Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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6.なんて物騒な時代だ(後編)

 もう、()()()()()()()()()――。

 咲いてしまうともう戻れない。花が種に戻ることはできない。その状態に陥ってしまえばもう助けられないとわかっていた。

「いいんだよ、もう」

「嫌だ……! 絶対に助けるから……っ!」

「もう無理だよ。由真が一番わかってるはずだ」

 由真は首を横に振る。わかっている。けれどわかりたくはなかった。まだ間に合うと信じていたかった。

「こうやって話ができるのももう最後だ。僕は、これ以上君を傷つけたくない」

「やだよ……私にはできない……」

「由真にしかできないことだよ。……これ以上咲いてしまう前に、早く」

 そうするしかないとわかっていた。その結果何が起こるかもわかっていた。けれどその結末は到底受け入れられるものではなかった。だから――。

 

 

 由真は額の汗を拭いながら上半身を起こした。またあの夢だ。まだ誰にも言っていない、あの日の記憶。特殊光線を浴びたあとはこの夢を見る確率が上がる。予期できていたとはいえ、気分がいいものではなかった。

 もう一度眠れるような気はしなかったので、ベッドを出て階下のキッチンに向かう。冷蔵庫から麦茶が入ったポットを取り出してテーブルに置くと、ちょうど階段を降りてきた寧々と目が遭った。

「私もお茶」

「自分で入れなよ……」

 由真は溜息を吐きながらも、寧々のコップと自分のコップを取り出してそれぞれに麦茶を注いでいく。由真がポットを冷蔵庫にしまうのを待ってから、寧々は由真に尋ねた。

「体調は?」

「最悪」

「じゃあ今日はお休みだね。或果が空いてるって言ってたからシフト代わってもらおう」

「……店はそれでいいけど、何かあったときは」

「出すわけないでしょ。また機動隊と鉢合わせしたらどうすんの?」

 由真は麦茶が入ったカップを両手で包み込で俯いた。万全の状態でないことは自分が一番わかっている。けれど由真が出なければ最悪の状態になってしまうことがあることも知っているのだ。ハルに連絡が入らない事件もそれなりの数があり、由真が駆けつけることもできなかったその事件がどうなってしまったのかは想像に難くない。表面的には公権力が仕事をして無辜の市民を守ったということになっているのだろう。けれど実際のところは、助けられる人でさえ手遅れだったということになって消えていっているのが現状だ。

 この世界で、能力者(ブルーム)の命はそれだけ軽い。

「軽い暴走くらいなら私や星音だって対応できるし、悠子さんだっているんだよ」

「進行してたらどうするの? 鎮静剤を打つだけじゃ根本的な解決にはならない」

「でも、由真一人で全ての人を助けるのは――はっきり言って不可能だよ」

「……わかってる。でも、助けられたかもしれないのに、とは思いたくない」

 自分が動けば何かが変わったかもしれないのに、自分の都合で安全な場所で休み続けることはできなかった。闘わなくても許されることはわかっている。許せないのは自分自身だ。

「それでなんだけどね、由真。――もう一人、戦闘向きの子をスカウトしようと思ってるの」

「私みたいな能力の人を見つけたってこと?」

「由真とは違う能力。でもあの子の能力と、ハル姉が考えている機械を合わせれば、能力悪用して暴れてる奴とか、機動隊とか、軽度の暴走者くらいは制圧できるようになるはず」

「……寧々、まさかとは思うけど、黄乃のこと巻き込むつもり?」

 由真は麦茶が入ったカップをテーブルに置いて寧々を見つめた。寧々はその目を正面から見つめ返す。由真の目は三白眼で、普通にしていても睨んでいると勘違いされるくらい目付きが悪く見える。その目でさらに真っ直ぐに見られると、それだけで気圧される人は少なくない。しかし寧々は微かな笑みと共にその視線を躱した。

「もちろん、本人が望まないなら強要はしないよ。ただ提案してみるだけ。スカウトってそういうもんでしょ?」

「自分が何言ってるかわかってる? この仕事がどんだけ危険か。後方支援だって現場に行けば何が起こるかわからないのに、ましてや前線に出すためにあの子を雇うの?」

「そうすれば助けられる人は今より増える」

「……でも、死ぬかもしれないんだよ。誰かをそんな目に遭わせて、自分が楽をするのは嫌」

 由真に話せば反対されることは寧々にもわかっていた。しかし由真に隠したまま事を進めるような不誠実なこともしたくはなかった。正面からぶつかり合って、由真が納得するのが一番なのだ。由真も頑固だが、頑固さで言えば寧々も負けてはいない。

「由真に楽をさせるためじゃない。私たち全体で、助けられる人を今より増やしたい」

「それはわかるけど」

「どっちにしろ、黄乃が嫌だって言うならこの話はなかったことになっちゃうけど……いずれ、戦闘に向いた能力の人が見つかれば雇うつもりだったから。私も、ハル姉も」

「寧々の言うことが正しいのはわかってる。でも……戦わなければもっと安全に生きられたかもしれない子の運命を、私たちが歪めてしまうことになる」

 それは織り込み済みだ。前線に出るということは、それだけ死ぬ可能性は高くなる。そんな仕事を人にさせるのかと、由真はそう問い質しているのだ。けれど寧々はとうの昔に覚悟を決めたのだ。

「私の力は戦闘に向いてない。でも能力者の置かれている現状を変えたい。だからこれまでこの仕事をしてきたし、これからもやっていくつもり。危険な仕事をさせる責任は私が取る。――もちろん、由真の分も」

「私は私の意思でやってることだから別にいいんだけど」

「それでも、この仕事をしていなければつかなかった傷はいっぱいあるでしょ? それでも私もハル姉も、由真に前線に出ろと言うしかない。私にとっては、それがこれからは二人になるかもしれないってだけ」

 由真なら耐えられない仕事だろう。寧々は俯く由真の頭を眺めながら思った。由真は誰かに戦わせるくらいなら自分が出て行くのだろう。そしてそのための力を持っている。持っていないとしても他人に戦わせるなんてことは耐えられないに違いない。自分以外の誰一人として、犠牲になるところは見たくないのだ。

「私たちがどう思おうと、最終的に決めるのは黄乃だけどね。それに、この仕事は危険なだけじゃないと私は思う。あの子は能力の使い方をまだわかってない。自由に使いこなせるようになれば、あの子は自分で自分の身を守れるようになると思うよ」

「……まあ、使いこなせてないんだろうなってのは明らかだったね」

「ひょっとしたら由真より強いかも。それに闘いを選ばなくたって、私たち能力者が生きてるのは生きるか死ぬかの世界でしょ」

 最近は母親の胎内にいる段階で、子供が能力者かどうかを調べることができる検査があるらしい。それで仮に能力者だった場合子供がどうなるのかは想像に難くない。自分の子供であっても能力者であれば手放してしまう人も少なくない。その能力が仮に毒にも薬にもならないような些細なものでしかなくても、ただ身体の中に(シード)があるだけで迫害の対象になる。それは嫌というほど味わってきた現実だ。

「私はそんな世界を変えたい。できるだけ沢山の人を助けたいの。だから」

「――私は私のやりたいことをやるだけ。それが寧々のやりたいことと重なっているからここにいる。それはこれまでもこれからも変わらないよ」

 由真は立ち上がり、顔にかかった髪を掻き上げながら言った。飲み終わったカップをシンクに下げに行く後ろ姿を見ながら寧々は溜息を漏らした。

 

「……まあ、そういうところが好きではあるんだけどさ」

 

 

「ぼ、ぼくが!?」

「そう。まあまだ学生だから……週二回のバイトとして、ってことになるけど」

「喫茶店の方はちょっと興味はあるんですけど……制服可愛いし……」

「あ、制服は最近リニューアルしたんだけど、うちの店員の月島或果が考えたんだよ。可愛いって言ってたって或果に言っとくね」

 エリアC-6のスイーツカフェのテラスで、黄乃と寧々は宝石のようなケーキを目の前に話をしていた。単刀直入にアルカイドの一員になって欲しいと告げた寧々に、黄乃は予想通り混乱している。

「戦闘の方は、私がみっちり鍛えてあげるから。実は前々から考えていた武器があったんだけど、それが使えそうな能力の人が黄乃くらいしかいないのよ」

「ぼくにしか使えない……?」

「そう。それがあれば由真とか大助かりだと思うんだけど」

 我ながら二枚舌もいいところだ、と寧々は思った。由真には「由真の負担を軽くするためではない」と言いながら、黄乃には「由真の負担を軽くするために手を貸して欲しい」と言う。由真が聞いたらきっと怒るだろう。由真は嘘を嫌っている。潔癖とも言えるほどに。ケーキと一緒に運ばれてきた珈琲を一口飲みながら、珈琲は由真が淹れたものの方が美味しい、と思った。

「黄乃が能力を使いこなせるようになれば、世界を変えることすらできるかもしれない。そこまでいかなくても、大切な人を守れるようになったりとか、自分の道を切り開けるようになったりとか」

「そんな力があるなんて、正直信じられないけど……」

「私の能力は人の能力を解析する。私が言ってるんだから間違いないよ」

 黄乃は不安げな表情を浮かべている。顔に不安と書いてあると言えるほどにわかりやすい。けれどその目は寧々の言葉に確かな反応を示していた。大切な人を守れるようになるかもしれない。その言葉に嘘はない。能力者である以上常に命の危険に曝されることになる。けれど戦う力を持てば、それだけ対抗できる可能性も上がるのだ。

「最初はお試しでもいいし、嫌になったらすぐにやめてもいい。けれどこの世界の理不尽に対して泣き寝入りするだけはもう嫌なんじゃない?」

 寧々は黄乃の目の奥を見つめ、言葉を重ねていく。黄乃の心の奥にある存在を寧々は知っているのだ。何百年も前の、失われた時代の資料を見漁っていたときに見つけた、現在は封印されているはずの映像。そしてその中心にいた由真に良く似た少女のことを。

 本来は閲覧できないはずの資料にあった映像であるため、その少女について詳しく知ることはできなかった。けれど黄乃が寧々と同じものを見ていて、同じように感じていたとしたら、きっと言葉は届くはずだ。

 映像の中の途絶えた世界の中にも沢山の理不尽があって、その見えない鎖に幾重にも絡みつかれながらも叫んだ少女たちがいた。その生き方を寧々は美しいと思った。本当は戦わないで済む世界ならそれが一番だ。自分を守る方が戦うより大切なときだってあることも理解している。けれど誰に何を言われても戦うしかなかったのだ。今の由真が戦う以外の選べないでいるように。

 胸の中にある炎を無視して、理不尽に甘んじて生きるくらいなら。

 黄乃にもきっと理解できる思いだろう。必要なのはたった一歩を踏み出す勇気だけだ。その一歩がレールを踏み外す一歩目だとしても、寧々の傍にはレールから外れた人間を守ろうとしてくれる人だって存在しているのだ。

「あのぅ……自信は全然ないんだけど、でも……もしぼくでも何かができるって言うなら……」

「武器が使えるようになるまでは訓練がメインになるとは思うけど、一緒に頑張っていこ?」

「お願いします……!」

「じゃあ話は一旦終わり。ケーキタイムにしよっか」

 小さなフォークで切り分けたピスタチオのケーキは、中にラズベリーが入っていたらしく、仄かな甘みを引き立てるような酸味が寧々の口の中に広がっていく。由真は完全に納得していたわけではない。きっと黄乃が決めたことだと言っても、引っかかるものはどうしても残ってしまうだろう。それでも黄乃の心の奥にある熱を否定できる人でないことも寧々は知っていた。――結局、ただ優しすぎるだけなのだ。

 

 

 一週間後、黄乃は緊張した面持ちでトレイの上に乗せたアイスコーヒーを運んでいた。先程まで三組の客がいたが、そのうち二組は帰り、今は女性が一人、一番奥の席に座っているきりだ。客が帰ったあとのテーブルを片付けながら、由真は黄乃の危なっかしい仕事ぶりを横目で見ていた。

 喫茶アルカイドの制服は男女問わず、ワンピーススタイルのものとパンツスタイルのものが用意されている。現在のものは或果が雇われてからリニューアルされた制服で、由真はそのまま戦闘になってもいいようにパンツスタイルの制服を着ることが多かった。

(ていうか黄乃よりスカートの制服似合わないってどうなんだ、私……)

 自分の性別や相手の性別をそれほど気にしてはいないとはいえ、可愛らしさとは無縁であることがコンプレックスになってはいた。本当は自室に入った人が異口同音に「意外」と言うくらいにはそういうものが好きではあるし、由真自身それを隠しているつもりはないのだが、服に関してはとにかく似合わないと思っている。

 テーブルを拭き終わってカウンターに戻ろうとした由真は、アイスコーヒーを運んでいる黄乃の足が何もないところに引っ掛かるのを見た。慌てて怪我をしないようにと黄乃を支えようとするが、戦闘に慣れた体でもさすがに間に合わずに、一緒に床に倒れ込んでしまった。

「……苦っ」

 結果、勢いよくぶちまけられたアイスコーヒーが口の中に入り、由真は思わずそう漏らした。毎日のように珈琲を淹れているのに、相変わらずそのままでは苦すぎて飲めないのだ。

「ご、ごめんなさいっ!」

「怪我はない?」

「は、はい! ぼくは大丈夫なんだけど……っ!」

「じゃあ私より先にお客さんに謝って」

 由真に促された黄乃は慌てて奥に座る客のところに行って謝っている。慌て過ぎてまだ転ばなければいいけれど、と思いながら、由真はゆっくり体を起こした。

「いいのよ。失敗は誰にでもあることだもの。落ち着いてからでいいから新しいのを持ってきてくださればそれでいいわ」

 何度も頭を下げる黄乃に笑いながら客が言う。初めて見る客だが、悪い人ではなさそうだ。一部始終をカウンターの向こう側から眺めていた寧々が代わりのアイスコーヒーを客のところまで持って来て、黄乃と一緒に頭を下げる。そちらは寧々に任せれば問題はないだろう。由真はアイスコーヒーをかぶって汚れた制服を着替えるために、カウンター奥にある休憩室に入った。

「シャワーも浴びるか……」

 店にいる時間が長くて珈琲の匂いは染み付いているが、さすがに髪にもかかってしまったアイスコーヒーは気になる。由真はそのまま更に奥にある扉を開け、自宅に繋がる廊下に出た。

 脱衣所で服を脱ぎ、浴室の扉を閉める。ちょうどいい温度に温められたシャワーを浴びながら、由真は深く溜息を吐いた。

「……明後日まで外の仕事ないといいな」

 制服をクリーニングに出さなければならないから、明後日まではワンピースの制服を着ることになる。もちろん予備の制服があるのだが、寧々は「わざわざそっちを出す必要はない」と言いそうだ。別にスカートを穿きたくないわけではない。ただ単に似合わないと思っているだけだ。

「或果の趣味、可愛すぎるしさ……」

 そのとき、誰かが笑う声が頭の中に響いた。由真にとっては忘れたくても忘れられない声。

「……僕のことを気にする必要はないんだよ」

 言葉が勝手に口から流れ出る。この感覚は何度味わっても慣れなかった。由真は舌打ちをする。

「さすがに脱いでるときはやめてくれないかな……私だって年頃の女の子なんだけど?」

「こういうときの方が気付かれないかなと思ったんだけど」

 二つの声が一つの声帯を震わせる。他人が見たら一人で会話しているように見えるのだろう。けれど声はシャワーの音に閉じ込められて、外には漏れない。

「僕のことを気にしてるなら、その必要はないんだよ。スカートちょっと興味はあるし」

「別に、似合わないから着たくないだけで……」

「それならいいんだけど。――君の人生は君のものだから、『僕』を生きる必要はないんだよ」

「私は私のやりたいことをやってるだけだよ」

 それにしても――と、由真は降り注ぐ湯の中で髪をかき上げた。ここまではっきりと喋ることができるほど表に出てくるのは珍しい。それだけ自分の力が弱まっているということなのか。もう特殊光線を浴びてから一週間も過ぎているのにまだ影響が抜けていないのか。

「……いつもはこんなことないはずなのに」

「確かに違和感はある。もしかしたら僕たちの知らないところで何かが動いているのかも。僕としてはそれとなく渚寧々あたりに相談することを勧めるよ」

 自分の声で寧々の名前がフルネームで呼ばれるのは変な感覚だ。でも、これだけ饒舌ということは、向こうは安定はしているらしい。

「だけど、由真が僕を切り捨てるなら、あの光線に怯える必要もなくなることもわかってるだろう?」

 意思に反して首筋に触れる右手。由真は逆の手で素早く喉に触れた手を引き剥がした。

「……できるならとっくにやってる」

 由真はシャワーを止め、浴室を出てすぐにバスタオルで体を拭いた。もう自分以外の声が喉を震わすことはなかったけれど、触れられた部分には違和感が残っていた。

「やっぱり私の力の方が弱くなってるのか……」

 普通ならここまで著しく均衡を崩すことはない。十五秒程度の照射ならこれまでもあったけれど、一週間もすれば体調も元に戻った。

「あんまり言うこと聞きたくないんだけど……やっぱり寧々には言っておくべきかな……」

 ワンピースの制服に着替えて、由真は鏡の前に立つ。簡単にメイクを済ませてみるものの、様になっているとは思えなかった。

「……僕は似合ってると思うんだけどなぁ。他の子なんかと比べなきゃいいんだよ」

「別に、そういうのじゃないし」

 由真は鏡に布をかけて、店内に戻る。二人分の声を出した喉にまだ違和感があるが、仕事は問題なくできるだろう。

 店に戻ると、先程の客はもう帰ったらしく、黄乃は店内の掃除をしていて、寧々は食器を拭いていた。寧々は由真に気がつくと、食器拭きを片付けながら尋ねる。

「シャワー浴びてきたの?」

「うん。黄乃はあのあと大丈夫だったの?」

「だいぶ危なっかしいとこはあったけどね。戦闘の練習も明後日から始めるつもり。ハル姉が明日には完成するって言ってたから」

 黄乃が使う予定の武器についてはハルから聞かされている。防御用の盾になったり、麻酔銃になったり、電撃を与えたり、能力者戦用に特殊光線を出したりすることができるらしい。使いこなせるようになればかなりの戦力だ。

「……ねぇ、寧々。能力者用の特殊光線って、二種類あったりする?」

「いや、聞いたことないけど……」

「この前の戦闘のときに浴びたやつ、多分普通のやつじゃない。できれば調べて欲しい」

「……やっぱりまだ体調悪い?」

 由真は迷いながらも頷いた。ずっと一緒にいる寧々の目はなかなか誤魔化せないとわかっている。それに今回は正直に言った方が寧々を動かせるのは明らかだった。

「あんなの暴走した能力者なんかに照射したら、間違いなく死ぬと思う」

「由真……」

「……あの人たちは、能力者なんて死んでも構わないって思ってるのかもしれないけど」

 実際、その通りなのだろう。そしてそう考える人の方が世界には多いことも知っている。好きで能力者に生まれたわけでもないのに。

「わかった。悠子にも協力してもらって調べてみる。由真は……詳細がわかるまで、なるべく機動隊とは当たらないようにして」

「努力はするよ」

 能力者は危険な存在。だから排除すべきだ。無能力者が安心して暮らすために、能力者は消えてしまった方がいい。そんな考えが支配している世界では、能力者の命なんて塵よりも軽い。由真は拳を握り締めた。世界の声に負けてしまいたくはなかった。負けることを、失うことを受け入れたくはなかった。

 

 ――それはあの日からずっと、変わらずこの手の中に在る思いだ。

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