Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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6.マテバシイのクッキー

「栗か芋かカボチャになっちゃうよね、どうしても」

「全部美味しいからいいと思うけど……」

「時々他のものにもチャレンジしたくなっちゃって」

 由真の目の前に試作品を並べて理世子は唸っていた。秋のスイーツといえば栗と芋とカボチャが定番。定番が一番美味しいのだから冒険する必要もないと言われればそれまでなのだが。

「前、どんぐりのクッキーとか作ったよね。二人でどんぐり拾いに行って」

「マテバシイのクッキーね。でもどんぐりって処理が面倒なのよ……そうまでして食べるくらいなら栗の方が美味しいくらいだし」

「商品にするのは向かないか……」

 二人でどんぐりを拾いに行ったのは出会ったばかりの頃だ。なぜか由真の近くにいるときは何も起こらないことに気が付いて、それなら森林公園のようなのどかなところなら出掛けられるのではないかということで試してみたのだ。

「懐かしいな、マテバシイのクッキー。あのとき久しぶりに外に出たし」

「あのときって何でどんぐり拾うことになったんだっけ」

「忘れたの? 最初は由真が拾い始めたんだよ」

 子供みたいだと笑ったことを今でも覚えている。もうどんぐりを喜んで拾う年齢でもないはずなのに、あの日は二人で夢中になってしまったのだ。

 

 

 由真がどんぐりを拾っている。しかも虫食いのない、形の綺麗なものを厳選している。まだ話すこともあまりなくて気まずくなってしまったのかもしれないが、それにしてもどんぐりを拾う女子高生は予想外すぎる。理世子は苦笑しながらも、由真の横にしゃがみ込んだ。

「それ拾って何に使うの?」

「……何に使うんだろう」

 何も考えずに拾っているあたりは本当に子供だ。子供はそうやってどんぐりを意味もなく拾って、帰り道の途中でその半分くらいを落としてしまう。

「前は、これで独楽とか作ったけど」

「どんぐりコマね。本で見たことある」

「やり始めると意外に白熱したりするんだよ。上手く回る独楽を作るの大変だけど」

 由真はやけに詳しかった。拾っているどんぐりも独楽を作りやすいものだ。けれどその話をしている由真の目の奥が少しだけ陰って見えるのが理世子には気がかりだった。

「……でも、今拾っても意味ないか。やる相手もいないし」

「昔はいたの?」

「うん。でも今はみんな――」

 由真はそれ以上何も言わなかった。そのときの理世子にはわからなかったが、今は由真が言わなかった言葉を知っている。由真は北斗の家という児童養護施設の人間のほとんどが殺され、建物も全焼した事件の唯一の生き残りだ。由真はその施設にいた子供たちと頻繁に遊んでいたという。おそらくはどんぐりの独楽もそこで覚えたのだろう。けれどその子供たちも含めて全員が死んでしまった。だから今拾っても意味がないと言ったのだ。理世子は拾ったどんぐりを地面に落とそうとする由真を思わず止めてしまった。事情を知っていたわけではない。けれど悲しそうな表情をさせたままではいられないと思ったのだ。

「どんぐりって食べられるの、知ってた?」

「そうなの?」

「アクを抜いたりして処理したら、クッキーとかに出来るのよ」

 由真は理世子の言葉に少し興味を持ったようだった。理世子も本で見ただけで作ったことはないけれど、そのときばかりは必死になってしまった。

「これ持って帰って、今度作ってあげる」

 何となくどんぐりを捨てさせてはいけないと思っただけで、そのあと家に帰った理世子は下処理の面倒さに悲鳴を上げることになった。けれどどうにかして完成させたクッキーを見て目を輝かせた由真の顔を見て、努力は報われたと思ったのだ。

 

 

「コーヒーだけのお客さんに、ビスケットとか出してるでしょ? それをどんぐりのクッキーにするのはできるかもしれないよ」

 喫茶店によって違うらしいが、コーヒーになぜか豆菓子がついてくるチェーン店があったりもする。アルカイドではコーヒーだけの客には小さなビスケットを無料でつけることになっていた。

「それいいかもね。秋っぽいし。寧々にも相談してみるよ」

「もしお店で出すことになったら、またどんぐり拾い行かないとね」

「そうだね」

 じゃあ決まり、と二人で約束をする。正直どんぐりの下処理はとても面倒だけれど、それで幸せな気分になれるのなら安いものだ。

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