私たちは陰の家なのだ――幼い頃からそう言われて来た。私たちの仕事は消すことだ。そこにあった汚れを何もなかったように消し、そして消した人間の存在は悟られないように。そうして私たちの家は権力を持った人間たちに珍重され、繁栄して来た。どれだけ努力しても、その過程で命を落とすことがあっても、誰にも顧みられず忘れ去られていく。それが私たちの血族の宿命だった。
「でも、私はこの世界に私を残したい」
家の仕事になど興味はなかった。誰かの罪を消し浄め、清廉潔白に見せかけるための黒子になどなりたくはなかった。私が死んでしまった後に私の痕跡が何も残らなかったら、私がこの世界にいた意味がなくなってしまう気がしたのだ。
そして私は小説を書き始めた。その中で、私は怪異や都市伝説といったものに興味を持ち始めた。能力者が跋扈する中で、それは能力者が生まれる前に比べれば忘れられつつある存在だった。それでも人から人へ伝播していき形を鮮明にしていくメカニズムに私は興味を持った。
そして私は一つの計画を練った。私が誰もに忘れられる死を迎えたとき、私という怪異が人々の間に広がる方法を考えた。文芸部の部誌に出した話はその布石だった。ありそうだけれど存在しない怪談を作り出し、未来にこの学校の怪異について調べようとした人がいたときに必ずそれに行き着くように仕向けた。そしてもう一つ――私に必要だったのは協力者だ。
怪異となった私に理性というものが残っているかはわからない。だから私の目的を理解し実行してくれる人が必要だった。そしてその人物は身近にいた。私と同じ家に生まれ、同じように忘れられる運命を負った人。兄は私の計画を聞き、必ず実行すると約束してくれたのだ。
「まさかあんなに邪魔されるとは思わなかったよ」
兄が呟く。怪異として完全に完成するためには、誰かの犠牲が必要だ。怪異に殺されたという噂が広がらなければ、怪異としての力は弱いまま終わる。せっかくここまで成長させたのだ。あと少し。それがなかなか届かない。
「少し調べてみたが――あれは能力者の中でも特異な方だ」
「『七星』の話は聞いたことがある。まさか二人も擁している勢力があろうとは。それにしても、兄さんはあの生徒に随分執着しているみたいだね」
敵にはならない――けれど、怪異の供物にするのも適切ではないと私は思っていた。傷を治す力を持った少女。兄がそれに執着する理由はわからなかった。
「僕の嫌いなタイプというだけだよ。僕が綺麗にしなければならない要素が一つも見つからない。愛されて育った、健康的な、美しい少女だからだ」
汚れを消し去ること。その能力が人格を決めてしまうこともある。兄の場合は消すべき暗い過去や、罪を持っている人間を好み、逆にそれがない人間を嫌うようになっている。
「……なら、あの『七星』の娘は。あれはどちらも人を殺しているだろう。数は破軍の娘の方が明らかに多いようだが」
「ああ。嫌いではないが……お前にとっては邪魔だろう」
「殺し損ねたのは痛手だった……私以上の怪物を飼っている人間がいるとは思わなかった」
兄に手を伸ばす。手と言っても怪異の黒い手だ。それで彼の体を丸ごと包み込む。
「治癒の娘は兄さんにあげる。でも破軍の娘は私のものよ」
「わかっている。成功すれば、君の計画は完成に近付く」
「そう……私は忘れられたくないのよ。もう家の宿命には縛られたくない」
兄は私によく従ってくれる。私の願いを何でも叶えてくれた。私を殺し、私の体の一部をあの旧校舎に隠すという仕事だってしてくれた。
「感謝してるわ、兄さん。だから――」
全てが終わったら、兄さんも連れて行ってあげる。私の世界に。怪異の棲まう彼岸に――。