Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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5.夜の読書のお供に

 理世子の協力を取り付けたものの、いざどうすればいいかは思いついていなかった。寧々は溜息を吐きながら本のページを繰る。窓の外からは鈴虫の声が聞こえ始めた。もう秋も深まってきた頃。読書の秋とは言うけれど、積み上げている本は幽霊関連のものばかりで、少し季節がずれているような気もする。

「理世子もお祓いができるってわけじゃないのよね……」

 その声を聞くことと、話すことと、触れることができるだけですごいのは事実だが、解決しようとなると難しい。しかもその能力のせいで霊的なものが寄ってきてしまって、様々な不幸に見舞われてしまっているのだ。かつて信仰されてきたお祓いなどの類は案外効果があるらしいとわかったので、理世子が行動する範囲とアルカイドにはそういったものが寄ってこないように霊験あらたかなお札を貼っていたりはする。けれど幽霊を成仏させたりはできていないのが現状だ。

「由真の力って幽霊にも通用するのかしら……」

 なぜかはわからないが、理世子の不幸体質は由真がそばにいるときは少しましになる。悪いものがあまり寄ってこなくなるらしい。おそらくは由真のことを恐れているのだろうと寧々は結論づけていた。能力者は能力を使っていないときも僅かに能力波を発している。理世子の不幸体質もそれに起因するが、理世子に害をなそうとするものが由真を恐れるのもおそらくそれが原因なのだ。由真の使う二つの能力のうちの一つ――種に干渉する能力の方は、まるで冬の朝の空気のように澄んだ能力波を発している。きっとそれが嫌なのだろう。そしてもう一つ考えられるのは、由真の家系だ。

(確かに柊って魔除けに使われるものね……)

 能力者が生まれる家系ではないが、遡れば魔を祓う力を持った武将に辿り着くらしいというまことしやかな話がある。由真自身は「絶対お兄ちゃんが適当なこと言ってるだけだと思う」と言っていたが、もしかしたらあながち間違いでもないのかもしれない。

「寺生まれの知り合いとかいればもっと戦力になるのかもしれないけどね……」

 それこそそういう人たちに頼んでしまうという手もある。けれど理世子のためにもできる限り自分達で対抗したいのだ。すぐには外に出られなくても、普通に生活できる程度にはなってほしい。理世子の問題を解決できなかった負い目は、寧々も同じように感じているのだ。

「あれが本当に元から旧校舎にいた幽霊だとして、どうして今更出てきたのかしらね……」

 幽霊の未練が話の通りなら、ずっと幽霊が現れ続けていてもおかしくはない。けれどその怪談はすっかり忘れられていたのだ。今になって急に現れたのはどうしてなのか。ハルに頼んだ学校の資料に目を通すためにパソコンを引き寄せた寧々だが、同時に噛み殺しきれない欠伸が出てしまった。

「コーヒーでも淹れようかな」

 もう少し調べたいことがある。秋の夜、本を開くのには絶好の日でもある。もう少しだけ進めたいのだ。

 

 コーヒーを淹れようとキッチンに向かうと、そこには既に先客がいた。真剣な顔をして淹れているのはハーブティーだ。由真は寧々に気が付くと、少しだけ手を止めた。

「眠れないの?」

「寧々だって起きてるじゃん」

「私は色々調べ物してるのよ」

「私だって本読んでたのに」

 由真が本を読むなんて珍しい、と寧々は思った。由真は本の類はあまり読まない。漫画を読んでいる姿すらもそれほど見たことはない。

「理世子に勧められた本が割と面白くて。あと少しだから読んでから寝ようかなって」

「秋の夜長は読書にぴったりだものね」

「寧々も飲む?」

「うん。何か飲みたいなと思って来たところだったから」

 由真が二人分のハーブティーをマグカップに注ぐ。由真はどうやらマグカップを部屋に持って帰ってそこで飲むつもりらしい。それなら自分もそうしようと思い、寧々はウサギ柄のマグカップを由真から受け取った。

 

 読書のための明かりだけを灯し、寧々は再び本を読み始めた。由真の淹れたハーブティーの香りが心を落ち着かせていくのを感じる。

「これで読んでる本がこれじゃなければ最高だったのに」

 由真は何の本を読んでいるのだろう。理世子はかなり沢山の本を読んでいるから、理世子の読書傾向から推測することはできない。けれど寧々は知っている。理世子が一番好きな本は、王子様とお姫様のラブロマンス。少なくともそれだけは由真は読まないだろうなと思ってしまう。

「まあ何でもいいか」

 由真も同じようにハーブティーを飲みながら本を開いている。それを想像するだけで寧々の心は少しだけ暖かくなるのだった。

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