Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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17.星が奏でる音

 避け続けてしまった由真にどうやって話しかけるか――その機会は向こうからやってきた。今は使われていないビルの屋上に呼び出す簡単なメッセージ。星音は緊張しながらもそこに向かった。

 由真は既に屋上に到着していて、空調か何かの機械の上に腰掛けて空を眺めていた。逆光になっていてその表情はわからない。けれどその影の形の美しさに星音は息を呑んだ。何を考えているのだろう。何も考えていないのかもしれない。けれどそこから何かの物語が始まるような、張り詰めた刹那が存在している気がした。

「……由真さん」

「よかった。既読スルーされたらどうしようかと思ってたよ」

「あの、由真さん」

 早く言ってしまった方がいいのに、なかなか言葉が出てこない。そんな星音を見ていた由真はふっと笑みを溢した。

「とりあえず座りなよ。座り心地はあんまり良くないけど」

「あ、はい……」

 星音が隣に座ってからも、由真は空を眺めていた。その横顔を真っ直ぐには見られなくて、星音は自分の膝を見つめる。

「今日、ナントカ流星群っていうのが見られるらしいんだよ」

「名前全く覚えてへんやん」

「覚えるの苦手なんだよ……流れ星は流れ星でしょ」

 星音も朝にニュースで話が出ていたのはわかるけれど、何座の流星群なのかは全く覚えていない。人のことは言えないと思いながら、由真と同じように空を仰いだ。

「――あのあと、いろいろ考えたんだけど」

 本題を先に切り出したのは由真だった。片方の膝を抱えて、それでも視線は空に向けたままだ。

「危険だったのは事実だし、私だったら簡単に倒せる相手だったのも事実だけど――私は心配してるって言葉で星音の進もうとする道を塞ごうとしてしまったんだなって」

「……でも、由真さんの言ってたことは間違ってないと思います」

「いや、間違ってたよ。少なくとも私はそう思うし、私が星音の立場だったら、もうここにも来ないくらい怒ってるかも」

 さすがにそれはないような気はするけれど――と思いながら、星音は由真の横顔を見つめた。

「星音もアルカイドの一員だし、カナエも協力してくれてる。事件を解決しようとしてるのはみんな同じなのに、危険だからって理由で私がそれを止めるのは違うなって。星音だって梨杏に指導してもらってまで鍛えてるわけだし、やってみたらもしかしたら勝てたかもしれないんだから」

「……梨杏さんに教えてもらってるの、知ってたんですね」

「うん。確かに私とか寧々よりは梨杏の方が明らかにそういうのに向いてるから、いい人選だと思うよ。能力を使わない戦い方は梨杏が一番知ってるし」

 梨杏はアルカイドの店員の中では唯一の無能力者だ。戦闘向きの能力ではない星音が参考にすべきなのは、能力を使わずとも並の能力者くらいなら独りで制圧できる梨杏だと判断した。由真はそれを知っていて、けれど今日までそれを星音に言うことはなかったのだ。

「だから思ったんだよ。今度からは、星音が自分で行くって行ったときは星音に任せる。でもどうしても危なくなったら、必ず私が……助けに行くから」

 助けるというその言葉を発するときの一瞬の逡巡。由真はいつも言っている。自分は誰のことも助けてなんていないと。その由真がその言葉を使ったのにはきっと意味があるのだろう。

 そして由真がその言葉を違えることはきっとないのだろう。必ず助けに行くと言ったのだから、本当にそうするつもりなのだ。その言葉だけで安心して飛び込んでいけるような気がしてしまう。敵わないなぁ、と星音は笑みを溢した。

「ところで、さっきからずっと探してるんだけど、流れ星見つけた?」

「ずっと探してたんかい! めっちゃ真面目な話やったのに!」

「だって流れ星見たいからここにしたのに……」

「なんか願い事あるんですか?」

 流れ星が消えるまでに三回願い事を言えれば願いが叶うらしい。由真は少し考えてから星音の質問に答えた。

「願い事ってほどのものはないかな……昔流れ星を見たときは違ったけど」

「昔は誰かと見たんですか?」

「北斗の家にいたときに、たまたまだったけどね。現実で自分がやったことは本当に最低なことだったのに、星はすごく綺麗だった。願い事三回は無理だったな」

「あれ出来る人本当におるんかなって難易度ですよね」

 詳しいことは何も言わなかったけれど、由真の口から北斗の家にいた頃の話が出たのは初めてではないかと星音は思った。おそらく酷い記憶ばかりなのだろうけれど、その中にも確かにあった美しい流星群の記憶。星音は空に祈った。今すぐ雨のように星が降り注げばいいのに――と。

「星が出す電波をオルゴール盤に置き換えた星の音楽があるんだって。そのときに教えてもらったんだけど」

「その人結構マニアックなこと知ってますね」

「じゃあ星音は知ってたんだ?」

「それが名前の由来なので」

 父と母が初めてデートしたときに聴いた音楽がそれだから、という理由らしい。かなり昔の作品で、今ではほとんど演奏されないと両親が嘆いていた。それを由真に教えたのが誰なのかはわからないけれど、どこか不思議な縁を感じた。

「じゃあ流れ星だったらどんな曲になるの? って、そのとき私は言った気がする」

「待ってたら聞けるんじゃないですか。今調べてみたら、そろそろ極大の時間だって」

「それならもう少し待ってみようか。流れ星の音が聞こえるまで」

「付き合いますよ。明日学校やけど」

 きっともうすぐ星は流れ始める。降り注ぐ星の音楽はどんなものなのだろう。本来人間の耳で聞くことは出来ない音だとしても、感じることくらいは出来るといい。星音は由真に寄り添うようにして、もう一度空を見上げた。

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