Alkaid   作:深山瀬怜/浅谷てるる

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18.林檎のシブースト

「えーと……本日のケーキは林檎のシブースト……シブーストって何や」

「食べたことない? 作ったときに出来た余りの部分ならあるけど」

「え、食べてええの?」

「いいわよ。どうせお客さんに出せる部分ではないから」

 最近、理世子が頻繁にアルカイドに顔を出すようになった。自分一人でもある程度なら外を出歩いてもいい状態になったらしい。とはいえまだ行ける場所には制限があるので、外に慣れるためにも店の仕事を手伝ってもらっている。出しているケーキに関しては誰よりも詳しいのだから当然かもしれないが、理世子が仕事を覚えるのは非常に早かった。

「五層になってるんですね」

「一番下がパイ生地で、その上がプリン生地、その上に林檎を敷き詰めて、上にクレームシブーストを乗せて、上をキャラメリゼしてるの」

「全然ついて行けんかった……」

「ふふ。大事なのは味よ」

 理世子に促されて一口食べた星音は目を輝かせた。カラメリゼの甘さと香ばしさ。柔らかでしっとりした生地とその下の林檎、パイ生地と異なる食感が楽しめる。理世子は星音を見てにこにこと笑っていた。

「いい林檎が手に入ったのよ。使い切れないくらいあって……」

「林檎も秋が旬でしたっけ。やばいな……秋だけで太りそう……」

「でも星音ちゃん、鍛えてるんでしょう?」

「う……運動した後ってめちゃくちゃ食べたくなりません? 能力使ってもお腹空くし……」

 最近筋肉もついたけれどそれ以外の肉も増えている気がして気になっている。店内の掃除に勤しんでいる由真に目をやって密かに溜息を吐いた。

「由真は細すぎよあれ。毎日のようにケーキ食べさせてるのにどうなってるのかしら」

「あれで跳び蹴りとかして脚折れないんか……」

 本人曰く「すごく着痩せする方」らしいが、着痩せにも限界があるだろう。梨杏に指導をつけてもらっているときに聞いた話だが、普段から身体も相当絞っているらしいし、鍛錬も手を抜くということは全くないらしい。それがあの強さに繋がっているのはわかるが、あまりにもストイックすぎて心配にもなる。

「そういえば、星音ちゃんの学校って、来週文化祭なんでしょ?」

「そうですね」

「実は私、ネットに簡単なケーキのレシピを載せたりしてるんだけれど、図書委員会の子たちがそのレシピを使って模擬店を出すそうよ。昨日コメントがついてたの」

「ってことは理世子さんのレシピのケーキがうちの学校で食べられると……」

「そうなるわね」

 そう考えると、来週の文化祭が楽しみになってきた。文化祭では希望する委員会や部活と三年生の各クラスが模擬店を出すことになっている。二年生の星音はクラスの展示作品制作と舞台発表が終われば後は大体食い道楽だ。模擬店の味などたかがしれているはずなのだが、文化祭の食事はなぜかとても美味しいのだ。その中に理世子のレシピのケーキがあると思うと、食欲の秋がますます捗ってしまう。

「……うん、ちゃんと鍛えよう。鍛えれば多分大丈夫……」

「秋は仕方ないわよ。熊だって冬眠に備えて準備する時期だし」

「いや……私、熊ではないんで……」

 とはいえ美味しいものをやめるのも嫌だ。旬の林檎を食べなければ旬の神様に怒られてしまう。理世子は笑いながら、掃除を終えた由真にも林檎のシブーストの余った部分をタベさせていた。

「……脂肪を燃やして使える能力だったら良かったのに……」

「純夏なんかはそれに近いらしいね。能力使っていると有酸素運動しているくらいには消費されていくって。だからって常時使ってるのはすごいけど……」

「羨ましい……ちなみに理世子さん、もうちょっと食べていいですか?」

「いいわよ。この部分はどうせ私たちで食べるつもりだったし。由真ももっと食べて?」

「私はいいよ。星音もっと食べたそうだし」

「いや由真さんが食べてください。そしてもっと余分な肉を……」

「何だかすごい呪いの言葉が聞こえてきたけど気のせいかな……?」

 三人で他愛のないやりとりをしながら、結局由真も星音も理世子に乗せられるがままに沢山食べてしまった。全てはケーキが美味しすぎるのがいけないのだと結論付けて、星音は満面の笑みを浮かべた。

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