようか、カナエちゃん」

 カナエはカナエで合わせるコーヒーのブレンドが気になるあたりはさすがコーヒー豆卸の女だ。寧々はコーヒーを飲み干してから、理世子に向き直った。

「――相手が能力者ではない以上、理世子の力を借りたいと思うんだけど」

「うん、いいよ」

 理世子はあっさりと言う。そこに異を唱えたのは由真だった。

「危険すぎる。もう能力者じゃないってわかったんだから手を引くべきじゃない?」

 珍しい、と星音は思った。由真が手を引こうと提案するところを初めて見たのだ。

確かに能力者が関係ないなら自分たちには関係ない問題だ。けれどそれを口にしたのは他でもない由真なのだ。

「ねぇ、由真……私は大丈夫だよ」

 理世子が由真の腕を掴んで言う。寧々が二人を見て溜息を吐いた。

「由真が反対するのにはちゃんと理由があるんでしょ。だったら隠さないでちゃんと言いなさいよ。だいいち由真が最初の被害者には会わないでって言ったから星音やカナエちゃんに調べてもらうことになったのよ?」

「それは……」

 寧々が最初の被害者に会えば、面倒な方法を取らなくても能力者絡みでないことは一発ですぐにわかったのだ。星音たちは誰が寧々を止めたのかは聞かされていなかった。被害者の家族や医者が部外者には会わせないと決めたのかと勝手に予想していたが、由真が寧々を止めていたとは思わなかった。

「……私も最初の被害者には会ってないから、彼らがどうなってるのかはわからない。でも――彼らに会うだけで種に影響が出る可能性もある。汚染に近いけど、能力のものとは少し違う感じ……」

「それを最初から素直に言ってくれればいいのに。つまりは歩月先生に起こったことと同じことが他の人にも起こるのが嫌なのね。まあ確かに、星音とカナエの調査もめちゃくちゃ反対してたしね」

 星音は反射的に由真を見た。あのとき学校に由真が来ていたのはやはり星音を心配してのものだったらしい。

「行くなら私が行く。理世子には行かせられない」

「由真……」

 能力者相手なら問題ないのかもしれないが、相手がそういうものでないとわかった以上、由真だって危険なことには変わりないはずなのだが。寧々は理世子と顔を見合わせてから由真に向き合った。

「――理世子の意思はどうなんのよ」

 寧々の言葉に頷いた理世子は、由真を真正面から見つめた。柔らかな雰囲気の人だが、その目の奥には強い光が宿っている。

「私が行きたいんだよ、由真。だってこの力が初めて誰かの役に立つのかもしれないんだから」

「理世子……」

「由真たちに助けてもらったから今の私がいる。でもずっと閉じこもってもいられないし――私が前に進むためにも、協力させてほしいの」

 どういう事情があるのかはわからないが、理世子の言葉で由真は一応は納得したらしい。

「わかった。でも私も行くからね」

「うん。ありがと、由真」

 由真はそれには応えずに、残ったパンプキンタルトを食べていた。それにしても理世子と由真たちの間には何があったのだろうか。星音がそう思いながら横目で理世子を見ていると、理世子がそれに気がついて微笑んだ。

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